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翔³(ショウソラカケル)ユーレイ探偵団1.5  外伝その1 ~探偵団の裏側で~  作者: みや凜
第三部 第26章 中渡音中央交差点多重事故慰霊祭
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初日は偵察だけ?



 翌日は、中渡音市と遺族支援団体が主催する中渡音中央交差点多重事故の慰霊祭1日目で、朝9時からの式典の後は市内の中学・高校の音楽系部活動の演奏が続いていた。


「今日はポカポカあったかいね~♪」

彩桜が高くなった冬の陽に目を細める。


「そうだね。冬に野外だから心配してたよ」

祐斗もパンフレットを整理していた手を止めて、軽く見上げれば捉えられる陽に目を細めた。

とは言え、彩桜も祐斗も馬頭で表情は見えない。


「もうすぐ合唱部です♪」

3人目の馬頭少年、サーロンが駆けて来た。


「祐斗♪ 合唱部の伴奏、頑張ってね♪」


「彩桜 サーロンと連弾したかったな……」


「俺、部活のは書道部のオマケしか出られないから~」

「ボク、初心者です。沢山、無理です」


「そうだよね。行ってくるよ」

プレハブ小屋の陰に隠れる。


「後で馬頭(マーズ)少年団で楽しも~ねっ♪」

祐斗を追う。


「そうだね♪」

馬頭を彩桜に預けて笑顔で走って行った。



―◦―



 馬頭少年団の演奏は午後早くなので彩桜達は合唱部が終わるとすぐに裏に行き、おにぎりやサンドイッチを食べた。

そして舞台袖に行き、音楽教室の選抜演奏を聴きながら彩桜とサーロンは不穏源を探していた。

【弱々神力だと掴めにゃ~い!】


【そうだね。来ているのは分かるんだけどね】


【うんうん!】


【彩桜、イライラしたら負けだよ】


【だよねぇ】「あの子……」


「ん? 祐斗どぉしたの?」


「ほら、あの木の所。赤い花の」


「来てるねぇ」春希君だけで偵察?


「また逃げたね。

 こんな所からの視線も感じるのかな?」


「悪霊憑きだから敏感なのかも~」


静かに微弱神眼で追跡していたサーロンが諦めたらしく小さく首を横に振った。


「マーズ君達、出番だよ」


「は~い♪ 巧お兄さん、行ってきま~す♪」


「やっぱり彩桜君かぁ。

 じゃあ祐斗とサーロン君?」


「「はい♪」」


 裏方は牧場イベントで仲良くなったミツケン社員達なので、彩桜達としては一緒に堂々と頑張りたかった。

しかし、集まっていると どうしても教育委員会からは校外活動禁止な歴史研究部扱いされてしまう。

なので朝イチからずっと馬頭で顔を隠し、社員達には声も出さずに出演者ボランティアとして裏の奥の奥で手伝っていたのだった。

他の部員にも同じ理由で裏には来ないよう言っているので、来年こそは皆で一緒にと心に決めている彩桜達だった。

【サーロン、来年の慰霊祭にも来てね♪】


【え? うん。バンドで出るから来るけど……】


【また馬頭(マーズ)少年団もしよ~ねっ♪】


【うん♪ ありがと彩桜♪】



―◦―



 黒瑯とリーロンは屋台コーナーで馬頭を被ってパンケーキを焼いていた。

黒瑯達が居る特等席的な屋台列は、売上全てを寄付する店しか出せない場所だ。

そういう意志で出店している人達なので、横並びの屋台で調理している同志に対しては信用して顔を出してもいいとは思うのだが、厨房部分も見ようと覗き込めば前後からも見えるので『マーズパンケーキ』の看板を掲げて馬頭に徹したのだった。


