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共白髪までヨロシク



「明日、母さんの葬儀なんだ。

 母さんは父さんにも謝ってた。

 だから……来てくれない?」


魁の言葉に父・昴は目を閉じて静かに頷いた。


「あっ、父さん。涼ちゃんも」

大事な話なのに立ち話になっていたと気付いた魁は、手で父を促して向かい合って腰掛けた。

「父さんに受け入れてもらえたから話すけど、父さんは来光商事の社長なんだ。

 両親は離婚してて、俺は母さんに引き取られた。

 だから逸筱(はやしの)姓なんだ」


「その姓なのだが、結婚の際に戻してはもらえないだろうか?」


「いいの?」


「魁は経緯を聞いたのだろう?」


「うん、聞いたよ。騙されたんだって」


「20年も経ってしまったし、夢子が亡くなってしまったから元通りにとはいかないが……可能な限り戻してもらえるよう、弁護士に依頼したところだよ。

 魁の姓もと話したら、成人しているから本人が望み、依頼しなければならないと言われたのだよ。

 結婚の際には過去姓も含めて好きに決められる筈だ。

 戻して、後継者として社に来てもらいたい」


「うん、そうする。

 頑張って学んで後継者になるよ。

 今は雇われ店長で、3月いっぱいで終わりだから4月からになるけどいい?」


「年度変わりで丁度良いと思う」


「涼ちゃんの家に転がり込んで婿入りするつもりだったけど、家も探すよ」


「戻って来ればいい。

 もう1軒建てよう。私からの結婚祝いだ」


「ありがと♪」「魁さん……」コソッと。


『ん?』声には出さずに微笑む。


涼が俯いたので魁は微笑みを父に向けた。

「驚いて困ってるから全部 話してしまいたい。

 いいかな?」


「それならエレベーター前のブースはどうかな?

 誰も来やしないからね」


「うん、そうさせてもらうね。

 また戻って来ていいかな?」


「勿論だよ」


「ん♪」

魁は俯いたままの涼を連れて出て行った。




「驚かせてばかりでゴメン」

前日に祖父達が其処に居たなんて知る由もない魁は、座るなり頭を下げた。

「ずっと黙っててゴメン!」


「それはいいんだけど……まだ頭が ついてってないのよ」


「話せなかった理由にもなるんだけど、ややこしくなった経緯を話してもいいかな?」


「うん……お願い」


「俺の父さんと母さん、それと母さんの彼氏な双真さんと奥さん。

 登場人物は この4人。

 俺と秀は話の中ではオマケ。


 父さんと母さんは見合い結婚なんだ。

 父さんは仕事一筋って感じで、母さんと一緒に仲良く居たって記憶が無いくらい。

 だから母さんは いつも寂しいって言ってた。

 俺は幼稚園には行ってないんだ。

 ずっと母さんと一緒だった。

 だから小学校に行ってしまってからは母さんは寂しくて喫茶店で昼間は過ごしていたみたい。


 双真さんも社長だった。

 でも会社は倒産して多額の借金を抱えてしまったんだ。

 その奥さんは元ホステス。

 双真さんとは別居してホステスに戻った。

 奔走してる双真さんに少し稼いだからお金を渡すと電話して、待ち合わせ場所として喫茶店を指定した。

 でも何時間も待たせて来なかったんだ。

 何度も約束して、いつも来なかった。

 その喫茶店には――」


「もしかしてお母様が?」


「――うん。居たんだよ。

 で、話して、気が合って。

 一緒に喫茶店から出たところを奥さんに盗撮されたんだ。

 隣のホテルから出たみたいに。


 奥さんは双真さんから慰謝料を取って離婚した。

 父さんと母さんも離婚した。


 母さんは、本当に双真さんが好きだったんだろうと思う。

 父さんから貰った慰謝料、と言うか財産分与かな? とにかく父さんからのお金で双真さんの借金を返済しようとしてたみたい。


 父さんの方には、双真さんの奥さんがお腹の子供に父親が居なくなったのは母さんのせいだと詰め寄った。

 結婚して子供を後継者にしろと。

 俺は順番とか知らないけど、そうなると双真さんの方が先に離婚してたのかな?

 長男な俺は、そういう訳で母さんの方に。

 来光寺家からは追い出されてしまったんだ」


「もしかして、さっきの弟さんって……」


「ムリヤリ後妻になった女の子供。

 父さんは認知させられたけど父親じゃない。

 でも可愛イイから俺は弟として受け入れたよ。

 秀は何も知らないし、何も悪くないからね。

 双真さんも父親じゃないらしいよ。

 父親は不明なんだって。

 だから このまま父さんの子供にしといてもらおうと思ってる」


「それがいいと思う」


「うん、ありがと。


 後妻は父さんの預貯金の半分と家を奪った。

 秀の養育費は別に取ってた。

 父さんは社長室の奥をワンルームみたいな部屋にして暮らしてるんだ。

 俺、大学を出て1年くらい一緒に暮らしてたんだよ。

 後妻に見つかって追い出されたけどね」


「そのヒドイ女は? 今どうしてるの?」


「白久さんが浄化するとか言ってたけど、どこに居るのかは知らないんだ。


 ここまででもヒドイのは十分なんだけど、まだあるんだよ。

 母さんも脅迫してて財産全部 奪ったんだ。

 最後の最後は、俺のバイト代を貯めた通帳まで。

 それでも足りずに俺に掛けてた保険金も――つまり保険金殺人しろって言われた母さんは逃げようとして卯跳岬から落ちてしまったんだ。

 それが16年前。


 俺は母さんの友達って人からの電話で、母さんは俺を引き取りたくなかったのに父さんから押し付けられて嫌がってたとか。俺が大学に行くと言ったから、もう面倒見たくなくて双真さんと逃げたとかって話を信じてしまって捜索願を出さなかったんだ」


「友達だとか言って嘘 吹き込んだのね!」


「母さんが落ちたのを知ってる唯一の人物だからね。

 すっかり信じた俺がバカだったんだろうね。

 母さんを突き落としたワケじゃない。

 脅迫罪とか詐欺罪とかじゃ、すぐに釈放されるから白久さんに任せようと思ってる。

 たぶん父さんも そのつもりだと思う」


「ハクさんって、輝竜先生のご兄弟よね?

