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翔³(ショウソラカケル)ユーレイ探偵団1.5  外伝その1 ~探偵団の裏側で~  作者: みや凜
第三部 第31章 フリューゲル&マーズ初ライブ
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浪花の顛末



 翌日は月曜日。輝竜兄弟は日常に戻っていた。

各々、朝は遠巻きにザワザワされたが、より親しい者達が散らしてくれた。


 そんな日常と非日常の(はざま)でも、どうにか落ち着いてきた午後早く――

〈白久、支社長室に集めてもよいか?〉

――金錦に呼び掛けられた。


〈今日は会議も出掛ける予定も無いからいいぞ。けど彩桜は?〉


〈彩桜は現地で聞いていたのだから学業に専念してもらう〉


〈そっか。昨日の夜のか〉


〈共有した後、二人で見舞いに行かないか?〉


〈浄化具合を確かめようってんだな?

 そんなら行くぞ〉


〈ふむ。頼む。

 青生と藤慈は間も無く休診時間に入る。

 黒瑯は仕事が終わった。

 私は午後の講義が無い〉

言い終わる前に来た。


〈今日がベストだな♪〉

と、顔を上げると紅火も来ていた。

黒瑯は一旦 帰宅していたらしく、ティーワゴンと一緒に来た。

続いて青生と藤慈。


 兄弟で応接テーブルを囲む。

「では始めよう」


 紅火作のボイスレコーダーから、ドアが閉まる音に続いて不快な怒声が流れ始めた。

 最初は逆斐(さかい)皆見(みなみ)の居場所も掴めず、マーズの取材も出来なかった事を責め立てられ、何も言い返せない矢緒と飛田にとっては針の(むしろ)以外の何ものでもない状態が延々と続いていた。


 それが終わったのは、遅れて到着した記者2人が、マーズが他社の記者達を集めて会見を行っているという確かな情報を得たと報告した為で、何処の記者が来ていたのかくらいは見ただろうと聞き出しに掛かったからだった。

 矢緒と飛田が必死で思い出しているらしく、少しずつ言葉にしていた途中で浄化薬の霧が降ったようだ。


「で、青生達は回収した欠片を持ったまま浪花府の上を飛んでたろ?」

神眼最強な黒瑯は見ていたらしい。


「うん。ナニワ報道の社長と専務は父娘、副社長と専務は夫婦だったから、その家族とか影響を受けた人が居るんじゃないかと思ってね」


「そっか。じゃあ居たんだな?」

白久とシルコバがニヤリ。


「はい。副社長と専務の一人息子が居ました。

 今は家族一緒の部屋に入院中です。

 社長夫人は亡くなっていました。

 専務は一人娘なので家族は以上です」


「で、結局 誰が親玉だったんだ?」


「ナニワ報道の副社長・出水(いずみ) 佐之助(さのすけ)です。

 元は西邦新聞の記者で、出水と同期で優秀な記者だったのが西邦新聞の副社長・西中縞(にしなかじま)です。

 なので最初の犠牲者は西中縞だと思うんです。

 先に出世したから欠片を込められた。

 正義感の強い人だったので何度も重ねられて今の状態に。


 西邦新聞に逆恨みもあった出水は、西邦を潰そうとナニワ報道に移り、乗っ取る為に先ずは直属の上司になった社長の娘さんに、続いて社長さんに欠片を込めた。

 さっきの音声でも態度は社長よりも上。

 社長も専務も配下でしたよね?


 そして手足として2社の記者達にも微細魂片を込めていったんです。

 2人ずつ込めては休んで力を蓄えるのを繰り返して、犠牲者は6人。

 逆斐、皆見、矢緒、飛田、平方、片野です。

 社が違う2人が組んでいても西中縞に黙認させていたんです。

 名が大きい西邦の記者として強引な取材をさせ、その成果はナニワ報道が得る。

 最終的に潰して吸収するつもりだから、西邦の名を地に堕としたかったんです。


 息子の大都(おおつ)君には、生後間もない頃に欠片を込めています。

 魂はボロボロで彼自身の意思では生きてきませんでしたので、記憶も無いと言っていい状態です」


「可哀想になぁ。

 で、青生としては全てはオーロザウラだと救う気なんだろ?」


「そうですね……」


「ん? らしくない返事だな」


「長く不本意な人生を送らされてしまったという事実を受け入れられるんでしょうか? 30年近くもなんですよ?


