ヒマラヤの雪男
その夜。元気になった若者達すらも眠りの国に行った後――
「ん? 白久、どっか行くのか?」
「何だよ、意外と繊細なんだな」
神力を温存しようと、歩いて部屋を出ようとした白久はメーアに呼び止められた。
「チョイ忍者仕事だ」
「また悪魔か悪霊が出たのか?」
「ん~~となぁ、悪の雪男がヒマラヤに居る」
「雪男!?」
「デカい猿かもだがな。
先ずは正体を確かめる。
それから祓う」
「兄弟皆か?」
「トーゼンだろ♪」
「お前ら、いつ寝てるんだ?
レコーディングも邦和の夜中に来てたんだろ?」
「忍者は滅多に寝ないんだよ♪
ま、心配すんなって」
「そうか? 気をつけてな」
「おうよ♪」
―◦―
彩桜とサーロンは真っ先に集合場所の居間に来ていた。
【最近、響お姉ちゃんは?】
【ギターの練習と瞑想に没頭してるよ。
奏お姉さんまで瞑想してる】
【どぉしたんだろね???】
【うん……もしかしたら、落ちかけてた神力が復活し始めたのかも。
前向いて進み始めたから】
【そっか~♪ あ、黒瑯兄とリーロン♪】
【兄さんも行くの? 寝なくていいの?】
【【大事な相棒だからなっ♪】】
肩を組んで笑う。
【姫姉ちゃん達は?】
【モチ来る♪】【荷造り中だ♪】
【【待たせたのぅ♪】】【来た~♪】
【その大荷物、何ですか?】
【【食料じゃ♪】】
【万が一の為ですか?】
【【うむ♪】】
【んなワケねーだろ】【オヤツだよ】
【ああ~】納得。 【俺も~♪】瞬移♪
【何処へ?】
【食料倉だ!】【うわあっ!】瞬移!×2。
と、騒いでいる間に揃っていた。
【彩桜、行くよ。戻ってから食べてね】【ん♪】
――そして雪山。
即座に堅固に治癒を込めて寒さを防いだ。
【スキーした~い♪】
【【【彩桜だけ やってろ!!】】】
【あ……すっかり忘れていたよ。
彩桜、週末はスキー場だよ】【ほえ?♪】
【スケートボード大会の優勝者として招待されていたんだ。
スキーじゃなくてスノーボードだけど、いいかな?】
【もっちろんいい~♪】
【青生 彩桜。
ナニ暢気な話なんかしてるんだよ】
【あれれ? ツッコミ白久兄だけ?
黒瑯兄リーロンは?】
【神眼最強コンビはサーチ中だっ】
【そっか~♪】
【なかなかにムズい】【妨害されてるんだ】
【そうなんですよね】【あと一歩なんだがな】
瑠璃が呼び掛けたのでエィムとリグーリも来ていた。
【ん~とぉ、青生兄 瑠璃姉、試したいの~】
手を繋いで打ち合わせ。
【うん。やってみよう。
皆は目も神眼も閉じておいてね。
かなり眩しいと思うから】
同意を得ると、各々が治癒で身体を防護して堅固ドームから出た。
【【昇華光明煌輝、発輝幻夢!!】】
【昇華闇障闇黒、激天闇呼!!】
白い輝きは一瞬で闇と化した。
【闇呼吸着の極み追加!!】
【ナンか来てる!?】【飛んで来てるぞ!】
【【否、引き寄せられておるのじゃっ!】】
【留まったぞ! 双璧!!】【【供与!!】】
踏み留まった黒い塊に闇の引力が数倍になって襲い掛かる。
が、黒塊も踏ん張り続けている。
【彩桜君に神力を!】【白久さんにも!】
妻達が一斉に神力を注いだ。
【めーイッパイ大玉闇呼吸着っ!!】
【そんなら俺も双璧の極みだっ!!】
綱引き状態。
だがジリジリと大きな黒い生物は寄って来ていた。
【昇華煌輝、掌握!】
紅火から神の巨手が伸び、黒い生物を掴んだ。
【引き寄せる!】
加速はしたが、まだ空を掴んで足掻いている。
【見つけた!】【私も見つけました!】
【各ドラグーナ様に煌輝領域昇華!!】
素早く詠唱し【神力基底解放炎弾!!】
金錦からの光に包まれた直後、藤慈からの炎弾が当たり、弾けた神炎に包まれた。
【っしゃーっ! スンゲーパワーアップだ♪】
【兄貴達もっかいねっ!】【【【おう!】】】
【【昇華【【領域大供与!!】】じゃっ】】
【【昇華光明煌輝、夢幻滅禍浄破邪!!】】
【昇華闇障闇黒、激天闇呼で吸着!!】
【よーしラスト1発だっ! 双璧!!】
ムンッと神手も太くなり、黒塊な生物は とうとう引き寄せられた。
彩桜が闇呼玉を掲げたのが見えたのか、寸前で悪足掻きな大暴れを始めた。
【【【光明封乱悪牢!!】】】
青生 瑠璃 彩桜から放たれた光矢に貫かれ、黒塊生物は闇呼玉に吸い込まれた。
【サーロンせ~のっ【滅禍浄破邪大っ輝雷!!】】
封じられても暴れていた黒塊は神雷に貫かれて、ようやく静かになった。
【【捕獲完了~♪】】
黒瑯とリーロンが闇呼玉に手を当てた。
【やっぱサルだな】【巨大なサルだよな】
慎也と瑠璃も手を当てた。
【巨大化したのは悪神の所為だろうな】
【欠片を抜けば普通の猿に戻るだろう】
【このまま摘出できるのですか?】
エィムが首を傾げる。
【掌握を使えば可能だ。青生、始めよう】
【うん。皆は結界の中で休んでいてね】
【青生と瑠璃さんは?】
入れと言われると出る黒瑯。
【俺達は各々が結界を纏っているから大丈夫だよ。
もしも暴れたら大変だから入っていてね】
【青生って、いっつもカッケーよな】
【金錦兄さんと紅火は光明煌輝の一歩手前な煌輝を発動していたから習ったら?】
【マジかっ!?】
【うん。使っていたのは共鳴したから確かだよ。
だから兄弟皆、煌輝は使えるんだと思うよ】
【そっか♪】弾むように結界に入った。
微笑み合った青生と瑠璃は摘出を始めた。
【青生、何をしている?】
【ちょっと探っているだけだよ】
【黒瑯殿に頼まぬのか?】
【どうやら神眼を通じて何か受けたみたいだからね。
黒瑯らしくない嫉妬をしていただろ?】
普段は文句だろうが明るさを含んでいる。
【そうか。神力を伝って攻撃されるのだったな】
防げたリーロンは、それなりに神。
【うん。だからね――】【ふむ。そういう事か】
―◦―
無事に摘出を終え、兄弟を帰すと、青生の身体と猿を動物病院に残して、青生と瑠璃はカリーナ火山に向かった。
〖待ちな。何やら言っているが聞くかい?
