マーズ手作りの馬ぬい&馬マス
開店時間が迫るマーズクレープでは瑠璃の指導で青生と藤慈も焼き係をしており、作り置く冷たいクレープは狐儀とリリスが仕上げていた。
黒瑯とリーロンは具を作り、他の妻達はサイドメニューの準備で大忙しだった。
物販の後ろにレジャーシートを敷いてマスコットを作っている金錦 白久 紅火も手を休める事なく頑張っている。
彩桜は出来上がりクレープを冷やしたり、具の材料や出来上がったものを運んだりしつつ、マスコット側でも出来上がりを店に並べていた。
〈マーズの皆様、記者達の大半は納得してくださいました。
理解してくださった方のみ販売エリアの取材に入ってもらってもよろしいですか?〉
文里勇の控え目な声が聞こえた。
〈マーズではなく売店と物販なのですね?〉
マーズ事務所社長として狐儀が対応した。
〈はい。マーズに関してはライブだけをレポートしたいそうです〉
〈そうですか。
何も無しでは帰れないのでしょう。
面談をして許可証を発行しますね。
救護テントに集まってもらってください〉
〈はい、ありがとうございます〉
狐儀が白儀として救護テントに行くと、少し離れた場所に記者達の列が出来ていた。
おや、争いもせず大人しく並ぶ事も
出来るのですね。
クスリと笑って受付テーブルに着くと神世紙で誓約書を成し、取材許可証も用意した。
「白儀社長、夏場と違って来る人は少ないので ごゆっくりどうぞ」
医師として来ている家西は微笑んで奥に行った。
「始めても よろしいですか?」
閉めていた白いビニールカーテンが少しだけ開き、城多兄弟がペコリとした。
「ええ。どうぞ」
最初に入って来たのは文屋だった。
「どうぞお座りください。
昨日はご協力くださり、ありがとうございました」
誓約書と取材許可証を文屋に向けて並べて置いた。
「協力?」
「大勢を説得してくださいました。
では、この誓約書をよくご覧になって、納得 頂けましたら両掌を当ててください」
「サインとかじゃなく?」
「はい。忍紙ですので違反しましたら即、忍者に伝わります」
「うわ……忍者スゴ……」
目は忙しなく読んでいる。
「了解しました」
手型を取るように両手を突くと紙が光った。
と同時に、誓約書と取材許可証に文屋の所属と名前が浮かび上がった。
「うわ……」
「その許可証が見えるようにしてくださいね。
重要項目は許可証の裏面にも記載しております」
許可証は首から下げる事も、安全ピンで服に止める事も出来るようになっている。
文屋は首から下げてから胸ポケットに止めた。
「では、取材もライブも楽しませてもらいます」
笑みを交わして外に出た。
「文屋さん……」
次の梨山が不安そうに呼び掛けた。
「大丈夫。すぐに自由の身になるよ。
ステージから向こうには行けないけどね」
「それは、そうですよね」入った。
「じゃあチケット要らず?」
その次の柿谷が首を傾げる。
「客席の邪魔にならない場所ならね。
チケットを持っているなら客席に入れるって違いだよ。
詳しくは あの中で」
救護テントを指した手をヒラヒラさせて販売エリアに走った。
―◦―
開店、即、ゲート前の長蛇の列が走って目的の店前へ。
特に物販とマーズクレープは長蛇も長蛇だし、マーズを見つけて大騒ぎだった。
「はいは~い♪ ぬいぐるみもマスコットもマーズが作ってま~す♪
俺達の分身で~す♪
今日、荷物になっちゃうってヒトは予約してくっださ~い♪
ちゃ~んと作ってお家にお届けしま~す♪」
彩桜は『ぬいマス予約受付』の看板を立てて客を誘導していた。
桜マーズが居るのもあって、後日でいいと判断した客達がどんどん並んでいる。
「ぜ~んぶ手作りなので~、ゆ~っくりお待ちくっださいね~♪」
「ホントにマーズが?」
「見ての通りで~す♪
マーズのお家で夜なべしてま~す♪
昨日もライブの後で縫ってました~♪」
ご機嫌な声を張りながら縫い縫い縫い♪
「私より縫うの上手……」「手元、見てない?」
「このお面、マジックミラーなの~♪
シッカリ見えてま~す♪」
「え? お化粧!」「髪、乱れてない!?」
なんだか大騒ぎに。
「だ~いじょ~ぶで~す♪
み~んな美人さんで~す♪」
マスコットが1つ出来上がったので、付属の鉢巻&帯7色セットから桜色を巻いて看板の上に座らせた。
「俺の分身く~ん♪
ライブ始まったら俺の代わりに接客ねっ♪」
指でナデナデ♪
「兄貴達も作るの~♪」次を縫い縫い♪
「作ってるパフォーマンスじゃなくて、本当に全部?」
「ホントで~す♪ あ、記者さんだ~♪」
「戦う気は無いからね」
ファンからの視線が痛いので『降参だよ』と両手を軽く上げた。
「ん♪ 社長の許可証あるから信じる♪
皆さ~ん、この許可証のヒト大丈夫だからね~♪」
そうなのかとファン達が視線で刺すのを止めた。
「いやぁ、視線でウニかイガグリになるかと思ったよ。ありがとう。
東邦新聞の文屋です。
インタビューしても?」
「ライブの後でお願いしま~す。
でもホールで、ちょっとだけですよ?」
「ああそうでしたね。
1社1問だけと書いていましたね」
「うん♪」
「では、これだけ。
この場に出てきているのは転売対策ですか?