 ソックリだから」


「確かに白久さんは輝竜さんだよ。

 輝竜先生って?

 白久さんのお兄さんは教授で、すぐ下の弟さんが獣医さんだったかな?」


「獣医さんよ。

 実家の犬がお世話になってるの。

 今朝、魁さんに電話したら繋がらなくて、何度かけてもダメだったから何かあったのかもって行こうとしたの。

 駐車場近くで輝竜先生に会って、

『魁さんと連絡とれなくて!』って、つい言ってしまったのよ。

 そしたら知ってますよって!

 ビックリしたけど輝竜先生だから大丈夫だと思って案内してもらったら葬儀場だし!

『逸筱さんは喪主です』って聞いてホッとしたけど、それはそれで! って走っちゃったわよぉ」


「あ~、圏外だったのかな?

 心配かけてゴメン」

刑務所で電源オフったきり忘れていた。

「俺も涼ちゃんが来てビックリだったよ。

 白久さんから全てを聞いた直後だったし」


「輝竜さんて……?」


「忍者らしいよ」


「忍者なんて――」「居るんだよ」


エレベーターが上がって来て開いた。


「輝竜先生――じゃないわね。

 ハクさん?」「違うよ」


ツカツカと来た輝竜ナニガシかは、小さな箱を差し出した。

「兄からの祝いの品だ。

 夕刻に来てほしい、との事だ」


『早く受け取れ』の眼力が強いので、恐る恐る手に取った。

「ありがとうございます。白久さんは?」


「別件で忙しくしている。

 デザイン変更は何時(いつ)でも承る」

サッサとエレベーターへ。直ぐに下りた。



「何だろう?」開けた。「「あっ!」」


紙箱の中には高級感が漂いまくっているリングケース。


「手紙?」「みたいだね」開く。


『今日の内に婚約式をしておけ。 白久』


「そっか。葬儀の前に、か。

 だからデザインの変更は いつでもなんだ。

 どうしたい?

 あ~、それ以前に俺でいい?」


「何 聞いてるのよ。

 不束者(ふつつかもの)ですが末長く共白髪(ともしらが)までヨロシク!」

一気に早口!


「なんか混ざってない?

 でも共白髪までヨロシク♪

 じゃあ父さんの所に――ん?」


またエレベーターが上がって来た。


()った居った♪

 さ、始めるぞ♪」カッカッカ♪

先頭切って社長室へ。


「兄さん早く♪

 お義姉さんも主役なんだから♪」

手招きしながら祖父を追う。


「涼ちゃん行こう♪」


「そうね♪ でも……」


「ん? どうかした? やっぱりダメ?」


「じゃなくて、婚約したら『ちゃん』ナシね」


「そっか♪ じゃあ俺にも『さん』ナシで♪」


「うん♪」「行こっ♪」

互いに手を差し出して繋ぎ、祖父と弟を追って駆けた。



―・―*―・―



 キツネの社に大神達を集めて尋ねたが、誰も黒い不穏塊の正体を知らなかった。

青生と瑠璃は、探りを発動している稲荷を治癒で支えているが、彩桜はガネーシャに寄った。

【ガネーちゃ師匠、学校で何かあったんでしょ?

 お昼前に行った時は『大丈夫だねっ♪』て言ったでしょ?

 コレ絡みじゃにゃいのぉ?】


〖う~~~ん……感じは似てるんだよね~。

 昨日ね~、男が2人、学校って、ほら前にキャンプ~が騒いだトコで、彩桜が昼に案内してくれたトコに入ったんだ~。

 禍ぽいけど~、禍じゃな~い、ヘ~ンな気が漏れてたんだよね~〗


【男? オジサン2人?】


〖そ~だね~。人としては半ば過ぎてたね~〗


【ちょっと来てっ】連れて瞬移!



――廃教会。

【でしょっ!】封珠とアクリル板を指す!


〖うんうん♪ そ~そ~♪ この感じ~♪〗


【お昼過ぎ?】音楽の時間に不穏あったのぉ。


〖そ~そ~♪ 午後早くだったよ~♪〗


【俺、探されてたんだ……】


〖ね、社のアヤコだっけ? 似てない?〗


【ああっ!! オジサン達も連れて行こっ!】


〖エィムも行こ~ねっ♪〗【はいっ!】


【ん? 理俱師匠は?】


【上で僕してくださってます。

 その方が気楽だからと】

オジサン達をチラリと見て肩を竦めた。







父に受け入れてもらい、涼に全てを話してホッとした魁は笑顔で涼と手を取り合って、身内に戻れた祖父と兄弟になれたばかりの秀にも祝ってもらえる婚約式へ。

苦労した20年分以上に幸せになってもらいたいものです。


魁は母・夢子の捜索願を出しませんでしたが、大学生の魁を匿っていた会長が出していたんです。

魁が知らないので、話には出てきませんでしたけど。


黒い謎生物は、まだ謎のままですが、不穏記者も理子も絡むようです。



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