踊らされた若威
「魂を……売ってしまっていたのか……。
俺はオーラマスクスを利用していたつもりだったのに……」
「自惚れさせるのも悪魔の手法だよ。
そうして盲目状態になってくれれば操り易くなるからね」
「悔しいよ。それに悲しいのかな?
泣きたい気分だ」
「10年以上も愚かな生き方をしたと知ったなら悲しくもなるだろうね。
最初に奴の声を聞いたのは?
今の記憶でいいから話してみて」
「中学の頃……受験を控えていたから3年の秋。
これから望みのままに生きたいのなら言う通りに修行をしろと。
その前なんて知らないから、これが最初。
高校の入試には間に合わず、渡音高に。
高校の間に支配という力が使えるように修行しろと。
その力を試すのに部活の先輩をマトに。
操禍という力も少しだけ。
でも支配が優先だと。
俺は東京の大学に行きたかった。
だから先輩の中から1人、今度は同級生になってもらおうと支配を利用して体調を崩させて一浪させて……一緒に受験。
支配の力でカンニングさせて一緒に合格。
そこからは下克上で俺の方が上に。
あとは……ツテも何も無い俺が政界を駆け上る為の基盤を固めようと、俺に都合よく就職させて。
先輩達の子供はオーラマスクスが。
欠片が降りて来たからと、次々と。
欠片を宿した子を闇に落とさねばならぬ、とか言って。
違法な事と言えば、教育委員会で。
教師もしてないのに入り込むのにも支配を使ったし、出世するのにも。
問題が起これば無かった事にしたのが違法だったり、そうでなくてもバレれば即 地位を失うような方法ばかり。
俺がしたとは思わないように支配を使って、自殺しない程度に追い詰めて、教師なら異動させて、子供なら市外に転校させて。
でも……この前のは……あの教師、忠野がシツコクて。
イジメなんて認められないと繰り返しても何度も来て、先輩達の子らが行方不明なのも絡んでる筈だって。
欠片の器を鍛えるのを妨害して、俺の道に汚点をつけようとしたんだ。
困っていたらオーラマスクスが忠野の住所に行けって。
行ったらドアに両手を当ててろって。
寒いのに。
『これでいい。これで器は闇に堕ちる』
そう言う迄ずっと、ただ そうしていたよ」
「オーラマスクスは忠野に向けて禍を放っていたんだ。
それに神に感知されないように隠蔽もね。
君の操禍を鍛えていなかったから、それらに時間が掛かったんだよ。
その日、忠野は『欠片の器』から禍を浴びていた。
そのままでも数日で死に至っただろう。
しかし それでは誰かに連絡されてしまう。
そうなると神にも知られる可能性が高い。
面倒な事になるとオーラマスクスは思った。
それに『欠片の器』を闇に堕とすのに好都合だった。
『欠片の器』とは会ったのかな?」
「いえ……大呂 春希という名前だけしか……」
「去年の多重事故には?」
「近くに居ましたよ。
オーラマスクスに急げと言われて走って。
黒い何かが降って、人や車に着いて。
オーラマスクスは笑っていて。
東西から走って来ていた2台の車を示して、交差する直前に放てと。
放った禍が2台を包んで……大事故に。
巻き込まれる前に逃げろと言われて走ったから後は知らないけど」
「黒いものは死印。
即効性なんて無いのに直ぐに事故が起こったのは不思議でならなかったんだ。
当時の僕は死神見習いだったから、残念ながら探るなんて無理だったんだ。
その2台の車、片方は黒い高級車だよね?
もう片方は?」
「シルバーの乗用車。
オーラマスクスは器の親だと、何日か後で言ったよ」
「春希、もう落ち着いたかな?
聞いた通り、全てはオーラマスクスが仕掛けていたんだ。
忠野先生は春希がイジメられていたのを放置なんてしていなかった。
けれどもオーラマスクス達に殺された。
春陽もオーラマスクスに殺されたんだ」
「僕……僕がマサキくんのお父さんを……忠野先生を……」
「全てはオーラマスクスだよ。
春希は いいように使われただけ。
と言っても納得できないだろうね。
正義に全てを話しても信じてもらえないよ。
何も話さずに友として支えてあげるのが唯一の償いの道だよ。
さて猛。君の方は?
その違法の全てを話さない?
