卑怯な禍神
【滅禍浄破――】中断。
【金錦兄!】【悪神は!?】弟達の塊が来た。
【引き返した。
欠片が無いと分かったのだろう】
【じゃあ次は金錦兄も一緒にな♪】
【ふむ。もう来ぬだろうな】
【あ♪ 金錦兄 嬉しそ~♪】【む】
【そ、そう、か?】【うんっ♪】
―・―*―・―
こうなれば小娘の所に行くしかない。
しかし随分と遠いのだな。
罠ではあろうが……最強を得るべきだな。
オーラタムは意を決して飛び始めた。
―・―*―・―
「この吹雪の中、帰ると言うのかね?」
太木社長は驚きで目を丸くした。
「ええ。仕事もありますし、また明日、参りますよ。
今日は本当に ありがとうございました」
立ち上がって礼。
「泊まってもらうつもりで引き留めていたのだが、そうか仕事か……その勤勉さや強い意志があるからこその若き常務なのだな。
では気を付けて。
何かあれば遠慮せず電話しなさい」
「はい、ありがとうございます」
にっこり笑顔で颯爽と地下駐車場に向かった。
駐車場から地上に出ると、陽の入りには まだ余裕がある時間にも拘わらず暗くなっており、ライトに照らされた雪は激しく視界を遮っていた。
「すっかり暗いな。
支社長やら工場長やらの幹部会議にまで引っ張り込まれちまったからなぁ。
道……どーなってるんだかだが、他に車は走ってねぇから無問題だな。
最悪、車は放っといて瞬移すりゃいいよな♪」
タイヤは今朝 交換してもらった紅火特製の雪道用。安心して走り始めた。
―・―*―・―
悟と竜騎は輝竜家に瞬移して来たが、慎也から待機だと言われて、八郎の部屋で一緒に瞑想していた。
〖お~いカッパ。近くに居るんだろ?〗
〖居るんだけどねぇ、嬢ちゃんが落ち着かないんだよ〗
〖オイラも悟がイライラだけどな。
ソッチは別問題みたいだな♪〗
〖別問題だよ。
己の気持ちには気付いてるんだけどねぇ、相手は神だと、畏れ多いと押し込んでるんだ。
気にしなくていいと言ったんだけど頑固でねぇ〗
〖その相手は?〗
〖さっき待機だと言ってたじゃないか〗
〖あ~、狐と蛇の〗
〖だよ。死司神しながら神社も手伝ってくれてる真面目で優しい、イイ男だよ〗
〖よく鍛えてるよな♪
悟を留めた判断も的確だ♪〗
〖そうだねぇ。
今の状態じゃ焦りが勝っちまう。
命を捨てるようなもんだよねぇ〗
〖ああ。今は修行。これが最善だ。
けどまぁ、それじゃあ気が収まらねぇ。
だから、あの子供が保護されたら浄化を頑張ってもらうつもりだ〗
〖それが良さげだねぇ〗
〖相手が強いからな。
ドラグーナ達は満身創痍で戻るだろう。
それが最善だな〗
〖イノブタ、眠り修行じゃなくダンマリで聞いてやがったのかぁ?〗
〖じゃなくて聞こえちまったんじゃないかい?〗
〖サジョールが言った通りだ。
サルの声がデカいから目が覚めた〗
〖フン! 悪かったなっ!〗〖まぁまぁ〗
―・―*―・―
邦和は夜に向かっているが、瑠璃達が居る岩石砂漠は夜が明け、じわりじわりと暑くなっていた。
オーラタムは獣神には全く見えないように術で姿を消しているが、青生には見えているし、瑠璃にも僅かに見えていた。
瑠璃が右手で掲げている封珠を奪おうと、右斜め後ろから忍び寄り、残り数歩分を一気に瞬移しようとした その時、瑠璃が向いてオーラタムに近付いた。
「待ってもらおう」
逃げようとしていたオーラタムだったが、つい止まってしまった。
「人世は脆い。長居してもらいたくはない。
神世で戦わぬか?」
「言いなりに移動せよと?」睨む。
「この魂片が欲しいのだろう?
場所を移してくれるのならば渡そう」
「罠だな。その程度、見抜けぬと思うたか!」
「話した通りだ。人世から出てもらいたい。
それだけだ」
「信じられるものか!」
「今、私達は攻撃していない。
それだけで十分ではないか?」
「……ならば先に渡してもらおう」
「ふむ。よかろう。
現状、魂片は人の魂の内に在る。
人は無事に返してもらいたい」
「人なんぞを……」
「嫌ならば急ぎお前を滅するのみ!」
青生とガネーシャも同時に戦闘モード!
