親は偉大で温かい
翌朝、結解と百香が輝竜家の玄関を出ると――
「ええっ!? ユゲさん!?」
――坊っちゃんが居た。
「どうしてユゲさんが出て来たんですか!?
この大きな家! あっちの城門みたいな国宝みたいな門の家ですよね!?」
結解と百香が顔を見合わす。
百香が思いついたと結解にだけ笑みを見せた。
「私がお世話になっているのでご挨拶に来たんですよ」
「ユゲさんも?」
「私達、結婚するんです♪」「えええっ!?」
その声が聞こえたのか、ソラが店から出て来た。
「あ♪ 光威さん、おはようございます♪」
「うわわわわっ!」逃げた。
「結解さん、遠出するんですよね?
お気をつけて」
店前を掃除し始めた。
「ありがとうございます」
助かったと礼を言って駐車場に向かった。
〈ソラ? タクヤ君が来てたのよね?〉
〈うん。まだ何か探してるみたいだね〉
〈誰の家を探してるんだろ?〉
〈響の家は?〉
〈知ってるハズよ。
中学の頃、何度かついて来たから〉
〈イジメから護ってくれてたとか?〉
〈中学になると幼稚なイジメはされなくなって無視されて孤立してただけ。
でも他の小学校卒の同級生は知らないから友達になろうとしてくれたのよね。
私がムリで、どんどん孤立してったんだけど〉
〈そっか。これからはボクが響を護るから。
大学院では友達つくろうね〉
〈うん、頑張る。お店に行っていい?〉
〈いつでも来てよ。ボクが嬉しいから〉
〈ん♪〉
ソラは冴えた晴れ空を見上げた。
最近、怨霊すらも少ないけど
平和だって喜んでていいのかな?
ちょっと不気味?
なんか……嵐の前?
って、そんなこと思ってたら
本当に何か来てしまうかも!
あ、死神様達が小さく手を振ってる。
平和になってきた、って受け入れよう。
ソラは笑顔を返して店に戻った。
―◦―
すぐに響が店に来て座敷で話していたが、
「お姉ちゃんと一緒に犬達のお散歩に行ってくるね♪
心配だったら神眼 向けててね♪」
と出掛けてしまった。
見計らっていたらしい彩桜が現れる。
【ソラ兄、この抽斗に魂筆の出来立てほやほや入ってるから慣らし書きで『龍』の字 練習してて~♪】
【慣らし書き? って必要なの?
ボクが練習する理由として?】
【一石二鳥♪ 慣らしも必要なの♪
だから響お姉ちゃんも最初は書いてたの~♪
えっとね、魂墨に神力 感じたら書くんだから墨準備ねって教えるの~♪】
【そんなのあるんだ……】
【魂墨も神力の塊だから~♪ はい♪】
平たい桐箱を渡した。
【この筆達、ずっとあったっけ?】
【兄貴達とリーロンと作った~♪
で妖秘紙の半紙♪
消すのは手に神力 集めて魂墨に『戻って』って伝えながら撫でるだけ~♪】
【墨が消えるの? 戻るって……?】
【魂墨、見た目は墨だけど神力だから~♪
筆も紙もソラ兄サーロンに調整してるから、いっぱい書いてねっ♪】
【もしかして全部ボクの為に?】
【ソラ兄もサーロンも家族だから~♪
じゃ俺、アトリエに戻るねっ♪】瞬移♪
部屋に戻って走って行った。
【ありがとうございます!】従兄と兄に!
従兄達と兄から口々に返事があり、感激うるうるでソラは書き始めた。
―◦―
「ただいまソラ♪ って何書いてるの?」
「魂墨と魂筆の慣らし。これも仕事だから。
龍神様が作ったから『龍』の字にしたんだ」
半紙を撫でて消す。
「そんなこともできるの!?」
「響も出来ると思うよ。
普通に書いて、手に神力を集めて、『魂筆に戻って』って魂墨に伝えながら撫でるんだよ」
説明しながら実践。
「やってみる!」
自分の紙と筆を出して書いて、手を見詰めてから撫でた。
「消えたわ♪」
「真の書き方はヨシさんから習ったよね?
あの書き方でも消し方は同じだよ」
また書いて消して笑顔を向けた。
「ソラって、どんどん凄くなるね……」
「響に追いつきたいからね。
夫として、並ぶのは当然だよね」
「もう追い越してると思うよ」
「そんな事ないよ。ん?」
戸がガタガタ音を立てている。
「はい! すぐ開けます!」
瞬移してサッと開けた。
「いらっしゃいませ。
あ――和語でなくても大丈夫ですが、何語がよろしいですか?」
とりあえず途中から英語で。
「和語、少しは話せます。英語も。
リカイネンと申します。
ハクさん、居ますか?」
「はい♪ こちらにどうぞ♪」
【白久お兄さん、お客様です。
リカイネンさんだそうです】【すぐ行く!】
白久は響を気にしてか、座敷に繋がる渡り廊下ではなく店の戸をガッと開けて入って来た。
「遠路遙々ようこそ!♪」独語。
「邦和に来ていましたから。
ナニワ店でメール見ました♪
すぐに連絡して、明日発送です♪
社の飛行機、邦和便に乗せます♪
あんなに沢山どうするのです?」
「建売り住宅の備え付け家具なんです。
ゆっくり話したいのでサロンにどうぞ」
と出て行った。
「外国の家具屋さん?」
「そうみたいだね。
白久お兄さんは『建売り』だって言ってたけど違うと思う。
去年の事故のご遺族に家を寄付したんだよ。
その家具だと思うよ」
「ご遺族って多いんじゃないの?」
「多いよ。
住む所に困ってる世帯だけでも20軒くらい。
先月のは抽選になったから、もう一度 土地を得て建てたらしいんだ」
「凄いね。やっぱり偉い神様なんだね」
「うん。優しくて大きくて、遥か高み。
他にもね、後遺症で就職に困ってた人達を事務職とかで雇ったみたい。
在宅もアリで、資格取得の勉強も面倒見てるみたいだよ。
だから社宅も建てたみたい」
「詳しいね。ソラも協力してるとか?」
「年明けから少しだけね。
ご遺族の名簿は支援事務所にあったけど、後遺症の人とかは全然だったから探したよ。
それとエィム様に協力してもらって想いの欠片を借りたり」
「私も入れてよぉ」
「そうだね。
理子さんの事が一先ず落ち着いたから、これからは一緒にね♪
ユーレイ探偵団だからね♪」
「あ~、理子叔母さんので私には黙ってたのかぁ。それなら納得。
よ~し! これから頑張るからねっ!」
「そろそろ瞑想するけど響は?」
「もっちろん一緒によ♪」
向かい合って瞑想を始めた。
【青生先生、どうかしましたか?】
神眼を感じて問い掛けた。
【響さんの魂を見させてね?
