野望は持たず希望だけ
大部屋の少年少女は、明け方にガネーシャが縛りを解いたので、目覚めて以降は動けると大喜びで、点滴が終わった者から順に管やらを外してもらい、朝食、入浴と人らしさを取り戻していった。
「見て見て~♪」「浴衣あった~♪」
女風呂からミコトとカリナが真っ先に戻った。
「へぇ、ソッチは浴衣なのか」
男達は甚平を着ている。
「何もかもが至れり尽くせりだな」
「「オロチん似合う~♪」」
宮東と家西が大きな箱を運んで来た。
「湯冷めする前に羽織ってね」
「人数分ありますからね」
「なになに~?♪」「コレなに?」
取り出しても若者には分からないらしい。
「「でもカワイイかも~♪」」
選んでいる間に次々と戻って来た。
「あ♪ ハンテンだ~♪」
「ハンテンってゆーんだ~♪」黄色にしよ♪
「カワイイよね、ハンテン♪」じゃピンク♪
「懐い~♪ ばーちゃんが着てたんよ~♪」
紺地で猫柄のを選んだ。
「ネコち、ばーちゃんと住んでた?」
「うん。まだ生きてるかなぁ。
ナンか会いたくなっちゃった……」
「白久サンに言ってみ?」
「けど親には会いたくないかな……」
「「あ~、わかる~」」
「こんなの言ってたら怒られるよね」
医者達をチラ見。
「あ~ね~」「オトナってね~」
他の少女達も医者達を見る。
「事情も知らないのに怒ったりなんかしないよ」
「そうですよ。帰れとも言いませんよ」
「そっか。オトナってヒトククリにしちゃダメなんだよね」
「センセー達って仕事は?」
「白久サンの助手?」
「今、仕事してるんよ。ここ病院っしょ」
「「そっか~」」
「普段は病院じゃないよ。
僕達の病院は今、建設中なんだ。
南渡音に――」「渡音!?」一斉!
「ここ渡音なんですか!?」
「うん。中渡音だけど?」
「どーやって運ばれた?」「スッゲ……」
「僕達も知らないんだ。
点滴とか手伝ってくれと夜中に呼ばれた時には、もう皆が布団に居たんだよ」
「後で状況は聞きましたけど、臭いすらも残っていませんでした」
「白久サンが運んで洗って?」
「兄弟揃っていたし、奥さん達も居たよ」
「7人兄弟で、上6人は結婚しています」
「コッチ39人か……」
「感謝を伝えねばな」
「だね、オロチん。
ヤマトは? またバカ言う気?」
「言わねぇよ! 今スゲー反省中」
「ん♪」
「そーいや暴れたいとか盗もうとか思えなくなってるな」
「バカヤマトだけ~♪」「だから反省中!」
「ごはんオイシイし~♪」
「フトンあったかだし~♪」
「旅館みたいなお風呂だし~♪」
「ミンナと笑えてサイコーだよね~♪」
「でも……ずっとなんてムリだよね……」
「そうだな。これからを考えよう」
「だね。いつまでもガキしてらんないよね」
決意の眼差しで頷き合う若者達だった。
―◦―
居間では、まだ白儀と若威が話していた。
メインは輝竜兄弟のスケジュールに関してだが、余談は方々に広がっている。
【なぁフェネギ】
【どうかしましたか?】
【レストランのスケジュールって?】
【黒瑯様は ご自分が抜けてもオニキスがフォローするから大丈夫だと仰いましたよ】
【うわぁ】
【イベントと同様なお手伝いでしたら社で修行中の者を連れて参りますよ】
【頼む!
そーいや夜中、どっか行ってたのか?】
【唐突ですね。
リグーリを手伝いに行っておりましたよ】
【大陸の何処に!?】
【そう驚くような事ですか?
私はよく大陸に行っておりますよ?】
【エィムがヒマラヤに調べに行ったんだよ!
だから白猫をラピスリに預けたんだ!】
【ヒマラヤ……ではリグーリも近くに居りますので大丈夫でしょう】
流石に爺様姿はしていないだろうが仲良し師弟なので協力している筈。
【あのなぁ、今リグーリが行ってるならヤバいって事だろーがよ。
探り持ちじゃねぇ神なら蛇が探索イチバンだろーがよ!】
【確かに……では私も――】【私が行こう】
【エィムを頼むラピスリ!】
【私も感じていたのでな。
診察は、このままメイに頼んでもよろしいか?】
【ええ。梅華は、すっかり慣れて楽しんでおりますので】
【では此方はお願い致します】
―・―*―・―
【ねぇサーロン。俺も行きた~い】
【ダメだよ。授業中なんだから】
【行きたいにゃ~ん】
【彩桜、今は偵察だけだからね。
夜に皆で行こう】既に大陸な青生の声。
【うんっ♪ サーロンも一緒ね♪】
【うん。そうしてね】
―・―*―・―
「若威君は政治家になって何をしようと考えていたのですか?」
「あ~、それですか……」
「目指したい理想等があったのですか?」
「政策とかは何も。
ただ偉くなって財産を得ようと……。
その近道が政治家だと思っただけなんです」
「財産を得て何を?」
「フリューゲルを呼びつけて自分だけにライブを……個人的にも親しくなりたくて……」
「ほぼ叶いましたね」ふふっ。
「あ……確かに」
「ライブも叶いますよ。
この家にはホールもありますので」
「え……? ホール!? この家って!?」
「龍神様のお宅ですのでね」ふふふっ♪
「凄……あ!」
「どうかなさいましたか?」
「白儀社長にお願いしたかったんですよ!