「わ、わかった! 欠片のみを取り出す!」
「ふむ」3者、平常モード。
オーラタムは恐る恐るなのを頑張って隠して近寄っているが、瑠璃達にはヒシヒシと伝わっていた。
少し手前で立ち止まったオーラタムが掌を封珠に向けて詠唱を始めた。
警戒を解いたわけではないが、ただ待つより他に無かった。
黒々とした小片が浮き上がる。
光を拒むかのように闇を纏う小片が ゆっくりとオーラタムの掌に向かって動くに連れ、神力を得ているらしく生き生きと蠢く闇を濃くしていった。
それと連動しているかのように、晴れ渡っていた空が暗く曇っていき、幾筋もの稲光が走った。
掌に達した時、激しい雷雨が視界を奪った。
「これで強化が叶う!」【っ!】【瑠璃!】
ガネーシャが神力封じ網を投じたが、如何せん獣神には姿が見えない。
オーラタムは瞬移していた。
神眼視界に対する煙幕のつもりだったのか、オーラタムは瑠璃に禍を放っていた。
青生は追わずに瑠璃の浄禍に専念した。
ガネーシャも加わる。
〖ごめんねぇ〗
【いえ。俺が油断したせいです】
〖青生? 怒りで動いちゃダメだよ〗
【解っています。俺は冷静ですよ。
奴の性格は読めました。
次こそ捕らえますので】
〖怒ってるぅ~〗【青生……】
【うん、大丈夫だよ。
助けるから安心してね】【瑠璃姉っ!】
【彩桜お願い】【滅禍浄破邪の極み!!】
〖青生、光ってるけど開いたんじゃない?
浄破邪してみて?〗
【はい。光明煌輝、滅禍浄破邪!】【眩しっ!】
青生から発した輝きで辺りは青みを帯びた白一色で何も見えなくなった。
激しく身体を叩いていた雨も風も感じられなくなったと、彩桜が天を仰いでいると光は収束し、暴風雨で荒れていた空は すっかり晴れていた。
〖【晴れた~♪】〗ぴょんぴょん♪
【青生、さっきのは……?】
【うん。ドラグーナ様の潜在能力。
光明って神力らしいよ】〖あれれ彩桜?〗
天を仰いで喜んでいた彩桜が踞っていた。
【だいじょぶ~。連動しちゃったみたい~】
もそもそと顔を上げて無理矢理笑顔。
【悪神 出たら使ってみる~】
〖やっぱり一緒に開いちゃうんだ~♪〗
【彩桜も光明なのか?】
【ん~~とぉ、闇障?】
【光と闇ね。やっぱり俺のは反転なんだね】
【でもね、反転の反転も出来そぉなの~】
【修行次第とか?】【たぶんソレ!♪】
【元気になった?】【うんっ♪】
【瑠璃は?】
【さっきので残れる禍は無い。
ありがとう青生、彩桜】
―・―*―・―
《此処は……?》
やっとオーラマスクスが目覚めた。
「たぶんドウクツの中です。
オーラマスクス様、出してください」
《ふむ。すっかり囲まれておるのだな。
ならば出してやろう》
春希は毛布と湯湯婆をしっかり抱き締めた。
一瞬の浮遊感――「寒っ! イタッ! わあっ」
吹き荒ぶ風に飛ばされる雪が突き刺さる程に打ち付ける。
それを感じたと同時に深く積もった新雪にズブッと落ちてしまった。
「オーラマスクス様っ、場所!
雪じゃない場所に! お願いします!」
空腹で体温が下がっているのもあってガタガタ震えながら懇願するが、オーラマスクスは何かに集中しているらしく答えなかった。
「オーラマスクス様! 早く!」
〈ふむ、確かに大きな欠片だな。
息子よ〉
《父様! お助けください!
回復不十分で真上に少ししか動けなかったのです!》
〈動けなかったのは、その結界の所為だ。
それすらも見えぬのか……〉
《も、申し訳ございません!》
〈此方に来い。儂は入れぬのでな〉
《何処まで……?》
〈儂が居る場所が限界だ〉姿を見せた。
オーラタムが居る場所は岬の向こう、海の上だった。
春希は その岬の中程に居た。
《それでは私の器が死んでしまいます!》
〈器が落ちる前にお前だけを取り出し、器から切り離してやろう〉
《ありがとうございます!》
《春希よ、前に進め》進む方向を示す。
「うもれててムリです」お腹ペコペコだし。
〈浮かせよ〉《はいっ》必死!
春希の身体は雪面に接する程度にだが浮き上がった。
「ういた?」這うように進み始めた。
「でも寒いしイタイ!」毛布を被って丸まる。
〈器が欲しているものは?〉
《……父、です》〈姿を送れ〉《はいっ》〈ふむ〉
オーラタムの姿が春希の父親のものに変わった。
オーラマスクスの神眼を通じて春希にも見えるようにする。
《春希よ、前を見よ》
「えっ……父さん? 父さん!」
春希は雪に接する宙を駆け出した。
とうとうオーラタムは春希を見つけました。
取り込めば強化も回復も叶うと息子までもを騙そうとしているようです。
ですが、青生の逆鱗に触れてしまったような……。
冷静だとか口では言っていますが、激怒していますよね?