 それに菜庭(なにわ)社長は生き残ったものの、奥様を失った事故は、出水が どちらかの地位を得る為に仕掛けたんです。

 それに社長が気づいたから、重傷で動けない入院中に欠片を込められてしまったんですよ。


 出水の妻にさせられた摂津子(せつこ)さんは、出水が移って来た時に編集長をしていて、受け入れを猛反対したから言いなりにされたんです。

 両親を事故に見せかけて殺害する計画でも実行犯は摂津子さんなんですよ。

 目覚めて……大丈夫でしょうか?

 記憶があったなら……」


「重たいな……」

「って悩んでる場合じゃねーぞ!

 そのセツコさん、目覚めちまってる!」


「行こう」「「「「「はい!」」」」」



――病室は静かだったが、その静けさの中で憎しみしかない瞳から悔し涙を流し続ける摂津子が、佐之助の頭部に濡れたシーツをぐるぐる巻きにしていた。

 佐之助は目覚めても暴れられないように裂いたシーツで手足をベッドに括り付けられていた。


「治癒! 落ち着いてください」

後ろから摂津子の両手首を掴んだ青生は佐之助から離して空いているベッドに運んだ。


 その間に濡れシーツは紅火が切って顔から剥がしていた。

〈青生、コッチ頼む。深く眠らせてくれ〉

〈……はい〉

瞬移で白久と青生が入れ替わり、青生は佐之助を治癒眠で包んだ。


〈あ~、ずぶ濡れだな。春風〉

ドライヤー要らずな黒瑯。



「摂津子さん、記憶はあるんですね?」


返事は嗚咽だけで十分だった。


「過去は どうしようもありませんが、未来は自分の意志で変えられるものです。

 少なくとも俺は、そう信じています。

 あ、誰だよ? ですよね。

 俺達は――」「マーズ、ですね?」


「顔を隠している時はマーズです。

 今は――」「医学博士な常務で支社長♪」

「――おい学校は!?」「休み時間だもん」


「あ~、話が どっか行っちまった」

「あのね、簡単な話じゃないの解ってる。

 でも生きなきゃなの。

 償うのも、やり直すのも、生きてないと出来ないの。

 あのヒトも反省して償わないとだから、生きなきゃなの。

 ラクに死んじゃダメなの。


 会社、続けないと社員さんと、社員さんの家族さん、みんな困るの。

 だから頑張ってなの。

 俺達も全力お手伝いするから生きてなの」


「コイツの言う通りですよ。

 経営者は社員とその家族の生活と夢を背負ってるんです。

 貴女も未来に向けての夢を持っていいんです。

 生きてください」「摂津子さん!」

病衣の男が飛び込んで来た。

追って入った青生がドアを閉める。


「え……?」


「告白すらも出来ないままに……こんな事になってしまいましたが、もしも叶うのなら、これから一緒に歩んでください!」


「もう還暦が近いのに?」


「歳を取ったのは僕も同じです。

 浦島太郎の気分ですよ。

 悪夢としか言い様のない記憶はありますけど」


「そうね……悪夢、よね……」


「兎に角あの屑男と離婚して、僕と結婚してください!

