ハーフパイプもブッチギリ
「カツ兄さん、カッコいい~♪」
「おめでと~♪」「ステキ~♪」
荒巻と美那がペンションに入ると、拍手喝采に迎えられた。
どうやら春希達だけでなく、子供ゲレンデに居た者達も昼食の為に戻っていて、道に面したダイニングの窓から見ていたらしい。
「うわ……」
照れて離れようとしたが美那にガッチリ確保されていた。
「ホント、カッコいいよね♪」ニコニコ♪
「怖くなかったんですかい?」
「ぜ~んぜん♪
だって私を護ってくれてるんだもん♪
お姉ちゃん、私のカレシ♪」
「すみません、ご迷惑をおかけして」
「どうして そんな反応なの?」
「迷惑だなんて。
こちらこそ、こんなオッサンでスミマセン」
「カツくんまでぇ。
あ、オーナーさん、お昼2人分お願いできます?」
春希達の分を運んで来たオーナーが笑顔で頷いてキッチンへ。
「カツくん、ちょっとコッチ」引っ張る。
「へ? ちょ、おい。あ、スミマセン」
美都にペコペコしながらも美那に引っ張られるのを受け入れた。
子供達からは見えない廊下の奥にある階段まで行くと、美那は1段上がって荒巻と目線を合わせた。
「私、本気なんです。
歳上好きなのはお父さんの記憶がないからかもだけど、それ抜きでも勝利さんがいいんです。
私のこと子供にしか見えませんか?」
「子供だなんて思っちゃいませんけどね。
それでも20近い歳の差は重いですよ。
さっき考えてると言ったのを白状しますとね、先に死ぬのは確定だとして、まず生活には困らせませんよ。
寂しいと思ってもらえるんなら傍に居ますよ。
そうじゃなかったら自由に暮らしてもらう為に成仏します。
そんなのを道すがら考えてたんですよ」
「寂しいに決まってるじゃないですかぁ」
「だったらユーレイになれるように頑張りますよ」
「あ……知ってるんだ……」
「あの家に出入りしてりゃあ嫌でも知っちまいますよ。
死神様やら、馬やら犬やらの神様が いつもウロウロしてますし、店のお客さんはユーレイだらけですからねぇ」
「だったら♪ ちゃんと恋人してください♪」
「そんじゃあまぁ……こんな俺でよかったらお付き合い、お願いします」
「はい♪」ちゅ♡ 「んんっ!?」
美那は階段から荒巻に寄りかかった。
荒巻が慌てて支えようと抱き止める。
ダイニングの美都も驚いている。
姉の心配そうな視線に対しての行動だった。
―◦―
ビッグエアを観戦した順志達はハーフパイプ会場へと移動していた。
「キリュウ兄弟は何をしても最高だなっ♪」
「大声で言わないでよ」
相変わらずな淳と啓志が先頭で、苦笑している順志と京海が続いている。
「大会マスコット欲しいな~♪」
「グッズ売場はチェック済みだよ♪」
ラブラブバカップルを満喫している一美と巧、穏やかに寄り添っている平等と百香の4組が一緒に朝からマーズの追っかけをしていた。
「平等さん、太木さんご夫妻は?」
「誘ったのだが何方かの招待を受けたそうだ」
「麗楓さんの方かしら?」
「そうなのだろう」
秋小路会長と行動を共にしているとまでは結解も知らなかった。
―・―*―・―
テレビ画面にはハーフパイプの次グループ競技者の名が表示されていた。
「青生先生!?」
テレビを点けてチャンネルを変えていた良太が叫んだ。
山南牧場でバイト中の3人と見学に来た角圭がテレビ前に集まる。
「そ~いやボーダーだったよな」
「末っ子も出るんだな」
「招待選手ってナンだ?」
「他は外国人ばっかだな」
次グループは招待選手ばかりで、青生と彩桜しか邦和人は居なかった。
心太達、成績上位者は最終グループだ。
「外国人が滑ってる間に食っちまおうぜ」
「だな!」「見たいもんな!」「おう!」
午前中の休憩が昼食その1、今は午後の休憩で昼食その2な高校生達だった。
―・―*―・―
「え……」「どうしたの? あ……」
楽器博物館近くのショッピングモールに立ち寄ったソラと響は家電売場のテレビに釘付けになってしまった。
ミラーコーティングのゴーグルで滑っているのが青生だとは判別できなかったが、得点表示に名前が出ていたのだ。
「じゃあ、あれは彩桜クンね?」「そうだね」
響は夏前に彩桜がよくお面を着けていたのを思い出してクスッと笑った。
「どうかした?」
「前にね、店番してた彩桜クンが よくお面してたの。
上半分な猫の時のと同じだと思って♪」
「お面?」
「何かの試作♪」
「そっか」クスッ♪
マーズの時とは違って口元は出しているので、笑顔満開な彩桜が競技を楽しんでいるのは一目瞭然だった。
