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騒ぎの後始末



 (すぐる)は最終的に秋小路会長の護衛達に捕まっていた。

其処(そこ)はビッグエア観覧棟内の部屋で、護衛達の控室として使っている場所だった。


 閉会式が終わったので秋小路会長が数人を伴って来た。

「何故、閉会式を妨害したのだね?」


「閉会式?

 僕はただ白久さんを見つけたから帰りをお願いしたくて、話したくて……」


「あの状況で周りが見えておらなかったとでも言うのか?」


「白久さんを見失ったら終わりだと思って……」


「ふむ。清楓(さやか)、此奴は誰だ?

 同じ車で来ておっただろう?

 まさか清楓の――」「違いますわ!」


荒巻が会長のすぐ後ろまで来て深く頭を下げた。

「会長様、申し訳ございません。

 私の雇用主の孫で来光寺 秀。

 まさか このような騒ぎまでもを起こすとは考えておらず野放しにしてしまい、お詫びの申し上げようもございません」


「だから どーして荒巻さん!?」

荒巻が姿を見せてから ずっと騒いでいたが、ようやく静まったので響き渡った。


「坊っちゃん、いい加減にしてください。

 今も そうですけど、少しは周りを見て行動するという事を覚えてくださいよ」


「今回は荒巻君に免じて警察沙汰にはしないが、春日梅君、来光寺君とよく話してもらえるかな?」


「はい。誠に申し訳ございません」

春日梅会長は秋小路会長に頭を下げてから秀をチラリと睨んだ。


そこで ようやく秀は、何度か祖父に会いに来ていた人だと気付いた。

「あっ、助け――」荒巻が口を塞いだ。

「申し訳ございません!

 即座に連れ帰りますので!」必死!

