心太と心愛
青生と彩桜はロビーの案内係に場所を聞いて競技会の運営事務所としている部屋に向かった。
「あ♪ 心咲お姉さ~ん♪」走った。
「彩桜、違うよ!」神眼で確かめた。
目的の部屋前で兄弟には背を向けていた女性が振り返った。
「あれれ? 後ろ姿ソックリさんだった~。
ごめんなさ~い」ペコリ、クルッ。
「待って! 心咲お姉ちゃんの知り合い?
中渡音に住んでて、『心』が『咲』くって書く心咲お姉ちゃんの?」
「うんっ♪ 俺、輝竜 彩桜♪」
「輝竜 青生です」
「青生兄、心咲お姉ちゃんの雇い主~♪」
「え? キリュウ? って招待選手の!?」
「あらら~」
「そうなっていますが聞いていませんので確認の為に来たんですよ」
「お兄ちゃんも抗議しに来てて!
いくら招待でも練習にも来ないなんてナメ過ぎてるって!
お兄ちゃん! 開けるよ!」
ドアをドンドンして開けた。
「招待選手、来たよ!
心咲お姉ちゃんの知り合い!」
「はぁ?」走って来た。「でぇ? 今頃かよ」
「何やら色々と問題になっているようですね。
運営の方と話させてください」
「ふ~ん。一緒に行っていいか?」
「お願いします」
奥に入ると、運営側も慌てていて、何処かに電話している者も居た。
「輝竜 青生です」「彩桜です」
「この内容との違いについてご説明頂きたい」
青生は持って来ていた封筒の中身を広げて机に置いた。
「ソレ見せてくれよ」「どうぞ」
横からの手に渡す。
「ふ~ん。開会式でパフォーマンスね。
野球で言えば始球式、か。
どこにも出場なんて書いてねぇな。
これなら俺でも練習になんて来ねぇな。
あとは特等席のチケットね。
おい、どーなってんだよ?
ダンマリすんな!」
「俺達はパフォーマンスとは言えと思って、一般用のハーフパイプで練習しようと行ったんです。
そこで初めて招待選手になっていると知って、確認の為に来たんですよ。
普段からスノーボードをしていたとしても、雪質も何も知らずに ぶっつけ本番なんて有り得ません」
「へぇ~、分かってんじゃねぇか」
「ありがとうございます。
しかも俺達はスケートボーダーです。
怪我をしても構わないという事ですか?」
「下手すりゃ死ぬぞ? 競技ナメんなよ」
「そうですよね。
俺はともかく彩桜は中学生です。
何事か起こったなら、どう責任を取って頂けるんです?」
詰め寄った その時、開いたままになっていた入口から男達が駆け込んで机に寄った。
「おい、カメラとかヤメロよな」奪う。
男達の背後に現れた男がカメラマンを睨み、カメラを受け取って操作した。
「紅火、来ていたの?」「今、来たばかりだ」
「消したの?」「部屋に入って以降のみ消去」
カメラを持ったまま出て行った。
〈他のデータも確認する〉〈お願いね〉
「俺の弟で彩桜の兄――なんて言わなくても顔だけで一目瞭然ですよね。
カメラは後程お返しします。
それで貴殿方は?」
「俺達を招待選手にしたヒトでしょ」
兄弟+1に睨まれてジリジリ後退っている。
「おい、ぶつかるだろ。
その顔、覚えてるぞ。
テレビ局と新聞とスポーツ誌だろ。
何度もオレに追い払われたよな」
〈リーロンも滑る?〉〈滑らねぇよ!〉
〈何しに来たのぉ?〉〈お前ら助けにだよ!〉
〈あっりがと~♪〉るんっ♪
「ナンとか言えよな。
取材お断りの腹癒せか?
