女神の夫の決意
輝竜兄弟は春希をリーロンに任せて、オーラタムを連れてキツネの社に行った。
「「ん?」」「「ナニしてるんだぁ?」」
「リリス、これは いったい……?」
夫と共に戦いたかったが許されなかった輝竜家の妻達は、次こそは戦えるようにと急いで神力を上げたくて、バステートの指導でエィムが運び込んだ死司男神達の支配を解いていたのだった。
もちろん戦い終えた夫が元気に社に来るなんて思ってもいなかったからこそ選んだ方法だった。
〖じゃあボクも~♪〗
青生と彩桜の魂内を確かめていたガネーシャも加わった。
【今は答えるどころではないのだ。
説明するから此方に】
【オヤッサンに聞こうぜ】【だな】
白久と黒瑯が先頭になった。
オーラタムを背負っている紅火が続く。
金錦と藤慈を先に行かせて、知っている青生と彩桜は複雑な表情で最後に。
深く眠ってしまったオーラタムを横たえ、困り顔の稲荷の前に並んで座る。
【【ナニさせてるんだよ?】】
【敵神の支配を解いておる。
支配の神力は知っておろう?
その厄介な神力を解けるのは女神のみなのだ】
【さっき瑠璃サンが やってたヤツか】ふぅん。
【で、ナンで勿体ぶってたんだぁ?】
【其れは……】【結婚の絆から伝わらない?】
【あ……】【む……】【青生コノッ!】
絆が未だな金錦と白久も察した。
【俺に怒ってもね】【青生は平気なのかよ!?】
【少し……考えさせてもらえる?】【おいっ!】
青生は目を閉じて心を閉ざした。
【答えろよ青生!】
【黒瑯兄、落ち着いてよぉ。
纏まらないけど代わりに話すからぁ】
【どーして彩桜が!?】【落ち着け】ポンポン。
【俺、青生兄と連動するの。
だから姉ちゃん達が神様ってのも伝わったの。
青生兄だって嫌なの。
黒瑯兄と同じなの。
でもね、もっと前から知ってたから悩んで悩んで、い~っぱい悩んで見守るって決めたの】
【彩桜ありがとう。
でも、そこまでにしてね】【うん】
【あまり上手く纏まらなかったけど話すよ。
結論としては、俺は瑠璃が神様として動いている時は口を挟まずに見守ると決めたんだ】
【だから、さっきも瑠璃さんだけで行かせたのか?】
【うん。危険で過酷な場所だっていうのは伝わるんだ。
罷り間違って反撃されたら滅されるのは瑠璃の方だっていうのもね。
それでも……俺が引き止めたら瑠璃は困ってしまう。
そんな困らせ方をしたら夫失格だと思うんだ。
瑠璃は俺と一緒に生きる世を護ろうとしてくれているんだから】
【けどっ、アレはナンだよ!
あんな事させやがって!
止めちゃいけねぇのかよ!】
【あれだって敵神の支配で操られて世を乱すのを止めているんだから、世を護っているんだよ。
でも方法は……他に見つけてもらいたいよね。
オーラタム男爵のは少し違っていたけれど、いつもはデレデレ顔の男神様が瑠璃を追い掛けて支配の核に辿り着くんだ。
男神様達だって本来は そんな神格じゃない。
だから解いてあげないと可哀想だよ】
【けどっ】
【うん。よく解るよ。
それならそれで他の女神様に、って思うよね。
でも、その女神様にだってパートナーが居ると思うんだ。
だから瑠璃は自分で背負ってしまう。
俺以上に嫌だと思っていてもね。
皆も女神様と結婚しているから、人も神様も感情的には大差無いって知っているよね。
だから俺は夫として、何があっても瑠璃の帰る場所は此処だよ、って笑顔で両手広げて待とうと決めたんだ。
それが人である俺が神様な瑠璃に出来る唯一の『支えになれる部分』だから。
『妬いてくれないのか?』って言われた事もあったけどね♪】
【そっか……】
【青生、そんな事を考えていたのか】
【お帰り、瑠璃】隣に座れと床トントン。
【ふむ……】
恥ずかしさで顔は上げられないが隣に座った。
【奥さん達も入ってよ。大丈夫だから】
みかんが申し訳なさ気に顔半分だけ見せた。
【み~かん♪】トントン♪
藤慈は迎えに行った。紅火も。金錦も。
【黒瑯は行かないの?
姫って、けっこうナイーブだよ】
【ナンで知ってるんだよ】ムッ。
【大学生の頃、よく相談に乗っていたんだよ】
【ナンで青生に!?】
【黒瑯が見向きもしてくれないからって作戦会議♪】
【って!
あのアレコレは青生の入れ知恵か!?】
【うん♪】くすくす♪
【黒瑯兄様、騒いでいる場合ですか?】
藤慈とリリスは手を繋いで座った。
【早く行け】
紅火と若菜もピッタリ寄り添っている。
【金錦兄は?】
【外で話しているよ。早く行ったら?】
【お、おう】走った。
―・―*―・―
《嬢ちゃん、聞こえただろ?
神と人が結婚してもいいんだよ。
それなりに苦労してるみたいだけどね。
そんなものは人と人、神と神でも同じさね。
そんな気持ち抱えてたら修行も捗らないよ。
サッサとケリ着けちまいな》
〈ですが……サジョール様はお嫌ではないのですか?
