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翔³(ショウソラカケル)ユーレイ探偵団1.5  外伝その1 ~探偵団の裏側で~  作者: みや凜
第三部 第33章 離れたくない春でも騒がしい
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親の思い、子の思い



 蒼太(そうた)朱直(すなお)が今まで言えなかった思いを両親に ぶつけた時、すぐ近くからバイオリンの音色が流れてきた。

見ると窓際に並んだ7人兄弟が奏でていた。

さっきまで話していた青生も奏でており、その代わりなのか祐斗 堅太 サーロンが何やら持って寄った。

「おじさん、おばさん。

 この絵を見てください」

祐斗は風景画を持っていた。


「蒼太と朱直もな。

 目を開けて。顔上げろ。

 ほら涙、コレで拭けよな」

堅太が各々にタオルを渡した。


「バイオリン弾いてるの、キリュウ兄弟です。

 絵も音色も、心のイガイガトゲを消す力を持ってます。

 落ち着いて、よく話してください」

サーロンにっこり。

抱えていたイーゼルを立てたので祐斗が絵を置いた。

「仲直りです♪」


「昨日チェイスタグしてた彩桜も弾いてます。

 成績は学年トップ。

 スポーツも芸術も勉強も全力なんです」


 それでも二人の両親は何も言わなかった。

それどころか子供達からもキリュウ兄弟からも視線を外してしまった。



 堪り兼ねたらしい心太が足音こそ立てないもののズンズンな感じで寄って来た。

「アンタら、この子らの言葉 信じてないだろ。

 それにスポーツも芸術も勉強より下だと思ってるだろ。

 昨日のも、見ても何も感じてないんだろ。

 この絵を見ても、あの音を聞いても何も感じてないんだろ。

 そんなヤツに響くのは『ヤマ大』とかって言葉なんだろ?」


両母親がピクンとし、両父親は心太を睨んだ。


「バカにして、とか偉そーに、とか思ってるんだろ。

 けどな、マジでアイツらとの縁切ったら後悔するぞ。

 子供達の目を見ろよ。

 グレちまうかもな。


 ここまで言っても無反応かよ。

 ったく常識ガチガチのオトナってのは!

 確かに俺はバカでスノボだけだよ。

 けど命懸けでやってるんだ。

 だから国内で負けるなんて有り得ねーって思ってたよ。

 けどアイツらに負けた。


 それにアイツら、スノボだけじゃなかった。

 末っ子は中学生だが、上は博士ばっかなんだよ。しかもヤマ大出。

 やっと反応したな♪

 けど、やっぱソコかよ。

 ソータ、スナオ。

 勉強アイツらに習ってたんじゃないのか?