けっこう大きな社会問題ですので」
「うん。転売されるのヤなの。
俺達が作ってる分身だって知ったら減ると思ったの~」
「他にも対策を講じている最中です。
サイトを介しているものは全て阻止します」
銀マーズが桜マーズに並んだ。
「ですが個人的な売買は無理かもしれません。
ですので、この予約も高値が付かない為の策なんです。
いつでも買える物をわざわざ高値で買う人なんて居ませんからね」
〈白久兄ありがと♪〉〈おう♪〉
「そうですか。
今後の為に詳しく伺いたいところですが、今回のところは『マーズは転売が嫌い』とだけ書かせていただけますか?」
「それはお願いします」「うんうん♪」
「製作中の写真を頂いても?」
「どうぞ此方に」銀が連れて行った。
記者が数人、我も我もと付いて行く。
〈白久兄だいじょぶ?〉
〈ま、これも転売防止策だ♪〉
―◦―
マーズクレープも賑わっていた。
クレープの出来上がり待ちをしている記者が盗撮しようとカメラを隠しつつ構えた。
馬頭コックが向いた。
「撮るんなら横か後ろの窓からな」
「え? いいんですか?」
「顔隠してるのを撮るのはOKだ。
其処だと邪魔だからコッチな」
「インタビューは無理だぞ。
忙しいんだからな」
黒マーズが出来上がりを運びながら。
「記事にはクレープの感想も書いてくれ♪」
お渡し係にトレーを渡して踵を返した。
「書いていいんだ……」
「マーズの正体やら個人情報でなくば書いてよいのじゃ。
ほれ25番のコーヒーゼリークレープじゃ」
「あっ、はい25番です」
番号札と交換して裏へ走った。
「え? こっちの馬頭は女性?」
さっき窓から撮れと言った馬頭コックと同じコックコートだが、見事な手捌きで焼いているのは、明らかにスタイルの良い女性だった。
「うわ~、顔見てみたいなぁ」
ガラス越しの小声なんて聞こえる筈がないと思っていたのに、背を向けて焼いている青マーズが向いた。
その隣で焼いている藤マーズは笑っているらしく肩が揺れている。
青マーズと背中合わせな馬頭コックの女性は小さく肩を竦めていた。
「ス、スミマセン、スミマセン!」ペコペコ!
青マーズが前を向く。
「こ、怖かった……」
ホッと胸を撫で下ろして写真を撮る記者だった。
―◦―
その大騒ぎも開場すると随分と静かになった。
開演前の映像を見ようとチケットを持っている客達がゴソッと動いたからだ。
それでも半減といったところだ。
残った人々の多くはフードコーナーで食事を楽しんでいるが、少し寂しそうだ。
〈ね、兄貴達。
フードコーナーにもモニター置かない?〉
〈チケット買った人が居るのにかぁ?〉
〈そっかぁ。
それじゃ~『馬ぬいマーズを探せ』って、ちょこっと映像の2次元コード持った ぬいぐるみ置いちゃダメ?〉
〈あ~、ソレなら誰でも楽しめるな♪
紅火、頼めるか?〉〈ふむ。任せろ〉
―◦―
「えっ?」「マーズ?」「どうして?」
「ぬいぐるみが座ってる箱! 見て!」
売場になっているのは体育館とホールの間にある公園を兼ねた広場なので、元々ベンチがあった。
そのベンチに唐突にマーズの馬ぬいぐるみが乗った縦長の直方体が現れたのだった。
ベンチの真ん中に赤い直方体。
プレートを持って座っている馬ぬいマーズも赤い服を着ていた。
総じた大きさは、ちょうど大人の座高くらい。
頭に当たる高さに馬ぬいマーズだ。
直方体の前面と両側面にはメッセージ。
『馬ぬいマーズを探せ』
『馬ぬいマーズは7体』
『キミは全て見つけられるかな?』
馬ぬいマーズが持っているプレートと、メッセージの下には2次元コード。
最初は恐る恐る集まった人々だったが、スマホで撮って開くと映像。
歓声が上がり、他を探そうと走り出した。
配置し終えた紅火は人々の動きを確かめるとフッと笑って楽屋へと瞬移した。
――「紅火兄あっりがと~♪」ハグ♪
「もう見たのか?」
「紅火兄の後ろ、ついてった~♪」
「それは気付いていた」
「うん♪」るんるんるん♪
「行かねばな」
「青生兄♪ 俺達 後ろ~♪」
「そうだね」「オレは下だ♪」
楽し気な兄弟は一斉に瞬移した。
馬頭なので、ぬいぐるみもマスコットも馬です。
馬ぬい&馬マスは、この先もずっと輝竜兄弟が作ります。物凄い数を、です。
記者達とも随分と仲良くなれました。
ですが捕まった飛田・矢緒、枝を投げた栗木は?
他にも不満を募らせている記者が居るのでは?
まだまだマーズとマーズスタッフの闘いは続きそうです。




