コソコソにょろにょろカササササッ
神の湯の青生と瑠璃は、封珠を手にしたドラグーナが目を開けるのを待っていた。
【うん。確かに伝わったからね。
このまま湯に浄化していてもらおう】とぷん。
【父様、出る際には何か前兆が起こりますか?】
【分からないけど……トリノクスの神力が光るかもね。
それじゃあ お邪魔だろうから戻るね】
にこにこと青生の内に戻った。
【邪魔だなどと……】
【のぼせた? 頬が赤いよ?】
【違うと分かっていて言うのだな】睨む。
【うん♪ 可愛い♪】
【揶揄うなっ】
【ほら、夕焼けが綺麗だよ。
瑠璃の方がずっと綺麗だけどね♪】
【まったく……】
【ん? 負の感情より ずっといいよね?】
【……確かに】
【笑ってようよ。
ショウも その方が頑張れると思うよ】
【そうだな】ふふっ。
【やっぱり可愛い♪】くすくす♪
【だから揶揄うなっ】はははっ♪
―・―*―・―
両親を後部座席に乗せて中渡音に戻っている結解の車は、高速国道を降りて一般国道に入った。
平日なら帰宅ラッシュの時間帯だが、土曜日な今日はスムーズに流れている。
母と百香が話しているのを微笑ましく聞きながら運転していると、男の子が飛び出して車の前で止まった。
全力ブレーキ!
衝撃は無かったが、男の子は跳ね飛ばされたかのように体勢を崩し――
「えっ?」「消えた!?」
百香と母の声が聞こえたが、それには返事せずに結解は車を降りて男の子を探した。
「こっちだ。怪我なんかしてないよ。
ぶつかってないもんな」
男の子を歩道に連れて逃げたらしい男が向いて笑みを浮かべた。
「慎也さん、どうして こんな所に?」
「歴史資料って、あちこちにあるんですよね」
男の子を立たせた。
「もう飛び出しちゃダメだよ」ぽんぽん。
「ジャマしやがって……」ボソッ。
「ん? 気をつけて帰れよ?
それとも送ろうか?」「いらない!」
男の子は走り去った。
「あの子……」
「大呂 春希君。
あの事故でお父さんを亡くしたの。
お母さんは後遺症で働けなくて……」
百香が悲しそうに俯いた。
「平等、車を動かさないと」渋滞が。
「んっ」慌てて乗った。「慎也さんも」
「俺は探索したいので此処で。
それじゃ、お気をつけて」
手をヒラヒラさせて去った。
―・―*―・―
【俺そろそろ帰らないとだけど~、ソラ兄ムリしないでね?】
【そういえば、みんなは?】
【俺ん家に泊まるの~。危険だから~。
俺、入院動物のお世話って出てきたの~】
まだ心配そうだが立ち上がった。
【あ、奏お姉さん浄化しないとねっ♪】
【そうだね!】
空元気な二人が両手を突き出した。
【【浄破邪の極み! 人用の!】】
―・―*―・―
狐魔ヶ岳に絶叫が響き渡る。
ただし神耳にのみ。
【彩桜達が奏さんの残滓を浄滅したのかな?】
【そうだろうな】
【俺の勝手な想像なんだけど、理子さんに隠れている欠片は真核の一部か、真核に近い箇所じゃないかと思うんだ。
だから強い意志があって、神力を感じる奏さんと響さんに欠片を込めたんじゃないかとね。
颯人さんの欠片は、理子さんのが込めたんじゃなくて元々入っていたと思う。
だから引き合って惹かれ合った。
理人君のは理子さんのからだね。
だから絶叫し合うんじゃないかな】
【ふむ。納得だな】
―・―*―・―
慎也は素早い男の子を追っていた。
【お~いリグーリ。
その子の家は百香チャンと一美チャンが知ってるぞ~】
【オニキスか。何処から見ている?】
気を消しているのはお互い様。
【上だよ。巡視のついでだ】
【家が分かってよーが、次に何やらかすか知れたもんじゃないだろ】
【確かにな。けど家に帰ったみたいだぞ】
【確かに入ったな。この家は?】
【ダチのじゃなく住んでるのなら、母親の兄家族の家だとよ。
一美チャン情報だ】
【そんなら俺は此処で張っておくよ】
シュルッと普通サイズの蛇になって庭へ。
【神眼も神耳も禁止だぞ。
あ、弟らしいのが向かってる。
そんなら――】
ピッと爪で弾いた極小の何かが、買い物帰りらしい小走りな子供の耳後ろに着いた。
【盗聴機だ。ほらよ、受信機】ポイ。
【ありがとな】口でキャッチ。
【そんじゃ頼んだ。オレは結解を追う】
飛んで行った。
『にーちゃん、タマゴ。ハイ』
『ん』ガサッ。
『タマゴやき、たべたいな……』
『コイツはダメだ。武器にするんだからな』
『ブキ? タマゴが?』
『腐らせて投げるんだよ。卵爆弾だ♪』
『え~、もったいないよぉ。
タマゴやき、おばさんに つくってもらお~よぉ』
『ダメだ。にーちゃんの命令はゼッタイだ』
『ちぇっ。ハナビは? しないの?』
『もうない。全部 武器にして使った』
『ええ~っ』
『どっちもコヅカイ使いきったからな。
次のコヅカイを待て。すぐに2月だからな』
『つぎのハナビ?