 だから合格できたんじゃないのか?」


「うん。塾、わかんなくても進むから行くのヤメてた。言えなかったけど……」

「うん。塾で落ちこぼれになってたんだ。

 お兄さん達、優しくて、おもしろい説明で、わかるまで教えてくれるんだ。

 また行けると思って受験ガンバったのに……」


「ソータとスナオの気持ち、なんにも知らなかったろ。

 毎日、塾に行ってると思ってたろ。

 ナンで話さなかったとか言うなよ。

 アンタら、話せないよーな距離感しか作ってこれなかったんだよ」


怒りが露だった親達の視線が気まずそうに落ちた。


「俺も言えたモンじゃないってのは分かってるんだ。

 スノボで生きてたくて家出同然で甲斐に行ったからな。


 チェイスタグの全国大会あるのは聞いてた。

 だから、このチャンス生かさないとって。

 東京は通り道だから、これから家に話しに行くんだ。

 アイツらに出会って、いろいろ考えさせられたからな。

 親にも謝るつもり。

 心配かけただろーからな。

 ソータ、スナオ。家出とか考えるなよ」


「「うん」でも……もうダメって言われてもキリュウさんちに行くよ。

 中学校で落ちこぼれたくないもん」

「うん。ボクもダメでも行く。

 バスケもやりたい」「チェイスタグも!」


「そっか♪ 言えて良かったな♪」


「「うん♪」」


「で? 子供が勇気出したのにアンタらは?」


何かボソボソ言っているが聞き取れず、心太が溜め息をついた。


「ボク、ホントは私立に行きたくなかった。

 勉強 教えてもらって楽しくて。

 このまま二中に行きたいって思ってた。

 櫻咲、あこがれてた」「ね……」


「おいおい過去形かよ。

 もう入学金も払ってるだろーし、準備が進んでるだろーから中学は私立に行くとしてもだ。

 高校はソコ受けりゃいいだろーがよ。

 シュートと一緒に目指したらいいだろーがよ」


「「あ……うん!♪」」


「サクラサキってイチバンの高校なんだろ?