呪詛は唱えられないように縛っておくよ〗
結界のアミュラの意思は一旦 開けていた穴を閉じて唱えた。
〖いいよ。それにしても大きな魂片だねぇ〗
【では聞いてみます。ん?】ぼそぼそ?
〖其奴は神力不足で声が小さいんだ。
嬢ちゃんも弱いが闇障持ちだよ。
何か影響を受けたんだね。開いてるよ。
ほんの少しだけ闇を注いでやりな〗
【はい。闇障……あっ】
ひと滴、という表現がピッタリな闇が落ち、封珠に吸い込まれた。
《ルサンティーナを感じるぞ。
この山、ザブダクルが入れぬ山だな。
サミルシシスに呪わせた山だ。
儂はルサンティーナと共に在る。
奴はルサンティーナに近寄れぬ。
奴は儂が呪った。愚神としてやったのだ。
善神には戻れぬよう縛ってやった。
何をしようが悪神にしか成れぬ愚神だ。
儂の子だ! ザブダクルは儂の子だ!》
〖そうかい……可哀想にねぇ。
ザブダクルは優しい子だったよ。
何度も襲われているうちに呪われちまったんだねぇ。可哀想に……〗
オーロザウラが似たり寄ったりを繰り返し始めたので、もういいだろうとアミュラが呟いた。
【だから執事達を拒絶し、真四獣神様の御言葉に耳を傾けなかったのですね?】
獣神秘話法はオーロザウラには届かないので、騒ぎ続けているオーロザウラの言葉を聞きながら話している。
〖そうだろうよ〗
【今は、確かに忘れ易く、配慮には欠けておりますが、善神をしております。
呪が弱まったのでしょうか?】
〖どうだかねぇ。
心許せる友でも得たのかい?〗
【そうですね。
弟マディアは妻を封じ隠された為に逆らえず側近となりました。
ですがザブダクルは封じた事を忘れてマディアを友だと思っているようです】
〖そうかい。
このままだといいんだけどねぇ。
とにかく気を緩めるんじゃないよ〗
【はい。そう伝えておきます】
《儂の勝ちだ! 思い知れ婆ァ!
いずれザブダクルが滅してくれよう!
お前も! お前も! 世の全ても共にな!》
〖ああ煩いねぇ。もう黙らせるよ〗
【はい。お願い致します】
静かになった封珠を握り締めてラピスリは火口に向かった。
【ねぇ瑠璃、これから どうするの?
敵神の呪を解くの?】
【それは難しいな。
この悪神は、とても古い人神だ。
古の人神しか知らぬ人神のみの術しか使わぬ。
獣神は そもそも知らぬ術だ。
今の人神は忘れ去っている。
如何にすべきか……】
【瑠璃の仲間は?
探すの、協力してもらわない?
さっきのを敵神に軽く話したら堂々と協力し合えるんじゃない?】
【そうか。それは良い考えだな。
明日、昼間に最高司殿と話してみよう】
【俺も連れて行ってよ。話すから】
【また何を企んでいる?】ふふっ♪
【人聞き悪いなぁ。
悪神の真核が俺を人神だと勘違いしたんだよ。
だから敵神にも人神だと言ってみるよ。
でも敵神は獣神様に慣れているからドラグーナ様を感じ取ると思うんだ。
だから半龍半人神だと名乗ってみようと思う】
【それは面白い試みだな】ははは♪
【マディア様も喜んでくれるといいな】
【笑いを堪えるのが大変だろうな♪】
【それなら良かった♪】
火口に着いたのでサッと気を引き締めると、オーロザウラの魂片を神火に投じた。
―・―*―・―
「彩桜、そろそろ寝ないと」
「ん♪」もぐもぐもぐもぐ♪
「彩桜は闇障だよね?
でもラストの、光明を使ってなかった?」
「ん~~?」ごっくん。「覚えてにゃ~い♪」
「ホントに?」
「うん。お猿さん強かったから無我夢中だった~♪」
「たぶん使ってたよ」
「じゃあ~、もっと修行ガンバる~♪」
「ボクも頑張るよ♪」
「うんっ♪」
ドラグーナが闇障持ちなのでラピスリにも知らず知らず少しだけ入っていたようです。
彩桜はドラグーナと同じく基底は光です。
闇障で光を反転させて強力な闇武器とし、更に反転させて光明化。器用です。
青生は闇障の反転能力な光明を持ちましたが、瑠璃が結婚の絆を使って光明を使っていましたので、青生も絆利用で瑠璃の闇障が使えるように修行するでしょうね。




