マーズとキリュウ兄弟の合奏
異常なしの診断を貰って彩桜が復帰するとチーム・シュートは無敵状態で勝ち進み、アッサリ優勝してしまった。
表彰式の準備中――
【白久兄、来週にゃんだけどぉ~】
【バス出してやるから出る筈だった2人も呼んでやれよな】
【ん♪ ありがと白久兄♪】【ナンだよソレ?】
【今週のは地区大会だ。
優勝したから来週は全国大会だ♪】
【そぉなの~東京なの~】
【うわ。そんなら弁当は任せろ♪
で、泊まりか?】
【大会は1日だが遅くなるよな?】【なる~】
【ま、帰ろうと思えば帰れるが――】
【白久兄ん家に泊まりゃいいだろ】
【なんだけどなぁ】【ボク、鍵 貰いました♪】
【もうバレちまったかぁ】
【そう言うと思って、お礼は4月にと思ってました。
ありがとうございます。
お世話になります♪
来週は白久お兄さんのお家に泊まりましょう♪】
【そっか♪【そんじゃあ決まりってコトで♪】】
【た~の~し~み~♪】【だね♪】
―◦―
表彰式も終わり、チーム・シュート応援団には祝勝会をすると招待し、帰宅するか輝竜家に向かってもらった。
キリュウ兄弟とマーズは記者会見場として急遽 押さえた市役所の会議室に入り、前に並んだ。
マーズ側には話す為に白久と青生、鳥忍をする可能性を考えて彩桜、それと7人ではないと示す為に緑マーズと空マーズが本人(神)で、他は狐儀の分身だった。
キリュウ兄弟側は金錦が代表して話すとして、身代わりは偽装した理俱が白久、瑠璃が青生を、彩桜は理俱の分身がしていた。
向かい合う記者の側は、輝竜家を見張っていたが会社からの連絡を見て離れ、折角だからとチェイスタグを取材していた記者達が前方の列に。
後方には連絡をしても梨の礫だった為に集まった各社のお偉いさん達が怒りも露な渋い顔で並んでいた。
問題の、現状では元・記者となった集団は隅に集められており、警察官と警備員に見張られている。
勿論その中に『桜マーズ』と叫んだ男も居る。
その集団を紅火が半球堅固で囲み、瑠璃が弱く浄禍を維持している。
青マーズがマイクを取った。
『呼び掛けに応じてくださり、ありがとうございます。
では始めます。
マーズからお願いがあって皆様にお集まり頂きましたが、その話の前に。
何故、中渡音に集結なさったのかを伺ってもよろしいですか?』
お偉いさん達が視線を交わし、1人が立った。
『東邦グループ取締役社長の東角です。
弊社グループの者は、あの中には居りませんが、報道機関の代表として参りました。
現在、非常に多くのコメントが国内だけでなく世界各国から邦和の報道各社に届いております。
押し寄せている、と表現するのが適切かと思う程です。
その殆どが苦情や非難で、キリュウ兄弟とマーズを追い詰めるな、犯罪者かのような張り込みは直ちに止めろという内容です。
各社その旨を全社員に通達しましたが、一部の張り込んでいる者達は気付いてもいない様子でしたので、止める為に集まりました次第なのです』
『そうでしたか。『ありがとうございます』』
キリュウ・マーズ揃って礼。
『では、此方の紹介は今更だと思いますので、本題のお願いに移ります。
マーズは――』「待って!」『はい?』
前列の記者が1人立ち、マイクを貰った。
『蝦夷新聞社の鈍良です。
2人増えてますよね?
紹介をお願いします』
銀マーズもマイクを持った。
『緑マーズはスノボパフォーマンスしてたから表に出るのは初めてじゃない。
空マーズは初めてだよな』『はい♪』ペコリ。
『以上だ。
だが、マーズは9人でもない。
披露する予定はある。
その全員で3月下旬から4月上旬にかけて全国行脚する予定だ。
けど音楽ライブじゃない。
この前の馬ぬいバラバラ呪いの儀式事件の絡みで依頼された、全国の寺社や文化財、観光資源なんかの落書きを消す行脚だ』
『一旦は全て元通りにします。
ですが落書きは後を絶ちません。
ですので輝竜家を見張るのではなく、俺達が修復した場所を見張って頂きたいんです』
『それと落書きは罪だって事も強調して伝えてもらいたい。
外国人観光客向けの看板やらは、先ずは入国時に読めるように仕組みを変えてもらえたら嬉しい。
報道には、その力があると思ってる。
寺社やらにも景観を損ねようが設置したいのなら俺達が作る。
勿論、主要な言語にも訳す』
金錦もマイクを持った。
『訳す作業は我々も協力しよう』
『ありがとな♪』
『あのね、その見張り、あのヒト達にもしてもらいたいの。
反省シュ~ンなってるから、クビ取り消してもらいたいのぉ』
『桜マーズは甘いよなぁ。
けど、そうしてもらえると有難い。
人手は多い方がいいからな。
キリュウもいいよな?』
『構わない』
『この件に関して質問は?』
一斉に手が挙がる。
『この件に関してのみだぞ?』
下げる者は居ない。
『そんじゃあソッチ端からマイク頼む』
マイク係は順志だったりする。
『お久し振りです。東邦の文屋です。
社長に くっついて来てしまいました。
修復の前後を取材してもいいんですよね?』
『構わないが、忍法の種明かしは絶対しないからな』
『それはもう! 心得ていますので♪』
『取材はご自由に。
ですが、各所の入場許可は得てくださいね。
それと立ち入り禁止場所とかも把握して来てくださいね』
『俺達は全て入れるが、付いて来て出禁になっても知らんからな。
で、この他には?』
まだ手が挙がる。
『みみさちの柿谷です。
演奏は全くですか?』
『そっか、音楽雑誌か。
ったく仕方ねぇな。
ナンでチェイスタグ見てるんだよ♪
必要な場所なら神楽やらの奉納もする。
祟る場所なら祓う。
臨機応変だ』
『今この16人での合奏を聴きたいんですけどねぇ』
響動めきが広がる。
『あのなぁ、落書きとは全く関係ないだろ』
【でも出来なくにゃいよ?
