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ユーチャリス



 翌早朝。

結局、前日に押し付けられそうになった子猫達を受け取らずに逃げ帰った利幸が眠い目を擦りながら玄関を開けると――


 にゃ~ん♪ 「うわっ!?」


――小さな白っぽいトラ猫と三毛猫が、ちょこんと可愛く並んで座っていた。


「ナンでだっ!?」


 子猫達は捕まえようとした利幸の手をすり抜けて、以前ショウを繋いだ庭木へと駆けて行った。

その根元には壺が置いてあり、子猫達はその蓋に飛び乗ると、器用に蓋を開け、餌を掬って食べ始めた。


「猫って……あんな食い方すんのかぁ?

 うわっ! 遅刻しちまう!

 俺は世話しねぇからなっ!」

大慌てで車に乗り、駅へ!



―◦―



 そして午後。


〈あの車――〉〈ラピスリねっ♪〉


日向ぼっこ――否、瞑想していた子猫達は木から下りた。


車を止めた瑠璃が後部ドアを開けると――

〈ミルキィ! チェリー!〉ワンワンワン♪


〈〈きゃあっ!?〉〉飛び逃げっ!!


〈アーマル兄様、大型犬なのですから……〉

〈〈兄様、犬なのっ!?〉〉


〈ミルキィとチェリーは猫ではないか〉


〈私達だけじゃ〉〈なかったのね~〉


〈僕は少し違うのだがな。

 さておきだ。この結界……ラピスリか?〉

上を見、ぐるりと見た。


〈はい〉〈〈さっすが~♪〉〉


〈ウンディを護る為……にしても強固だな〉


〈『死印』を付けられてしまえば勝手に死を引き寄せてしまうので、護りようがありません。

 ですので通常の行動範囲と車にも同様の結界を成しております。

 ミルキィとチェリー。昨日 話した通り、利幸が遠出する際は付いて行ってくれ〉


〈〈まっかせて♪〉〉


〈その小ささ……ミルキィとチェリーは、つい最近、堕神とされたのだな?〉


〈ふた月くらい?〉〈そんなに経ってない?〉

〈とにかく〉〈つい最近よ〉


〈何をして捕らえられたのだ?〉


〈なんにも~〉〈未遂だったの~〉


〈それなのに何故? 龍にでもなったのか?〉


〈ううん。王都で龍になんてなれないわよぉ〉


〈私達、神王殿で人神のフリしてるユーチャリス姉様に伝えたい事があって王都に行ったの〉


〈姿を消して神王殿に近づいてたらイキナリ捕まっちゃったのよぉ〉


〈気配も感じなかったの。

 イキナリ縄でグルグル巻き!〉


〈人神に見えるなんて有り得ないのに、〈ね~っ!〉〉


〈その上、この短期間で堕とされた……ふむ。

 封印も形ばかりのものであったし、ウンディを護る為に遣わされたとも考えられるな〉


〈ラピスリ、猫にしたのも考えあっての事なのか?

 誰が仕組んだと考えているのだ?〉


〈猫は……私や青生に拾わせる為か、何らかの隠蔽や偽装か……特に意味は無く、最近は龍を犬猫にするのが普通らしいので、それに倣っただけなのか……〉


〈ウンディの彼女するよりも~〉

〈猫の方がず~~~っとマシ!〉


〈そう嫌ってやるな。

 一応、兄なのだからな〉

〈兄様も『一応』と付けるのですね〉

〈あ……つい、な〉


〈〈一応、、ねぇ〉〉顔を見合せ、溜め息。


〈それで、誰が、の方は?〉


〈ふた月前の襲撃の際、結界を成していた兄様か姉様であろうと考えております。

 死司か浄化の高位神となっているのではないでしょうか〉


〈兄姉であればミルキィとチェリーの姿や力が見えて当然。

 信頼を得る為に手柄として獣神を捕らえ、堕神にしたと見せかけ、その実は弟の護衛として人世に向かわせた。

 そういう事なのだな?〉


〈全ては想像でしかないのですが……〉


〈会って話してみたいものだな……〉


揃って、高く澄んだ秋空を仰いだ。



―・―*―・―



 アーマル達の視線の遥か彼方、神世の神王殿(しんおうでん)では――


〈ぇ……?〉


――玉座から虚ろな眼差しを王都の街並みに向けていたティングレイスがピクリと肩を震わせた。


「陛下、如何なさいましたか?」

澄んだ鈴の音のような声が背後から聞こえた。

〈そのまま……動かず、外を向いたまま、落ち着いてお聞きください。

 私は陛下のお世話係、ユーチャリスと申します。

 ここは神王殿。謁見の間でございます。

 陛下――ティングレイス様は、神の王なのでございます〉


〈待って! どうして僕が!?

 サティアタクス様は!?〉


〈前王様は貴神殿(きしんでん)にいらっしゃいます。

 幽閉されているのです。


 陛下は……玉座簒奪の罪を着せられ、操られていらしたのです。

 お気づきになられました事、決して敵神に知られてはなりません。

 操られている振りをし、眠っている振りを徹底して、密かに修行なさってくださいませ〉


〈解ったよ。僕は……すっかり空っぽにされてしまったんだね。

 この塵みたいな神力を大きくしないと反撃すらもできないんだね……〉


〈然様でございます。

 修行のお手伝いは私にお任せくださいませ〉


〈ありがとう。でもキミは……?

