また潜伏
「材料なくなったので撤収しま~す♪」
「窯の熱が届かない所に行くと、とても冷え込んでいます」
「風邪ひかないよ~にしてく~ださい♪」
ラストのピザを両手の木製パドルに載せて人々の間を巡りながら彩桜と青生が呼び掛けている。
「ピザ屋さん、どこにあるの?」
「お店の名前は!?」
「馬頭のお店は神出鬼没で~す♪」
「イベントの際には現れますのでっ」
迫って来た人々に囲まれてしまった。
ピザが無くなったパドルで服を汚してはいけないのでバンザイ状態。
「マーズって雑技団の?」「パンケーキだ!」
「パンケーキの余った具でピザで~す♪」
食事系パンケーキも よく売れていたので、これは嘘で新たに家から運んだ食材だ。
「あのグッズは!?」持っている人を指す。
「人を指すな~。
アレは高額寄付のお礼で非売品だ。
どんどん冷えてるから早く帰ってくれ~。
マジで風邪引くぞ~」白久 参戦。
「売ってください!」「販売希望!」
「先に知ってたら寄付したのにぃ」
「寄付したのに貰ってない!」
「準備が整う前に寄付してくれた方には後日送付しますよ。
住所、書いてもらってますからね。
で、アレは餌じゃなくてお礼だからな。
それに慰霊祭が始まってから思い付いたんだから仕方ないだろ」
【それじゃ白久兄お願いね~♪】【ん?】
【俺達は救援の方に行きますから】
【おい!? この集団を俺だけ!?】
【はい♪】【頑張って~♪】
青生と彩桜が囲まれた時点で他の者達は片付けを終えて瞬移していた。
青生と彩桜も既に近くには居ないらしい。
【おお~い】
【春希君、見つけたの~。だから無理なの~】
【そっか。そんじゃあコッチは任せろ】キリッ☆
【うんっ】
―・―*―・―
獣神共めが何を企んでおるのだ?
集まりおって、この儂に治癒だと?
気色の悪い事この上ないな。
だが、受けられるだけ受けておけば
反撃も叶うだろう。
迫って来たならば
姿を眩ませばよいのだからな。
『器』こと、春希に治癒しているとは想い至れないオーラマスクスだった。
―◦―
【あ♪ ソラ兄~♪】
ジョーヌの背の彩桜が大きく手を振る。
【遅くなってゴメン】
ユーレイとして浮かんで術治癒を唱え始める。
【響お姉ちゃん大丈夫?】
【うん。酔って眠っただけだから。
それに梅華様が治癒してくださってるから】
【悪神、居なくなって変わった?】
【変わってきたと思う。
それにしても……響が前を向く度に何か起こってしまうんだね。
壁が現れる、みたいな……。
マリッジブルーは仕方ないのかもだけど】
【響お姉ちゃん、強いからだと思う~。
神力 目立っちゃうから敵神が怖がってるんじゃないかなぁ】
【響の神力を消そうとして?】
【それと、他の神様と仲良くならないよぉに】
【協力は強力、だったよね】
【うん。敵神、ボッチだから~】
【そっか。今度こそ踏み出せたらいいな……】
―・―*―・―
間も無く犬の散歩という頃、春希が目覚めた。
バッと上半身を起こすと素早く見回し、
「オーラマスクス様っ!」
毛布やらを抱き抱えて叫ぶと姿を消した。
「消え、た……?」「消えましたね……」
宮東と家西が立ち尽くす。
【白竜、追いかけよう!】【うん!】
【ダメ! 月曜なんだから!
