来光寺会長と春日梅会長
翌早朝、荒巻と美那は輝竜家の居間に秀が居るのを見て、見つからないうちにと逃げるように出て行った。
白久は青生から本人も知らない情報を得ていたが、秀には話さないと決めて近寄った。
「今日は休むのか?」
「ちょっと……気持ちが落ち着いてなくて……」
「だろーな。
悪いモンが憑いてたから祓った。
今日は安静にしてろ」
「はい。あの、悪いモンって?」
「平たく言えば悪霊だ。
周りが見えない おバカ行動も治ると思う。
いろんな意味での勉強し直しも引き受けてやるから任せろ」
「ありがとうございます。
なんか……今は それしか言えなくて……」
「解ってるから気に病むな。
大勢が来る前に部屋に戻ってもいいからな」
「大勢?」確かに廊下が賑やかだと気付いた。
「はい。行きます」
秀が立ち上がったところに、走って来たミコトがドアをバッと開けた。
「新しい患者さん?」
「確かに患者だな。まだ安静が必要な奴だから部屋に戻ってもらう。
お前らは好きにしてろ」
「うん。昨日の見たよ♪
いろいろビックリした♪
カッコよかった♪」
「ありがとな♪」
「で、みんなメチャメチャ ヤル気になった♪」
「そっか♪ 目標、やりたい事、何でもだ。
見つけたら話してくれよな♪」
「うん♪」「はい!♪」大勢になっていた。
白久は笑って秀を連れて出た。
「あの子達は?」
「各々事情があって家出をし、とある高架下で荒んだ暮らしをしていた。
人災的な事故で全員 瀕死だったのを俺達が勝手に保護した。
で、1週間だ。
元気になったし笑顔になった♪
あとは夢と希望が持てたら退院だ♪」
秀の部屋に着いた。
「退院? 追い出すんですか?」
「就職も学びもサポートする。
相応に住む場所も与える。
俺達の目標は『皆に笑顔を』だからな♪
最初はイベントの客寄せパンダだった。
被り物は馬だけどな♪
ウケが良かったから、イベントでの客席崩落未遂の挽回策に使おうかと思っていたところに、去年の多重事故遺族の困窮を知った。
だからソッチを向いたんだ。
勿論、俺だけで出来る事じゃない。
だから全て兄弟と話し合って決めたんだ。
募金を集める為の客寄せパンダも喜んで。
寄付も喜んでだ♪
昨日のもパフォーマンスのギャラは全て寄付したよ。
今度は全国的な交通事故遺族を支援してる団体にな」
「ええっと、ぜんぜん話が見えなくて……」
「お前、俺の事を根掘り葉掘り調べてたろ。
馬頭を知らないのかぁ?」
「マーズ……?」『白久さん、ちょっと!』
「若威ど~したぁ?」
『なんかテレビが大騒ぎ!』
「行くよ。そんじゃあ続きは夜にな」
秀の肩をポンポンして部屋を出た。
居間はキャアキャア大騒ぎで若威が指すテレビの音声は聞こえない。
が、前日のパフォーマンス映像が流れていた。
「お~い何事だぁ?」
「白久サン、フリューゲルとライブするんでしょ♪」
「するけどな。
あ~そっか。
出演の公式発表があったんだな?」
「昨日メーアが喋ったって♪」
「はあ?」
「ウラヅケの発表あったからマジだって♪」
「東邦新聞スクープだとかで騒いでるんです」
「で、東邦テレビ系列も、です」
「ま、間違ってねぇからいっか。
若威、メーアは?」
「部屋に行ったら居なくて……」
「あ~~~、見つけた。本浄神社だ。
散歩に満足したら戻るだろ」
「一応、迎えに行きます」
「だな。頼む」「白久サ~ン♪」
「ど~したぁ?」
「アタシ達もライブ行きた~い♪」
「ライブなんて行ったコトねぇもんな」
「チケ完売だからなぁ……後ろで立ち見と舞台袖、どっちがいい?」
「って言われても~」「わかんないですよ」
「騒ぎたいかジックリ見たいか、だな」
「静かに? ムリ~」「だな」「声出したい!」
「だったら後ろだ。マジで立ち見だからな」
「ありがと~♪」「楽しみ~♪」
「で、特別チケットは夢か目標を語った奴から渡していく。
1週間あるからな、よ~く考えて俺を捕まえろよ♪」
「はい!♪」一斉☆
隅の席に居た白儀も微笑んでいた。
―・―*―・―
この日は公立高校の受験日。
例年通りなら前年に多重事故があったのと同じ日付けとなるので、家族の命日となる受験生も居るだろうと1週間 早くなったのだった。
中学3年生達は受験する高校に直接 向かう事になっていた。
「おはよう金華ちゃん」
「疲れてない? 大丈夫?」
「とっても良い気分転換になったわ♪
頭もスッキリよ♪」
茜と葵は輝竜家前で待ち合わせていた銀河の姉・金華と一緒にバス停に向かった。
土曜日に金華は病弱な妹が遠出すると知って心配して一緒に甲斐まで行き、茜と葵は受験直前なのを心配して金華と行動を共にしたのだった。