理子さんの浄化のヒントにさせてもらいたいんだ。ご親戚だから】
【理子さん、どうなんですか?
悪神の欠片は完全浄滅したんですよね?】
【そうなんだけど、話した通りなんだ。
年末に捕まえた人達は改心して罪を償おうとしているのに、理子さんだけは全く変わらないんだよ。
人に使える方法は全て試したんだけどね】
【弱禍も消えてますよね?】
【うん、すっかり。
今、瑠璃から連絡が入ったんだけど、エィム様から館端 颯人さんと理人君の想いの欠片が届いたそうだから、後でソラ君が理人君をした時の記憶を伝えてもらえるかな?】
【はい。
理人クン、脆くなっていて前は借りられなかったんですけど大丈夫ですか?】
【名を貰って、お父さんと一緒に居たら元気になったんだって。
だから これからは理人君自身が理子さんに付いていてあげられそうだよ】
【そうですか♪ 安心しました♪
――って、あれ?】渡り廊下に神眼を向けた。
【ん? ああ、彩桜がサーロンを響さんに見せようとしているみたいだね】
彩桜と狐儀サーロンが手を繋いで駆けて来た。
「お邪魔しま~す。
本、持ってくだけですので瞑想しててく~ださい♪」
「失礼します」座敷の本棚へ。
「えっと、あれ?」ソラは居るわね。
「従兄のサーロンです♪」
「はじめまして。
翔 颯龍、漢中国人です」
ペコリとして数冊 抜き取ると、渡り廊下へ。
「イトコ……」
「双子に見えるよね♪
響も やっと近くで顔見たね♪」
前はバスの中だったので遠かった。
「あ~、忘れてた~。
私、前にも彩桜クンと間違えたよね。
それにしてもイトコって、あんなにも似る?」
「ボク、従兄弟も居ないから知らないよ」
「そっか……」
あ! そっか。
『サーロン』は彩桜クンを護る
皆さんがする姿で、
ソラだけじゃないのね♪
じゃあ、ソラじゃない時は狐儀様とか?
リグーリ様って可能性もある?
「響?」
「あっ! 瞑想の続きねっ!」
―・―*―・―
実家から駐車場に向かう結解は、清々しい思いで低くなって赤みを帯びた陽に向けた目を細めた。
「平等さん、良かったですね♪」
「15年振りに唐突に帰っても受け入れてくれる。親とは偉大だと痛感しました」
「15年も?」
「高校を卒業した日に家出を……愚かでした」
「そうだったんですか……」『平等!』
二人が振り返ると母が駆けて来ていた。
「母さん、慌てないで」引き返す。
「これを、輝竜さんにっ」はぁはぁ――
「どうして常務を知って?」
菓子箱らしい包みが入っている手提げ紙袋を受け取って、母が話せるのを待つ。
「昨日、近いうちに平等が帰るって電話してくれて。
お父さんがゴネるから、後で説得しに来てくれたのよ。
いい上司さんね。
過去は見ないで、今の平等を見て、よく話してくださいって。
お父さんたらね、嬉しいのに素直に顔に出せないから自分でも困って、どうしたらいいのか分からなくなってゴネてたのよ。
困った人よね。
それも上手に宥めてくれたの。
でもま、平等も似たような性格だから解るでしょ?
お母さん今日ね、もう、感動しちゃって。
平等すっかり立派になってるから。
今を見てって言葉、本当ねって思って。
舞い上がっちゃって、今朝せっかく買いに行ってたのに平等に渡すのを忘れちゃってたのよ。
平等も大好きな栗饅頭だから、ひと箱は二人で食べてね。
それじゃあ気をつけて帰ってね。
また来てね。いつでも来てね。
百香さん、平等をお願いしますね」
話せるようになった途端、割り込み不可トーク。
「はい♪」
「近いうちに、新しい住所も、式の日取りも知らせに帰るから」
「楽しみに待ってるからね」
「あ♪ 来週末にでも、中渡音にいらっしゃいませんか?」
「あら♪ お邪魔してもいいの?」
「いらしてください♪」
「来週末、迎えに、、帰るから」
「楽しみが増えたわ~♪
お父さんに話してあげなきゃね♪」
と言いつつも引き返さずに駐車場まで一緒に歩き、車が見えなくなるまで手を振って見送ってくれた。
親は、やはり偉大で温かいと、想いを抱き締めながら運転する結解だった。
結解さんがシッカリ幸せを掴んだところで、この章は終わります。
問題が どんどんスタックされているような気もしますが……。
ひとまずは、めでたし めでたしということで。




