逃げ回る悪神魂片
琢矢が気絶している間に青生と瑠璃はオーロザウラの極小片を摘出して封じると、瑠璃は神世に向かって飛んで行った。
狐儀が数分後に目覚めるように気付けをして離れ、神眼で見ていたが全く起きる気配が無かった。
〈起きにゃいよ? どぉするの?〉
彩桜が路地に戻った。
〈困ったね。
このままだと風邪を引いてしまうね〉
青生も追って来た。
〈内の神は目覚めていませんでしたし、大きさからも補填の必要もない程でしたが……。
もちろん気絶させたのも人用ですよ?〉
狐儀も現れて琢矢の魂を確かめる。
〈何が原因なのか確かめた方がいいんじゃねぇのか?〉空から。
〈あ♪ オニキス師匠~♪〉真っ暗に真っ黒~♪
〈それじゃあ運ぼうか〉〈ん♪〉連れて瞬移。
――店の座敷。
〈お布団~♪ はい♪〉
空にしか見えない押入れから出して敷いた。
〈暖かくしておいたよ〉空調、微調整中。
〈では私が様子を見ます〉
狐儀が付き添った。
〈青生 彩桜。あの姉妹も見てくれ〉
オニキスが和館を指した。
〈だから来たの?〉
〈だよ。獣神には見えねぇんだよ〉連れて瞬移。
――和館1階。
【黒瑯兄と姫姉ちゃん達も居た~♪】
【リーロンが神眼を鍛えてくれてるんだ♪】
【オレじゃ見えねぇからな。
ソッチのが近道だと思ったんだ♪】
【そっか~♪】座って2階に神眼を向ける。
【奏お姉さんにも入ってるねぇ】
青生も並んで座った。
【そうなんだよね。
キャティス様の欠片の方が大きいから、オーザンクロスティの欠片を眠らせているみたいなんだけどね】
【でも目覚めかけ?】
【たぶん……理子さんが近付いた時に共鳴したんだと思うよ】
【手術は? あっ、逃げちゃった~】
【そうなんだよ。掴めないんだ。
だから取り出せないんだよ】
【鰻の神様?】オニキスと黒瑯が吹き出す。
【人神様だよ】青生も苦笑している。
【黒いしゴキ――】【【言うなっ!】】
【虫の神様って居にゃいの?】
【虫とか魚介類とかの神は居ねぇよ。
神世生物としては居たけどな】
【過去形?】
【雲の海は干上がったし、荒野ばっかになっちまったからな】
【雲地の保護区域で生きている】
【瑠璃姉お帰り~♪ ヒトデも居る?】
【【【【彩桜、寝たの】か?】】】
【起きてるってばぁ。ヒドいにゃ~ん】ぶぅ。
【ふむ。雲海星も居る】
【そっか~♪】るんっ♪
遊んでいるようだが神眼は真剣で、掴む策を探りながら朝迄ずっと向け続けていた。
―・―*―・―
朝。住人達が仕事に、学校にと出掛けた後――
「えっ?」ガバッ!「ここどこ!?」
キョロキョロしていると朝陽が射し込んだ。
「あ♪ おはようございます!」「うわあっ!」
戸を開けて外から入ったソラを見た琢矢は奥の襖まで跳んだ。
「徹クンを送った帰りに路地で眠っているのを見つけました。
体調、大丈夫ですか?
お医者さんは眠っているだけと仰っていましたが、病院に行きますか?」
掃除道具を片付けて手を洗っている。
「たぶん寝不足! すっかり元気です!」
「良かったです。朝食を運びますね♪」
「いっ、いえっ! 帰りますのでっ!」
枕元にあったバッグパックを掴んで開いたままだった戸に突進して逃げた。
「確かに寝不足でしたね。
そうとしか思えませんでした」
様子を見た結果も寝不足にしか至れなかった狐儀は姿を戻した。
【白久様、無事にお帰りになりましたよ】
【そっか。ありがとな♪】
―・―*―・―
この日も平穏に過ぎて夜。
【彩桜、競技会が延期されたって聞いた?】
人姿のルルクルが部屋に現れた。
【ほえ? 聞いてにゃ~い。どして?】
【前2回、不思議な事が起こったから呪われているのかもって、次と その次の会場が嫌がってパスしたいって。
それを説得して最終的に4月と5月になったって。
年末から揉めてたのが やっと決まったって会場近くの馬達から聞いたよ。
だから連絡は明日かな?】
【直前だねぇ。遠方のお馬さん達、もぉ会場近くで慣らしてるんじゃない?】
【うん。来てたよ。
また移動かぁ、ってウンザリしてたよ】
【お嬢様達には?】
【先にローズちゃんに伝えたから、今ちょうど話してるよ】
【そっか~。
でも春なら竜騎も間に合うね♪】
【そうだね。竜牙も間に合うよね♪
いつ会わせるの?】
【週末~♪ 楽しみなの~♪
土曜日に会わせて、競技会も一緒に行くつもりだったんだけど~、慣らし乗りで楽しんだらいいよね♪】
【そうだね。僕も行くよ♪】【うん♪】
【彩桜、お稲荷様の社にお願い】青生の声。
【ん♪ ルルクル一緒にねっ♪】手繋ぎ瞬移♪
――【青生兄どしたの?】ぱふっ♪
【猫探し、お願い出来る?】【ん♪】