支部長、お願いします!」
「はい? それは若威君の仕事なのでは?」
「昨日メーアから、スタッフになったから『20番の金盤は若威に固定だ♪』と言われて決めたんです。
もう願望は叶いましたから野望は持たない。
持つのは希望だけ、って。
だからヒラでいいんです。
俺には支部長が必要なんです。
ええっと……昨日の時点では漠然とでしたけど、今ハッキリそう言葉になったんです。
ですからお願いします」
「そうですか。
ではフリューゲルとマーズとに相談してみますね」
玄関チャイムが聞こえた。
リーロンが対応し、慌てた声が聞こえてきた。
「もしかして香鳥さん?」
「香鳥さんですね。
若威君を心配していらしたのでしょう」
言い終わる前にドアが開き、香鳥が駆け込んで来た。
「副教育長! 元気そうだったぁ……」
「香鳥さんもどうぞ」椅子を示した。
「白儀先生……」椅子には行かずにハグ!
「おやおや。
私は楽しく暮らしておりますので、ご心配には及びませんよ。
ですが ありがとうございます」
「先生~~」
「はい。落ち着いてくださいね。
若威君が驚いていますよ」
「あっ」ササッと椅子へ!
「若威君、私は教師をしておりました。
香鳥さんも教え子なのです。
その香鳥さんも教師をしておりました。
此方の六男と私の甥が教えて頂いたのですよ」
「縁なんですね」
「そうですね」
「穏やかに話してるぅ」
『辞職願』と表書きがある白い封筒をテーブルに置いた。
「警察の方が届けてくださったの。
マンションから飛び降りるくらい悩んでいたのね……」
「何度もイジメ問題を揉み消してきました。
自分の経歴に汚点を付けられたくないという個人的な理由で。何度も。
ですのでクビになる前に自分から。
それだけですので」
「そうなのね。
でもスッキリした顔ね。もう悩みは?
それよりも怪我は!?」
「怪我は奇跡的に何ともありません。
悩みの方も、もう大丈夫です。
これからは野望じゃなく希望を懐いて、新たな仕事を通じて償っていきたいと考えています」
「その生き生きした瞳に負けたわ。
説得なんて無駄みたいだから、これは教育長に提出するわね。
あら、良い香り……」
いつの間にやら前に紅茶のカップが置かれていた。
「紅茶も良いものですよ。
とても穏やかな心地になります。
どうやら奥も深いようですよ。
これから白儀社長から教えて頂きます」
「社長!?」
「はい。マーズ事務所社長で、フリューゲル事務所の邦和支部長。
俺の素晴らしい上司です」
「『俺』……? ずっと『私』だったわよね?」
「もう取り繕う必要も、飾る必要もありませんので、素の『俺』で。
仕事上必要なら『私』も『僕』も使いますけどね」
「生き生きどころかキラキラね……」
「ね、包帯ぐるぐるだったお兄さん?」
手を繋いでいる男の子達が横に来ていた。
「あ……うん、そうだよ。
……でも、君達のお父さんくらいの歳だから『オジサン』でいいよ」
謝罪などの言いたい言葉は全て呑み込んだ。
「でも結婚してない人にオジサンはダメって」
「うん。お母さんから言われたよ」
「そうか……それなら、うん。
香鳥さん、前は教育に生涯を捧げるからと断られましたが、あれは俺がイケ好かない奴だったからだと今では思っています。
俺は飛び降りて生まれ変わりました。
今の俺に、もう一度チャンスをください。
結婚したいと思える女性は香鳥さんしか居ないんです。
これからの俺を見て、改めて答えをください」
「ちょ、ちょっと待って! 私の方が歳上!」
「関係ありません。好きなんですから」
「オジサンなんて呼ばれたいからなの?」
「それはキッカケです。
この想いは前からですので」
「えっ、えっと~」
〈お兄さんガンバレ~♪〉
〈この話し方、悪魔の……〉
〈ちがうよ♪ ニンジャの話し方♪
マーズマンが教えてくれたんだ♪
お兄さんも、もうマーズマンのナカマ♪
だからガンバレ~♪〉
〈ありがと♪〉
と、春希と話している間も若威は香鳥に真剣な眼差しを向け続けていた。
「もうっ。見ておくから見つめないでっ。
すぐに返事なんて無理よ。いい?」
「はい♪」
狐儀と理俱が ずっと追っていた件と、エィムが雪山にヤマトを連れて行った時に感じた違和感は同じなんでしょうか?
だとしたら何が居るんでしょう?
家出少年少女達は元気になって将来を考え始め、春希も良い子に、若威も すっかり良い人になりましたから、次はヒマラヤですね。




