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兄弟の行方



 探りの力を神世の隅々まで行き渡らせていたオフォクスが目を開け、ニヤリとした。


「神世で生きておる。

 しかしルナサフランは眠らされておる。

 眠らされたまま神王殿の結界を保たされておるようだ。


 マディアの方は最初の代の姉と結婚し、人神の姿で暮らしておる。

 ミルキィとチェリーを寄越したのは、この姉、エーデリリィだ」


青龍(ラピスリ)黒龍(オニキス)が喜んでいいのか迷いつつ、一先ず安堵と頷き合った。


「滅されておらぬのだから救えばよいだけ。

 憂う必要なんぞ無い」


「あ……」「ですよねっ♪」


今度は、必ず救出するとの決意を込めた笑みを浮かべて頷き合った。


「オフォクス様、救うと言えばなんですけど、オレ達の上や下の代って今どうなってるんですか?

 滝には代バラバラに集まってますけど」


「幼いお前達が滝近くに住んでおった頃、基礎の指導をしておったユーチャリスを覚えておるな?

 其の代までは皆、神王殿の所有物が如く人神の居住地を護らされておったのだ。

 故に獣神狩りが始まると直ぐに捕らえられ、水晶に封じられてしまったのだ。

 今は眠らされたまま各所の結界守護をさせられておるか、神王殿の開かずの間で保管されておる。

 運良く逃げ仰せた者だけがマヌルの婆様の所か、滝に逃げ込んだのであろうな」


「ユーチャリス姉様の代は?」


「ユーチャリスの同代は南端の街と街道の護り。

 ユーチャリスが修行を共にした次代はお前達同様、職域の護りとして遣わされ、浄化域を護っておった。

 ユーチャリスだけは小さかったが為に居残る事となったのだ」


「じゃあその代は、そのまま浄化域の目隠し役させられてるってコトですか?」


「眠らされて、なのだがな」


「オレ達は再生域から逃げられたけど、ソッチは早く狩られちまったんだな……」


「職神と成っておった者も居ったのでな、好き勝手したいが為に急いだのであろうよ」


「そっか。

 アーマル兄様やラピスリみたくサティアタクス王の改革で採用されたのか」


「オニキスは試験に落ちたのだったな」


「ラピスリぃ、言うなよなぁ」


「あの試験で落ちたのはオニキスとウンディだけだったな」


「まだ言ってやがる。

 職神になれなかったからこそ、皆を逃がしてやれたってのにぃ」


「そうだったな。感謝している」


「何があったのだ?」


「指導神や相棒など親しい人神が操られ、神力封じの縄を持たされていたのです」


「トーゼン職神してる獣神には知られねぇようにしてたんです。

 けど、オレは蚊帳の外だったから、妙な動きを察知できたんですよ」


「通常の3倍程の仕事を担わされ、忙しくしていたところに獣語(咆哮)で連絡が入ったのです」


「ふむ。

 故にお前達の代だけが多く無事なのだな」


「あとは、当時まだ基礎修行中だった末の代だけだよな。

 アイツら、アッチコッチに潜入して頑張ってるよなっ♪」


「危険だと止めたのだがな……」


「だからオレ達の代が指導神とかしてるんじゃねぇかよ」


「兄弟ではない同代の皆が、だ」


「浄化域のリリム、保管域のプラム。

 魂生域のクァム、再生域のミュム。

 死司域のエィム。

 最も危険な、堕神の魂に関わる5神ならば元気にしておる。

 各々に付けておる儂等の子もな」


「ほ~ら大丈夫じゃねぇかよ♪」


「ふむ。

 オニキス、滝では誰が纏めているのだ?」


「カーマイン兄様。3代目だったかな?」


「無口だが、統率力に秀でておろう?」


「そのとーりです♪」

「覚えていらっしゃるのですか?」


「ドラグーナは全て覚えておろうが、儂は目立つ者のみだ。

 カーマインは同代次兄。

 長兄を支え、善く皆を纏めておった」


「兄弟……皆、助け出せたら、すぐに敵神なんか倒せるのになぁ」


「その方向に進むより他に道は無さそうだが……困難を窮めるであろうな」


「ナンでだよ?」


「眠らされている兄弟が盾とされるだけならば未だしも、操られると考えるべきではないか?」


「ゲ……」


「支配の力はマリュースのもの。

 此方にはカツェリス(バステート)が居るのだから、打つ手は必ず有る。

 希望を捨てるな」


「ですよねっ♪」「はい!」


「堕神とされた者達を目覚めさせよ。

 修行させ、備えるのだ。

 さて、儂は少し眠らせてもらうぞ」

ニヤリとして薄れ……消えた。



「オフォクス様、何処へ?」


「キツネの社に神眼で追ったのか?

 その裏に隠し社が在る。

 眠る際は其処にいらっしゃる」


「へぇ~。

 で、堕神を探せ、ってか?」


「簡単な事だ」


「へ?」


「8割方、祓い屋になっている。

 堕神の欠片持ちの多くもな。

 だから共鳴も起こり易い」


「兄弟のか?」


「だけでなく同種の獣同士も、親子や兄弟とは異なる共鳴を起こす。

 だから父様の妻役は全て龍なのだ」


「それでも目覚めねぇんだろ?

 じゃあ、父様の周りに祓い屋ってのを集めたら共鳴して目覚めるんじゃねぇのか?