 この話し方は獣神様の話し方だよね?〉


〈はい。私は陛下に助けられました龍でございます〉


〈え? 僕が助けた?

 龍神様にはお世話になるばかりだったんだけど?〉


〈弟の鱗を(むし)り、妹にまで手を出そうとした人神から逃がしてくださいました。

 狐の子も お助けくださいました〉


〈あ……最果てで? あの白い龍神様かな?〉

顔は向けられないので精一杯の神眼を向けた。


〈様なんてお恥ずかしい限りですが、弟妹達を指導していたのは私でございます〉

壇上の隅から、幼くも見える若い女官(メイド)がワゴンを突いて姿を見せた。

「陛下、お茶の時間でございます」

可愛らしく頭を下げると、後ろで纏めている白に近い銀の髪が ふわりとその背を追った。


「お茶……?」

ぼんやりとした眼差しを向けると、ちょうど女官が顔を上げた。

〈あ……やっぱり白い龍神様なんだね。

 エーデリリィ姉様そっくり……〉


「はい。お茶でございます」

〈ありがとうございます、陛下。

 お茶は貴族達の嗜好品でございます。

 渡された茶葉には支配の力が込められておりました。

 陛下を支配し続ける為の力でございます。

 ですが、その効力と、力に絡む邪心は滅しております。

 残しております神力は、陛下の神力を増す為の養力に変えておりますので、どうぞお召し上がりくださいませ〉


差し出された茶を受け取り、ひと口。

「おいしい……」

〈茶葉に込められた力までは見えないよ。

 キミの本当の姿も……うっすらとだけなんだ。

 悲しくなってしまうよ。

 今の姿……人神の姿にしているのは何故?

 とても美しいから、どちらでもいいんだけど〉


〈敵神が神王殿から獣神を排除したのです。

 職域からも、都だけでなく人神が暮らす街や村からも。

 そして見つかれば捕らえられ、堕神とされるか、封じられてしまうのです。

 ですので、龍の姿は完全に隠しているのですが、僅かな神力をそこまでお使いになられていらっしゃいますのは流石でございます。

 人神の皆様は何方も見えておりませんのに〉


〈獣神様を……そんな酷いことしそうなの、僕には1神(ひとり)しか思い当たらない

んだけど……?

 彼は玉牢の中じゃないのかなぁ……〉


〈サティアタクス様の前の王様がご即位の際に、恩赦として出ているのです〉


〈そんな前に!? ぜんぜん知らなかったよ。

 それじゃあ、やっぱり彼が?〉


〈おそらく、としか申せませんが……〉


〈もっといろいろ教えてください。

 王にされて以降もだけど、記憶が……うまく思い出せなくて……〉


〈では……触れた方が確かでございますね。

 完全に隠さなければなりませんので〉


〈今の僕は愚王なんだよね?

 申し訳ないけど、引き寄せてもいい?

 ホント申し訳ないんだけど〉


〈ご遠慮なさらないでくださいませ。

 良いお考えでございます〉

「お茶のおかわりは如何でございますか?」


「お茶……よりも……」

渡した空のカップを受け取った手を引き寄せ、

「あっ」カチャッ!

膝に座らせて抱きしめた。

〈ごめんなさいっ!〉


ユーチャリスは恥ずかし気に身を固くして、カップを抱いて俯いた。

〈ご遠慮なさらず、そのままで〉


〈う、うん……ごめんなさい〉


〈額を私の肌に着けてくださいませ〉

動揺している風に頭を動かし、(うなじ)に掛かっている髪を前に垂らした。


〈ええっ!?〉


〈お早く。振りを徹底なさいませ〉


〈っ…………そうだね。

 慌てたら王都の様子が少し見えたよ。

 神世を立て直さないといけないよね。

 徹底……うん。申し訳ないけど頑張るよ〉

甘えるように首筋に顔を埋めた。

〈こ、、これで、いいのかなぁ?〉


〈はい。では、私が見聞きした事を流して参りますね〉


〈お願いします。

 あ……熱いよね? ごめんなさい……〉


〈お気になさらず。

 徹してくださいませ〉ふふっ♪


〈あ……笑った……?〉


〈申し訳ございません。

 止まらなくて……〉くすくすくす――


〈震えてるみたいに見えるから、

 ちょうどいいと思う……けど……やっぱり、ごめんなさいっ!〉


入って来た臣下達の視線を感じて焦りまくりのティングレイスだった。







ドラグーナの初代の子供達が命の欠片をティングレイスに放ち込めて半年程が経ちました。

その欠片の神力で支配が解けたティングレイスは、ようやく目覚める事ができたのです。


白龍神ユーチャリスもドラグーナの子です。

ミルキィとチェリーはそのユーチャリスへの伝言を預かっていたようです。



第一部 第3章は人世を中心としたお話でしたが、第4章は神世を中心としたお話になります。


それでも神世ばかりにしますと人世の進みが見えなくなりますので、人世のお話も挟みつつ進めます。



目覚めたばかりのティングレイス。

どうやら神力を抜かれ、記憶も封じられているようです。


ユーチャリスの協力を得られたのは大きいのですが、現状を覆せるのでしょうか?



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