堂々と今ブルー
ラピスリは永遠の樹に着くや否やマディアの魂を取り込み、その身体を幹に凭せ掛けて座らせた。
【姉様?】
【彼奴は結局その首輪を外さなかった。
信用しきるなんぞ無理な話だ】
【そっか。ありがと♪】
ラピスリは集まっている同代を見回し、手を繋いで円を成すよう促した。
【では情報を共有する】
最近の魂片オーロザウラとの戦いと、そこから得た情報を流した。
【此れが神世にも散らばっているのか?】
ロークスが顔を顰めた。
【【可能性は高い】】
ラピスリとハーリィが大きく頷いた。
【それでリグーリは?】
ハーリィがラピスリに傾げた顔を向けた。
【人世で魂片探し中だ。
フェネギ殿は器となった人達のアフターフォロー中だ】
【だから忙しくて私達に、なのね?】
チャリルとタオファは頼られたのが嬉しいらしく笑顔だ。
【では禍の気配に注意しつつ敵神を呪った術を探せばよいのだな?】
ラナクスの確認に同代は決意を込めて頷いた。
【現れたなら戦おう等と考えず吼え伝えてもらいたい。頼む】
【吼えて破邪を放って逃げるよ】【そうだな】
【ドラグーナ様もいらしてくださいますから】
【ええそうね♪ 安心して逃げられるわね♪】
【先程のも拝見させて頂きました。感服です】
青生の頭上に青ドラグーナが浮かぶ。
【さっきのは青生だよ。
俺は青生に頼まれて、一緒に睨んだだけ】
【ええっ!?】一斉に青生を見た。
【ええっと、俺、何か悪い事をしましたか?】
【そうではないが……】【人、ですよね?】
【もう流石ラピスリの旦那様としか言いようがないわね♪】
【度胸は私以上だ。
青生、先程の話は作り話か?】
【あれ? さっき流したんだけど?
それに瑠璃はオーラタム男爵の中に入っていたよね?】
【伝わっていない。
魂内でも見つけなかったのだが?】
【内に居る俺にも伝わっていないよ】
【そう? ドラグーナ様にもだなんて……】
【それって、もしかしてオーロザウラの記憶?】
【だとすれば獣神には伝わらぬよう術で縛っておろうな】
【ふむ。青生、話して伝えてくれるか?】
【うん。
オーロザウラの真核の記憶で、たぶん幼い頃に素行が悪くて先生に説教されている時のものだと感じたんだ。
神ならば、って話。
先生の話では、最初の神世の崩壊より千年くらい前に、世が崩壊の危機に瀕していたそうなんだ。
そこに現れたのが異界の御神、光の神ブルー様。
明らかに地星の神ではない、その青龍神様は理由も何も聞かずに世の崩壊を防いで、ピュアリラ様に護りの力を授けて去ったそうなんだ。
その時にピュアリラ様には、余所者が現れたなんて話したら混乱が生じるから話してはいけないと言ったそうだよ。
先生は、修行すらもせずに名誉や権威を欲するのは神として間違っていて、神の、しかも大国の王子なのだから、人知れずとなっても世を護るのを最優先すべきだと諭していたよ。
俺の勝手な想像なんだけど、その先生はアミュラ様だと思うんだ。
ピュアリラ様の娘神様なら知っていても不思議ではないからね。
だからきっとザブダクルも聞いている筈と考えてブルー様の名を出してみたんだよ】
【他の誰も知らぬ異界の神か……】
【シッカリ知ってたね♪
今ブルー様、すっごいね♪】
【俺は御名を騙った偽者だよ】苦笑。
【ううん。今ブルー兄様♪】
【困ったな……】もっと苦笑な困り顔。
【もう今ブルーでよかろうよ】ふふっ♪
【瑠璃までぇ】
【それよりも、他にも何か拾ったり考えたりしているのだろう?】
【そうだね……オーロザウラはザブダクルを呪って愚神にしたと言ったよね。
どうあっても悪神にしかなれないと。
幼い頃、愚神だったオーロザウラと同じ道を辿るようにレールを敷いたのか、現状の配慮に欠けて忘れ易いのが悪化していくのかは分からないけど、マディア様は既に鍵の1つになっていると思うんだ】
【僕?】
【配下にした切っ掛けは、すっかり忘却の彼方だから、自分を慕っている腹心、可愛くて頼れる心の友だと思っている。
ルサンティーナ様の瞳色な鱗も大好き。
