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カツくんLOVE



 藤慈と慎介は仲良く同タイムでパラレル大回転の予選を1位通過した。

「藤慈兄 狐松先生おめでと~♪

 はい♪ お昼のお弁当♪」お茶も淹れる~♪


 また囲まれる前にと急いで隠れて、マーズ用の小屋へと藤慈と慎介が瞬移すると、青生と彩桜がペンションから弁当を運んで来ていた。

「他の兄様は?」


「金錦兄 紅火兄ビッグエアの待機場所~♪

 白久兄 黒瑯兄もぉすぐ戻る~♪」


「クロスの予選2回戦ですか?」


「うんうん♪ 勝ったの~♪」神眼で見た~♪


「当然ですよね♪」ふふっ♪

「「お♪ メシか♪」」一緒に戻った。


「おっ帰り~♪」「どうぞです♪」


「「ありがとなっ♪」」


賑やかに食べ始める。


「けど黒瑯は他人が作ったのじゃあ満足できねぇんじゃ?」


「ンなコトあるかよ。

 作ってもらえたらナンでも有難いし嬉しいし旨い♪

 気付きもあるから、貴重な情報源だしな♪」


「へぇ~。何がナンでも『オレが作る!』だと思ってたよ」


「ったく(ひで)ぇよなぁ。

 ペンションのオーナー手作りの味噌を分けてもらうんだ♪

 昨日の晩メシで感動したからな♪」


「チキンソテーのソースのかぁ?」


「だよ♪ 旨いの食わせてやるからなっ♪」


〈ミソ、たべる? ダメ!〉

林檎を食べていたユキがウルウルしている。


「「ん?」」「ユキ、どしたのぉ?」

「ユキのミソは仲間かな?」


〈ミソいろ、ちいさい、なかま〉


「そう。そのミソは食べないから安心してね。

 助け出すから、一緒に暮らそうね」


〈うん♪〉


「他にも仲間が居るのかな?」


〈ヒト、いる。ヒトちがう、いる〉


「そう。たくさん居るんだね」

「みんな一緒に暮らしたい?」なでなで。


〈みんな? なかま、いっしょ。うん〉


「うんうん。助けるからね~」よしよし。



―◦―



 昼食を終えた彩桜達が清楓(さやか)に呼ばれてビッグエアの特別観覧室に行くと、屋外の一般観覧エリアに祐斗達を見付けた。

「お迎え行ってくる~るん♪」走った。



 そして戻る。

「ジャンプ台が真横!!」

「すっごいセレブ席だね」


「俺達も呼んでもらっただけなのぉ」横を向く。


彩桜の視線を追う。「お嬢様!?」一斉。


 ビッグエアを見る為だけの、この建物は秋小路財閥が建てたもので、似たような建物がスノーボード競技だけでなく他の競技場横にも建っている。

どの観覧棟も1階は雪に埋もれているので2階玄関から入ると一般席があり、3階有料席へのチケットゲートもあるが、4階の特別観覧室へはロビーからは見えない専用エレベーターで上がるようになっている。

