魂片を伝染せる者達
2月に入った。
慰霊祭前日の放課後、打ち合わせ通りに尚樹の兄・恒樹と星琉の兄・星貴と共に福露家を訪れたソラに、春希の従兄・辰矢は すぐに打ち解けてくれた。
軽い足音が廊下を走り抜けた。
続けて、もう1人。
「小学生も居るの?」
「イトコが3人。ん?」
そっと近付いた足音が部屋前で止まった。
「冬輝? 秋葉ちゃん?」
『アキ……』
「姉ちゃんなら夜になるぞ。予備校だからな」
入試直前の追い込みだ。
『タツおにーちゃん……あのね……』
「友達いるけど入っていいぞ」
ドアを開けに行った。
「どうした?」
「おにーちゃんたちケンカしてるの!」
「ったく」「止めに行こう!」
「アキちゃんは隠れててねっ」
4人とも走った。
大呂兄妹の部屋に行くと、春希が冬輝の腕に噛みついていた。
「やめろ春希!」
4人で引き離す。
ぐったりして泣いている冬輝を恒樹と星貴が連れて出た。
「春希、弟に噛みつくなんてダメだろ。
けど何があったんだ?」
「フユが反抗的だったから……」
「そうか。それは謝らせるから、春希も噛みついたのは謝らないとな」
「……はい」
俯いている春希はソラを睨んでいた。
ソラも気付いてはいたが、神眼すらも使えないので心配そうに見ている事しか出来なかった。
―・―*―・―
彩桜の部屋に帰って話し、
「噛みついたのは欠片を込める為だったのかも……」
悔しそうに視線を落とした。
「理俱師匠も言ってた。
それと、定着に掛かる時間なんて分かんないって。
目覚めるまでの時間もあるし、ケースバイケースなんだって。
だから入ってると思って見てよぉよ」
「そうだね」
「奏お姉さんと響お姉ちゃんは?
行かないとでしょ?
慰霊祭、バンドも出るんだよね?」
「あっ!」お社へ!
――キツネの社では稲荷だけが奏と響に浄破邪を当てていた。
【もう心配は無い】
【目覚めさせていいですか?】
【連れ帰ってよい。
明日の慰霊祭で演奏するのであろう?】
【はい!
今からリーダーに会いに行かないといけないんです!】
【先ずは目覚めさせよう】光の色が変わった。
響が先に身動ぎして薄く目を開けた。
「ソラ……?」
「うん。居るよ。
奏お姉さんと響に憑いていた悪霊はキツネ様が浄滅してくださったよ」
「お姉ちゃんにも!?」
「もう大丈夫だから安心してね。
それで、慰霊祭が明日――」「ええっ!?」
「うん。ビックリして当然だよね。
明日からなんだよ。
風邪で寝込んだ事にしてたから、これからリーダーの所に行かない?」
「行くわよ!!」
「んっ……響?」奏も目を覚ました。
ソラが もう一度 説明した後、稲荷がライブハウス裏に連れて行った。
―・―*―・―
彩桜は先にライブハウスに行っていて、涼と爽を裏口の外に連れ出そうとしていた。
「響お姉ちゃんコッチなの~♪
もぉ治ってるの~♪ 間に合ったの~♪
でも、もし伝染ったら大変だからライブ中トコ入りたくないって~」
彩桜が開けようとした裏口ドアが手から逃げるように開いた。「あ♪」
『響、入って』ソラの声。
「店長、リーダー!」
入った響が涼に抱きついた。
「欠勤、すみません!」
「いいのよ。ソラ君がシッカリ代わりをしてくれたから~♪
でもホントに大丈夫?
無理してない? 奏さんも」
「もう、すっかり元気です♪」「はい♪」
「喉も大丈夫か?