だから、もしも離れたなら、裏切ったなら、ザブダクルは怒りから暴走してしまうだろうね】
【そっか……】
【マディア、今も王とは話しているのか?】
【うん。時々、少しだけ。
だってグレイさんは神王殿で独りぼっちなんだもん】
【ならば私達も最高司補として会いに行こう】
【そうだな。会議の後で行くとしよう】
ロークスとラナクスが頷き合い、他も同意と笑みと共に頷いた。
【でも、グレイさんにも首輪が……】
【人神には尾も無いしな】
【今、俺に尾があるのは?】青龍尾を前に回す。
【そうか!】
【しかしザブダクルに見えてもならぬからな。
難しいが、少しずつ命の欠片を与えて連絡だけは出来るよう頼む】
【そうか。見えずとも人神に幻尾が成せる程度にか】
【混ぜていけば1つ1つは薄い。
成せるだろう】
【それでいきましょ♪】
【幻尾が成せたらポンポン挨拶ね♪】
【マディアからの手紙も渡そう】
【みんなぁ……ありがと~……】
【王とマディアの事は気付いていたのでな】
【これまで何も動かず、すまなかった】
【ううん。ありがと♪】
【マディア様が笑顔になったから、今回は閉会かな?
あんまり長いと心配して爆発するかもだから】
【そうだな。
青生は、まだ何やら考えているのだな?】
【うん。
定期的に情報交換が必要だし、人神様も必要だからと話そうと思っているよ】
【サラッと言った~♪】【やっぱり流石ね♪】
―◦―
死司最高司の執務室に戻ると、居ても立っても居られなかったザブダクルは苛立ちを隠そうともせずに歩き回っていたが、一転して破顔も輝きそうな程になり、マディアに駆け寄った。
「何もされておらぬか?」抱き締めっ!
「情報を頂いただけですので。
これで最高司様をお護り出来ます♪」
「そうか……」感動うるうる。
「邪魔をして申し訳ないが、話し合いから新たな頼みが生じた」
「全ては世を、貴方を護る為です。
お聞きくださいますか?」
「あ、ああ、そうか」
羞恥心は失っていないらしく、頬を染めてソファに戻った。
「して、頼みとは?」
「先ずは、獣神様方との連絡と報告の集いを定期的なものにしたいんです。
月に2度くらいは必要でしょう。
マディア様にもご参加頂きたいので、その都度、首輪の効力を切ってください」
「ふむ。解った」かなり渋々。
「次に、オーロザウラは純然たる人神です。
ですので神世で動いてくださる獣神様だけでは、お護りしきれない可能性が高いと考えます。
そうなると神世でも人神の協力者が必要となります。
神力面から考えて、王か死司最高司次補・上級管理ルロザムール様が適任かと。
いずれかの支配を解き、護りの仲間とさせて頂けませんか?」
「王は……ならぬ。
ルロザムールであれば。
しかし支配を解けば……」
「そうですね。貴方は敵。
ですので説得せねばなりません。
今ピュアリラ、即座にお連れして説得をお願いします」
「ふむ。解った」
「エィム様はルロザムール様の直下でしたね?」
「はい!」
「では今ピュアリラと共に。お願いします」
「はい!」
「さて、まだお呼び出ししていないのですか?」
「マ、、エーデ、至急だ」「はい!」
そうして支配を解かれたルロザムールは、支配を込められた時の続きな反撃をしようと迫ったが、ラピスリとエィムに永遠の樹へと連れ去られた。
ルロザムールの迫真の演技を喜んでいる場合ではなく、青生は再びザブダクルと対峙した。
「ありがとうございます。
これで獣神様に見えぬモノも感知できます。
『何故 礼を?』というお顔ですが、世の為ですので。
俺は真ブルー様の生き方、お考えを理想としていますので。
貴方は他者を信じない。
それもオーロザウラの呪なんです。
そんな縛りに屈しないでください。
人世に死印をバラ撒くのもオーロザウラが喜ぶだけですので、二度としないでくださいね」
「儂は奴に踊らされていたと!?」
「その通りです。呪に動かされたんですよ。
死印には即効性なんてありません。
即座に事故となったのは待ち構えていたオーロザウラが禍で切っ掛けを作ったからです。
――なんて言っている俺の言葉も信じていませんよね?
