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翔³(ショウソラカケル)ユーレイ探偵団1.5  外伝その1 ~探偵団の裏側で~  作者: みや凜
第三部 第28章 悪神起因の様々な犠牲者達
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フリューゲル事務所 邦和支部



「お前らはクラシック界にはキリュウ兄弟で、地元では馬頭(マーズ)雑技団でデビューしている。

 だから今度は俺達フリューゲルの相棒なマーズとしてロック界にデビューだ♪」


「ったく~」


「大勢がお前らを求めている。

 求められるのは幸せな事だと俺は思う。

 そのライブ、出演者は誰だとしてチケットを売ってるんだ?」


「求められるのは幸せ、か。確かにな。

 出演者はシークレットにしていた。

 地元だからな、それだけで馬頭だと思ってくれる。

 で、誰が出るのかも知らずにチケ完売だ。

 出演者は来週頭に発表する予定だった。

 アルバムと同じフリューゲル&マーズで発表するよ」


「それならアルバムの宣伝も その日からにしないとな♪

 予約開始も早めるぞ♪」


「ったく上機嫌だな♪」


「当たり前だろ♪

 でな、邦和にも俺達のスタッフを置きたい」


「そりゃトーゼンだな。

 ツアーの手配やらもあるもんな。

 誰か来るのか?」


「いや、邦和で雇う。あの包帯男だ♪」


「若威を!?」


「アイツの罪は法で裁ける部分が少ない。

 だから刑務所行きにはならない。

 そう警官と弁護士達が話していた。

 だが職は失う。信用も何もかもだ。


 アイツは痛みと闇だけになっても俺達の曲が聴けるのなら、50年もの間、動けないままで生きてもいいと言った。

 この家のホールで楽しんだ後、彩桜がアイツに聴かせる為だったと種明かしして、アイツの(マンションの)部屋に連れて行ってくれた。

 アイツが持ってたCDは全て金盤だった。

 俺達のCDは0番がマスター。

 1~100が金盤で、以下、予約分にはシリアルナンバーが刻印される。

 金盤のうち20番まではメンバーも含めて製作に関わったスタッフが持つ。

 だから販売されるのは世界に80枚だけだ。

 悪魔の力を使ったのかも知れん。

 だが、そうまでしてアイツは金盤を揃えてくれたんだ。

 だからきっと俺達の為に喜んで働いてくれると思う。

 で、マーズ社長の下に置いといてくれないか?」


「よ~く解ったよ。

 ちょうど社長の部屋の隣が空いてる。

 ま、身元引受人が必要だし、ウチで引き取るよ」


「そうと決まりゃ落ち込んでるアイツに話してやらないとな♪」



―◦―



 瑠璃は忠野家の部屋で美鶴(みつ)に治癒を当てていた。

今、姉妹は風呂に行っており、泣き疲れた正義と春希は手を繋いで眠っている。


「あの子の話、本当なのかしら……?」


「有り得ると思いますか?」


「そうよねぇ」


「春希君なりに考えた慰めの言葉なのでしょう。

 突然、父親を失ったのは同じですので。

 春希君は『突然』を受け入れる為に物語を作っていたのではないかと思います。

 その成功した経験から考えたのでしょう。

 誰かを悪者には出来ず、自分自身を悪者にしたのでしょう」


「優しい子ね……」


「はい。

 ですから支え合っていけると思います」


「そうね。

 あ、そうだ。あの子のご家族は?