 ちなみにメーア達はハーフパイプ会場の建物内の3階有料席に居る。


「お爺様がウィンタースポーツ好きで建ててしまったのよ。

 遠慮なさらず、どうぞ」

にこにこ清楓の横で彰子と八郎もにこにこ。


「ありがとうございます。

 もしかして荒巻さんの運転で来たんですか?」

清楓の隣になった祐斗が尋ねた。


「そうよ♪

 隣の部屋のお爺様達は別だけどね♪」


「その荒巻さんは?」キョロキョロ。


「出発間際に来た、ええっと誰だっけ?」

「来光寺さんですよ~」

「そうそう! 大学生が乗ってきたのよ。

 荒巻さんは来光寺会長さんの運転手だから仕方なしに そのまま」


「荒巻さんも観戦を楽しみにしていたのですが、彼を連れてゲレンデに行ってしまったのです。

 おそらく、輝竜さんの邪魔になるだろうからと離したのだと思います」

八郎が補足。


「ったく、あの坊っちゃんは……」白久が呟いた。


「白久兄に用事だったとか?」


「こうなったら もうストーカーだろ」


「白久兄 黒瑯兄、金錦兄~♪」スタート地点♪


「「お♪ 見ねぇとな♪」」


「速っ!」「高っ!」「いっぱいクルクル!」

祐斗達、大騒ぎ。


「その通りだけどぉ~」にゃははは~。


「凄いってば!」似たり寄ったり口々。


「あら、開会式は見なかったの?」


「え?」驚きキョトンも一斉。

「言っちゃダメなのぉ~」


「前のパネルを操作して録画を見ればいいわ♪」


「あぁあぁ~」「はい♪」一斉ごそごそ。


「飲み物や軽食の注文もご自由にね♪」


「ありがとうございます♪」これも一斉♪


「次、紅火兄だよ~♪」

努めて明るく注意を向ける。


「豪快!」「確かにね」

「金錦お兄さんのは『美の極み』で、紅火お兄さんのは『力強い美』だよね」

「祐斗、上手く言うなっ♪」



―◦―



 リフトとゴンドラを乗り継いでスキー場を大きく1周した春希達は、昼を少し過ぎたのでペンションへと急いでいた。


『あれ? 美那ちゃん?』


声で誰なのかは分かったが、『咲満(さくま)さん』ではなく『美那ちゃん』と馴れ馴れしく呼ばれたのが嫌で、美那は気付かなかった振りをして通り過ぎようとした。


『待ってよ!』声が近付く。


勘が鋭い正義(まさき)が見上げて美那の表情を確かめ、手を引いて走った。


「マサキ君!?」

呼んだものの、春希は走るよりも原因を止めるべきだと考えて両手を広げて立ち塞がった。


「どけよ!」「ヤダ!」


拓斗も並んで両手を広げた。

「お姉さん、嫌がってます」『坊っちゃん!?』


走って来ている荒巻はハンバーガー屋の紙袋を持っていた。

「何してるんですか!」


「美那ちゃんを見つけて声かけただけ!」


「その美那チャンは?」春希と拓斗に。


「逃げました。嫌がってて」


「そっか。怖い思いさせて悪かったな」

冬輝と秋葉も庇っている勇敢な二人の頭を優しくぽんぽん。


逃げた方向とは違う方から正義が姿を見せた。

「あ! カツ兄さん来て!」


「俺? 坊っちゃん、コレ昼ですから」

袋を押し付けて走った。


「僕も――」「「ダメ!」」「――どけよ!」


「「たすけてー!!」」

冬輝と秋葉の声で周りの人が振り向き、走り寄る。


「うわわわっ」(すぐる)は逃げた。



「助かりました!」「ありがとうございます!」

4人揃ってペコリ。


「君達の保護者は?」


「さっきの人、お姉さんのストーカーなんです」

「だからお姉さんは逃げてもらったんです」

春希と拓斗、話を合わせる。


「そう。とりあえず目的地まで送るよ」


「ありがとうございます」

「『竜の隠れ家』ってペンションです」


「ああ、あの大きな。もう近くだね」



―◦―



 親切な人達に送ってもらっているのを遠目に見ながら、荒巻は美那に ひた謝り中だった。

「坊っちゃんには よーーーく!

 言い聞かせますのでっ!」深々っ!


「もういいですよぉ。

 荒巻さんは悪くないんだし~」

建物に隠れている美那には春希達は見えていない。


二人の表情を見比べて、()()雰囲気を感じた正義は そっと離れて春希達を追った。


 正義が随分と離れてから、美那は居ないと気付いて捜そうと動いたが、急ぎ足の正義の向こうに慌てた様子の美都が見えたので、もう安心だろうと荒巻に向き直った。

「少し遠回りしてペンションに行きませんか?