ヘッドロックした秀の頭ごと深く下げる。


『勝利サン、預かりますから美那チャンをお願いします』


「輝竜君だね? 入ってくれないか」


「はい、ありがとうございます。

 次男の白久です」入口でピシッと礼。


「見ていたよ。流石キリュウ兄弟だ。

 これからも楽しませてくれよ。

 次の演奏には何時(いつ)来てくれるのかね?」


「では近いうちに。兄弟と相談して会長様のご都合と調整させて頂きます」


「私ならば何時(いつ)でもだ。早く頼むよ」


「では そのように」ニッコリ。

「彼を連れて行っても?」


「それも早く頼む」苦笑。


「はい。では早速」

荒巻に目配せをして秀の襟首と腕を掴み、有無を言わさず連行した。



「荒巻君、早く行ってやるといい。

 孫娘達を頼む」廊下に視線を向ける。

松風院会長も『頼む』と小さく頷いている。


「はい!」

腰直角な礼をして暫し留まり、もう一度 頭を下げてから廊下で不安気に立つ美那の所へ走った。



「カツくん……」

「俺は食われたりしませんよ」抱き締めた。

が、すぐに離れた。

「お嬢様、参りましょう」



 観覧棟の外に出て、雪上車に乗ってから

「ね、いつの間に いい感じに?」

向かい合って座っている清楓がニヤニヤ。


「こればかりは坊っちゃんに感謝かもですねぇ」

「う~ん……でも確かに そうなのかも……」


清楓と彰子が首を傾げる。


「出逢いには関係ないんだけど、自覚させてもらえたの。

 僕を選んだら玉の輿だとか言われて。

 荒巻さんなら絶対そんなこと言わないって思ってしまって。

 そこから考えてて……好きなんだ……って。

 今日、お昼に馴れ馴れしく呼ばれたのがトドメ。背筋ゾワッとしちゃって。

 荒巻さんの顔見たら泣きたいくらい安心して。だから告白♪」


「こんな顔を見て安心ですかい?」


「うん♡

 来光寺君、その後も私を捜してたみたいで遭っちゃって腕を掴まれたけど

『俺の女だ。触るな!』って、もう嬉しくって~♪」


「いいお話ね~♪」「そうですね~♪」

八郎は静かに微笑んでいた。



―◦―



 邦和の3大財閥の総帥達は広い部屋で記者達と対峙していた。

「お集まり頂きましたのは我々が本大会の(メイン)スポンサーであるからです。

 騒ぎを起こした貴殿方に今回は責任を問いませんが、これからの説明を受けた後の何らかの催しで再び騒ぎを起こしたならば厳しい処置を講じます」


「そんな権限がアンタらに――!」

周りから手が伸び、引き座らされた。


「ご協力ありがとうございます。

 全てを暴き、広く世に知らしめる事こそ正義とお考えなのかも知れませんが、ならば、その結果 被った事象に関しても責任をお持ち頂きたい。


 我々は個人情報の殆どを公開され、納税額から年収も推定で公開されています。

 それ故に常に財産を狙われ、家族も含めて生命をも狙われています。

 勝手に報道されたのに自衛するより他に無いのです。

 そうお話ししても、財産があるのだから そのくらい当然とお思いでしょう。

 確かに その通りなのでしょうが、甚だしく迷惑であり、報道を嫌う感情は拭いようがありません。

 その点は前提として念頭に置いて頂きたい」

と秋小路が話している間、いちいち声を発し、喰って掛かろうとしていた記者は、他の記者達が押さえ込んでいたが、とうとう部屋から出されてしまった。

「ナニワ報道社様には別途ご説明に参りますので、ご退席をお願い致します」


3総帥の視線が突き刺さったカメラマンは周りを見回し、更に冷たい視線を浴びてカメラを下ろし、すごすごと退席した。


「声こそ発しなかったものの同意見だと仰る社の方は、同様に後日とさせて頂きますので、ご退席をお願い致します」

見渡したが誰も動かなかった。

「では、本題に移らせて頂きます」


「あのっ」「はい、どうぞ」

「撮っているのは構わないのですか?」


「どうぞご自由に。

 ですが報道するか否かは、よくお考えになってください。

 これも圧だと報道されかねませんが、それでも構いません。

 その『圧』を取り払って差し上げるだけですので。


 さて、マーズは全てを非公開としている訳ではありません。

『マーズ』で検索すれば馬頭雑技団というグループの公式ページが当たる筈です。

 その『馬頭』をマーズと読むのです。

 我々はマーズとは利益供与等、金銭的な繋がりは全くありません。

 我々がマーズファンなだけなのです。

 彼らは鍛え上げた身体と、その能力のみを武器として報酬を得、その収益全てを慈善団体に寄付している集団です。

 皆様でしたらギャランティの相場と、彼らの唯一無二なパフォーマンスから報酬額の推定は容易でしょう。

 一般人でも相当得ているだろうと想像してしまいます。

 ですが彼らは何も得ていない。

 だからこそ顔を隠しているのです。

 財産があると思われてしまえば我々と同様に狙われてしまいますので。


 マーズとして活動していない時の彼らは、普通の仕事を持つ一般人です。

 正体を明かされてしまえば、彼らは逃げ隠れの生活となるでしょう。

 仕事も失い、家も転々とせざるを得なくなるでしょう。

 マーズとしての活動も終わりを告げます。

 多額の寄付が途絶えるのです。

 ですが困窮している人は途絶えません。

 ですから彼らは明かした方に寄付を、想いを引き継いで頂くと公言しているのです。

 ご理解、頂けましたか?」


「ただの ひた隠しではないとは理解しました。

 ですが、それでは私共の仕事は?」


「全てを暴く事が本当に正義なのでしょうか?

 そうではないと認識されているからこそのプライバシー保護ではありませんか?

 確かに悪事に関しては真相解明が必要でしょう。

 しかし悪事でなければ? 如何ですか?