イマイチ、理俱師匠だけだし~♪】
【確かになぁ】【悪かったな!】
『後で1曲だけな。次だ次!』
【理俱師匠♪ エアーの練習バッチリだよね?】
【そりゃまぁな。本番近いし、やってるよ】
【だったら大丈夫だねっ♪】
【お~い、どっちか分身 頼む!】
【私に任せろ】【瑠璃姉ならバッチリ~♪】
【あ、そ~だ♪ 俺も分身しよ~♪
狐儀師匠 大変だもんねぇ】
【それなら俺も。
具現環に偽装環と分身環も重ねてもらっているからね】
【作ったのは俺だ。俺も分身する】
【オレにも作れよな!】
【ふむ。皆の分を作る】【おう♪】
誰が誰を、楽器やパートの分担は、とかを打ち合わせているうちに質疑応答は終わった。
『約束したから1曲だけな』
立ち上がったマーズは弦楽器を持っていた。
キリュウ兄弟にも渡して並びを変えると、揃って構えた。
バイオリンは金錦が主旋律で副旋律や和音を重ねているのが白久と銀マーズと青マーズと彩桜。
ビオラは青生と藤慈と金マーズと藤マーズと緑マーズ。
チェロが黒瑯と黒マーズと桜マーズと空マーズ。
コントラバスが紅火と赤マーズ。
治癒と浄化が乗った優しい音色は、記者達をゆったりと包み、心地よい眠りへと誘った。
その余韻が消えると記者達はハッと目覚めた。
『かなりお疲れのご様子。
ゆったりと休めたのなら嬉しい限りです』
金錦の締めの言葉で、揃って優雅に礼。
正面を向いた時には楽器は消えていた。
一様に『寝てシマッタ!』な顔が並ぶ。
記者達が慌てている中、ドアに近い金錦から出ようと――
「マーズ!!
違うと見せかけて分身なんだろ!!
分身の術なんだよな!!」
【浄禍が効かないヤツが居たかぁ】
【理俱、人なのですから――】
【強い浄禍なんかしないけどなっ】
【俺、怒ったもんね】【彩桜!?】
桜マーズが飛んだ。
「分身なんだろ!♪
中身は輝竜なんだろ!♪」
周りの記者に戻れた者や警備員達に押さえられても言うのを止めない。
スポッ。
「彩桜は俺じゃないの。
俺だったら飛べるからカッコ悪く落っこちたりしないの。
反省しないとソレ取れないからね。
まだ騒ぐならマーズ引き継ぐからね。
全国行脚、連れてくから落書き消してね」
「桜マーズ行こうよ」
空マーズも翼を具現化して飛んで来ていた。
『それも分身なんだな!』微かに聞こえた。
「分身の術は、こうです」
バラララッと横に増えた。
「それぞれが」「動けますが」
「演奏なんて」「高度な事は」
「ムリなんですよ」最後は全員。
ススススッと重なった。
「あんまり言ってるとホントに俺達、フツーの忍者に戻るからね」
空マーズと手を繋いで飛んで行った。
馬頭を被せられた男は喚き続けているが、微かにしか聞こえなかった。
「君だけは記者証を返さない。
勿論クビだ」
見えてはいるらしく『社長!?』と大声らしいが微かに聞こえた。
―◦―
桜マーズと空マーズは彩桜と手を繋いで、飛んで会議室を出た。
休日なので誰も居ない市役所をふわふわ飛んで行く。
【彩桜、あの馬頭 誰の?】
【誰のでもな~い。
紅火兄の堅固に俺の浄破邪 込めたの~】
【やっぱり何か居るんだね?】
【居ると思うのぉ。
でも見えないのぉ。
浄破邪で炙り出しなのぉ】
【竜騎みたいなの?
神様が弱禍の下敷きなパターン?】
【可能性あると思う~。
あとね、オーロザウラより弱い悪神な可能性あるの~】
【そっか。でも神様限定?
他の可能性は?】
【拾知も出来にゃいのぉ。
だから神様かな~なのぉ】
【そうなると神様なんだろうね……】
【瑠璃姉でもビックリだったの。
だから『人神なのだろう』だって~】
【彩桜、いつまで飛んでいるの?】
【あ……家 帰ろ~】一緒に瞬移。
彩桜が怒ったのは記者自身ではなく、その魂に潜んでいる何者かに対してなんです。
チェイスタグの方は地区優勝したので、次は全国大会です。
彩桜としてはサーロンと楽しみたいだけなんですが……どうなることやらです。