 お昼、まだなんですよね?」

もう謝らないでと肩とんとん。


「へ? 俺、別口だから……」


「1人分くらい大丈夫ですよ~。

 行きましょ♪」

半起き状態で見上げていた荒巻の手を引いて歩き始めた。


「ええっと、手。ついて行きますからぁ」


「いいじゃないですか♪

 あ……奥様いますよね。ごめんなさい」


「いやいやいや。奥様どころか、誰とも付き合った事もありゃしませんよ」


「え? それじゃあ♪」恋人繋ぎに♪


「ちょっ――ああ、坊っちゃんが見てるかもだからカモフラージュですかぁ」


「そんなのじゃないですよぉ。

 私……荒巻さんのタイプ外ですか?

 候補にもなれないですか?」


「オッサンを揶揄(からか)うモンじゃありませんぜ」


「本気なのにな~」しゅ~ん。


「歳、倍ですよ?」


「長生きしてくださいね♪」


「マジでマジですかい?」


「はい♪ マジです♪」


 ま、すぐに飽きるだろ。けど……――


「そんじゃあ、まぁ、お試し期間?」


「はい♪ お父さんと恋人してください♪」


「は? ま、ど~見てもパパ活かぁ」


「その『パパ』じゃないもん」下から睨む。


「わぁ……弱いトコ突きやがるよなぁ」

真っ赤になって天を仰いだ。


「あ♪ 弱いんだ~♪

 カツ兄さんだから……カッちゃん?

 カツくん? それとも~」


「ナンですかい?」


「どう呼ぼうかな~♪ 名前は?」


勝利(しょうり)と書いてカツトシですよ」


「カツくんにしよ~♪」腕を絡めた。


「おいおい。ま、いいか」


「私、敬称略で♪」


「は?」『ああっ!!』「坊っちゃん……」


ハンバーガーを食べながら路地から現れた秀は最後の1口を押し込んで、くっついている二人に向かって走って来た。


「コケますよ?」


「んあっ!」言わんこっちゃない。


「坊っちゃん」手を差し伸べる。


「自分で立てる!」


「そうですか」散らかったゴミを回収。

完食していて紙屑ばかりだったので一安心。

「ん? カップは?」「うわあ!」「ん?」


残りは少なかったようだが、淡いグレーのウェアの尻にはシッカリ クッキリ焦げ茶色の染みが出来ていた。


「どうしたら そうなるんですかい?」


「知るか!」


「ま、迷彩柄ですからマシですよね」


「明らかに違うだろ!」


やれやれと思いつつ、下の雪も少し融けていたのでコーヒーを隠すのも兼ねて雪塊を運んで埋めた。

もちろん潰れたカップは回収済みだ。

「帰りは16時に車ですよ。

 もうゲレンデに戻ってくださいね」


「言う事はそれだけ!?」


「彼女をほったらかしで半日も坊っちゃんに付き合ったんですから、そろそろ開放してくださいよ。給料外なんですから。

 そもそも強引に乗って来たんですからね。

 集合時間に来なかったら知りませんよ」


呆然としてしまった秀を残して、美那をエスコートしてペンションに向かう。


二人が玄関に見えなくなる寸前、とうとう秀が声を上げた。

「待って!!」


荒巻だけが振り返る。


「フリなんだろ!!」


「いくらなんでもフリなんかで若い女の子に触れたりしませんよ」

「もう入りましょ。カツくん」「ウソだ!!」


秀が走り寄って引き離そうと美那の腕を掴んだ。

「イヤッ!」「ィテッ!」

荒巻が秀の手を払い除けていた。


「美那は俺の女だ。勝手に触るな!」

昔取った杵柄(きねづか)なドス声と睨みは伊達(だて)じゃない。


初めて聞く秀は すっかりフリーズ状態に。


「モチロン将来についても考えてますよ。

 俺の方がサッサとアノ世行きになるのは確定ですからね。

 それじゃ、お互い夕方まで自由行動で」







競技の方は順調に進んでいます。


その裏で、やっと荒巻にも春到来です。

お話は真冬なんですけどね。

困った坊っちゃん2号・秀が理解するのは いつの事やらですが、とっくに失恋しているのにシツコイです。



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