マディアの過去
マヌルヌヌに絆を結んでもらい、里の獣神達からの祝福を受けたマディアとエーデリリィは大急ぎで里を出た。
姿を消して、エーデリリィを護るように抱いているマディアの表情は真剣で、人神に察知されないよう小刻みに瞬移を繰り返しつつ全力で飛んでいた。
〈急いで出た理由は聞いたけど、急いで何処に向かってるの?
この方向って……もしかして滝?〉
〈うん、禍の滝。
殆どの兄弟がマヌルの里を知らないでしょ?
誘導する僕が里を出たから、これからは逃げ込むとしたら滝しかないと思うんだ。
でも四獣神がもう居ないから禍だらけになってると思うんだよ。
ソレ滅しといてあげないとね〉
〈滅するって――あ、そっか……禁忌なんて、もう気にしなくていいのよね〉
〈きっとみんな、その呪縛に囚われたままだろうから、痕跡を残す為にも術を使っておこうと思ってる〉
〈なんだか……慣れてそうね?〉
〈うん。僕も滝で戦ってたから〉
〈父様達と一緒に!?〉
〈うん。でも四獣神揃ってたのは短い間だけだったんだ。
前々王様が即位して少しして強い禍が人世に現れたから、大災害を防ぐ為に父様達は人世に行ったんだ。
留守番はトリノクス様とグレイさんと僕。
グレイさんが術使っても禁忌じゃないから見慣れちゃったよ〉
〈グレイは本当に五柱神だったのね……〉
〈ソレね、グレイさんが言ったんじゃないよ。
前々王様が言ったの。
だから兵士さん達も言ってたけど、グレイさんは恥ずかしいし烏滸がまし過ぎるから言わないで!
っていつも言ってたよ♪〉
〈グレイらしいわね♪〉
〈でしょ♪
滝に着いたから、ちょっと行ってくるね♪〉
森の手前で降下し、エーデリリィを下ろした。
〈私も!〉飛ぼうとした尾を掴んだ。
〈すぐ終わるよ?〉
〈見せてくれないの?
夫の格好いいとこ見たいわよ〉
〈えっと……じゃあ、、一緒に……〉
手を繋いだが、少し前を飛んで、振り向きもしなかった。
どう見ても真っ赤よね♪
やっぱり可愛い♪
エーデリリィは笑いを堪えて、追い越さないように気をつけつつ、寄り添って飛んだ。
〈ここで待ってて。――防壁! 破邪甲!〉
禍から護る壁でエーデリリィを囲むと、光を纏い、犇めき合う禍の中へと飛んだ。
〈目を閉じてて。滅禍輝雷!!〉
禍の隙間から閃光が迸った刹那、辺りは白輝一色となった。
〈も~い~よ♪ 解除♪〉
〈……凄い……格好いい……〉
〈ありがと♪〉
〈私……こんな凄い神様と結婚したのね……〉
〈うん♪ 大好き♪
暫く安全だから、ここで作戦立てる?〉
〈……ええ、そうね……〉
〈大丈夫? エーデ姉様?〉
〈姉様とか言わないでよぉ〉
〈戻ったね♪
僕にも神様とか言わないでね♪〉
〈解ったわ〉クスッ♪
〈うん♪〉あははっ♪
〈それにしても、何も無い所ね。
草も木も……何も……〉
〈うん。森のすぐ外と同じだよ。
地の気は全て吸い取られているんだ。
何か建てても禍に壊されちゃうし~〉
〈父様達、地べたで寝てたの?〉
〈ううん♪ ふわふわ具現化♪〉
マディアの前に柔らかい寝床が現れた。
〈ここに丸まったらいいんだよ♪〉
〈便利な術ね♪〉
〈トリノクス様が教えてくれたんだ♪〉
ぱふっと乗ってエーデリリィを引き込んだ。
〈きゃっ〉反動でぽんぽん弾む。
〈もうっ〉あははっ♪
〈それじゃ作戦会議ねっ♪〉
〈その前に、さっきの続きは?