 ……ラピスリには悪いけどな」


「何を言う。変な気を回すな。

 父様を目覚めさせる為にオフォクス様は神力の補助具を紅火様に作らせているのだ。

 それは祓い屋の道具となる。

 だからいずれ道具を求めて祓い屋達が集まるだろう」


「へぇ~、とっくに動き出してるんだな。

 じゃあオレ、何すればいいんだ?」


「彩桜の指導を頼む」


「ソレだけ?」


「彩桜こそが父様の心。核なのだからな」


「父様って……ブツ切り?」


「そうだな。ま、人神が分けたのだから獣神の重要な箇所を知らぬ。

 有り難い事にな。

 だから私はウィスタリア兄様と共に藤慈様を目覚めさせる」


「ってコトは、ソイツが尾なんだな?

 まさか尾 丸ごと?」


「そうだ」フフッ♪


「人神って……知らねぇにもホドがあるよな」


「知と技の器が開けば、術で他を目覚めさせてくれるだろうよ」


「だよなっ♪ うん。ソッチは安心した♪」


「ん? 他に何か気掛かりなのか?

 ウンディならばミルキィとチェリーが付きっきりだが?」


「いや……マディアだよ」


「無事だと聞いたろ?」


「じゃなくてな、マディアも居残らされて次代の弟妹達の指導してたろ?」


「そうだな」


「そっから何がどーなってイチバン上の姉様と結婚したんだろーな?

 上の方なんて、顔も名前も鱗色すらも何も知らねぇだろ?

 共鳴なんてカナリ近くじゃねぇと起こらねぇし。


 ナンか……これからの為に、つーか、上手く言えねぇが、父様 目覚めさせるにもいいヒントになりそうじゃねぇか?

 だけじゃなく、ナンつーか状況がグンッと動きそうな気がするんだよな。

 それに、その姉様ってのが、こないだのスッゲー結界したんじゃねぇのか?

 ミルキィ・チェリー寄越したのもだし、直接 話したいよなぁ」


「確かにな。神は歳を気にせず結婚するとは言え、千(歳)を越える差の姉弟というのは珍しいな。

 私は、その姉様は浄化域か死司域の中枢に潜入していると考えている。

 だからこそ偶然出会った弟と結婚したとも考えられるのではないか?」


「大きな力を必要として、か?」


「兄弟ならば最も信頼出来る上に、確実に大きな力を持っているからな。

 しかし……」


「あ♪ ラピスリみたく本当に好きになっちまったのかもなっ♪」


「煩い!」



―・―*―・―



 弟妹のそんな話が聞こえよう筈もないが、ちょうどその頃、久し振りにエーデラークの姿を解いたエーデリリィは、マディアの寝顔を眺めながら、もの想いに耽っていた。



 こうして見ていると

 まだまだ あどけなくて可愛いのに……。


 話し方も、いつまでも可愛くて……。


 でも中身は私よりもずっと大人で、

 シッカリしていて、賢くて、

 とんでもなく大きな力を持っているのよね。


 今は私が『エーデラーク』として

 アイツの近くに居るけれど、

 マディアなら、もっとずっと上手に

 騙せるのでしょうね。


 鱗を剥がれた古傷が騒ぎ過ぎて

 近寄れないなんて……。


 皮肉でもあるけれど、

 すぐに気づいて逃げられるのだから

 良しとするしかないわよね。


 私はもう、マディアなしでは

 生きている意味を見いだせないのだから。



 あの時……

 同代の兄弟が私を逃がしてくれた あの時、

 マディアが助けに来てくれなかったら……

 間違いなく私は消滅していたわ――



―・―*―・―



「そっか!

 ナンかモヤモヤすると思ってたんだよなぁ」


 ラピスリも帰り、すっかり夜も更けた頃。

神はそうそう眠らないのだが、昼間は犬をしている為に健康的に眠くなるオニキスは寝仕度をしていて、つい声が出てしまった。


「何を騒いでいるのです?」現れた。


「ったくフェネギの言い方は冷たいよなぁ。

 あ、そっか。

 ラピスリが待ってくれなかったからか」


「関係ありません!

 私は もう一度 出掛けます!」プイッ。


「あ……消えやがった。

 ラピスリんトコ行くかぁ」瞬移。




〈お~いラピ――いや、いいっ〉クルッ。


〈何だ?〉オニキスの尾を掴む。


〈悪かった。離してくれよぉ〉


〈手短に言え〉

布団の隙間から覗く目が光っている。


〈睨むなよぉ〉


〈次からは神眼で確かめてから来い〉


〈確かめていいのかよぉ?〉


〈いきなり来られるよりはマシだ。

 で、用件は?〉


〈マディアの事だよ。

 ナンかモヤモヤしてゴチャゴチャ言ったが、オレ達――同代皆、マディアに避けられてるんじゃねぇのか?

 だから会って話したいんだよ〉


〈ふむ……避けられているのだろうな〉


〈やっぱそっか。

 それだけだから離してくれ。

 マジ悪かったな。すまねぇ!〉逃げた!




「人してるのも眠くなるのかな……?」


小社(こやしろ)に逃げ戻ったオニキスは独り言ちて布団に入った。







死司神の装束は黒ですが、再生神は白です。

他の職神もそれぞれ色は決まっています。

再生神をしていた頃のラピスリ達は半獣姿に白装束で務めていました。



獣神は人神には獣姿しか見せませんが、人姿にも普通になれるんです。

ですので小動物神を除き、人神が居ない場所では小回りの利く人姿にしていることが多いようです。


人神には人姿を見せてはならないのは全ての獣神にとっての共通の掟ですので、かつてサティアタクス王の改革で獣神も神王殿や職域で務めていた獣神達は、獣姿、または半獣姿で共存していたんです。


今は神世では獣姿では居られませんので、人姿または偽装して容姿を変えた人姿で暮らしているんです。



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