イーリスタ
東の街の一角、様々な店が並ぶ通りは、師走が間近になったこともあり、家族連れや恋人へのプレゼントを選びに来た若者達で賑わっていた。
その通りを利幸と勝利も話しながら歩いており、二人から少し後方の屋根や看板の上を縞と三毛の子猫達が飛ぶように駆けて追っていた。
〈ウンディってば何しに来たのかしら?〉
〈なんか~、場違い?♪〉
〈うんうん♪ 似合わな~い♪〉
〈もひとりも場違~い♪〉
〈似たり寄ったり~♪ あら?〉〈ん?〉
止まって空を見上げた。
〈〈なんか凄いの来てない!?〉〉
顔を見合わせる。
〈ちょっと待ってよ! 私達だけなのに!?〉
〈ラピスリもアーマル兄様も居ないのに!?〉
内容は同じな事を同時に言った。
〈〈ど~しよぉ~〉〉
また顔を見合わせる。
〈とっ、とにかくもっと近づかないと!〉
〈そっ、そうよねっ! 行きましょっ!〉
駆け出した。
〈ミルキィ! チェリー!〉
〈〈ええ~っ、オニキスなのぉ?〉〉
〈お前らなぁ……〉
〈アーマル兄様は?〉〈ラピスリは?〉
〈兄様は一緒だが、瑠璃は来れねぇ。
狐儀もムリだ〉
〈兄様が一緒ならいいわ♪〉
〈トリノクス様も一緒だし♪〉
〈おい〉〈〈なぁに~?♪〉〉
〈気を抜くなよなっ〉〈〈わかってる♪〉〉
〈ヤバいヤツが来てるんだからなっ!〉
〈気づいてるわよぉ〉〈うんうん〉
〈上空で留まったから死司神だろーな。
死司神なら街に居る限り大丈夫だ。
その結界は通れねぇだろーからな。
で、利幸は自分の車で行ったのか?〉
〈ううん〉〈お友達の車よ〉
〈なら、襲われるのは街を出た時だな。
オレ達はソコで待機すっからな〉
〈ねぇ、なんでオニキスが話してるの?〉
〈アーマル兄様は?〉
〈トリノクス様と兄様は上に集中してるんだよっ!
ちゃんと話してるんだから真面目に聞けよなっ!〉
〈〈は~い〉〉
〈ったく お前ら――〉
〈死司ではないと判ったなら直ぐに其方に行く。
それ迄ウンディを頼む〉
〈〈はい♪ アーマル兄様♪〉〉
〈この違い、何なんだよぉ〉
〈信頼度?〉〈うんうん♪〉
〈ったくぅ~。
とにかく気を抜くなよっ〉
―・―*―・―
門の扉に両掌を当てて目を閉じていたマディアが笑顔で振り返った。
〈この向こう、草木も無い岩石砂漠っぽいよ。
夜みたいなんだけど、地面や岩なんかは淡く光を照り返してるんだ〉
〈不思議な場所ね……神世なの?〉
〈見た覚えのない風景なんだよね。
だから神世じゃなさそうだね。
でも問題無さそうだから行こっ♪〉
手を繋いで勢いよく扉を開けた。
〈本当に……何も無いわね……〉
〈でしょ♪ ん――?〉
〈どうしたの?〉
〈――あ♪ 見つけた♪ ほら兎♪〉
〈あ……確かに兎ね〉
神眼を凝らして見ていると、白兎は真っ直ぐ2神に向かって跳ねて来ていた。
〈けっこう速いね〉
〈そうなると……大きな兎なの?〉
〈みたいだね。兎の獣神様かな?〉
《お~いキミ達~♪》
〈ほら♪〉〈そうね♪〉笑顔を交わし、
〈〈は~い!♪〉〉大きく手を振る。
兎は大きく跳び上がって頷いた。
〈そっか♪ その道、再開かなっ?♪〉
〈そうしようと思って確かめに来たんです♪〉
〈そっか~♪ も~チョイ待っててねっ♪〉
ぴょんぴょんてんてんぴょ~んびょんぴょん♪
〈到着~♪ あ♪
もしかしてキミ達ドラグーナの子?♪〉
〈〈はい♪〉〉
〈ドラグーナど~してるの?
神世の連絡、途絶えちゃったんだけど?
