校内マラソン大会
慰霊祭の準備や練習とは別に、学校行事もある彩桜達は今スタートラインに立っていた。
「1年男子、東コースだからな~。
間違えるなよ~」
「算木先生~、早く~」
「体育の先生、居ないですか?」
「コース途中に立ってるからな~。
あと救護車な~。
それじゃ、位置について~、よ~い……」
パンッ!
乾いた破裂音の合図で、先頭集団が一斉に飛び出した。
以降、ぞろぞろと塊が進んで行く。
校門を出るだけで先頭と末尾とでは数分の差が出来ていた。
この日はマラソン大会。
男子は東コースで10km、女子は西コースで5kmを走る。
入試間近――と言うか私立高校の一部が日曜日に入試な3年生は走らない。
自習中で、ベランダに出て見ていたりもする。
「1年女子、スタートラインに並べ~」
わいわいザワザワにキャッキャと、けっこう賑やかに移動して、自信のある者ほど前に集まっている。
前後位置は自由なので構わないのだが、とにかく動きが遅く時間が掛かって仕方がない。
「早くしろ~」
1年男子の先頭が校門を出て5分ほど。
救護テントに置いてある連絡用のスマホが着信を告げた。
「はい西東です。
車を向かわせ――え?
スタート時間ですか?
変わりありませんよ?
……ええ、たった今、出たところです。
5分くらいかしら?
……は? あ、ええ。よろしいのですね?
輝竜君と翔君が……何ですか?
はい? もう折り返したんですか!?」
通話の途中から静かになっていた1年女子達から歓声が上がった。
「早く出ないと戻ってしまうぞ~。
位置について~、よ~い――」パンッ!
男子は南門から出入りするが、女子は西の正門からとなっているので、戻った者が最後に1周するトラックさえ空いていれば問題ない。
とは言え、1年女子がまだ出きっていないうちに彩桜とサーロンが戻った。
並んでトラックに入り、ぐるっと。
余裕の笑顔で一緒にゴールテープを切った。
「同着1位な~」「「はい♪」」
『1』『2』のカードを貰って、そのまま駆け抜けた。
「黒瑯兄リーロン飴湯~♪」
「「オレ達と飴湯を並べるなっ!」」
今回も許可を得て飴湯屋を開いている。
もちろん無料だし、スポーツドリンクと汁粉も用意している。
「みんなが戻るまで飲んでていいよねっ♪」
両手に飴湯♪
「「カラになるだろっ!」」
〈それよか彩桜。〈も~チョイ加減しろよな〉〉
〈ほえ?〉
〈もっと速く走れるのは知ってっけどな、時速60kmって車かよ〉
〈また撮られてたぞ〉
〈あらら~〉
〈ま、騒がしくなったら、またオレが追い返してやっからな。安心しろ〉
〈リーロンが? 神様だから?〉
〈前にも大騒ぎだったからだよ!
スケボーの時なっ!〉
〈そっか~♪ リーロンありがと♪〉
〈おう。これからマジで気をつけろよ〉
〈ソッチに進みたいんなら全力でいいけどな〉
〈うん♪〉
「彩桜 サーロン、お疲れ――じゃなさそうだな♪」
「あ♪ 徹君~♪」「勉強お疲れさまです♪」
「休み時間だから来てみたんだ。
3年も貰っていいんだって♪」
どんどん玄関から走って来ている。
「黒瑯兄、徹君の早く!」「ほらよ♪」
「ありがとうございます!♪」
「俺の おかわりと お汁粉も!」
苦笑しつつも入れてくれたので、徹を連れて離れた。
「黒瑯兄リーロンまた後でね~♪」
「「もう来んなっ!」」顔は笑っている。
「兄さん、空コップ入れる袋、設置しました♪」
「ありがとなサーロン♪ 早く逃げろよ」
「はい♪ ありがと兄さん♪」
兄からコップを受け取って彩桜達を追った。
徹と話しながら玄関前に。
玄関の両側にもコップ回収袋を設置したところでチャイムが鳴った。
「それじゃあ僕は戻るから」
「「がんばって~♪」ください♪」
笑顔を向けて頷いた徹は、急いで教室に戻ろうとする流れに乗って見えなくなった。
「ゴールに行こっ♪」
「悟、ゴールしたです♪」
ゴール地点が沸いていて、悟が『3』のカードを掲げて走って来ていた。
「飴湯あっち~♪」「ドリンクもあります♪」
「おう♪」ハイタッチして駆け抜けた。
ゆっくり歩いてゴール地点に行くと、祐斗と堅太が抜きつ抜かれつでトラックを走っていた。
2年男子はスタートしたらしく、声援は華やかに高い。
一緒にゴール!