こんどは、ちゃんとハナビしよーね♪』
『おにーちゃんたち、なにしてるの?
おふろ、はやく はいらないと、しかられるよ?』
『あっ』『アキは入ったのか?』
『でたとこだよ』
ガサガサと買い物袋らしい音がした。
『にーちゃんの物、勝手に触るなよ』
『うん』
足音のみ。廊下を歩いているらしい。
『おばさん、お風呂お先です』
『にーちゃんと入りま~す♪』
『すぐ夕飯だから長湯しないでね』
『はい。行こう』『は~い♪』
あの子には弟と妹が居るらしいな。
悪神の欠片は弟妹には入っていないのか?
風呂に入ったら盗聴機が流れるとか
ないだろうな。……もう暫く聞くか。
―・―*―・―
【キツネ様、響が乗っ取られるとかありませんよね?】
【そんな事はさせぬ。案ずるな】
【はい……】
眠る響の髪を撫でた。
【此れ迄、何度も接しておきながら見付けられず、すまなかった】
【いえ……獣神様には見えないと聞きました。
致し方ない事だと思います】
【ソラ兄、落ち込んじゃダメだよ】
【彩桜、みんなは? 来て大丈夫なの?】
【家の警護は兄貴達とオニキス師匠と狐儀師匠がしてるから大丈夫。
祐斗がね、何か起こってるって気づいてて、行っていいよって】
【そっか。ありがと彩桜。
心配かけてしまうね】
【相棒だから心配 当たり前なの】ゆるゆる浄化。
【ん。ありがと】
【彩桜、何か見えぬか?】
【にょろにょろウナギな悪神ねぇ……隠れちゃうんだよね~】
【鰻の神なんぞ居らぬ。其奴は人神だ】
【でも黒くて捕まえられないんだもん。
ウナ――やっぱりゴキブリかにゃ?】
【ふむ。確かに御器噛りの如き輩だな】
【あんまりな言い方だね♪】くすっ♪
【真っ黒コソコソかくれんぼなんだも~ん♪【あっ!】】睨んでる!
【ふむ。続けよう。
言葉までは聞き取れる筈が無い。
意識を向けられ、揶揄われておると察知したのであろう】
〈御器噛りならば殺虫剤が効くやも知れぬな〉
聞こえるように通常心話に切り替えた。
〈キャッチポイポイは?〉〈いいかもね♪〉
【紅火、らしき物は作れるか?】【勿論】
《ボクも入れて~♪》ぱよん♪
〈ガネーシャ様、ルロザムール様。
ご協力をお願い致します〉
《うんうんな~に?♪》〈はい! 何なりと!〉
紅火と神達は内緒話を始めた。
―◦―
〈ゴキウナギ~♪
コソコソにょろにょろ~♪〉
〈やめて彩桜、聞こえてしまうよ〉あははっ♪
〈聞こえてもゴキブリもウナギも知らないと思う~♪〉
〈ウナギならいいんだけどね♪〉
〈美味し~もんねっ♪
でもゴキブリは――〉〈〈料理人の敵だ!〉〉
〈あれれ~来ちゃったの~?〉
〈アレはサイテーだからなっ!〉
〈考えただけでゾワゾワする!〉
〈アイツ、似てると思わにゃい?〉にやにや♪
〈似てるじゃなくて!〉〈そのものだっ!〉
《そのような原始人世生物と儂を一緒にするな!!》
【掌握!】〖網~♪〗
《なっ、何をするっ!!》カササササッ!
苛立ち、攻撃しようと響の額に浮かび上がった小さな黒い染みは、彩桜の破邪を纏った紅火の掌握に追われて響から離れ、部屋中を逃げ回る羽目になった。
〈やっぱりカサカサにょろにょろ~♪〉
言い返す余裕も無く逃げる魂片が微かな人神の神力を感じ、それを得て反撃しようと隠れた先は、ルロザムールの神力を餌とし、ガネーシャが神力封じ網を仕掛けた栗の中だった。
〖【【【【捕獲成功!♪】】】】〗【【ふむ】】
《これは何事だっ!! 謀りおったな!!》
【【滅禍大っ輝雷!!】】バリバリドドーン!
網の中で暴れていたがトドメの雷光に貫かれて固まった。気絶したらしい。
【焼き栗~♪
瑠璃姉、来て来て~♪ 捕まえた~♪】
【は? いや行く!】来た。【浄滅しに行く】
〖はいラピちゃん♪〗【ありがとうございます】
ガネーシャから受け取った栗を封珠に込めると術移した。
青生も来て、摘出時と同様に繋がりを断った。
【残滓は彩桜、ソラ君。お願いね。
奏さんもだけど、長く居座っていたんだし、人なんだから弱めに継続してね】
【うんっ♪】【はい!】
普通の盗聴器ではありませんので紅火作のは『盗聴機』です。年末と同じです。
罠に使った栗の中身は紅火が掌握で取り出し、火炎で程よく焼いて、彩桜が美味しく完食済みです。
試作込み込み そこそこ作りましたので。
響に入っていたオーロザウラは捕獲しました。
奏のを食べてしまったカケルは?
次の作戦会議中です。