希来(きくる)ん、ドコ行くんだ?」


屋台列の後ろを駆け抜けようとしていた希来が黒瑯を探してキョロキョロ。


「コッチだコッチ。馬頭(うまあたま)♪」


「やっぱり来てたんだ~♪

 とか言ってる場合じゃないのよ。

 麺が足りないから買い足そうと思ってね」


「生パスタでもいいか?」


「パンケーキ屋さんでしょ?」


「生パスタ機、弟に持って来させるよ」


「いいの!? 助かる♪」


「チョイ待ってろ♪」


「ん♪」走って戻った。



 聞いていたらしい馬頭の紅火が大型冷蔵庫サイズの機械を連れて現れた。


「アッチに頼む♪」「ふむ」担いで行った。


「アレ、牧場でパンとピザ生地 発酵させてたヤツだよな?」

リーロンも馬頭。


「だよ♪ 機能イロイロだ♪

 絶妙発酵加速装置付きだ♪」


「後でまたピザショーやるのか?」


「パスタに余裕があればな♪」

発酵機が空かなければピザ生地が作れない。


「ヤル気満々じゃねーかよ♪」


「だなっ♪」


【で、不穏少年が紅火の方に行ったぞ】


【ま、紅火なら大丈夫だろ】



―◦―



 黒瑯とリーロンが焼いているパンケーキの注文を取っている青生と、渡している藤慈も馬頭で視線の方向が見極め難い事を利用して春希を追っていた。


【紅火?】


【気付いている。俺が引き付けておく】


【うん。でも気をつけてね】


【分かっている】


紅火は発酵機を設置すると兄弟とは離れた。



―◦―



【お~い、そろそろ控室に入れ~】

社員達と共に裏方をしている白久から声が掛かった。

【紅火も鬼ごっこヤメて来いよ~】


 並んでいた客に整理券を渡して一時閉店にしたマーズパンケーキの4人と紅火が控室に行くと、白久と一緒に裏方をしていた金錦と彩桜が楽器の準備をしていた。


白久も順志(かずし)に全てを託して来た。

【どーやら俺が一番 怨まれてるらしいな】

プレハブ小屋の壁の1点に顔を向けた。


【気を判別しているみたいだね】

青生も同じ方を向く。


【今日は確認の為に来たらしい。

 弟妹は連れていない】

十分に観察した紅火も。


【そんじゃあ今日は安心してマーズすっかぁ】


 ノック音。

「常務、出番ですよ~♪」顔も出した。


「笹城あのなぁ」「行こっ♪」「そうだね」

白久の背を押してステージに向かった。



 スポーツやら音楽やらの各種イベントが よく行われる大通りに面した運動公園の野外ステージは、前方に10列程の長いベンチがあるものの、基本、立ち見だった。


【うわ~♪ グランドの方までビッシリ♪】

パーカス要塞を組んでいる彩桜が大喜び。


【だから心を込めて演奏しようね】

藤慈と一緒にシンセ要塞を組んでいる青生が暖かい気を向ける。


【レクイエムは静かにクラシックだが、後半は思いっきり明るくなっ♪】

【元気、取り戻してもらいたいからなっ♪】

ドラム要塞を組んでいる白久と黒瑯も意気込んだ気合いを向けた。


弦楽器をスタンドにセットしている金錦と紅火も通りすがりに彩桜の神眼に笑みを向ける。

この手際のよい準備も曲芸的で、客達にとっては楽しむ要素になっていた。



 クラシックよりもロックやポップスの方が好まれているご時世なので、クラシック界の超新星だろうが何だろうがキリュウ兄弟を知らない者の方が圧倒的大多数だ。

だからこそ馬頭の被り物でも素性が隠せると兄弟は思っており、正体を知っている者達も口を(つぐ)んでくれている。


(まこと)、騒がないでね」


「解っている♪

 いろいろ細やかに良くしてもらえるご近所さんになれたのだからな♪」


『お待たせしました』

マイクを通した青生の穏やかな声に歓声が上がり、期待の響動(どよ)めきが拡がる。


 大小の弦楽器を構えて少し静まるのを待ち、

馬頭(マーズ)雑技団、最初の曲は、哀悼の意を込めて『春待ちの鎮魂歌(レクイエム)』です』

落ち着いた声に今回のステージに対する思いを込めて語り、音色を紡ぎ始めた。


曲の途中で金錦と白久が後ろに下がり、奏者が向かい合うように置いているピアノに着いた。


弟達は演奏を続けながらピアノの両側に動き、美しいピアノの流れに寄り添い、支え合い、時の流れは止められないが、生者と死者に別れても、その魂の絆は強く、負けないものだと音色に込めた。


 曲が終わる。

屋外なので余韻は直ぐに空に消える。

その儚さまでもが鎮魂歌だった。


礼。


 最初とは違う拍手に満たされる。

すすり泣いている者も、頑張って堪えて瞳を潤ませるだけに留めている者も多く居た。


皆、慰霊祭という場の雰囲気よりも、この演奏者達の派手な曲芸師ではない面とのギャップが嬉しいくらいなのと、音色の魂の強さに心を射貫かれ、圧倒されたのとで感動やら驚きやら諸々が綯交(ないま)ぜになって声が出せなくなっていた。


『慰霊祭ではありますが、生きている私達は過去に想いを馳せるだけでなく、未来に目を向け、進み続けなければなりません。

 何事が起ころうとも、希望を手放してはいけないんです。

 たとえ一度は手放しても、もう一度、上を向いて掴み取らなければ生きてはいけません。

 次は、冬から春へ、希望へと向かう曲です。『桜舞う空を想う』』

今度はバンドとして位置に着いている。


 寒さは残っているが、ふとした時に春を感じる頃、もうすぐ咲くのだろうが、今はまだ幻でしかない桜の花弁(はなびら)を掴もうと空に手を伸ばす光景と心情を歌う。


まだ少し遠い希望(はなびら)を想い描き、上を向く。

『忘れはしないよ』と過ぎ去ろう(失った)としている冬(大切な人)に誓う。

『でも進み始めるよ』と決意を笑顔に変えて(未来)へと踏み出す。


そんな切なくも強い主人公に、堪えていた者達も涙を流してしまった。

バンド演奏だが賑やかでも派手でも荒々しくもない。

穏やかで優しい音色が心に響く。



「コイツら、タダモノじゃないな……」


一般の部の後半、プロ/アマ問わずのバンドの部に入って聴き始めた爽が呟いたのを涼が拾った。

「大物だからこそ顔を隠してるんじゃない?」


「そっか……だよな」


「ウチのライブハウスにも来てくれないかしら~」


「ったく~。いいフンイキなのにダイナシ発言すんなよなぁ」


『今、隣に居る人に目を向けてください。

 たぶん知らない人に目を向けるなんてなくて、一緒に来場した人ですよね?

 この世に生きる者は誰しも、いつ『死』に招かれるか分かりません。

 悔いのない生き方は難しいものですが、精一杯 生き、その人を大切にしてください』


「あ~あ。姉ちゃんだ……」


「何よぉ」


「どーせなら彼女――」「居るの!?」

「――居ねぇよ。だから望むんじゃねぇかよ。

 姉ちゃんは? 居るのか?」


「居るのよね~♪」フッフッフ♪


「ゲ……ナンで一緒じゃねぇんだよ?」


「東合で仕事してるからよ。

 ライブハウス店長の集まりで知り合ったの♪」


「へ~え。

 俺、この曲が終わったら裏に行くからな」


曲の主人公は希望の未来に踏み出したらしく、続いての明るい曲が流れている。


「はいはい♪

 トリなんだから頑張ってね~♪」







慰霊祭初日です。


春希は偵察のみなんでしょうか?

キリュウ兄弟の音色は心に響かないのでしょうか?



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