 僕は人生を挽回します。本気です。

 一緒に……お願いします!」


「そうね……ライバルだった西中縞君と手を取り合うのも良いかもね。

 私も人生を挽回しなければね」


「はいはい握手~♪」「ムードぶち壊すな!」


西中縞と摂津子が笑う。


「笑顔がイッチバ~ン♪

 あ、俺 戻らないと~」瞬移。


「消えた……?」


「マーズは忍者よ♪ 消えるのも当然♪」


「じゃあ、この人達――も消えた?」


「屑男を運び出したようね♪」

「そーゆー事です。

 出水 佐之助は警察病院に転院です。

 他の皆さんは検査をして大丈夫なら退院です。

 ただ……大都(おおつ)君は――いえ、その前に息子さんを引き取りますか?」


「唯一の後継者ですが……」

「摂津子さんの子です。引き取りましょう」

「ありがとう、陽方(みなみ)さん」


「回復するまではマーズの家でお預かりしますね。

 最も魂を蝕まれているのが彼ですから」


「そうなのね……」

「どんな状態であろうとも僕達の子として一緒に暮らします」


「では、確かに回復させますので」

「あの……これは記憶が欠落しているのなら話さない方が良いのかもと迷いましたが……」


「何でも、お願いします」

「そうね。もう怖いものも無いのかも」


「そうですか。

 前後の嫌な記憶も呼び覚ましてしまうと思いますので――」

穏やかな治癒光で包んだ。

「――落ち着いて聞いてください。

 では……出水 佐之助は男性不妊症です。

 大都君の父親は」西中縞に視線を向けた。


「ああっ! この記憶か!?」「あ……」


「魂に巣食い、蝕むものを『悪霊』とさせてもらいますね。

 出水は悪霊を使って他者を操る力を持っていたんです。

 その力を使って摂津子さんと西中縞さんを操ろうとしましたが、お二人は魂が強いので何度も正気に戻ったんです。

 その度に出水は悪霊を憑けた。

 何度も何度も重ねて支配したんです。

 お二人同時期に正気に戻った時、一緒に逃げたのは当然の事だと思います。

 そして大都君が生まれた。

 だから生後間もない子にまで悪霊を憑け、傀儡(くぐつ)としたんです」


「そんな……」

「大丈夫だよ。僕達の子なら強い筈だ」


「強いと、俺も思います。

 魂の核は蝕まれていませんから。

 奥深くに隠れて防護していましたから。

 必ず本来の大都君に戻しますので」

「そーいや、お二人は浪花弁は?」


「生まれも育ちも浪花ですが、大学は東京だったんです」


「アナウンサー学校も一緒だったの。

 ですから、どちらでも。

 でも暫くは使いたくないので……」


「そうだね。

 悪夢の中の僕はコテコテの浪花弁だから」


「ええ。思い出してしまうから……」


「あ~、取り憑かれてた間だからだな?」

「そうですね。悪霊は出水に等しいので」


「そうだ!

 コテコテ浪花弁の間は催眠術かマインドコントロールされてたってのは?

 少々無理があるけど、悪霊を出したなんて説明しても、操られた経験の無い者には理解不能だよ。

 正気に戻った証拠に標準語。

 それでいかない?」


「そうね。操られていたのは事実だからマインドコントロールでいきましょう」


「もっと練らないとな」「そうね!」


「記者2人、目覚めたから連れて来たぞ」

黒瑯はドアから普通に来た。


「矢緒と飛田も連れて来た」「うわ」「ヒィッ」

紅火は瞬移して来た。


「先利編集長殿もお目覚めです」「副社長!?」

藤慈もドアから。


「菜庭社長もお目覚めだよ」「此処は一体……」

4人部屋に家族が纏められていたので、青生が背を支えて起こしている。


金錦が戻った。

「出水 佐之助は警察に引き渡しました。

 大都君の転院手続きは後程お願い致します。

 では話し合いを始めましょう」







ライブの翌日になりましたが顛末のお話ですので加えて、この章は ここまでにします。

まだ完全には終わっていませんし、ライブの余波的なものは続きますが、それは次章で。です。


どうしても禍神オーロザウラが纏わり付きますので暗くて嫌な面が見えてしまいますが、輝竜兄弟(マーズ)は負けませんので。



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