 ソコ行くんなら文句ないだろ。

 いーかげん返事しろよな。ったく!」


「心太さん」祐斗が上着の裾をクイクイ。


「ん?」「泣いてるみたい」耳打ち。


「世界に認められてる音楽、やっと届いたんだな。

 ソータ、スナオ。

 シュートんトコ行ってやれよ。

 祐斗、教えるのは任せた♪」「はい♪」


子供達は嬉しそうに集まりの方に行った。


「俺、言いたい放題すっかり言ったからな。

 もう家に帰る。

 二度と帰らないって思ってたから気合い入れて帰る。

 そんなワケで、あとはお願いします」

少し近くに来ていた秀飛の両親にペコリ。サッと離れた。


キリュウ兄弟にも頭を下げて

「また行かせてもらいます。

 メシ旨かったです。

 ありがとーございましたっ」

上げた笑顔を勉強会の方にも向けてから荷物を掴んで玄関に走った。


彩桜が追う。

『忍者移動で連れてってあげる~♪』


『ヤメてくれよ。

 電車ん中で覚悟アップしながら行きたいんだよ。

 イキナリ家の前とか、逃げちまうだろ』


『そっか~♪ じゃあまた来てね♪』


『絶対 行く♪ 心愛もいいか?』


『心愛お姉ちゃん今日は?』


『心愛は京都の大学だからな。

 大会んトキはマネージャーしてくれるけど、なかなか会えないんだ。

 けど卒業したら甲斐に来るんだと。

 あと1年したらニギヤカになっちまう』


『嬉しそ~♪』


『嬉しかない! そんじゃまたなっ』


『まったね~♪』


 ドアが閉まる音がして彩桜が戻った。

すぐにバイオリンを弾き始める。



 秀飛の両親が意を決して近付いた。

「あの……」


「孝衣さん、すみませんでした。

 私達が間違っていました。

 さっきの彼が言った通りです。

 息子にはレベルの高い友人だけにしなければ等と(おご)った考えで、酷い事を言ってしまいました。

 息子には私達が押し付けただけで、あの子は悪くありません。

 どうか、これからも、友達で居させてあげてください」

蒼太の父が深く頭を下げ、朱直の父が続き、母親達も謝罪を込めて続いた。


「どうかお上げください。

 私達も秀飛から気持ちを聞けていませんでした。

 何を考えて受験から逃げたのか、何を目標にしているのか、全く。

 毎日どこに行っていたのかも。

 輝竜さんは息子達を不良高校生から助けてくださったそうです。

 お庭にバスケットのコートも作ってくださって。

 勉強会には必ず手作りのオヤツが出るとか。

 こんなにもお世話になっているのに全く知らなかったんです」


「そんな事が……」

「あなた、お礼を言わないと」

「そうだな」


 頷き合って立ち上がる。

一緒に兄弟の所に向かうと、ちょうど曲が終わったのか兄弟が優雅に礼をして玄関方向にササッと逃げた。


「お礼とか苦手なんですよ♪」堅太が笑う。

「音楽と絵、どうでしたか?」祐斗は真剣。


「あ……」引き返した。


祐斗と堅太も追った。


「この絵……」「ほらサイン。同じじゃない?」

蒼太の両親が小声で話している。


「どこかで見たんですね?」


「先日、姉にも叱られましてね。

 蒼太を縛り過ぎだと。

 怒って帰ろうとしたら絵の前に引っ張って行かれて。

 それでも私は気付けていなかった。

 今やっと『心の刺』というものが理解できましたよ」

他2夫婦に困ったような苦笑を向けた。


「お義姉さん、何年も画廊のチャリティーで売約済みになっていて悔しい思いをした画家さんのをようやく手に入れられたのですとか。

 私も……惹きつけられたみたいで、欲しくなってサインを覚えたの。

 また出会えたのに、さっきは見えていなかったのね……」

よく見ようと真正面の近くに行った。


「さっき演奏してた金錦お兄さんの絵です。

 僕の母さんも心トゲトゲだったのを救ってもらったんです。

 近くに住んでるなんて知らずに必死になって集めてたんです。

 今はレンタルしてもらって、毎日たっぷり眺めてます♪」

「ウチの母ちゃんも借りてます♪

 近所のオバサン達、第2金曜日に交換しに来てるんですよ。

 他の金曜日は、レンタルは他のグループですけど一緒に集まってます♪」

「お茶会してるよね♪」「だよな♪」


「レンタル? お茶会?」


「だから蒼太と来てください。

 来たら一発で分かります」

「朱直君とも、一緒に。

 それが一番のお礼になると思います」


『そろそろ出発するぞ~』

『荷物を纏めてバスに乗ってくださいね♪』

庭から手招き。


子供達が片付けを始めた。


「私、先週 伺ったんです。

 絵をお借りして、お茶碗を頂いたんですよ」

秀飛の母には笑顔が戻った。


「茶碗?」


「茶道で使うお茶碗。

 眺めていると心が落ち着くみたいで……。

 気に入ってしまってお願いして、頂いたけれど、お作法とか知らないから、お花を活けているの。

 それも習ったことなんてないんですけど」


スッと差し出されたのは桜色の茶碗に野花。

「こ~んな感じ~♪」

よく見ると水に活けているのではなく、土ごと入っていた。


「彩桜、それは?」


「俺が焼いたの~♪ それと庭の花~♪」


「雑草?」「うん♪ 春だよね~♪」



 邦和の春は、別れがあって出会いがある。

ゴールでスタート。

そして一歩、子供達は大人に近付く。

各々が様々に想いを馳せていた。



 金錦と広夢に見送られてバスが出発した。

彩桜とサーロンは最前席に並んでいる。

【ソラ兄どしたの?

 掃除なら後でするからね♪】


【今はサーロンなんだけど?】


【でも~、表情(おかお)ソラ兄だよ?】


【えっ?】慌てて顔に手を当てた。


【悩んでる?

 サーロン封印なんて考えてないからね~♪】


【それは……世界ツアーも行くから心配してないよ】


【だったら なぁに?】


【もうすぐ此処で響と暮らすんだな~と……】


【ほら~、やっぱりソラ兄♪】


【そう、かも、ね……】


 実は前夜からずっと、こんなふうに賑やかで楽しく暮らせたらいいのにと思っていたソラだった。

彩桜と机を並べていられるのは、あと1週間だけ。

もう授業らしい授業も無いんだと、何かが心に突き刺さるように感じていたのだった。


【俺もね、まだまだサーロンと一緒に勉強してたいんだ♪】


【彩桜、まさか何か企んでる?

 もしかして数学のテスト!】ピンッ☆


【にゃ~んにもだも~ん♪

 退屈だっただけだも~ん♪】


【ちゃんと話して!

 公式を使わずに解こうって何だったの!?】


【サーロンもヒマしてたでしょ?】


【してたけど……】


【それだけ~♪】


 本当に彩桜としては楽しく時間潰しをしたかっただけなのだが、その『それだけ』が数学の算木先生を唸らせ、波紋が拡がっているなんて知る由もないのだった。







親子それぞれの思いって、よく すれ違うし、なかなかに難しいところがあって、見失うことも多いような……。


輝竜兄弟もまだ子供の立場しか知りません。

近い将来、親となりそうな上6人は、見失わないようにしようと心に刻んで奏でていました。


思ったことが すぐ言葉に出てしまう心太ですが、今回は良い働きをしましたよね。



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