二人のハモりがウチの命なんだからムリしないでくれよ?」
「大丈夫ですよ~♪」「はい♪」
「そんじゃあ追加の新譜だ。
明日は夕方入りだから、のんびり練習しててくれ」
「「はい♪」」
「手伝いとかもナイからな。
休んどいてくれよ?」
「大丈夫ですってば~」あはっ♪
「でも寒いから帰ろ~♪」
「あれ? 彩桜クンどうして?」
「ボクが頼んでたんだよ。
だから店長さんとリーダーさんが此処に居たんだよ」
「そうだったのね♪ ありがと彩桜クン♪」
―・―*―・―
『これでヨシ』
『ん? おにーちゃん?』
『アキのフトン、かけ直しただけだよ』
『ん……おやすみなさい……』
『それでよい。手を繋ぎ、定着を早めよ』
『はい、オーラマスクス様』
暗い作業部屋に響いた低い笑い声を聞いていた者は居なかった。
―・―*―・―
「お姉ちゃん達、ソラ兄、明日の楽しみにしてるねっ♪ おやすみなさ~い♪」
響達と歩いて帰った彩桜は、和館には行かずに庭で別れて自室に直行した。
【理俱師匠。・・・あれれ? 理俱師匠?
聞こえにゃいってコトは神世?
どこ行っちゃったんだろ?】
【彩桜? 何か言ってるの?】
【青生兄だ~♪
えっとね、理俱師匠が消えちゃったの~】
【死神様しているんじゃない?】
【そっか~。紅火兄は?】
【別行動だけど猫捜ししてくれているよ】
【俺も猫さん捜す~♪】
【それじゃあ少しの間だけね。
来ていいよ】
【うん♪】青生兄に瞬移♪
―・―*―・―
颯人と理人はキツネの社の瑠璃の部屋で理子の封珠を真ん中に置いて向かい合い、瞑想していた。
『あら~♪ 琢矢君お久しぶり~♪』
〈お父さん、お母さんてば またネゴト~。
タクヤ君てダレだろね?〉
〈気にしては駄目だよ。
知り合いが多いだけだからね〉
『私を社長夫人にしてよぉ~♪
いいじゃないの、これ、いいお酒なのよ♪』
〈理人、耳を塞いでいてね〉〈は~い〉オフ♪
『そのまま眠りなさい。
種を植え付けてあげる。
定着すれば私の言いなり。
操り人形になっておしまい』
耳を塞ごうが嫌な高笑いが響く。
〈お父さん……〉
〈うん。琢矢さんが心配だね〉
瞑想どころではなくなったので封珠を見詰めていると、大きな狐が姿を見せた。
〈お稲荷様……理子が……〉
〈ふむ…………確かめた。案ずるな。
既に輝竜兄弟と瑠璃が、光威 琢矢に込められておった欠片を浄滅しておる。
新たな被害者を出さぬ為にも修行を続けてくれ〉
〈はい。ありがとうございます〉
〈お母さんてワルモノ?〉
〈その声は理子ではなくオーザンクロスティという魔女のものだ。
母を取り戻す為にも励め〉
〈はい!〉
―◦―
稲荷が元の場所に戻ると白久と黒瑯が居た。
【聞いておったのか……】
【別な相談しに来たんだが、たまたま聞こえちまってな。
琢矢は俺が世話になってる社長の息子だ。
だから さっきのを詳しく聞きたい】
【ふむ。
理子は『種』つまりオーロザウラの魂片を他者に込める事が出来るようだ。
他にも被害者が居るやも知れぬ。
また、理子の他にも、同様に強い魂片を持ち、他者に『種』を込められる者が居るやも知れぬ】
【オヤッサン得意の探りってヤツで調べられねぇのか?】
【儂は獣神、彼奴は人神だ。
儂等、獣神に見えぬように謀るのが得意中の得意なのだ】
【そんじゃあ俺達が虱潰しに調べるのが一番 手っ取り早いんだな?】
【然うなるな。頼めるか?】
【ヤルっきゃねーだろ。なぁ黒瑯】
【モチロンだ。
オレの神眼もカナリ強くなったからな♪
ガツンと調べてやるよ♪】
【けどアレだろ?
神眼だけでなく神力を伝って反撃しやがるんだろ?】
【ったく厄介だなっ!】
【して、相談とは?】
【つまり さっき言ったヤツだ。
極悪神相手に神力ナシで どう戦うのが最善か、ってのを相談したかったんだよ。
明日、明後日のうちに子供の姿をした悪魔が必ず動くだろーからな】
春希も理子も他者にオーロザウラの魂片を込められるようです。
増殖するオーロザウラ持ち。
ザブダクルが聞いたら泣いてしまいそうです。
明日からは慰霊祭です。
理子からも目が離せませんが、動くのが確定な春希とどう対するのかが大問題です。




