曲芸ピザでショー再び
野外ステージと屋台コーナーは18時で終わりなのだが、So-χのライブを聴いてから並んだ人達で募金受付ブース前には長蛇の列が出来ていた。
【紅火~♪ 大至急ピザ窯 頼む♪】【ふむ】
【あの列に あったか結界もなっ♪】【ふむ】
牧場イベントの時と同じ平帽コックコートに大きなマスクで目だけを出した黒瑯も頼むだけでなく、家とマーズパンケーキ店内は瞬移で、店からは走って行ったり来たりして屋台コーナーと募金受付前の列との間に調理作業台を設置していった。
石窯を組み立てている、黒瑯と同じ格好の紅火も速い。
発酵機もナイター設備もシッカリ設置した。
黒瑯も紅火も行ったり来たりなので、全て1人でしているようにも見えるのだが。
【リーロン、材料 切るぞ♪】【おう♪】
マーズパンケーキを片付け終えたリーロンが同じ格好に着替えて来た。
これまた同じ格好の狐儀と瑠璃も加わって切る。
それもまた曲芸的で、並んでいる人々は待ち時間を忘れて楽しくなっていた。
そうなると寄付をして帰ろうとしていた人達も留まる。
ライトを見つけて戻って来る人まで居る。
片付けを終えた出店者まで集まって来た。
【窯の温度、発酵共に十分だ】
同じ格好の兄弟が増える。
金錦と藤慈はバイオリンを持っており、青生と彩桜は大きなピザパーラーを持っている。
【よーし! ヤルぞ♪】
エレキバイオリンの軽快な曲が楽しく流れる。
リーロンはリズミカルに材料を切り続け、黒瑯 狐儀 瑠璃は円卓を囲んで正三角形を成し、曲芸ピザ作りを始めた。
―◦―
男と並んで募金箱を持っている馬頭白久は、神眼を鍛えるのも兼ねて曲芸ピザ作りを眺めていた。
「で、そろそろ終わりそうなんだけど?」
出入口の向こうに見える列は随分と短くなっていた。
「マスコットは後ろの包みだ。
もう帰ってもいいぞ」
「会いに行く話は?」
「デートの邪魔して悪いが、次の休みに迎えに行く。
来週の火曜だろ?」
「なんで……?」
「だから名乗らなくてもいいし、連絡先も不要だ。
朝、お前の店に迎えに行くから、デートは午後からにしてくれ。
手伝ってくれて ありがとな」
「あ、いや。手伝わせてくれて ありがとう。
あと少しだから最後まで居るよ」
「そっか♪」
―◦―
「無料ピザで~す♪
ど~ぞで~す♪」
両手に大きな木製パドルな彩桜がピザを配る。
その間の窯番には紅火が入っている。
「飲み物、アッチで~す♪
ピザど~ぞで~す♪
紙おしぼり、前掛けのポケットで~す♪」
飲み物コーナーは輝竜家の妻達だ。
瑠璃の代わりに虹香が居る。
それにしても撤収は明日とは言え、本格的に曲芸ピザショーしていていいのだろうか?
「お姉さん達もピザど~ぞで~す♪」
「わあ♪ ありがとうございます♪」
「一美、早くこっち♪」「は~い♪」
「一美ちゃん走らないでっ」
「まぁまぁ、いいじゃないか。
今日も終日 借りているのだからね」
支援団体事務所の3人は野外ステージ辺りの掃除を終えて、照明で明るくなっている屋台コーナーを確かめようと来たのだった。
「そうですか?
所長が そうおっしゃるのなら」
「ほら、呼ばれているよ」「え?」
結解が恥ずかしそうに小さく手招きしていた。
「早く行ってあげないと」「はい……」
百香も なんだか恥ずかしくなっていたが、結解はもっと恥ずかしいだろうと駆け寄った。
―◦―
「「「ソラ♪」」」
「え? あ、待っててくれたんだ」
So-χのプレハブ控室から出たソラは辰矢達に呼び止められた。
「それじゃ私はお姉ちゃんと先に帰るね♪
ゆっくり楽しんでね~♪」
響達は行ってしまった。
実は新幹線の時間が近付いたヤスを見送りに駅まで行く為に急いでいた。
「ヤスさんお気をつけて!」
「次のは来れないから頼んだぞ!」
「はい!」手を振り合う。
「あ~そっか。打ち上げ?」
「しないよ。帰るだけ。
えっと~、騙してゴメン!」
「いいって。春希 助けようとしてたんだろ?
それにライブ聴いてて、そんなのどーでもで本当の友達になってもらいたくなったんだ」
「オトナってビックリだったけど」
「うん。ホントは何歳?」
「22歳。春から大学院生」言って照れる。
「え?」「バンドは?」「頭イイんだ……」
「そっか!「「勉強教えてください!」」」
「いいけど、春からの先生は博士達になるよ?