 マーズは未だ全国的には有名ではありません。

 ですが今回のパフォーマンスで随分と知名度が上がったと思います。

 そこから報道を要求する声も上がるでしょうが、彼らの正体は明かさず、

『皆に笑顔を』とページ冒頭に書いてある想いを伝えては頂けないでしょうか?」


部屋の一角から拍手が湧いた。

それはマーズを知る中渡音絡みの記者達からだった。


「ご賛同ありがとうございます」


次第に増え、大半が拍手を送った。

その中から手が挙がる。


「どうぞ」


「東邦新聞スポーツ部の文屋(ふみや)です。

 マーズに関しては理解しました。

 継続する億の雪だるまを作るつもりもありません。

 質問は、お三方は寄付をなさらないのかというものです。如何ですか?」


「以前から寄付はしておりましたが、あまり多くなりますと税金の絡みかと在らぬ疑いを報道されるのを恐れて額は抑えておりました。

 ですがマーズファンとして、その想いに賛同する形で増額しております」

「同じくですよ」「そうですね」


「3大財閥が足並みを揃えて、ですか?」


「各々が そうしていただけです。

 話し合う機会なんてありませんのでね」

「今回はマーズの危機だと集まったのみ」

「各々の仕事とは無関係なファンの集いですよ」


「そうですか」納得と何度も頷いて座った。


『これからは一致団結して邦和経済を!?』

何処かから声が上がった。


「有り得ませんよ。

 仕事上では永遠にライバルです」

「「その通りです」」


次の手が挙がる。

山雪(やまゆき)社、季刊ウィンタースポーツ編集の橇待(そりまち)です。

 マーズと今大会の優勝・準優勝者達とは無関係なのですか?

 同一ではないのですか?」


「そこは存じません。

 ですが、ビッグエアの閉会式で同時に存在していたのは事実ですよね?」


「確かに……」う~んと唸りながら座った。


「まだ ご質問はおありでしょうが、我々は大至急 浪花(なにわ)府に向かわなければなりません。

 ナニワ報道社に『億の雪だるま』を担わせるのは可哀想ですのでね。

 ご質問は書面にて後日という形でお願い致します」

3総帥は閉会を意味する礼をして、秘書と話しながら退室した。


 ザザッと記者達の多くは出て行ったが、グループ社や近い者達が集まって座り直した。

「弱小だからこそ功を焦ったんだろうが迷惑千万だよな」

「ったく下品に喚き散らしやがって」

「で、どうする? 報道するのか?」

「正体に関しては伏せりゃいいんだろ?」

「正義のヒーロー・マーズマンだな♪」

「その正体は誰も知らない、とか?」

『まだ騒いでるのか? 閉められるぞ?』独語。


「メーア=ドンナー!?」一斉!


「ええっと翻訳、翻訳!」「早くアプリ!」

ザワザワ大騒ぎ。


「閉じ込めていいらしいぞ~♪」後ろに。


「閉められる!?」「出よう!」「早く!」

「メーアにインタビューだ!」「だよな!」

「メーア! どうして邦和に!?」翻訳!


「中渡音の慰霊祭を検索しろ。

 で、来週のシークレットが俺とダチだ♪

 だがチケットは完売している。

 残念だったな♪」


「次は!?」「東京では!?」「他の都市!」


「世界ツアーは場所を確保中だ。

 次は5月の渡音フェスだな♪」


「中渡音に何が!?」「どんな関係が!?」


「俺のヒィ婆様が中渡音出身なんだよ♪

 ビッグニュースだろ♪

 そんじゃあ満足して帰ってくれ♪」

笑いながら走ったメーアは横に並んだ者と共に宵闇に消えた。


「消えた……?」「見えなくなっただけだろ」

「それより大ネタ!」「急いで社に戻るぞ!」







秀の騒ぎと記者達の騒ぎの後始末でした。


秀の方は白久が本格的に動こうとしています。

来光寺会長と友達な春日梅会長も動くようです。


邦和の3大財閥総帥達が記者に話した内容は、それぞれが考えたもので輝竜兄弟とは打ち合わせていません。

ですが何にせよ味方です。

ありがたく、そういう事にしようかと、騒がれるのが恥ずかしいだけな兄弟は話し合っています。



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