「鼻差で久世かぁ?」
「俺の鼻がモ~チョイ高かったら勝てたのに!」
「いえ、前に出ていた手は同着でしたよ」
ニコニコ狐松が写真を見せた。
「一応渡すが同着4位な~」「「はい♪」」
『4』と『5』を貰って彩桜とサーロンの所へ駆けた。
「2年女子、スタートラインに並べ~」
この5人が速いのは想定内。
6位は暫く来ないだろうと準備を始めた。
―◦―
美雪輝達が塊で走っていると――
〈コレ何のお祭り? 僕も走る~♪〉
「あ♪」「喋る犬~♪」「だぁね♪」
――大型犬達が嬉しそうに走って来た。
〈僕はショウ♪ ユートのデュークとリューキのガオウとギオウ♪
あとサクラんちの――〉
「ぜ~んぶ紹介しなくても毎日 見てるし~♪」
「庭でアイサツしてるよね~♪」「だぁね♪」
ワン♪ と一斉♪
コースに立っていた担任の古嶧が慌てた様子で来た。
「元気先生を呼ぶから待って――」
「アタシ達なら大丈夫です♪
この犬達、友達ですから~♪」
「へ?」
「走りますね~♪」
彩桜君親衛隊と犬達の塊は走り去った。
折り返して来た先頭集団が驚いている中、六花だけは笑顔に。
「あの犬達は大丈夫♪
このまま頑張りましょ♪」
笑顔で すれ違った。
折り返し地点には砂原が居た。
「犬達は輝竜家のお庭をゴールにしなさいね」
「は~い♪」〈わかった~♪〉
砂原にも聞こえて一緒に笑った。
―◦―
ゴール地点では運動部員が続く中、10位で恭弥が、16位で凌央がゴールした。
「「はい♪」」
座り込んだ凌央に彩桜が飴湯を、サーロンがスポーツドリンクを差し出した。
「手、を……」「「浄化♪」」ニコニコ♪
「ありがと……」とりあえずドリンク。
「凌央も秘かに特訓してたのか?」
堅太がタオルを渡した。
「少しだけ……朝、走ってた……」
落ち着いてきたので今度は飴湯。
「やっぱり超一流の味だよね。
ん? このタオル……」
顔を拭いて首に掛けようとして文字に気付き、広げてみた。
「歴史研究部の? また作ったの?」
「紅火兄が今朝くれたの~♪」
「いいデザインだね。やっぱり超一流だよね」
「ありがと♪ って紅火兄 言ってる~♪」
「そんな ご陽気に言わないよね」
「うん♪『む……』って照れてる~♪」
「今?」
「今~♪」にゃは♪
―・―*―・―
その日の放課後、歴史研究部員が屋上に向かおうとしていると、陸上部の深長と冴喜に呼び止められた。
「これから陸上部も部室に集まるんだけど、一緒に来てもらえたら嬉しいな」
1位だった副部長の冴喜が微笑む。
「それじゃウチで祝勝会、どぉですか?」
彩桜もニコニコ♪
「いいの? 多いよ?」
2位だった深長は心配気味に小首を傾げる。
「ぜ~んぜん大丈夫で~す♪」
「キャパ大きいんですよね♪」
「サッカー部とバスケ部も集まるんです♪」
「卓球部とバレー部と軟式テニス部も♪」
3位が豪庭、4位が球威だったので明日テニス練習するなら泊まりでと声を掛けたので卓球部も。
バレー部と軟式テニス部は彩桜君親衛隊から。
尚樹と星琉は声を出さなかったが美術部も呼んでいる。
「って、ほぼ全部?」
「まだ増えるかも~♪」
「「ん?」」
彩桜が遠くを見ていたので振り返ると、撫子連合が小走りに来ていた。
「慌てなくても ご招待~♪」「いいの!?」
「ソフトボール部も来て来て~♪」
歓声が廊下に響き、数人が反転した。
〈紅火兄♪ 2階、宴会場お願い~♪
黒瑯兄リーロン♪ みんな行く~♪〉
〈ふむ……〉〈〈皆って!?〉〉
〈1、2年みんな~♪〉
〈〈おう、任せとけ♪〉〉
〈ん♪ ありがと~♪〉
「砂原先生~♪
吹奏楽部も音楽部も連れて来て来て~♪」
姿が見えたので声を掛けると、一緒に居た2年生達が駆けて来た。
「放送部なんだけど」「来ってく~ださい♪」
「全校放送していいかな?」「いいで~す♪」
祝勝会? 慰労会? もう何でもな大勢でのパーティーが決まった。
ちょっと脱線? みたいな1話でしたが、ただの時系列で彩桜の楽しい日常です。
中渡音第二中学校では、図書委員と放送委員は放課後の活動もあるので部活としても認められているんです。
よく夏月が図書室に寄ってから帰っているのは図書委員だからなんです。
部活をしたくなかった夏月は図書委員=図書部員として放課後当番をしていたんです。




