マディアとエーデリリィの出会い
あの時……
同代の兄弟が私を逃がしてくれた あの時、
マディアが助けに来てくれなかったら……
間違いなく私は消滅していたわ――
―・―・―*―・―*―・―・―
〈逃げよエーデ!〉〈でもっ――〉
〈エーデ姉様が一番速いんだからっ!〉
〈ソレ持って早く!〉〈お願いよ、姉様っ〉
〈来たぞ!〉
次兄クレマーガルがエーデリリィの背を押して〈逃げきってくれ〉と笑みを浮かべた。
〈行くぞ!〉〈〈〈〈〈〈はい!〉〉〉〉〉〉
長兄サンダーリアを中央先頭に楔形に並んで飛び立った。
〈ラベンベールも一緒に!〉
〈いいえ。足手まといになってしまうわ。
姉様、早く……お願いだから〉
〈ボク達なら大丈夫♪ 早くソレ届けてねっ〉
〈マヌルヌヌ様の所だからね。間違わないで〉
末の双子、ラナキュラスとソニアールスが笑顔を向け、手を振った。
〈必ず届けてくれっ! 姉様 早く!!〉
マムアイビーが放った突風がエーデリリィを包み、兄弟から離していった。
続いてダンデライラが防壁を成し、自分達とエーデリリィを隔てた。
〈姉様、行ってください!〉
〈でもっ――〉〈頼む! エーデ!〉
防壁の向こうでは、迫り来る王子達を食い止めるべく、兄弟が横に展開した。
〈サンダーリア兄様……〉
もう行くしかないのだと覚悟し、涙を流しながらもエーデリリィは瞬移を繰り返してマヌルヌヌの元へと飛んで行った。
父ドラグーナが堕神とされた直後に始まった獣神狩りが激しくなった今、獣神の避難所と化している『マヌルの里』を知られる訳にはいかなかった。
玉座を簒奪した新王は三千もの子を作り、獣神狩りだけを教え、神力封じの縄を持たせて神世に放った。
王都を禍から護っていた初代兄弟も他の獣神同様に王子達に襲われ、どうにか禁忌に触れる事無く脱したのだったが、追っ手は三千。
人神に手出しすれば禁忌に触れたと罰せられ、ただ堕神にされるだけでは済まなくなった現状では、とてもではないが逃げきれるものではなかった。
最初は、王子達が到底通り抜けられない森に囲まれた『禍の滝』に向かっていた兄弟だったが、逃げながら相談し、最も速く飛び、大きく瞬移できるエーデリリィだけが『マヌルの里』に行くべきと決めたのだった。
エーデリリィが抱えている袋の中身は7つの水晶玉で、そこには兄弟の『命の欠片』が込められていた。
その欠片を、神力が大きいからと7つに分けられて堕神とされた父の魂を支え、早く神として目覚められるよう促す為に、長老マヌルヌヌに頼み、父の魂に込めてもらおうと運んでいるのだった。
『まだ子供な王子達なら足止めできても僕は止められないよ』
不意に高い位置から声が聞こえた。
『さあ、王都に戻ろうね』
飛来した縄を避けたエーデリリィは瞬移したが、声の主が立ち塞がった。
「無駄だよ。僕も瞬移できるんだから」
「誰!?」
「これだから獣は……王の顔も知らないの?」
「お前はグレイじゃない! 誰なのよ!?」
「ほぅ……アイツの知り合いか。
ならば逃がす訳にはゆかぬ!!」
王の手に現れた弩から矢が放たれ、避けたエーデリリィの腕を掠めた。
「最早 逃げられぬ。的と認識したのでな。
その矢は何処までも追い、貫いたならば魂を滅する。終わりだ――何っ!?」
光矢が『王』の頬を掠めた。
「禁忌だ!! 処刑する!!」
「禁忌も何も、もう関係ないでしょ。
どーせ追っかけ回されちゃうんだから!」
身体の両側に浮かせた弓から光矢を連射しながら降下した小柄な碧龍は、エーデリリィを背に庇うと、エーデリリィを狙っていた『王』の矢を術で滅した。
「お前こそ終わりだっ!」
王に迫る光矢が膨れ、碧色の炎槍と化した。
――が、王は碧龍の前に瞬移していた。
「鱗が騒ぐ……?
やっぱりお前、ダグラナタンだな!!」
叫びながら破邪光を纏わせた剣を突き立てた。
「ぐぅっ……何奴、だっ」
「お前に鱗を剥がれた龍だよっ!!
それに何度も会ってる!!
グレイさんを何処に隠した!?
言えっ!! ダグラナタン!!」
次々と光矢を突き立てた。
「殺せ……俺が、死ねば……ティングレイスも……死ぬ……完全に、消滅、だ……」
その言葉で碧龍が躊躇った一瞬の隙にダグラナタンは逃げ消えた。
「あ……逃げちゃった……あっ! 大丈夫!?」
落ちそうになったエーデリリィを支えてゆっくり降下した。
「えっと……今度は共鳴? じゃあ姉様?
