最果ての向こう
〈カーマイン兄様♪〉
滝を睨んでいた深紅の龍が振り返った。
マディアが姿を消しているのは常の事なので神眼で位置を確かめ、笑みを浮かべた。
〈オニキスの無事を伝えに来たんです♪〉
〈そうか。無事ならばよい。其方は?〉
〈僕の妻、エーデリリィです♪〉着地♪
〈共鳴? そうか〉ふむ。
〈うん♪ 姉様なんだ♪
でも関係なく大好きなんだ♪
オニキスは人世に行ったんだって。
現世の門には大型神力射がズラリだから、他の兄弟にも行っちゃダメって伝えてね〉
〈そうか。『声』の事をオフォクス様に伝えようとしたのだな?〉
〈ソレ聞いてないんだけど、声って?〉
〈微かな声を聞いたそうだ。
おそらく兄の声だと言っていた。
『これならきっと、グレイは目覚める』と聞こえたそうだ〉
〈グレイ、と……?〉〈エーデ?〉
〈確かにそう言った〉
〈兄弟の中で『グレイ』と呼ぶのは私の同代だけよ。
私達とマディア達の他の代と会っていたなんて考えられないもの。
皆……無事なのね……〉
〈そっか。
僕と僕の下とその次は『グレイさん』だし、他の代は会ってないもんね。
良かったね♪ エーデ♪〉
〈ええ……そうね。そうよね♪〉
〈きっと兄様達が何かキッカケ作ったからグレイさんは目覚めたんだよ♪
早く助け出さなきゃだから向こうに行こ♪〉
〈向こうに行く事と繋がっているの?〉
〈繋がってると思ってるんだ♪
それじゃカーマイン兄様、またねっ♪〉
〈気を付けて行け〉
〈うんっ♪ ありがと♪〉
―◦―
マディアが10回ほど大瞬移を繰り返すと『壁』が終わり、宵闇に雪原が広がった。
〈遠くに煙が上がってる山が見えるでしょ。
あの向こうは灼熱なんだよ〉
絶え間無く降り続ける雪のヴェールの向こうなので何も見えなかった。
神眼を向けると、確かに火山が見えた。
〈雪原から灼熱!?〉
〈うん。そのどっちかしか無いんだよ。
不思議なんだけどね〉
〈そう……それにしても分厚い壁だったわね。
最果てまで一度で飛べるマディアでも何度も飛ばないと終わらないなんて……〉
〈めーいっぱいを11回♪
でもね、瞬移も制限されてる感じなんだ。
普通の瞬移だと殆ど動けないと思うよ。
だから都から最果ての3倍くらいかな?〉
〈それでも凄いわよ〉
〈うん♪
この壁、たぶんね~、昔々の神様が造ったんだと思うよ。
何があったのか、なんて記録とか、な~んにも見つからないんだけどね。
とんでもない地になっちゃったから、これ以上拡がらないように、とかでね〉
〈記録も無いのに、どうしてそう考えたの?〉
〈それは、この先を見たらエーデもそう考えると思うよ♪ 行くよ♪〉
手を繋ぎ直して、ひとっ飛び♪
瞬移した先は、やはり雪原だが――
〈あれは……門?〉
〈そう。門なんだよ。
雪に埋もれることすらないんだ。
神が造ったとしか思えないでしょ?〉
――宙に浮く門が在った。
その上には、確かに全く雪が積もっていなかった。
〈確かに……神造物ね……〉
〈ここがコッチの地の中心なんだ。
都の真反対。だから夜。
マヌルの里からも同じように来れるんだ。
この門の向こうを確かめてマヌルヌヌ様に報告すれば僕達にとっても近道になるって気がするんだよ♪〉
〈マディアお得意の『予知』?〉
〈予知なんてナイよ。ただのカン♪
でも、オフォクス様に先読みを教えてもらいたかったなぁ。
カウベルル様が次の手を打ったって仰った時、この門の光景が浮かんだんだ。
だから近道な筈なんだ♪
入ってみよう♪〉
〈良かった♪
今度は置いてくって言われなかったわ♪〉
〈だって、こんな寒いトコに置いてけないよ。
寒いだけじゃなくて禍も出るし~。
門の向こうも何が出るか分かんないけど、一緒なら何とかなるでしょ〉
〈そうね♪ 行きましょ♪〉
―・―*―・―
その頃、死司域の最高司の館では――
ナターダグラルが執務をする間、目障りだから出ていろと言われたルロザムールが廊下で控えていると、配下が慌てた様子で飛んで来た。
「ルロザムール様っ!」
「何故、此処にっ!?