男神様なのでしょう?〉
《アタシの事はいいんだよ。
そもそも神の性別なんざ、有って無いようなものなのさ。
だいたい嬢ちゃんの中に居る時点で不整合なんだからね。
そんなのは気にしないでおくれよ》
〈そうですか……〉
《好きなんだろ?》
〈よく……分かりません〉
《バイトを辞めちまったら?》〈嫌ですっ〉
《一緒に居たいんだろ?》
〈……はい〉
《こんなのを答えるのも胸が苦しいんだろ?》
〈はい〉
《何もかもが怖いんだろ?》
〈はい〉
《神も人も恋すりゃ同じさね。
蛇狐の兄さんも嬢ちゃんと同じように悩んでいるよ。
迷惑だろうなぁ、ってね》
〈どうして迷惑だなんて……?〉
《嬢ちゃんが嬢ちゃんらしくなくウジウジぐずぐずしてるのと同じさね。
悩み過ぎる所為かねぇ、何故だか見当違いの方向に行っちまうんだよ。
そうそう、さっき聞こえたんだけどね、兄さん暫く大陸に行くらしいよ》
〈えっ?〉
《何やら燻ってるらしくてねぇ、調査の手伝いらしいよ。
だから次に何時会えるかなんざ分からないらしいよ》
〈そんな……〉
《神の持ち時間は長いからねぇ。
年単位でも人にとっちゃあ長いけどね。
十年なんてのも神にとっちゃあ短いもんさ。
百年でも神にとっちゃあ大した時間じゃないよ》
〈今、どちらに?〉
《店の座敷で調べものかねぇ、本を読んでるよ》
〈行きます!〉走った。
―◦―
「満腹か?」
「うんっ♪」
「フツーなら お粥とかだけどな、シッカリ治癒したから食えたんだぞ」
「チユ?」
「イッパイ神を見たろーがよ」
「ホンモノ?」
「だよ。ヨロヨロなお前を元気にしたんだ。
で、さっき食ったオムライスの卵、お前らが投げたヤツだぞ」
「え……」口を押さえた。
「バ~カ。冬輝にも言ったけどな、腐ってなんかねぇよ。
もしも腐ってたら部屋に居られねぇくらいクッサくなるんだからな。
腹ペコ限界になって、よーく分かっただろーが、食いモンは大事だ。
もう投げたりするなよ」
「はい。ごめんなさい」
「そんじゃあ次は風呂だな。
シッカリあったまれよ」
「うん!」
悟と竜騎が来た。
「春希の命の恩人達だ」
「え?」
「目が覚めた時、ベッドの上だったろ?」
「たぶん……」
「オーラマスクスが会場から逃げた先は南渡音の浜だったんだよ。
夕方には雪が降ってた。
この二人が見つけなかったら凍死してたんだからな」
宮東と家西も来た。「「あっ」」
「で、適切な処置をしてくれた医者が この二人だ。
だから春希は今、生きてるんだぞ」
「あ……ありがとうございましたっ!」
「よく言えたな♪
そんじゃあ風呂 行け♪
悟、竜騎、頼んだぞ」「「はい♪」」
―◦―
沙織は渡り廊下で立ち止まっていた。
あとは目の前の戸を開けるだけなのに、それが出来なかった。
『冷えますから入ってください』
慎也の声に思わず踵を返しそうになったが、魂内からサジョールに睨まれて踏み留まった。
戸が開いた。「風邪引きますよ?」
「あっ、あの……はい。失礼します……」
らしくない、と自分でも思ったが、どうにもならず、俯いたまま入った。
「ええっと、それで何か?」
戸を閉めて元の場所に。
「ぃぇ……」
「もしかして部屋が何か?
方角が悪いとか、、あと何だろ?」
理俱も理俱でアタフタドギマギだ。
暫し沈黙。
「えっと――」「あのっ――」お決まりの同時。
「どうぞ、お先に」
「いえ、先にお願いいたします」
「では失礼して。
明日、正式に届けは出しますが、春の祭事までお休みを頂かなければならなくなりました。
調査で大陸に行きますので」
「弥生半ばには、お戻りになるのですね?」
「一旦は戻ります。
報告しなければなりませんので」
「また、行かれるのですか?」
「可能性はあります」
「そうですか……」
「その……戻った時に、月の女神様を探す旅に、一緒に――」「はいっ!」
「――では一緒に。
月の称号をお持ちの女神様は多いので目星は着けていました。
ですので、確かめに行く旅です」
「つまり父を確かめる為に私が必要なのですね?」
「いえ、その程度でしたら近付けば判ります。
そうではなく、月の女神様にお戻り頂けるよう説得できるのはトモヱさんと沙織さんのみ。
そうなると俺としては沙織さんと一緒に行きたいな、と……。
移動は乗り物ではなく瞬移で、泊まりもしませんので、えっと……」
視線を泳がせる慎也に、沙織は思わず吹き出してしまった。
「はい♪ では、ご一緒に♪」
オーロザウラの真核も浄滅できましたので、少しだけ繋ぎ、と言いますか青生の想いを書いてワンクッションです。
リグーリと沙織も早く落ち着くといいですね。