マジで正式に訴えるぞ!」
記者達は逃げようとしたが、同じ顔達が立ち塞がった。
「速やかに、包み隠さず全てお話し頂きたい」
「ったく何度も何度も……いい加減にしろ!」
「白久兄様それでは此方が悪者のようですよ」
「だよなっ♪ けどまぁ怒ってるのは確かだ。
オレ達にはウソは通用しねぇからな。
正直に話せよな」
と、兄弟が話している間に、ユーレイなサーロンが机上と記者達が持っていた記録機器を全て回収していた。
〈サーロンあっりがと~♪〉
〈紅火お兄さんに預けるね〉
〈うんっ♪〉
観念したらしい記者が大きく息を吐いた後、視線を落としたまま話し始めた。
「取材できないから……その、、大きな記事になるだろうと……推薦したんです。
優勝間違いないからと」
「優勝間違いねぇだと?」
「お兄ちゃん、今はダメ」
胸ぐら掴む勢いの兄を妹が引っ張って止めた。
「けど心愛!」「ダメ!」
「ま、そのくらいでいいでしょう。
これ以上 聞くのは時間の無駄ですので。
俺達は練習していません。
ですので出場しません。
最初のお約束のみ、参加させて頂きます。
行こう彩桜。皆も」
「ん♪ 兄貴達、滑り行こ~♪」「待てよ!」
「今度は にゃ~にぃ?」
「そんなにも推薦されるんなら出ろよ。
俺の練習時間、残り全部やるから」
「青生兄どぉするの?」「困ったね……」
「俺は去年の優勝者だ。
高階 心太。
戦ってみたい気持ち、解ってくれるよな?」
困り顔の青生と彩桜が兄弟に視線を向けた。
『では、正式に決めなければなりませんね。
パフォーマンスも競技も』
〈狐儀師匠ってばぁ~〉
金錦と白久が間を開けると、白儀が前に出た。
「青生君と彩桜君は練習に。
高階さん、宜しくお願い致します。
他は記者の皆さんも残って打ち合わせをしませんか?」
「ふ~ん。保護者? ま、いいけど。
行こうぜ」
「ま、待って! お待ちください!」
「今度はナンだよ運営のオッサン」
「あのっ、他の競技は!?」
驚き声が重なり、記者達は更に縮こまった。
「他って、どういう事ですか?」
青生の視線が更に冷たく鋭くなる。
「今大会4種目、全てに招待選手……」尻すぼみ。
「練習時間が足りませんので他の兄弟に振り分けてください」
「青生!?」兄弟一斉。
心太が大笑い。
「ナンか気に入った~♪」あはははは♪
「面白兄さん行こうぜ♪」
笑い続けながら部屋を出た。
青生と彩桜、心愛が後を追った。
「私、こういう者です」
テーブルを囲むと直ぐに白儀は名刺を出した。
マーズ事務所社長とフリューゲル事務所 邦和支部長の肩書きが並んでいる。
「マーズって、もしかして……」「馬頭か!?」
「フリューゲル!? あのフリューゲルか!?」
「既に御存知の事でしょうから敢えて諸々は申しませんよ。
開会式パフォーマンスはマーズが仕事としてお受け致しましょう。
マーズですので、出演時は顔を隠させて頂きます。
正体に関しては例えご存知であっても報道の際には触れないで頂きます。
もしも触れたならば今後一切マーズは活動しませんので、ご了承願います。
活動しないと言う事は、活動を止めた方に寄付等の支援活動を引き継ぐと言う事です。
報道したければ、その覚悟でどうぞ。
ああそうそう。
正体を明かしてしまった方には、正式なギャランティも請求させて頂きますよ」
記者達の脳裏に『億単位』が過った。
「そ、その点は口を閉ざすと、約束します」
他も大きく頷いた。
「パフォーマンス内容はお任せ頂くとして、競技の方を詰めましょう。
ハーフパイプの他の3種目とは?」
「ビッグエア、スノーボードクロス、パラレル大回転です」
「つまりパフォーマンスも4種目なのですね?」
「はい。開会式の時間は全てテレビ中継で見られるようにズラしていますので」
「分かりました。
競技には兄弟の内2人ずつでよろしいですか?」
「あ、は、はい」
「何か?」
「いいえ!」本音は全員全競技に出てほしい。
「では2人ずつ割り振ります。
輝竜君達は7人兄弟ですので……そうですね、藤慈君は慎介と、で如何です?」
「はい♪」
―◦―
「お前ら練習なんて要らねぇだろ!!」
「ほえ?」振り向いたがスタート地点へと上る。
滑り終えた青生がボードで滑り上って来た。
「彩桜がどうかしましたか?」
「あーーったく!
ナンで下りるのと同じに上れるんだよ!?
負けねぇからなっ!! 次は俺だっ!!」
リフトに向かった。
「お兄ちゃんてば~。
社長さんスゴいですね♪」
「社長? 俺は獣医師ですけど?」
「え? でも心咲お姉ちゃん、OLでしょ?」
「転職して、今はトリマーです」
「ウソ!? あのお姉ちゃんが接客とか!?
イケメン先生だから女性限定とか?」
「ないですよ」くすくす♪
「だってお姉ちゃんトラウマ!」
「それも克服したようですよ。
原因になった誘拐未遂、助けたのが俺の妻ですから」
「えええっ!? 見つかったの!?
だから転職!?」
「転職の方が先でした。
婚約者君が――」「婚約者!?」
「――はい。受付担当をしてくれています。
その初日にトリミング室を見学して転職に。
今は二人で動物看護師を目指していますよ。
その婚約者君が心咲さんから聞いて助けたのが妻だと気付いたんですよ。
それから、ご家族でいらして保護犬を引き取ってくださったりして」
「なんにも聞いてなかったぁ」
彩桜が上って来た。
「心咲お姉さんに、バスで来てって連絡した~♪」
〈ジョーヌ師匠に心話したからウチ連れて来てくれてる~♪〉
「バス?」
「兄貴が運転して俺の友達 連れて来てくれるウチのバス~♪」
「自家用バス!? お金持ち!?」
「家族が多いだけ~♪」
「7人兄弟で上6人が既婚者ですから」
「え? て? さっきの皆さん既婚者!?
7人兄弟って、とんでも大家族!?」
「青生兄、一緒に滑ろ~♪」
「そうだね時短しないとね」「ね♪」
仲良く滑り上って行った。
「重力無視? リフト要らずだし~」あはは。
心咲のイトコ達登場です。
ボーダーの心太と女子大生の心愛の兄妹で父親が兄弟です。
馬頭はフリューゲルと組むだけでなく、これからはパフォーマーもするんでしょうか?
藤慈に慎介と、って狐儀自身ですよね。
もしかして狐儀も一緒に歌って踊ってスポーツしたかったんでしょうか。