「銀河が あんなに元気になってたなんて知らなくて……巻き込んでしまって ごめんなさい」
「私達も良い気分転換になったわよ♪」
「輝竜さんからパワーを貰った感じ♪」
「そうよね♪ でも……」
「え?」「どうしたの?」
「羨ましい……あんなステキな人達と暮らしてるなんて……」
「高校生になったら勉強も難しくなるし」
「銀河ちゃんと一緒に通っては?」
「え? 銀河が通ってるのは知ってるけど……」
「輝竜さん――お兄さん達も、奥様も」
「煌麗山大学卒の博士さんばかりよ♪」
「博士!?」
「「だから何でも教えてくれるわ♪」」
「銀河ったら何も教えてくれないんだから!」
「1年生は彩桜君の勉強会に参加してるから」
「私達も話さなくて、ごめんなさい」
「そっか。何でもスーパー彩桜君ね。
昨日も凄かったよね」『聖良さん貴積さん!』
振り返ると虎縞津と燕子花が徹の手を引いて走って来ていた。
「一緒に行きましょう!」
「「同じバスよね♪」」「そうね♪」
バス停に着くと、ちょうどバスが来た。
乗り込んで後ろに並ぶ。
「一緒に合格しましょう」
「「落ち着いて頑張りましょ♪」」
皆、笑顔で意気揚々と頷いた。
―・―*―・―
出社した白久は朝イチに片付けるべき事を素早く全て済ませると、来光寺会長の家へと向かおうと――ノック音。
「はい」
『来光寺様と春日梅様がお見えです』
「京海チャン、受付にかぁ?」
『いえ、此方に――』『入ってよいかの?』
「どーぞっ!」慌てて開けた。
京海は礼をして
「お茶をお持ちします」
と去った。
「どうぞ お掛けください」
大いに弱り顔の来光寺と怒りが滲んでいる春日梅とに対峙した白久は挨拶をしつつ
【青生、探りに来てくれねぇか?】
救援を求めた。
予測していたらしい青生は直ぐに支社長室付属の資料室に現れた。
【此処からで十分です。始めてください】
お茶の良い香りが漂い、青生が治癒の癒し部分を強めて放ってくれたので、少し穏やかな空気になった。
「昨日、騒ぎを起こした秀君については暫く預からせて頂けますか?」
「それを頼もうと思うておったんじゃ。
しかしのぅ、鳳子さんがウンと言うかどうかが問題なんじゃよ」
「そちらも手を打ちましょう。
お任せください」
「頼む。愚息が頼りにならんからのぅ。
輝竜君しか頼れんのじゃよ」
「昴さんともお話しさせて頂きます。
当社も仕入れでお世話になっていますので。
ところで春日梅様、先程の女性をご存知ですか?」
「秘書の、かね? いや、知らんが」
「京太郎さんのご息女、京海さんです」
「兄の孫……そうか。そうだったのか……」
「京太郎さんも春からは当社の社員です。
体調最優先で在宅なんですけどね。
今は資格試験に向けて勉強中なんですよ」
「やはり春日梅を頼る気は無いのだな……」
「自立を望んではいますが、絶縁状態ではなく軽めの親戚付き合いというのは如何でしょう?
それでしたら、ご就職を機にお勧めさせて頂きますよ。
中渡音には麗楓さんもいらっしゃいますし」
「そうだな。それで頼むとしよう。
おお、そうだ。
宮東医師が京太郎君を完治させたのは輝竜君だと言うておったが本当かね?」
「いいえ。
宮東先輩は優秀な医師です。
私は医の道から外れた者です。
矛先を向けて頂けたのは光栄ですが、宮東先輩の謙遜ですよ。
宮東先輩も中渡音の南部、港近くで開業すると決めてくださいました。
麗楓さんの担当医だった家西君も一緒にです。
これで南渡音地区も助かりました。
知事と市長が喜んでいましたよ」
「そうだ! 麗楓を治したのも!」
「家西君ですよ。彼も優秀な医師ですので♪」
「いいや。儂の目は誤魔化されんぞ。
君は只者ではない。相当な曲者だ。
だから友人の孫の件も丸投げして任せるとしよう。
よくよく頼んだぞ」
「お任せください」どうにもこうにも苦笑。
【おお~い青生、出て来て助けろ~】
【嫌ですよ】
【どっちも治したのは お前だろ~がよ】
【白久兄さんは優秀な曲者ですから♪】
【おお~い】
【俺は獣医師ですからね♪
そろそろ次に動きます】
【次?】
【お隣の社長室に神眼を向けてください】
【んん? ゲ……】
「すみません。
急ぎ助けに行かないといけませんので!」
サブタイトルは『魔女に憑かれた来光寺家』としていますが続きがあるんです。
『~と記者に着かれた輝竜家』なんです。
あまりに長いので前半だけにしましたが、これから輝竜家も記者達に密着されて大変になります。
この日は高校入試があり、徹は本当に櫻咲高校を受験します。
そしてバレンタイン前日。
大勢がソワソワな緊張感漂う1日です。