ボクは東京に行くから」
「東京!?」「博士!?」「達!?」
「馬頭の家に来てくれたら分かるよ♪
向こう、明るいけど何だろうね?」
【ソラ兄もピザ食べ来て来て~♪】
「ピザだって♪ 行こっ♪」
―◦―
高額側も応援スタッフが来たので速くなり、募金受付ブースも閉める事が出来た。
「もう、ここまで居残ったんだからピザ食ってけよ。
旨いぞ、弟達のピザ♪」
「馬頭って兄弟なの?」
「今時 珍しい7人兄弟だ♪」
「凄……」「ピザど~ぞ♪」
ニコニコ目の彩桜が紙おしぼりとピザのパドルを差し出す。
【白久兄、配るのしてよぉ。
紅火兄が発酵調整と窯番、両方なってるからぁ】【おうよ、任せろ♪】
「あ、ありがと」一切れ取ってパクリ。
「コッチも凄……うわ」
丁度ポ~ンと3枚のピザ生地が高く放たれてパーラーでキャッチされたところだった。
「だろ♪」彩桜は既に遠くに行っている。
「ライブハウスで、とか考えてないの?」
「俺達は素人なんだよ。
それに入りきらねぇだろ」
「素人なのに入りきらないって……でも、確かにライブハウスじゃ狭いね。
って、どこ行くの?」
「飲み物。ほら」
「確かに欲しいね」追いかけた。
「メ――!」叫びかけた白久は手で口を塞いで止めた。
「――何やってんですかっ」独語でウィスパー。
「いいカクレミノだろ♪」
嫁達の後ろで世界的ロックスターが皆と同じ格好でゴミ整理していた。
彩桜の浄化済みなので綺麗なもので、臭いも全くなゴミを種類毎に纏めている。
「パズルみたいで けっこう楽しいぞ♪」
「そーかよ♪」「ね、誰?」
「ったく知りたがりたな。コッチ来い」
大勢から離れて暗い場所へ。
「メーア=ドンナーだよ。
俺達のステージ、観てたんだろ?」
「うん。来たら超有名人が歌ってて驚いたよ。
どんな関係?」
「ったく聞きたがりだな。
トップシークレットだから誰にも言うなよ?
恋人にも言うな。
馬頭とメーアはマブダチなんだよ」
「どうして?」
「縁だよ。
人と知り合うなんてぇのは大抵そうだろーがよ」
「確かにね」
「ま、そーなると魁とも縁なんだろーな。
そんじゃ そろそろ帰れよ~」
背を向けて足早に去った。
「縁、ね」
やれやれと肩を竦めて、あっという間に小さくなった背中を見ていたが、出口に向かって歩き出した。
「ん? どうして俺の名前!?」
バッと振り返ったが馬頭の後ろ姿は無かった。
―◦―
「俺の神眼も聞けるくらいになったんだよな♪」
歌うような独り言がマーズパンケーキ店内で弾んでいる。
【白久兄てばぁ~】【今、着替えてっからな♪】
―・―*―・―
浄破邪に包まれた時、このままでは滅されると無我夢中、とにかく必死で瞬移したものの、神力尽きて気絶していたオーラマスクスは真っ暗な場所で目を覚ました。
此処は……? 人世なのか?
器は眠っておるのだな。
この身体、動かせられるのか?
……動けぬか。
器でなくば動かぬのだな。
今は、ただ夜なのか?
何かに封じられてしまったのか?
何やら聞き慣れぬ音がしておるな。
水、なのか? それと足音か?
急いで来ておるのか? まさか敵か!
こうしては居られぬ。
器を目覚めさせねば!
ワン! ワンワン!
獣神かっ!
仲間を呼んでおるのだな!
「我王、義王、そんなに吠え――えっ。
悟空! 早く来て悟空!」
人かっ! いや、神力を感じる。
ならば人神かっ!? 儂を助けよ!
「どうしたんだよ白りゅ――このままだと凍えてしまう! 運ぼう!」
昼過ぎに慰霊祭から帰って、竜牙に会いに来ていた竜騎と悟は、駐車場に向かっている途中で急に走り出した犬達を追って浜に出、倒れていた春希を見つけたのだった。
「走屋! お医者さんに連絡! 早く!」
夜になって急に曇り、雪が降りそうに冷え込んでいた。
オーラマスクスは春希の身体を動かせられるのは春希のみだと思い込んだようだが、そうではなく、凍えて動かすのが困難になっていたのだった。
「竜騎様! 急ぎお屋敷に運びます!
宮東先生がいらっしゃいますので!」
これは? 弱いが治癒か?
この神力は獣神だな。
この獣神、儂に味方をしようと?
魂胆が謎だが、治癒は受けてやろう。
〖悟、助けるのはいいが気を緩めるな。
此奴、不穏を抱えてやがるからな〗
【はい!】
―◦―
走屋が運転する車と、八郎が運転する車は同時に馬白屋敷に到着した。
玄関扉は車のドアよりも先に開いていた。
執事の隅居が玄関ホール横の部屋に案内する。
春希を運ぶ竜騎と悟を宮東と家西が追う。
暖かい部屋に入ると直ぐに診察が始まった。
牧場イベントの時も、今回も、嫌な記憶は楽しさで上書きするしかないと曲芸ピザでショーです。
やっと春希も見つかりました。
ですが……という状態ですよね。