気になるんだけど〉
〈あ、そっか。えっと~、うん。
グレイさんと一緒に兵士さんも居たんだ。
兵士さん達は森の外で子供達の指導してくれてたんだよ〉
〈その兵士さん達って何者なの?〉
〈最初はグレイさんを監視する為に派遣されて来たんだって。
でもグレイさんが凄く強いから、弟子入りしたみたい♪
友達にもなったみたいだよ♪
先に2人来て、後でグレイさんが迎えに行って2人増えたんだ。
その迎えに行ってた間にアイツが来たんだ。
だからグレイさんは何度も僕に謝ってくれて、会う度に治癒してくれてたんだ。
僕……その場では痛くなかったけど、後になって動けなくなっちゃったから。
だから同代と一緒には修行できなくなって、ひとり離れて神眼とか、動けなくても鍛えられることしかできなかったんだ。
次の代と一緒に修行して、半分は指導して。
で、また小さいから残されて……。
その下の代と修行かぁ、って悲しくなってたら、父様が十分だから中においでって♪
グレイさんは既に一緒に戦ってたんだ♪
僕はお手伝い♪
命懸けだって解ってたけど嬉しくて楽しくて充実してたよ♪〉
〈それが、束の間だったのね?〉
〈うん。たった半年。
でもその時は父様達が戻る迄の留守番って思ってたから、ただ待ち遠しいだけだった。
ひっきりなしに現れる禍と戦わないといけなかったし、寂しいのなんて、あっという間に終わると思ってたよ〉
〈あ……父様達が離れていた時って、トリノクス様が堕神に……?〉
〈うん。アイツがまた来たんだよ。
あの日は、いつもよりずっと嫌な感じの禍が続けて現れてたんだ。
戦いっぱなしで疲れてきたところに森が騒ぎ始めて、その外も騒がしくて。
トリノクス様から、残るから外を確めてくれって言われて高く飛んだら、森が騒いでるのは網を掛けられてるからで、外では兵士さん達が大勢と戦ってたからだったんだ。
だからグレイさんを乗せて外に行ったら、山賊みたいな兵士達が網とか縄とか投げてて、次々代達は網に包まれてたんだ。
兵士さん達は、たった4人で次々代を囲んで護ってくれてたんだ。
だからグレイさんが縄とか網とかを滅して僕が空間切りしたトコに山賊兵士達を押し込んでくれたんだ。
みんなに治癒してたら、今度は内で禍が膨れ上がったんだ。
だから急いで戻ったら、トリノクス様が大きくて強い禍に包まれてて、アイツが高笑いしてたんだ。
アイツの後ろには山賊兵士達が並んでて、『あの獣が禁忌を犯したのを見ただろう?』って言葉に大きく頷いて網を投げたんだ。
グレイさんが禍を術で滅して、アイツに何があったのかを質したら、トリノクス様が突き飛ばしたって言ったんだ。
『禍から護ってもらったんだろ?』って言っても、禁忌は禁忌だから連行するって。
僕もグレイさんも反抗したから連れてくって縄を掛けられて……それぞれ別に王都に連れてかれたんだ〉
〈まさか、たったそれだけで堕神に?〉
〈何を言われて、どう裁かれたのか知らないんだよ。
僕は縄を解いてももらえずに地下牢に閉じ込められて……たぶん7、8年くらい放置されたんだ。
神力封じの縄だから神眼すらも使えずに、光すらも見ないまま、ただ転がされてたんだけど、唐突に出ろって。
飛ぶ力も残ってないのに滝に帰れって放り出されたんだ。
這うように王都から出たらグレイさんが倒れてて……グレイさんも同じように閉じ込められてたんだって。
互いに力を振り絞って治癒を当て合って、王都から離れてたらカウベルル様が来てくださったんだ。
それでマヌルの里を知ったんだよ。
すっかり治してもらって滝に戻ったら、ちょうど父様達も戻ったところだったんだ。
僕達が話し始めた時、モノオクス様ってオフォクス様の弟神様が現れて『狐の里に来てくれ!』って、みんな連れてかれたんだ。
狐の里では、トリノクス様が堕神にされた後すぐに、無自覚なまま浄化されてしまったって大騒ぎで、『人神を滅ぼす!』って攻め込む寸前になってたんだ。
その騒ぎを鎮める為にオフォクス様は詳細を調べるって、狐の里の『社』って呼ばれてる神殿に籠って、父様は説得の為に残ったんだ。
だから僕達はマリュース様と一緒に滝に戻って、また禍と戦う毎日に。
マリュース様にだけは、また来るかもだから気をつけてって話したんだ〉
〈待って。兵士達と弟妹達は?〉
〈あ、言い忘れてたね。
トリノクス様とグレイさんと僕がそれぞれ連れてかれたのを見て、空間に封じ込めてる山賊兵士達を仲間が連れに来る前に離れたんだって。
みんな連れて連続瞬移してたら龍に会って、事情話したら龍の里に連れてってもらえたんだって。
それで、父様の父様に保護してもらえて、修行を続けて待ってたんだって。
父様の父様は、王様に直訴したんだけど、既にトリノクス様は堕神にされてて――〉
〈待って。何年も後なの?〉
〈ううん。10日後くらいだって。
異常な早さで堕神にされたんだ。
アイツが嘘を並べたんだよ。きっとね。
だから調べないとね。
アイツが重ねてきた罪を暴かないと。
みんなを助けないといけないから〉
〈そうね。
それじゃあ作戦を練らないといけないわね〉
〈うん♪ 頑張ろうね♪〉
―・―・―*―・―*―・―・―
「えっ?」
眠っていた筈のマディアがニコニコと見ていた。
「何 思い出してたの?♪」
「べ、べつにっ」
「耽ってもいいけど疲れないでね?」
淡い治癒光で包んだ。
「大好きだから」きゅ♡
「マディア……」
「ん?」
「私だけが幸せでいいのかしら?」
「いいんだよ。
みんなも幸せにすればいいんだから。
これから反撃するんだから♪」
エーデリリィの回想の続きでした。
オニキスが感じた通り、マディアは同代を避けています。
でもマディアだって同代と一緒に行きたかったし、今も一緒に居たいんです。
早くそうしたいから闘っているんです。
堕神にされたトリノクスは、人として幼いうちに亡くなり、浄魂されてバラバラの欠片状態です。
カケルの内には大きな欠片があります。
飛翔とショウが集めた欠片も随分と大きくなっています。
本編では声すら出していませんでしたが、カケルの内に居たトリノクス。
きっと、そのうち復活するんでしょうね。