何かあったの?〉
〈父は堕神にされてしまったんです〉
〈40年くらい前から7人に……〉
〈だから途絶えたのか~。
トリノクスとマリュースのはドラグーナから聞いたんだよね。
オフォクスは? オフォクスもなの?〉
〈オフォクス様は自ら人世に。
今は堕神にされた獣神を護っています〉
〈行ったっキリなんだ~。そっか~。
で、この道、また使うの?〉
〈それが神世を救う近道だと感じたんです〉
〈でも……此処は何処なのですか?〉
〈月♪ だから兎なんだよ♪〉
〈〈へ?〉〉
〈知らないの? 玉兎♪
人世のアチコチで月には兎が住んでるって言われてるんだよ♪
だから僕は兎にしてるんだ♪〉
〈そうですか……〉
〈月で何してるんですか?〉
〈禍を滅してるんだよ♪
滝近くに禍転送用の道が在るの知ってる?〉
〈はい♪
地に封じて弱らせた禍を転送してました♪
転送先は月だったんですね♪〉
〈そ~そ~♪
前は弱った禍だったのに、最近はナマで届くから、も~大変〉あはっ♪
〈神世が酷い状態なので、強さも数も凄いんです。すみません〉
〈ま、僕は楽しんでるから気にしないで♪
ん? ん~~~〉
マディアの周りをぴょんこぴょんこ――
〈あ、あの……?〉
〈キミ、禍に込められてた呪を受けてるよ〉
真顔でじーーーっ。
〈身に覚えある?〉
〈あ……はい……〉
〈じゃあ鱗が騒ぎ過ぎるのは――〉
〈覚えがあるのならいい♪
知らないうちに、ってのは厄介なんだよ。
魂が拒絶できずに浸透しちゃうから。
それじゃ解呪してあげるね♪〉
〈あ♪ ありがとうございます!〉
〈こ~ゆ~のはオフォクスが得意なんだけど、僕もそこそこ得意だからねっ♪
ビックリするだろ~けど逃げないでね♪
燃えたりしないからっ♪〉
ぴょんぴょん離れる。
〈〈え?〉〉燃える???
〈ソコに立って――えっと縦に伸びる感じで背中向けといてね♪
お嬢ちゃんは彼の胸に両手当てて支えてあげてねっ♪
あ、何されるのか不安でしょ?
神眼で見てていいよ♪〉
〈不安なんてありませんけど、勉強の為に拝見させて頂きます♪〉
〈ん♪ じゃあいくよっ♪〉
兎が高く跳ね――炎に包まれた!
〈〈ええっ!?〉〉
驚いている間に赤炎が迫る!
〈逃げないで!〉〈〈はいっ!!〉〉
マディアとエーデリリィも炎に包まれた。
――が、〈熱くないね?♪〉〈そうね♪〉
そして、炎が天に昇るように消えた。
〈どう?〉
〈はい♪ 背中が清々しいです♪〉
〈じゃあ1発オッケ~だねっ♪〉
音も立てずに真紅の鳳凰が降下した。
〈そっか♪
だから『兎にしてる』んですね♪〉
〈ホント言うとね、空気無いから飛びにくいんだよね~〉
〈神には関係ありませんよね?〉
〈バレた~♪
コッチが自然な姿なんだけど兎の方がカワイイでしょ♪ だから兎♪
親が鳳凰と兎なんだよね♪〉
〈トリノクス様も蛇だったり狐だったりでした♪〉
〈狸は?〉
〈え?〉
〈トリノクスには狸も入ってるんだよ♪〉
〈どうして狸?〉
〈ガイアルフ様とフィアラグーナ様が競い合った結果かなっ♪
どれだけ込められるかって頑張ったんだ♪
だからオフォクスには獣神全種類の欠片が込められてるんだよ♪
ドラグーナには全龍の欠片♪〉
〈そんなにも!?〉〈入るんですか!?〉
〈うん。工夫しないとダメだけどねっ♪
オフォクスには狐の塊に、あと細々。
ドラグーナには7つは大きくて他は小さい欠片♪
だからどっちもスッゴイの出来ちゃった♪
そんでね、モノオクスにはデッカイ狐♪
1コの限界を知ろうとしたみたい♪
ジーニクスには狐と蛇♪ 夫婦で半々ねっ♪
トリノクスには狐と蛇と狸♪
テトラクスには狐と蛇と虎と馬♪〉
〈って……もしかして父様達よりも歳上……?〉
〈あっ! 私はエーデリリィです!
弟で夫のマディアです!〉
〈あ♪ 僕も名乗ってなかった~♪
僕は月の四獣神イーリスタ♪
両四獣神の中で一番歳上♪〉
〈マディアの仲間だわ……〉〈〈ん?〉〉
〈あ、あのっ、月から人世への道って在るのでしょうか?〉
〈無いよ♪〉
〈〈あ……そうですか……〉〉
〈じゃあ作ってあげる♪
神世の話、聞かせてくれる?
そしたら作るから♪〉
〈あ♪ はいっ♪〉
〈話しますので、お願いします!〉
扉を開けると其処は月でした。
月に行ってしまったマディアとエーデリリィ。
月の四獣神で鳳凰兎のイーリスタと出会いました。
一方、地星では、ルロザムールの案内で人世に向かった死司最高司ナターダグラルと、それに対抗しようとしているトリノクスとドラグーナの子供達。
お話は並行して進みます。




