メーアと金銀青マーズの生放送
キリュウ兄弟の上3人がバイオリンを奏でて2曲目に入った。
【ん? オッサンが泣いてる?】
【癒しと浄化を強めに込めていますから♪】
【青生の方が上手だったな】フ♪
更に続けていると、クライマックスで増馬は号泣し始めた。
【もう聴いてねぇだろ……】
【白久兄さん、最後まで演奏しますよ。
金錦兄さん、彩桜の件が落ち着いたらマーズスタッフに誘ってあげてくださいね】
【は?】【あんなオッサン要らねぇぞ】
【ちょっとしたお手伝い程度なら問題ありませんよ。
人脈なら大いに持っていそうですからね。
それに仲間入り出来たと感動して、もうマウント取ろうなんてしないと思いますよ】くすくす♪
余韻が天に吸い込まれるように消える。
揃って礼。
「では、次がありますので」
「失礼しますね」
持っていたバイオリンは何処へやら。
颯爽と出て行った。
―・―*―・―
彩桜達は、アウトレットパークが避難所として使われた場合の説明を聞いた後、遠足らしく歩いて山南牧場に向かった。
「あ!」「橋だ!」「近くなってる!」
くねくねと谷に向かって下り、牧場の方へと上っている旧道を横に見つつ橋を渡る。
「山南牧場で昼食です。
その後は自由行動ですが、動物を驚かせたり乱暴などは決してしないでくださいね。
馬に乗るのも許可を得ています。
私か輝竜君に声を掛けてくださいね」
「狐松先生も乗馬するの?」
「はい♪」
「見た~い♪」「先生、乗って~♪」
「そうですね。輝竜君、走らせましょうか」
「うんっ♪」
緩やかなカーブを進んで旧道と合流すると牧場の門が見えた。
―・―*―・―
金錦達は車で待たせていたメーアと一緒に東邦テレビのビルに入った。
もちろん車内では濃色サングラスと黒マスク、ハットを深く被って顔を隠していた(のでパッと見ギャングにしか思えない)。
守衛にも許可証は見せたのだが、メーアの顔パスで通してもらえたようなものだった。
地下駐車場で車から降りた瞬間に黒服から忍者装束に。
駆けて来ていた見田井が跳び跳ねて喜んでいる。
「どうぞ こちらに!
いやぁ、いい瞬間が見られました!♪」
面の内で苦笑しつつ向かった。
―・―*―・―
二中の1年生達は昼食の時間が終わり、自由行動になった。
狐松が黒菱に乗り、彩桜は白桜に乗って外周を走らせている。
きゃあきゃあ大騒ぎ。
狐松先生、人気爆上がり間違いなしだ。
「竜騎も! 竜牙も来てるから~♪」
駆け抜けた。
「行こう白竜」「うん!」
彩桜が指した方に走ると、巧馬と歌音が竜牙と灰桜に馬具を着けていた。
「竜騎様、此方に」
到着。
「牧丘さん、もう『様』なんて……」
「照れてないで乗れよ白竜♪」
「悟君も♪」歌音が手招き。
悟も竜騎と一緒に南渡音に通っては乗っていたので上達していた。
「はい♪」灰桜に乗った。「行こう」
「うん♪」
楽しそうに彩桜へと駆けさせた。
悟と竜騎が到着すると、狐松はパカポコ散歩のアシストに回った。
「外周 走って~、障害コースねっ♪」
「おう♪」「うん♪」
横並びになって、一斉スタート!
3頭とも全力で、凄い迫力だ。
4組と栂野原小卒と陸上部の生徒達が唖然として見ている。
「すっかり別人。
そう思っていいから、これから仲良くしてあげて」
そう言って、凌央はパカポコ待ちの列に並びに行った。
―・―*―・―
『長、つまりリーダーが金マーズです。
俺は銀マーズ。副長、サブリーダーです。
青マーズはチームの頭脳。参謀ですね』
マーズへのインタビューが始まり、最初に自己紹介をと言われて白久が そう言った。
それまではフリューゲルについてのインタビューで、生放送なので青生が見田井の言葉を同時通訳し、銀マーズがメーアの言葉を同時通訳していた。
『サブリーダーが喋り担当ですか?』
司会者初挑戦なのに見田井はアシスタントを断ったらしい。
マーズ担当だとの主張なのだろう。
『そうなりますね。
忍者は基本、寡黙ですから。
それに掟もありますし、話せる内容を考えて答えなければなりませんから。
考えるのが得意な青マーズも喋り担当ですけどね』
『金マーズさんは?』
『長は黙って全体を見るのが役目。
静かに睨みを利かせているんですよ。
あと、忍者話法で指示を飛ばしています』
『銅マーズさんは?
いらっしゃらないのですか?』
『ウチの流派も そこそこ居ますから、任命すれば銅マーズも生まれますけどね。
階級的には居たとしてもマーズの三番手は冷静沈着カラーの青ですし、メダルじゃありませんし、今のところは任命してもステージに立てる者は居ませんから考えてないんですよ』
『流派って伊賀とか甲賀とか?』
『そんなメジャーな流派じゃありませんよ。
歴史には全く残っていない流派です。
俺達が初めて世に出てしまったんですよ』
『出て良かったんですか?