神様にお任せして俺達は学校だよ】
言っている彩桜も悔しそうだった。
―◦―
大型犬達と爆走散歩している間に、彩桜は悟と竜騎に前日の春希の行動を伝えた。
「それじゃ、また学校で!」
「おう、またな!」「後でね♪」
我王に乗っている悟と義王に乗っている竜騎が馬白屋敷前で離れた。
寝不足分は青生の回復治癒をシッカリ浴びたので、夜中に頑張っていた4人は、すっかり元気だ。
もう走っても付いて行ける悟が犬に乗っていたのは、この日が初参加な竜騎と一緒なのが嬉しいからという理由だけだった。
「あの子、早く元に戻してやらないとな」
「うん」
自分と重ねているであろう竜騎は強い真剣な眼差しで大きく頷いた。
―・―*―・―
「オーラマスクス様? オーラマスクス様!」
また神力尽きているオーラマスクスは目覚めない。
「真っ暗なのは夜だから? どこなんだろ」
一瞬の浮遊感の後、真っ暗になったので動いて何処かに行くこともできなかった。
足を伸ばして座った状態で来たので縮こめて、抱えて来た毛布を頭から被り、まだ温かい湯湯婆を抱き締めた。
「寒いし……お腹へったな……」
手探りで金属製の湯湯婆の蓋を開け、湯を飲んでみた。
お世辞にも美味しいとは言えない金属味だったが、それでも温まってホッとした。
また手探りで閉めていると、右側に淡い光を感じた。
「どこから? イタッ」
光源を探そうと、立ち上がろうとしたら頭を打った。
這って探し始めたが、狭い上に凸凹なので、身体のあちこちを何度もぶつけた。
「ドウクツなのかな? あ!」
小さな穴から白い光が射し込んでいた。
「出口じゃなかったかぁ」
なんとなく凹凸が見えるようになったので、ぶつけずに穴まで行けた。
「寒っ! 雪!?」
強く吹き込んだ風に乗った雪が舞った。
もう毛布の所に戻りたかったが、外だけは見ておこうと穴から覗くと、降る雪と風に巻き上げられる雪が交わり舞う白い世界しか見えなかった。
「海? なのかな?」
激しく打ち付けている波音らしい荒々しい轟きが下の方から聞こえていた。
「やっぱ、もどろ。
オーラマスクス様じゃないと出られないよ。
フユとアキ、どうなったんだろ。
つかまったのかな……。
父さん……失敗したから復活してないよね。
ぜんぶバチなのかな……。
ゲームしたいって、おばーちゃんの おみまい行かなかったからかな。
タツ兄ちゃん、来てくれて……だからフユもアキも留守番になったんだよな。
フユとアキは おみまい行くって言ってたのに。
フユとアキは悪くないのに……」
寂しさもあって春希は呟き続けていた。
―・―*―・―
【ソラ。ねぇソラ】
響はソラとだけは獣神秘話法で話せるようになっていた。
聞き取るのは向けられてさえいれば可能だ。
【どうしたの?】もちろんサーロン中。
【胸騒ぎがするの。店番、忙しい?】
神眼は使わないように言われているので、ソラの状態も稲荷堂内も見えていない。
【行くから待ってて】
2時間目の社会科になったばかりだったので、狐儀に頼んで響の所へ瞬移した。
――和館2階。
「胸騒ぎって?」
「説明は難しいのよ。でも……」
「奏お姉さんは?」
「台所で料理を習ってる、かな?」
「平気そうだった? その、胸騒ぎ」
「うん……たぶんね。
ね、昨日、慰霊祭で何か起こってなかった?
怨霊の気配が残ってたのよ」
「うん……」
【理俱様、此方にお願い出来ませんか?】
【ん? 少し待ってくれ】今は本浄神社。
少しして慎也として現れたリグーリはルロザムールを連れていた。
【話したくなったんだろ?】ソラにだけ。
【はい】リグーリとルロザムールに。
【響の魂には悪神の魂片が込められていた。
すっかり浄滅した――筈なんだが、何が残ってるか知れたもんじゃない。
だから聞かれちゃマズい話は獣神秘話法でのみとなる。
返事はしなくていいから、ただ聞いていてもらいたい。
悪神は人神だから、俺達 獣神には見えなくしてアレコレと謀る。
だから仲間の人神に来てもらったんだ。
エィムの上司、ルロザムール様だ】
【本来の私としてお目にかかるのは初めてでしょうか?
死神としては、よくお会いしております】
ルロザムールが穏やかな笑顔を響に向けた。
響は見覚えはある、とは思ったが表情が違い過ぎて自信が無かった。
なので『よろしくお願いします』と込めた会釈だけをして、話を進めてもらおうとリグーリに頷いた。
【それじゃあ、重複する箇所もあるだろうが聞いてくれ】
リグーリは年末以降の理子と春希絡みの出来事を話し始めた。
オーロザウラについても可能な限りを添えて。
―・―*―・―
神世の大都の地下に潜み、回復すべく眠り修行に集中していたオーラタムが目を開けた。
儂の魂片は神世には無いのだな。
弱いが共鳴を感じるのだから
人世には在るのだな。
少なくとも息子は居る。
息子の孫娘だったか、
曾孫だったかにも込めた筈だ。
ならば人世に行くべきか。
それともザブダクルを滅するのが先か……。
獣神共が居らねば
彼奴なんぞ容易く滅せるのだが……。
今ピュアリラなんぞと名乗りおった
小娘が厄介だ。
如何な罠を仕掛けるか……――。
回復の為の眠り修行そっちのけで企み始めたオーラタムだった。
オーラマスクスは治癒途中で逃亡して気絶。
オーラタムは回復途中で目覚めて企んでいます。
この父子は~まったく!
って、根底は どちらもオーロザウラですから、なんだか考えが足りないのは同じですよね。
慰霊祭は終わりましたので次章に移ります。