「すっごいね♪ オリンピアに出ちゃう?」
「出られるだろうけど出ないと思うよ」
「どうして?」
「今回のは選考対象じゃない大会だから楽しくて出てるんだろうけど、目立つのは嫌いなんだよ」
「彩桜クンて そんな性格?」
「うん。彩桜も ずっとイジメられてたから」
「そっか……乗り越えた先輩なのよね。
でも私も、もう大丈夫側に踏み込んだと思うのよね♪」
「うん。踏み込んでるよ♪」
「ん♪ あれ? また青生先生?」
「3回滑るみたいだね」
「じゃあ見てましょ♪」「うん♪」
―・―*―・―
滑り終えた青生と彩桜が兄弟の所に向かっていると次グループとすれ違った。
〈みんなの目が怖ぁいぃ~〉
〈これからだから殺気立つのも仕方ないよ〉
〈でもぉ、俺達 睨まれてるぅ~〉
〈高得点だったからね〉苦笑。
楽しんだ結果、現在ブッチギリで1位2位。
これまでを考えると有り得ない高得点を叩き出したのだった。
心太が引き返して来た。
「ったく容赦ねぇよな。
おかげでアイツらピリピリ過ぎてビリビリだよ。
けど俺は逆にイイ感じに肩の力が抜けたからな。見ててくれよな」
「うんっ♪ 頑張って~♪」
「ったく余裕だよなっ」あははっ♪
笑って待機場所へと走った。
青生と彩桜は歩いて秋小路の観覧棟に向かっていた。
その途中で兄弟が小屋に集まったと感じたので、人の居ない場所を探して瞬移すると、金錦が通話を終えたところだった。
「次に行かずに集まったりして、どうかしたんですか?」
「移動中に電話だったんだよ」
白久が金錦に視線を送った。
「白儀社長から、閉会式でもパフォーマンスをとの事だった。
リクエストが殺到したらしい。
しかし表彰式もある。
いずれの種目でも誰かが表彰台の上だ。
分身をお借りするという方法もあるが……」
皆、表彰式よりもパフォーマンスに出たいので、入れ替わる場所やら着替えやら、時間的な面でも かなり厳しい。
「アンコールなら全種目しなくてもいいんじゃないですか?
パフォーマンスは1種目だけにして、表彰台上の兄弟を狐儀殿にお願いするのは?」
青生はチラリと慎介を見た。
慎介は心得たと小さく微笑む。
「どの種目にします?」
あまり主張しない金錦と紅火を除き、自分がした種目ではないのがいいと言ったのでビッグエアに決まった。
「では、そのように返答する」
金錦と白儀が電話で話している間に清楓からの心話で、瞬移ポイントに困っているのなら観覧棟の倉庫は どうかと提案してもらって、兄弟は大喜びで その話に乗った。
「ではクロス会場に行こう」
「俺、ギリギリまでハーフパイプ見たい~」
「青生、彩桜に付いてもらいたい」「はい♪」
2人はハーフパイプ観覧棟へ。
5人はスノーボードクロス観覧棟へ。
―◦―
ペンションでは橇遊びで心地よく疲れた子供達が昼寝したので、母親達がダイニングに集まった。
「ゲレンデには行かれないんですか?」
注文された飲み物を運んで来たオーナーが配ってから尋ねた。
「子供達が満足したから十分。
のんびりできるのが最高よ♪」
千光が笑って、他も笑顔で頷いた。
「スノボー大会の観戦もなさらないんです?
輝竜さんのご招待なんですよね?」
「もしかして、出てるとか?」
智水が『ほらね』な視線を姉に送る。
「まさか、ご存知なく?」
「ええ。子供達に雪遊びさせてあげてくださいとしか……」
「中学生はゲレンデで遊んでいるわよね?」
「終日のフリーパスよねぇ?」
「そうでしたか。まぁ、今から会場に行っても閉会式間近だと思いますから、せめてテレビでどうぞ」
点けてチャンネルを合わせ、4分割画面の各々を全面にして確かめると、スノーボードクロスを選んだ。
「あら」「え?」「ほら次のグループ!」
「口元しか見えないけど輝竜さんよねぇ」
―◦―
「彩桜、そろそろ行かない?」
「でもねぇ心太さん次だよ?
白久兄と黒瑯兄の間に合うでしょ?」
「スタートには間に合うかな」クスッ♪
「心太さんだ~♪ スタート♪」
前日の練習よりも高く、のびのびとエアーを楽しんでいるのが伝わる。
しかし――「「あっ!」」――ボードがエッジに引っ掛かったのか、弾かれてバランスを崩した心太はハーフパイプの底へと真っ逆さまに――
『ええっ!? 高階選手は何処へ!?』
――落ちた筈なのだが、心太の姿は忽然と消えていた。
ま、何をしてもブッチギリな輝竜兄弟です。
消えてしまった心太も無事な筈です。