【ドイツで見つけた子猫達の父親を探したいんだけど、子猫達から拾った情報しか無いんだよ】
手を繋いで流した。
【白かにゃ?】
【たぶんね。長毛の雑種で瞳は金。
そのくらいしかお稲荷様でも拾えなかったんだ。
それで本当に探したいのは、この女神様】
また流す。
【ん。狐さん?】
【お稲荷様の奥様だよ。
そのヒントが父親猫にありそうなんだ】
【そっか~♪ どこ探すの?】
【世界中】
【ルルクル一緒でいい? 獣神様だから~♪】
【うん、いいと思う。
俺は黒瑯とリーロンを連れて行くよ】
【じゃサーロンも一緒~♪
響お姉ちゃん達、姫姉ちゃん達に頼んだらいいよね?】
【狐儀殿にも頼んでね】【ん♪】瞬移♪
――店の座敷。
狐儀は見知らぬ男神達と話していた。
【おや彩桜様】
【神様?】驚き顔の2神に首を傾げる。
【ルロザムール様とソリューダン様です。
例の魂片は獣神には見えませんので、ご協力をお願いしていたのです】
【じゃ人神様?】
【はい。エィムと親しい人神様です】
【そぉなんだ~♪ よろしくお願いします♪
俺ね、サーロン連れて行きたいから、お姉ちゃん達お願いしたくて来たの~♪】
【サーロンと、どちらへ?】
【猫さん探しなの~♪
子猫ちゃん達に父ちゃん会わせるの~♪
ルルクルも一緒なの~♪
行ってきま~す♪】瞬移♪
【人、ですよね?】
【はい。ドラグーナ様の器です】
【それでしたら納得です】
【では参りましょう】連れて瞬移。
――奏と響の真下。
【見えますか?】
【はい。悍ましい何かが隠れました】
【最高司様に似ているような……】
【その父神だと考えております。
操禍と支配を持つ禍神オーロザウラです】
【まだ目覚めてはおりませんよね?
ですが覚醒間近でしょうか?】
【目覚めていないのに……なんて強い……】
ソリューダンの呟きにルロザムールも頷いた。
【そんなにも、なのですね……】
【お社で修行中の人神達は?】
【微かに感じる程度ですとか。
ですのでエィムに頼んだのです】
【そうですか。
では可能な限り此方に参ります】
【お願い致します!】
―・―*―・―
中位死司管理神としても忙しく、絶滅種保護区域の道作りも、チャムを鍛えるのも、仮保魂している人魂を確かめに行くのも手を抜きたくないエィムは、束の間でも疲れを癒やした方が効率的だと判断して久し振りに廃教会に戻った。
〖だ~れ~か~! 居~な~い~かなっ!〗
【あっ! イーリスタ様ですね!
お久し振りです! エィムです!】
〖居た~♪ うん♪ イーリスタだよ♪
や~っと、糸電話の試作が出来たから~♪
昨日からず~~~っと呼び掛けてたんだ♪〗
【留守にしていてスミマセン!】
〖ちゃんと休んでたから大丈夫だよ♪
前に試した時はウンディってコが返事してくれたんだけど、ウンディは?〗
【今は修行部屋で瞑想しています。けど……それって、いつだったんですか?】
〖年明けすぐだったから~2日だったかな?〗
【えっ……自力で出たのかな……?】
〖あ~、修行部屋ってアレねっ♪
そっか~♪
ウンディって保護魂なドラグーナの子ねっ♪〗
【保護魂、ですか?】
〖詳しくはラピスリとかオフォクスに聞いてねっ♪
糸電話、も~っと改良するからねっ♪
今日は試しただけ――〗【お待ちください!】
〖ん? 何か質問かな?〗
【イーリスタ様は龍か狐ですか?】
〖違うよ~♪ 鳳凰で兎♪
お嫁ちゃん達は龍で兎だよ♪〗
【奥様って……?】
〖ラピスリやマディアの同代でミルキィとチェリーだよ♪
双子ちゃんなんだ~♪〗
【姉様!? 兎!?】
〖敵神の呪に掛かって再誕したんだ。
その時に僕の兎も加えてもらったんだ♪
だから一時的に1神にして~、絆結んで~♪ 双子に♪〗
【そうでしたか……あっ、リポップル様――】
〖え?〗ご陽気がブッ飛ぶくらいビックリ。
【えっと、手紙を届けてくださって、お帰りに。お知り合いですか?
呼び戻しましょうか?】
〖ゴメ~ン、聞き間違っちゃった~。
知らない知らな~い。
それじゃ、改良したら また試すからね~♪
まったね~♪〗
フツッと切れた。
「やっぱりイーラスタ様とイーリスタ様は親子なんだね」
リポップルは来ていない。
確かめたいと思ったエィムが名を出してみただけだった。
「休むより先にウンディ兄様を確かめておかないと……」
呟いて小部屋に向かった。
琢矢は無事に帰りましたが、奏と響に入っているオーロザウラの微細魂片が逃げ回って摘出できません。
またまた困った状態です。
久々登場のイーリスタは真面目に月と人世を繋ごうとしていたようです。
ご陽気な大神様……たぶん大神力の称号を持っていますよね。
桔梗様の半分捜しも継続していました。
いろいろと忙しい輝竜兄弟です。