不幸にしてきた人達に償わないのかな?」
「もう……話すよ。
その子が聞いてたのなら先輩達も聞いているんだろ?」
「聞いてもらっている。
君の両親にも、警察の人にも」
「既に俺、終わってたのか。
ここからは警察の人だけでいいと思う」
「そうだね。皆さんは居間の方に。
瑠璃先生、お願いしますね」
―・―*―・―
【ね、もしかして理子さんも抗ったのかな?】
【家族を全て失ったから?】
【うん……なんか違うとも思えるけどぉ】
【そうだよね。少し……違うのかな?】
【にゃ~んか引っ掛かるんだよねぇ】
【うん……】【彩桜様、サーロン】
狐松がチラリと睨んだ。
【狐儀師匠は引っ掛からにゃい?】
【今は授業中です。それは後ですよ】
【はぁい】【はいっ!】
―・―*―・―
居間では美那が炬燵エリアで猫達と遊んでいて、秀は その近くのソファで読書をしていた。
「あ♪ 瑠璃先生♪」
「そのトラ3匹が、あの時の猫だ」
「なつこくてカワイイ~♡」
「ところで恋人か?」
「違う違う! 白久さんと話したいって、ついて来ちゃったんですよぉ」
「ふむ」「来ていいって言ったじゃないか!」
「ウルサイぞ。病人が大勢だと言ったろ。
静かに待てないのなら帰れ」
白久がドアから睨んで、引っ込んだ。
「確かに病人が大勢だ。
それに、この時間に来たのならば夕刻迄は待つ覚悟だったのだろう?」
「そうです」
「此方の方々は これから昼食だ。
静かにな」テーブル席の方へ。
「はい」ペコリ。「ね、誰?」コソッと。
「お姉ちゃんのお友達で、お医者さんで、いくさ女神様♪」
「戦女神様ね……」確かに美人で威風堂々。
「詳しくは荒巻さんに聞いてよね」
「そう言えば、どうして荒巻さんと?」
「いくさ女神様のお友達だから、かな?
昨日ちょっとね、大変な事あって東合の家まで迎えに来てくれたの。
で、暫く住むってなったの。
今朝は便乗しただけ。
来光寺君は?」
「爺様の専属運転手なんだよ。
最近は爺様も家に居る事が多くなったから荒巻さんとも会ってなかったけどね」
「なんか~、お嬢様の専属運転手してるよ」
「お嬢様ね……」
「どうして不満そう?
あ♪ 坊っちゃんて呼ばれてたよね♪
僕の方が上だって不満顔なんだ~♪」
「悪かったね。確かに僕の父は社長だよ」
「へ~、そ~なんだ~」
「驚いたりしないの?
僕と結婚したら玉の輿だよ?」
「ん~~~、そういうので選びたくないな。
もしも荒巻さんと来光寺君の2択だったら、荒巻さんを選ぶかな~」
「どうして!?」歳、倍近いのに!?
「またウルサイって言われちゃうよ?
どうしてって……人徳? 深み?
私、お父さんの記憶って あんまりないの。
だからファザコンなのかもね~。
あれ? 来光寺君?」
「いや……何でも……」こんなフラれ方あるかよ。
―◦―
大部屋の白久の方は、治ったら好きにすればいいと前置きしてからミツケンについて話した。
「――って何でも建てる建築屋だ。
年中無休で社員募集している。
だから受けたければ いつでもだ。
家族用の社宅、独身寮完備だ。
他の仕事がしたいのなら支援くらいはしてやろう。
勉強がしたいのなら、その支援もな。
とにかくだ、お前らは若い。
まだ何度でも仕切り直せる。
だから諦めるな。夢を捨てるな。
ウルサイ オッサンの話は以上だ」
サッサと居間に向かおうとする。
「待って! えっと、ください!」
「んん?」
「他のグループは? 俺達だけ、ですか?」
「来たいってんなら連れて来いよ。
言ったろ? 年中無休で社員募集中だって。
けどまぁ連れて来る為にも先ずは治せよな」
「はいっ♪」「トモさんとツルさんは?」
「ん~~~ま、隠してても仕方ないか。
朝明と実弦は服役中だ。
今のトコは薬物所持と売買でな。
4月からは殺人の方の裁判も始まる。
有罪確定なんだがな。
だから長くなる。けど出たら俺が雇う」
「夜中に居たのは?」
「犯罪の芽を摘む為と理由付けて特別に来てもらったんだ。
アイツらは、すっかり改心している。
だからダチになった。
これからも俺達は持ちつ持たれつだ」
「そーゆーオトナもいるんだ……」
「ひと括りにすんな。
お前らだってガキと ひと括りにされたら怒るだろーがよ」
「そっか……」
「納得したんなら俺は行くぞ~。
仕事あるんだからな」
「あ! メーアは!?」
「さっきメシ食ってたよ。
通訳なら俺の先輩も後輩もドイツ語ペラペラだから頼めよな。
おう結解、ど~したぁ?」
「今なら此方かと。
確認したい事が――」
「ユゲさん、お疲れさまデス!」一斉。
「んっ」!???
「結解、4月から主任に上げる。
結解班を3班に分けて各3、4人ずつ新人を入れる。
新人教育重視の班だ♪ 頼んだぞ♪」
「っ!?」
「結婚もするんだし、そろそろ主任――いや、課長にすっかぁ♪」
「しゅ、主任でっ」
「よーし決まりだ♪
お前ら、結解班は優秀だ。
そこに入りたいなら来月は勉強の面で根性見せろ」
「はい!」また一斉。
若威は全てを話し、春希も全てを知り、家出少年少女達は前を向いたようです。
全ては少しずつですが進んでいます。
春希が正義に対して、これから どうするのかという問題はありますが。
エィムも考えを巡らせているようですから、きっと良い方向に進んでいく筈です。