何故 俺が動かなかったのか、ですか?
今まで現れなかったのは、獣神様と間違えられて堕神とされていたからです。
ようやく人魂から脱したんですよ。
今度は、俺の力を試したいんですか?
まぁ偉そうに話していますから当然ですよね。
では、どうぞ。
支配でも操禍でも使ってください。
マディア様、最高司様の方に防壁をお願いします。
ええ。最高司様が放った後に、です」
マディアがザブダクルの背後に控えた。
「ならば遠慮はせぬぞ」瞳に闇が宿る。
「ええ。遠慮なんて無用ですよ」
冷ややかにザブダクルの目を見返した。
支配の神力を知っておって
儂の目を見据えるとは……
つまり支配は効かぬのだな。ならば!
「喰らえ!!」
全力で大禍を一気に膨らませると青生に向かって放った。
「不通防壁!」
【昇華光明煌輝、滅禍浄破邪雷嵐!!】
白輝一色の中、一瞬の嵐が雷撃を伴って吹き抜けた。
「っ……」
「おや、少し通り抜けてしまいましたか。
ですが光神の力、信じて頂けましたか?」
「……信じる。
これならばオーロザウラであろうが……」
視界が戻った。
ザブダクルは破邪を受けた苦痛もあるが、遥かに喜びが勝っていた。
「治癒しましょうか?」「あっ、解還!」
「では回復治癒。
これからは心穏やかに、マディア様と共に世の平穏の為に生きてください」
「解った……先程のは全力ではなかろう?」
「そうですね、半分……にも満たないかな?
その程度です」
「そうか……」
「では、そろそろ俺もルロザムール様の所に。
ご挨拶しないといけませんからね。
そうだ。1つ、良い情報を。
ルサンティーナ様はご存命ですよ。
オーロザウラが散在している今はまだお隠れ頂かなければなりませんが。
ルサンティーナ様は貴方をご覧になられていますので、くれぐれも呪には屈しないでくださいね」
「ルサンティーナが……儂を……」
「ええ。
ですので死印の件を大層お嘆きでしたよ。
それでは、また――」
優しさの化身のような微笑みを向けて瞬移した。
「光神ブルーか……」
「最高司様、僕の防壁が弱くて すみません」
治癒を重ねた。
「いや。今ブルーの光が強過ぎたのだろう。
今ピュアリラと今ブルーが儂の味方であり続けてくれたならば、オーロザウラなんぞに怯えずとも済む。
それが、よく分かった」
「そうですか。僕もお護りしますので」
「マディア……ありがとう」
「はい♪」
このまま平和でと願うマディアの神眼に、ラピスリに無謀だと叱られている青生が見え、必死で笑いを堪えるのだった。
みんな楽しそうだな~♪
エィムみたいに思いっきり笑いた~い♪
でも、これからは定期的に集まれるし
楽しくなってくよね♪
頑張ってたらエーデと暮らせる未来も
近づいてくるよね♪ うん♪
オーロザウラの犠牲者、一番は やっぱりザブダクルですよね。
悪神にしかなれない愚神……そんな呪いを受けているなんて可哀想ではあります。
それに世の為にも呪を解くべきですが、古の人神の呪術が そう易々と見つかるとは誰も思っていません。
マディアの休憩時間、楽しみの為の集会を定期的に開けるようにしたんです。
これ以降、マディアもティングレイスも過去に込めた『手紙』をせっせと消していきます。
ティングレイスもマディアの同代に受け入れてもらえて嬉しいので。
とっくに支配を解いてもらっているルロザムールも正式に解いてもらえたので喜び一入です。




