マディア
エーデラークは翌日が休みだからと帰ってしまった。
ナターダグラルが名残惜しさを込めた神眼でその姿を追っていると――
〈最高司様、
今よろしゅう御座いましょうか?〉
〈よい。入れ〉
エーデラークを見ている場合ではなくなったナターダグラルは、清き最高位死司神である最高司としての威厳を纏い、姿勢を正した。
「失礼致します」
「如何した、ルロザムールよ」
「は。
最高司様はモグラと呼ばれております怨霊を御存知で御座いましょうか?」
「ティングレイス王が飼っている獣憑きの人霊であろう?
堕神を喰らわせているとの噂ならば耳にしておる。
その分、導く魂が減ろうとも、王からのお咎めは無いから案ずるな」
「はい。その点は安堵致しました。
ただ……未だ確かなる事では御座いませんが、そのモグラが我々死司神の邪魔をしているようなので御座います」
「ふむ……では、明らかに阻害したと言える証拠と共に、捕らえて連れて参れ。
神王殿に突き出せば、この悪政に物申せるであろうよ。
神世は清くあらねばならぬからな」
「は。では力を尽くし、捕らえてみせます!」
「期待しておる」
「は。有り難き幸せ。
して……エーデラーク様は……?」
「明日は久方ぶりの休日であるからな。
おお、そうだ。明日は私の補佐を頼む。
都合が悪ければ他の者に――」
「喜んでっ! 最優先でっ!
補佐の任、務めさせて頂きます!
下位に指示を致しましたならばっ、直ぐにお側に控えさせて頂きますっ!」
―・―*―・―
「只今戻りましたよ、マディア」
「うん♪ お帰りエーデ♪
神王殿を出てからずっと見てたよ♪
ってコトは、僕は女になればいいんだね?
エーデラーク様の妻なんだから♪」
「嫌なら そこまでせずとも――」
「ううん♪ 僕、どっちでもよかったんだ♪
禍と戦う為に生まれたんだからって男を選んでたけど、ホントどっちでも♪
ラピスリ姉様の方がず~っと男らしいんだもん」
「マディアの話には、そのラピスリが よく出てきますね」
「うん♪ とっても厳しいけど、とっても優しくて、同代末っ子の僕をいつも護ってくれてた姉様だから大好きなんだ♪
あ、でもイチバンは――」スッと顔を寄せ「――もちろんエーデだよ」チュッ♡
マディアは少しだけ離れると、微笑んで女神になった。
「似合う?」くるんとして頬を染める。
「これで完全に逆転ね……」
「まぁ、僕――じゃなくて私の方が随分と歳下だから、この方がいいのかも、ね」
「歳なんて……」引き寄せて口づけた。
〈気にされると私が困るわ。あら……〉
〈やっぱり追っかけて来ちゃってるね〉
〈恋敵を確かめたいのね〉
〈思いっきり妬かせてあげる♪〉
〈楽しんでるの?〉
〈もっちろん♪ エーデも、でしょ?〉
〈それは……そうね。面白いわよ。
だってマディアに酷い事したのよ?
許せると思う?〉
〈僕はともかく、多くの獣神を苦しめてグレイさんにも酷い事してるのは許せない〉
〈グレイなら目覚めたわよ♪
私達の妹と結婚したわ。
初めて会ったんだけどね〉
〈僕に歳が近い? 誰?〉
〈近いかも……ユーチャリスって――〉
〈ユーチャリス姉様!?〉
〈あら……同代なの?
あ、でも文字数が違うわね〉
〈ふたつ上の代だよ♪
僕達を指導してくれた姉様だよ。
そうか……グレイさんを助けに神王殿なんて危険なトコに潜入してたんだね。
グレイさんと結婚かぁ……お祝いしたいな〉
〈全てが終わったら、盛大にお祝いしてあげましょ♪〉
〈そうだね♪〉
窓の外では、歯がボロボロになりそうなくらいギリギリしているナターダグラルが、仲睦まじい夫婦の真の姿なんて見える筈もない程度の神眼を向け、嫉妬の炎を燃え盛らせていた。
―・―*―・―
話に出てきたラピスリは、この夜も山の社に来てオニキスと話していた。
「そうか、安堵した。
昼間、ミルキィとチェリーからマヌルの里に再度 避難した兄弟の名は聞いた。
他は滝に避難して無事なのだな。良かった。
そうなるとマディアだけが行方知れずなのが気掛かりだが……」
「マディアなら芯が強いから大丈夫だ。
どこかで人神のフリしてるだろーよ。
オレ、鱗ムシられた時も『大丈夫だよ』ってシッカリ言いきったマディアを尊敬してるんだ。アイツ、強いよ。
だから絶っっっ対! 捕まってねぇよ」
「そう信じよう。
もうひとり、行方を捜しているのだが……ルナサフラン姉様を知らぬか?」
「ユーチャリス姉様のすぐ上の姉様だよな?
コッチで一緒に使徒神してなかったのか?」
「三男の妻となるべく人世で生きていたのだが、彩桜くらいの頃、唐突に姿を消してしまったのだ」
「捕まって封じられた、とか?」
「可能性は否定出来ぬが……」
「あ、そっか。
だからラピスリが三男の妻してるんだな?
歳の差婚したのは計算違いじゃなくて、そーゆーコトだったのかぁ」
「その通りだ」
「ん? ナンで赤くなってるんだ?