 心配してるはず。

 ご挨拶に伺っても?」


「では、美都さんと美那さんが戻りましたら、ご案内します」


「あなたも優しいわね」


「いえ、そんな……」


「私も治していただけたから、明日は正義の転校手続きをしに行かないと」


「全て終わりました。

 登校は来週からです。

 今のところ住所を変更したのは美都さんと正義君のみですが、如何なさいますか?」


「私も一緒がいいから、明日にでも。

 美那も一緒にしておきましょ」「何が?」

風呂上がり姉妹が入って来た。


「もう一緒に住みましょ。

 同じ中渡音なんだから」


「いいけど、ずっとお世話になるつもり?」


「じゃなくて、この近くに借りましょ」


「それならいいよ」

「でしたら、1軒 挟んで東の家にどうぞ」


「「「え?」」」

流石 母娘なソックリ驚き顔が並んだ。


「美都さんと正義君の住所は、既に其方にしておりますので。

 その東隣は春希君のお宅になる予定です。

 食事、入浴は遠慮なく此方にどうぞ。

 勉強会もしておりますので、いつでも。

 荒巻の車も利用してください」


昼間、結解が白久に確認しに来たのは、東隣の家から転勤で引っ越しだからウチも頼めないかと聞いたからだった。


「至れり尽くせり~♪」「家賃は!?」


「友から貰おう等とは考えておりません。

 では、参りましょう」


「そうね」「お母さん?」「どこへ?」

「春希君のご家族のお部屋。ご挨拶♪」


「だったら私も!」美都が追った。

「美那は2人を見てて」


「は~い」



―◦―



「お~い、何とか言えよな」


「無理だよ。こりゃ、感動で真っ白だ。

 メーアだってスンゲーファンだと言ったろ。

 そんだけのファンならメーアが雇うと言ったら当然こうなるよ」


感動して両手を胸に当てて天を仰ぎ、涙ぼろぼろで唇を震わせている若威を眺めながら話しているメーアと白久だった。


「ま、これなら断ったりしないだろ。

 契約書は?」


「ベルリンの事務所にしか無い。

 メンバーに持って来させるよ」


「ん。すっかり元気だからマンションの部屋のCDとコンポ、運んでおくよ。

 別の何か置いてカモフラしねぇとな」


「カモフラ? どうして?」


「たぶん明日にはサツが入る。

 CD持ってかれたらコイツ泣くだろ」


「忍者仕事か♪」


「確かにな♪」部屋から出た。



―◦―



 春希の母・秋菜(あきな)も家の話で驚き過ぎて暫くは言葉が出なかった。

「で、ですが、マーズタウンのお家は……?」


「ご心配には及びません。

 入居希望者は多く居りますので。


 その家の方々が引っ越した後、リフォームをしてからのお渡しになります。

 ですので、ひと月程は此方で」


冬輝と秋葉が大喜びで跳び跳ねている。

「「おやつ~♪」」


「引っ越して以降も、勉強会にでも遊びにでも来ればよい」


「「うんっ♪」」



―◦―



 白久が紅火にカモフラ物の相談をすると、頷いた紅火が往復して、あっという間に両方の部屋を仕上げた。


「コンポ、改良したのかぁ?」


「当然だ」


「防音は?」


「完璧だ」


「向こうに何 置いたんだぁ?」


「大小のスピーカーの代わりに観葉植物。

 大型コンポの代わりに冷蔵庫付きレンジ台。

 CDラックの代わりに酒の棚」「酒だと!?」


「心配するな。瓶だけは高級酒のものだが、中身は安酒に変えている」


「その中身は!?」


「む」白久の肩に触れて瞬移。



――作業部屋の隅には陶器瓶が並んでいた。


「あれか!♪」


「好きにすればいい」


「ありがとな♪」


「瓶は金錦兄が欲しそうにしていた」


「すぐに空にしてやるよ♪」


「メーアと若威にも飲ませてやれ」


「だなっ♪ 祝宴だ♪」



―◦―



「メーア、ど~だぁ?」


「少しだけ正気になった」


「そんじゃあフリューゲル事務所 邦和支部で若威の再出発祝い、やろーぜ♪」


「もう出来上がったのか♪

 忍者仕事は早いな♪」


「任せやがれ♪ お~い若威、移動だ」


「は?」


「だからフリューゲル事務所 邦和支部に移動して祝宴するんだよ」


「祝宴?」


「おい、身体が動くようになって脳ミソが動かなくなったのかぁ?」


「違いますって!

 驚き連続で混線してるだけです!」


「よ~し♪ 元気になったなっ♪」

「ほら立てよ。行くぞ。飲むぞ♪」


「はいっ――ぅうっ……」


「おいおい泣くな~」「何で今なんだよ?」


「だって……泣くでしょ……こんな俺に……」


「メーアそっちな。運んじまお~ぜ」「だな」



 両脇を抱えられて、運ばれて支部の中へ。

「コレな~んだ♪」


「へ? まさかっ」CDラックに へばり着く!

「俺の宝物!? このナンバー、間違いない!」


「運んどいたよ。明日にはサツが入るからな。

 ソイツ押収されたくねぇだろ」


「あ、、ありがと、ござい、ますっ」


「持ってかれねぇよーにしても泣くのかぁ」


「だって、感動っ、だしっ」


「お父さん、お母さん。ど~ぞ♪

 すっかりイイ息子になったでしょ♪」手招き♪


「猛っ!」母の方が号泣!

「猛、これから頑張れよ」父は笑顔。


「頑張るよ。今度こそ」


「先輩方も、ど~ぞ♪」


山土 海波 天河が恐る恐る入って来た。


「あっ、ああっ!

 先輩、申し訳ありません!」深々っ!


「もういいよ。確かに自力じゃあ、一浪しても無理な大学に行けたんだから」

「いい会社(とこ)に就職できたし、昇進の口添えもしてもらったしな」

「そうだな。見合いも世話になったしな」


「先輩……」


「「「泣くなって」」」よしよし。ポンポン。

肩を押し上げて起こさせた。


「……ありがとうございます。

 あっ、お子さんは!?」


「無事に目覚めたよ」

「治療が桜吹雪だったよな♪」

「不思議だったけど綺麗だったよ」


「そうですか。良かった……」


「今は各々が母親に包まれて眠っているよ」

「安心して、ぐっすりすやすや。普通にね」

「い~い光景だったよな」「「そうだな」」

「あ、CDとコンポがある」「運んだのか?」


「運んでもらえたんです」


「聴きたいな」「フリューゲルだったか?」


「え? それなら――」メーアを見た。


「ん? だったら、そのプレのを頼む。

 俺まだ聴いてないんだよ」


「はい♪ 楽しみだ~♪」

全てを語り、全てを失った後ずっと抱き締めていたので、そのまま持って来ていたCDをセットした。


「さっきの何語だ?」「英語じゃないよな?」


曲が流れ始めた。


「ドイツ語ですよ。

 どうぞお掛けになってください」

また感動うるうるになった若威の代わりに白久が促した。


「彼は?」「その、ドイツ語の」


「今 流れている歌声は彼のものですよ。

 フリューゲルのボーカリストでリーダー、メーア=ドンナーです」

にこやかな白久は、黒瑯に軽食を並べてもらったテーブルに酒瓶を置いた。







春希の家族、正義の家族は輝竜家の近所に住むと決まりました。

そして全てを失ったと絶望していた若威はメーアに雇ってもらい、宝物のCDも失わずに済んだので、もうこれ以上は何も要らないと思えるくらいに感動しています。

まずまず めでたし めでたしです。



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