あ、どうして出ようと?』
『理由は1つじゃない。
メーアと仲良くなれたのも1つ。
増え過ぎている負の感情を減したいと思ったのも1つ。
求められるのが嬉しかったのも1つ。
他にもありますが、今は ここまでに。
出て良かったのか否かは、まだ分かりませんね。
始めたばかりですからねぇ』
『そうですか。今日は歌の方は?』
白久がメーアに訳す。
二言三言――もう打ち合わせだ。
『喉の調子は悪くないがメンバーは来ていない。と言っています。
俺達も3人。
それでも、と仰るなら歌うそうです』
『ぜひ! 準備をお願いします!』
メーアとマーズ3人が立つと、インタビュー用セット横の何も無い場所に案内された。
準備の間を埋める為に見田井がボードを持ってCDのプロモーションをしてくれている。
4人が案内されて移動しているのはカメラが捉えていたが、プロモーションが始まると画面いっぱいにボードが写し出されていた。
『ジャケット写真は話題の馬ぬいマーズで――カメラさん向こう!』
見田井が指したのだろう。
切り替わって準備中のマーズが大写しに。
マーズ3人は何も無かった筈の場所にアンプとスピーカーの壁を作っていた。
組み上げていたのを引き出して置いたのではなく、空中からアンプやスピーカーを取り出して素早く並べているのだった。
ドラムセットの方も、空中から取り出して組んでいる。
その前でメーアはウォーミングアップ中。
平然と身体を解し、発声練習をしていた。
『あっ』と見田井の声が入った後、再開したプロモーションは声だけになり、手品のようなセッティングが放送された。
前に出て確かめ、セッティング完了とマーズが頷き合う。
銀マーズがバク宙してドラムに着き、金マーズと青マーズがクルンと背の龍を煌めかせて前向きに戻るとベースとギターを構えていた。
メーアが後ろにニッとすると曲が始まった。
『これはアルバム1曲目の、邦題では『強き絆』ですね!』
メーアの声が乗る。
調子は悪くないどころか上々だ。
聴き惚れて、あっという間に間奏。
ギターソロが終わろうとした時――
『俺達 参上~♪』
――宙返り途中の格好で高い位置に現れた5人が身を低くくした忍者ポーズをキメて着地。
立ちつつクルンで楽器を持っていた。
ギターとベースがダブルになり、サックスとトランペット、トロンボーンで華やかになる。
心底嬉しそうなメーアがマイクに寄って2番に突入した。
―・―*―・―
分身で彩桜とサーロンをしている狐儀は狐松として動きつつ、神眼で眺めていた。
「先生にこにこ?」
「皆さんが楽しいと私も楽しくなります」
「お天気もいいもんね♪」
「先生、小さい馬!?」
「彩桜君とサーロン君が囲まれてる!」
「ミニチュアホースですよ。
友達なのです」ふふ♪
―・―*―・―
曲が終わると、後で現れた5人は上に跳んでバク宙しつつ消えた。
『ああっ!!』見田井が騒いでいる。
残った4人が礼。席に向かって動いた。
インタビュー用セットは すぐ横なのでサッサと座る。
『あっ、あのっ、現れて消えたマーズは!?』
『今日は平日です。
演奏してると察知して、学校と職場から抜けて来たんですよ。
そんな訳でソッコー戻らないとバレますから消えたんです。
それに長に叱られる前に逃げないとね♪』
一瞬、目を点にした見田井が吹き出した。
『いや失礼。これまで冷たいイメージがありましたでしょ?
それはそれで忍者らしいとは思っていましたけどね、いや、忍者って冗談も言うんですね♪』
『これまで報道は、この仮面を剥がそう剥がそうとしてくれましたからね。
だから忍者の敵だったんですよ。
それをしなくなったから忍者の友に変わった。それだけです』
『報道を変えたのはマーズとマーズファンの皆様ですよ。
これまで報道は明らかにする事こそ正義と突き進んできました。
邁進しているつもりでしたが、そうではなく盲進になっていたと気付かせて頂けたんです。
『マーズの中身なんて、マーズが消える事に比べれば どうでもいい』
『ミステリアスだからこそ良いのだから暴くな』
『好みのイケメンを当て嵌めているのに、その自由を奪うな』
と、多くのご意見を頂いたんですよ』
『ファンの皆様『『ありがとうございます!』』』
3人ピッタリ揃って頭を下げた。
『コイツらマジでイケメンだぞ』『メーア!』
銀マーズがメーアの口を塞ぐ。
『ファンに変な期待持たせるなっ』
〈客観的で率直な感想だぞ♪〉〈心話!?〉
〈キク婆様の実家に通って鍛えたからな♪〉
〈昼間そんな事してたのかよ〉〈そうだ♪〉
菊乃と妹達、ユーレイ3姉妹から習ったらしい。
だから和語を訳さなくても少しは伝わる。
『銀マーズさん訳してくださいよ』『無理だっ!』
『青マーズさんお願いします』『勘弁してください』
通訳が控えていたらしく紙が届いた。
『そうですか♪『マーズは本当にイケメン』だそうです♪』
『勝手に訳すな! 勝手に喋るなっ!』
『銀、想像を膨らませて頂くのは自由だ』
『ったく~』『だろ♪』『メーアこのっ!』
『と、騒がしくなったところで時間のようですよ?』
青マーズが指す。マキがブンブン入っている。
『あっ、ありがとうございます!
フリューゲルのメーアとマーズのお三方、ご出演ありがとうございましたっ。
エンディングはフリューゲル&マーズで、邦題『疾風』と『瞬間を抱きしめて』です! ではまたお会いしましょう!』
最後の方は とっても早口。
演奏中に現れたマーズは弟達とサーロンです。
サーロンは彩桜に引っ張られたんでしょうけど。
生真面目そうな金錦も、増馬教授を仕返し的に泣かせた青生もマーズするのを楽しんでいますので、伝わって弟達が来たんでしょうね。