それより! 禍 消さなきゃ!」
碧龍は詠唱を始めた。
掠めた偽王の矢には、強い禍が込められていたらしく、エーデリリィは既に命の危機に瀕していた。
弟……なのね……ありがとう――
聞こえていた碧龍の声が遠退いていった。
―・―*―・―
穏やかな静けさに包まれてエーデリリィは目を覚ました。
「えっ……? ここ……」
「あ♪ 良かったぁ、ちゃんと目覚めた♪
10日ぶりだね♪ 姉様♪
ここはマヌルの里。
姉様が持ってた袋はマヌルヌヌ様に渡したけど、それで良かった?
ダメって言われても、そろそろ人世のオフォクス様に届いた頃だろうけどねっ。
父様の魂が人として生まれる時に込めてってお願いしたよ?
あっ、僕はマディア♪
こう見えても433歳♪」
にこにこな碧龍が飛んで来た。
「あ……子供なのかと……ごめんなさい」
「幼いって言われ慣れてるから大丈夫♪
でも……姉様、大丈夫?
ちゃんと記憶ある?」
「私……私の同代を知らない!?」
「やっぱり聞かれちゃうんだ~」とっても困り顔。
「えっ……?」
「調べに行ったよ。姉様が来た跡辿って。
でも……誰も……争った跡しか……」
「そ……ぅ……」
「兄様達、真面目に戦ったんだと思う。
もう開き直って本気出していいと思うのに。
何もしなくても獣神ってだけで捕まるんだから……」
「ぅうっ……」顔を両手で覆った。
「姉様、悲しんでる場合じゃないよ。
助けに行かなきゃ」
「!! そうよねっ!」
「だからまずは元気になってね」
エーデリリィの涙を消し、治癒光で包んだ。
「マヌルヌヌ様に報告してくるねっ」
くるっと飛んで行った。
この光……父様のに似てる。グレイにも?
とても洗練されてて、優しくて……
あったかい治癒の光ね……。
つい溢れてしまった涙を消し、天井を睨んだ。
「サンダーリア兄様……クレマーガル兄様……。
ラベンベール、マムアイビー、ダンデライラ。
ラナキュラス! ソニアールス!
必ず助けるから待ってて!
その為なら何でもするわ。
アイツ……ダグラナタンの懐に入って化けの皮を剥いでやるわ!
だからグレイも! 生きていてね!!」
「うん! 頑張ろーねっ!」「えっ!?」
「戻って来たら叫んでたから~」「あ……」
「その作戦、大賛成♪
僕もそうしたかったんだ♪
でも今は逃げてる兄弟を助けるのを優先してたから。
……きっとグレイさんなら耐えて、生きててくれてる筈だから……」
「回復したら王都に戻るわ。
人神と同じ姿で暮らして、神王殿に入れる者になってみせる。
玉座からアイツを引きずり下ろしてやるわ」
「姉様が潜入しなくても……」
「私だってドラグーナの子よ?
それなりに鍛えてるわ。
男になっても構わない」
「でもね、危険だから僕が潜入するよ。
今はアイツがティングレイス王してるけど、いずれグレイさんを玉座に座らせるよ。
盗んだマリュース様の力を使って脱け殻にしたグレイさんをね」
「どうしてそんな……?」
「アイツはグレイさんを憎んでる。
自業自得なのに逆恨みしてるんだ。
だからグレイさんを最低最悪の王に仕立て上げて、倒して英雄ってシナリオだと思うんだ。
その後で堂々と王位に収まる気なんだよ」
「そこまで……証拠 掴んでるの?」
「ううん。想像だよ。
でも、そうとしか思えない。
アイツ、利己しかないし、幼稚だから。
もう既にトリノクス様とマリュース様を罠に嵌めたってのを擦り付けてる。
マリュース様の力を盗んだってのも、玉座の簒奪もね。
その力を使ってグレイさんを拐って、グレイさんの力も抜き取ったんだ。
あの王子達は本当にグレイさんの子だよ。
神力 全部だから三千も作れたんだ。
アイツ、容赦って言葉 知らないんだよ。
自分勝手の塊なんだ」
「よく知ってるのね。何があったの?」
「話したら長いよ? いいの?」
「何日でも聞くわ。
まずは敵を知らなきゃね」
「ゆっくり話しても夕方には終わるよ。
その前に……姉様、何て呼べばいいの?」
頬を染めて外方向いた。
「あら……名乗ってなかったわね、私ったら。
私はエーデリリィ。エーデでいいわ。
最初の代だから……歳は言わなくてもだいたい分かるわよね?」
「歳なんて、どーでもだよ」益々赤くなる。
「ん? えっと……その反応、何?」
「気にしないで~」
「可愛いわねっ♪」
「覗き込まないでよぉ」
オニキスが不思議がっていましたが、マディアとエーデリリィはこうして出会いました。
神世の王都は、響達が住んでいる街の真上くらいに在ります。
ですので時差がないんです。
『最果て』も、地星の裏側とかではありません。
じゃあ王都の真裏は?
――もうすぐ行きます。
輝竜兄弟にはドラグーナの初代の子達の命の欠片も入っています。
ですが上から順ではなさそうです。
性格にも随分と影響しているような……?
金錦はサンダーリアで、彩桜はソニアールスでしょうけど……対応させて遊んでみてください♪