私は不在。来るなと言ったではないか!」
「で、ですがっ、こればかりは――」
「解った。離れねば――」『騒がしいぞ』
「――さ、最高司様のお邪魔であるからなっ」
大慌てで離れた。
「それで何事だ?」
「はい。お指図通り昨夜も、ウンディの回収に向かったので御座いますが、またしてもモグラに邪魔をされまして――」
「モグラを捕らえよ。
邪魔をしたという証拠と共にな」
「むむむむ無理で御座いますっ!」
「何故だ?」
「近寄れば操られ、敵方として全力で攻撃してくるので御座います!
とても捕らえるなんぞ――」
「では明日、私が向かう。
それまで――」『その記憶を見せなさい』
「「えっ!?」」
「記憶が証拠です。見せなさい」
言いながらナターダグラルが近付いた。
「「最高司様っ!?」」
2神、大慌てで跪く。
ナターダグラルは報告に来た死司神の頭上に手を翳し、暫く留めた。
「ふむ。私が参りましょう」
「「ええっ!?」」
「あなた方も来なさい。
案内、頼みますよ」
「「はははははいっ!!」」
―・―*―・―
〈ん?〉
ショウがピクリとし、聞き耳を立てた。
《また来たようだな》
〈首輪、解いてっていい?〉
《行くぞ!》〈うんっ♪〉
カチャ、チャリ、タタタッ♪
《アーマルも飛翔も眠っているのだな。
目覚めよ! アーマル!》
〈は、はいっ!〉
《また死神達が近付いておる。
ウンディの居場所に向かう!》
〈っ……隣街かっ!〉
《間に合えばよいが……》〈トリノクス様!〉
〈オニキス! 何処だ!?〉
〈アーマル兄様、起きてたのか♪
家が途切れたら降下すっから乗ってくれ!〉
〈解った! しかし、感知したのか?〉
〈ラピスリに呼ばれたんだ。
イカツイのが来てるってな〉
〈ラピスリは?〉
〈今は動けねぇって。
仕方ねぇよな、人として生きてるんだから。
オフォクス様とフェネギは遠くに行ってる。
なんせ堕神は多いからな。
ソッチも大事なんだよな〉
〈確かにな。
ミルキィとチェリーが耐えられるうちに到着せねば――〉
〈速さマシマシ~♪〉
〈お♪ 見えたぞ♪
ショウが走ってるのか?〉〈うんっ♪〉
〈スッゲーなっ♪〉 〈まっかせて~♪〉
〈これならば直ぐに街から出られる〉
〈おう♪ 急降下して途中で瞬移する。
姿見せるのは一瞬だからなっ〉
〈僕が見ているのだから遠慮無用だ〉
〈そんじゃ行くぞっ!
3、2、1、乗れ!〉〈ぴょ~ん♪〉
〈……おい〉〈ん?♪ 乗ったよ♪〉
〈だな。じゃなくてなっ!
もーチョイ緊張感ってモンを――〉〈あ!〉
〈近いぞ!〉《皆、全て消せ!》
〈〈〈はい!〉〉〉
―・―*―・―
〈エーデ下がって〉
何処に向かうのか全く分からない通路を瞬移を交えて進んでいたマディアが立ち止まり、エーデリリィを護ろうと両手を広げ、探りを拡げた。
〈え? ええ……〉
〈まだ遠いけど禍だよ。気を消して〉
〈どのくらい遠いの?〉
〈次の瞬移で目の前だよ。行くよっ〉
手を繋いで瞬移した。
〈魂縛龍牙破邪! 解輝破呪!!〉
禍に前や後ろなど無い。
全方向感知される前提でマディアは瞬移と同時に禍と呪を滅した。
その破邪の輝きは禍を滅しただけでなく、まだ彼方に在る門の扉を浮かび上がらせた。
〈次の瞬移で出口だよ♪〉
〈もう禍は無い?〉
〈うん♪ ラストだよ♪〉瞬移♪
――門の近くに出た。
〈マディア、大丈夫?〉
〈何が? 向こうが不安?〉
〈そうじゃなくて、こんなにも大きな瞬移を繰り返すなんて……〉
〈留守番してる間中、僕は修行してるんだから、ちゃんと強くなってるんだよ♪
それにエーデが一緒だから元気千倍♪
向こうを確かめるから待っててね♪〉
現状、神世の地は ほぼ円形で、高く険しい岩壁みたいな山脈に囲まれています。
その岩壁付近を人神は『最果て』と呼んでいるんです。
ですが其処は最果てではなく、その向こう側が在りました。
神世の地は、人世の地をまるっと覆う球形だったんです。
ついでに、ですが――
神世は上にも下にも空が在ります。
職域は下空に在るんです。
人世を管理する場ですので。
職域の地は雲で出来ているので『雲地』と呼ばれます。
(その上の地は『土地』です)
職域の底面は、人世からも時折高い位置に雲として見えていたりもするようです。
もしかしたら
風雪と灼熱の地の真下の雲地に行けるかも。
そこから人世に行けるよね?
そう思ってマディアは門の扉を開けようとしています。