あ! 幸せ満喫してるんだったなっ♪」
「煩い」
「睨まなくてもいいだろ?
でも……父様とは別だとは聞いたが……父様が元に戻っちまったら、あの兄弟はどーなるんだ?」
「……分からぬ」
「そっか……」
『ドラグーナならば、悪いようにはせぬと言ったのではないか?』
向かい合っていた青龍と黒龍の傍に碧光を纏った大きな白狐が現れた。
「あっ……」オニキスは己が口を塞いだ。
「オフォクス様、お邪魔を致しております。
はい。その通りですが、そう易々と成せる事なのでしょうか?」
龍達は白狐の方を向き、頭を下げた。
「ドラグーナを信じよ。
易々とは成せぬであろうが、彼奴は出来ぬ事を約束なんぞせぬ。
さて、マディアとルナサフランの行方を見てやろう」
「えっ!?」「よろしいのですか?」
「そう遠慮するな。
儂も此の百年、其れなりに修行したのだ。
そう長く眠ったりなんぞせぬよ」
フッと笑って目を閉じた。
―・―*―・―
〈帰っちゃったね〉
〈そうね。泣いてたわね〉
〈思いっきり号泣でしょ。
ま、お互い気をつけるしかないよね。
エーデも油断しないでね。
可愛さ余って何とやらだからね〉
〈解ってるわよ。こっちは憎さなんて百倍なんかじゃ済まないんだから〉
〈禍、生まないでね〉
〈それも分かってるわよ♪〉
〈うん♪
帰り着いてオジサンイジメ始めたね。
思いっきり八つ当たり〉
〈ルロザムールね。彼も憐れなものよ〉
〈死司域は狭いし全て見えるんだけど、広~い浄化域は見えないトコがまた増えたんだよ。
神浄魂エリアなんて、もう殆ど見えない〉
〈また?
マディアにも見えないなんて、どう考えても人神の為せる業じゃないわね〉
〈うん。技にしろ術にしろ、今の人神じゃどう考えてもムリだよ。
獣神をグレイさんみたく操ってるとしか考えられない〉
〈グレイには『何もさせない』だったけど、神王殿や浄化域では強固な結界を維持させているのね?〉
〈うん。そう思うんだ。
捕まってるのは、きっと僕達の兄弟だよ。
神世に残ってる兄弟は、もう易々とは捕まらないだろうから、無自覚堕神を捕まえてるんじゃないかな?〉
〈大いに考えられるわね。
あ……だからランマーヤって女の子をしつこく拐おうとしてるのね。
解った。これからは私が阻止するわ〉
〈ランマーヤって言った?〉
〈ええ〉
〈僕の同代長子、アーマル兄様の子だよ〉
〈そのアーマルも狙ってたわ。
あと、ウンディも〉
〈ウンディも同代だよ♪
そっか。アーマル兄様もウンディも堕神にされちゃってたんだね。
見当たらないから心配してたんだ。
他は…………あれ? マヌルの里に居たミルキィとチェリーが居なくなってる。
……滝のオニキスも?〉
〈連絡を取り合えないのが、もどかしくて悔しいわよね……あ、待って。
ミルキィとチェリーって、こんなコ達かしら?〉
記憶を流す。
〈うん♪ 会ったんだね♪〉
〈妹だとは、すぐに判ったの。
神王殿に入ろうとしていて……でも入るには危険過ぎる時だったから――〉
〈アイツとエーデが行ってたんだね?〉
〈そうなの。だから捕まえるしかなくて。
ちょうどウンディの護りを固めないといけなくなってたから人世に送り込んだの〉
〈ちゃんとウンディのトコに行けたの?
人世も途中の障壁が凄いから全く見えないんだけど?〉
〈浄化も私がしたし、再生域でも弟を見つけて託したわ。新神でミュムってコ。
指導神のハーリィも喜んでたわ〉
〈ハーリィも同代だよ♪
マリュース様の子で、僕と同じ末っ子♪
だったら大丈夫♪
ハーリィなら、先に再生神になったアーマル兄様の弟子になってたんだから♪〉
アーマルの同代末っ子マディア登場です。
ここからの神世のお話の主役です。
アーマルの同代は他の代に比べると多いんです。
(もちろん理由はあります)
ドラグーナが10子生むのはレギュラーです。
オフォクス、トリノクス、マリュースが多く生んだんです。
★アーマルの同代★ ()内:居場所
〔ドラグーナの子〕
アーマル 飛翔 ラピスリ 瑠璃
ウンディ 利幸 オニキス(奥ノ山の小社)
エメルド(禍の滝)ユーリィ(禍の滝)
サーブル(龍の里)ミルキィ 猫
チェリー 猫 マディア(王都)
〔オフォクスの子〕
ロークス(浄化域)ラナクス(保魂域)
〔トリノクスの子〕
フェネギ 狐儀 リグーリ(死司域)
〔オフォクスとトリノクスの子〕
タオファ 桃(大陸)
〔マリュースとバステートの子〕
ディルム(死司域)ハーリィ(再生域)
チャリル(魂生域)
人世の生物とは生み方が違うので男神と男神の子もアリなんです。
まぁ、前回・今回 書いている通り、神様は性別を変えるのも簡単そうですのでなんでもアリです。




