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社宅と提供住宅



 翌朝、結解が運転するワンボックスカーは新築ホヤホヤな社宅前に着いた。

「素敵な場所じゃないですか~♪」

真っ先に降りた億野がパンフレットで見た十万が選んだ家へと走る。


「あれが防音壁かな?」

「駅の方ですから、そうでしょうね。

 壁の向こうも見てみませんか?」

徳示と麗楓は歩いて行った。



「そ、その……行きましょう」


平等(たいら)さん。

 私、『その』じゃありません」ぷん。


「も、も、、も……」溜め息。


「最後のを『か』にすればいいのに」ふふっ♪


真っ赤になって十万の手を引いて歩き出す。


「結婚までには呼んでくださいね」


頷いてズンズンズン――。



―◦―



「この壁、透明なのかと思ってました。

 写真のプリントでもなくて絵なのね♪

 お部屋の絵と同じ方ですね♪」


「それにしても電車の音を全く通さず、邪魔にもならないとは……輝竜さんは どこまでも凄いですね」


「この絵も、お部屋の絵も輝竜さん?」


「金錦教授ですよ」サインを指した。


「KiN……そうでしたのね♪」


「毎日、勉強ばかりして案内していませんでしたね。後で離れに行きましょう」


「輝竜さんの音楽を聴いた所ですよね?」


「ホールだけではありませんので」


「そうなのね♪ 楽しみです♪」


「では、僕達が住む場所に」


「はい♪ 本当に素敵な場所ですね♪」



―◦―



 一通り中を見た結解と十万が外に出ると、反対側の端まで行っていたらしい億野が駆けて来た。


「十万さん!

 前回ハズレた方のお宅に行きましょっ!

 とってもガッカリしてたでしょ?

 完成間近だってだけでも伝えなきゃ!」


「確かに そうね。事務所に行きましょう」


「車を――」


「平等さんは待っていてね。

 太木さんが まだでしょ?

 車がなくなってたら驚いてしまうわ。

 電話をしたら戻りますので」


「走って行けますから~♪ あらら?」


 慌て気味な乗用車が止まってウィンドウが下がる。

「常務 来てませんか!?」結解に。


「一緒には来てませんけど~」「億野さん!?」

「見えてなかったんですか?」「スミマセン!」


「会社には?

 土曜なので坊っちゃんが来ているのでは?」


「それが居なくて!

 坊っちゃんが待ってるんですよ!」


「では自分が行きます」「乗ってください!」


『ナ~ニ大騒ぎしてるんだよ』「居た!」


太木の家の向かい、未完成な家の窓に白久が居た。


「常務! 坊っちゃんが!」


窓からヒラリと出て来た。

「今日の約束は午後だ。

 坊っちゃんが午後にしてくれと言ったんだ。

 勝手に来たのなら待たせとけ。

 それよか笹城(ささき)一美(ひとみ)チャンに言うべき事、あるんじゃねぇのか?」


「何で知ってるんですか!?」


「ローマで頑張ってんのを見てたからだよ♪」


「うわあ~~~」頭を抱えた。


「白久サン、坊っちゃんも何かあるのでは?」


「ん~、此処に呼ぶ」スマホ出す。

「離れるからな。笹城、ちゃんと話せよ」

また家の中に入った。

今度はビニールを取っていない玄関ドアから。



「でも、返事は来月……でしたよね?」


「そうですね~」億野が近寄った。


「ところで、この集まりは?」


「ここ、こっち半分は社宅で、向こう半分は事故のご遺族の住居になるんです。

 それで太木さんと結解さんが入居するから見に来たんですよ」


「太木さん、って設計に入ったばかりの?」


「結婚したからコッチらしいですよ。

 結解さんも婚約したから独身寮を出ないとダメって白久さんが」


「結解班長が婚約!?」「はい」


「お~い、話は纏まったかぁ?」白久、戻る。


「常務ぅ、俺も追い出されそうなんですけど住んじゃダメですかぁ?」


「ナンで追い出されるんだよ?」


「そろそろ独立しろ、結婚しろって~」


「一人息子なのにか?」


「俺、同居する気マンマンだったんですけど、親は嫌だって言うんですよ。

 自分達が もっと歳とって施設に入るか、成仏したら建て直して住めばいいって。

 ですから、ここにお願いします!」


「この社宅は家族用なんだよ。

 婚約しねぇと入れてやんねぇからな。

 それまでは独身寮だ」


「独身寮!?」元ワルだらけの!?


「一人息子なのに独立……そんなご両親なら……」

億野が呟いた。


「あ~、はい。家ナシになりました」ガックシ。


「そこがネックだったんですよね♪

 巧さん、いいヒトなんですけど~、同居って怖くて……。

 私、こんなだから、ちょっとね~」あはっ。


「へ? って、つまり……?」


「はい♪ よろしくお願いします♪

 結解さん家の隣がいいです♪」


「やったー!♪ 常務♪ 俺もここです♪」


「仮押さえな。婚約してからだと言ったろ。

 で、ご遺族の名簿は俺も持ってるからな、ローマに行く前に連絡もしておいた。

 今、送迎バスが回ってるよ」


「お仕事 早っ♪ カッコイイ~♪」

「億野さん!?」


「私はお名前で呼んでるのに?」「一美(ひとみ)さん!」

「敬称略してよ~」「いいの!?♪」

「そ~ゆ~の憧れてたのよね~♪」


コホン。「一美」「はい♪ 巧さん♪」

「ぅわ~~~っ! 照れる~~~!♪」

笑い合い、手を繋いで結解家の隣へ♪



「ほらほら結解も♪

 あの出来立てバカップルに負けんな♪」


 チラ、チラリと、並んでいる十万を横目で見てから目を閉じ、覚悟を決めたと正面に立った。

「……百香、この家で決まりか?」


「はい♪

 早く平等さんと一緒に暮らしたいので、午後は私の実家に行きませんか?」


「そ、そう、だ、な……指輪……先に、行こう」


「はい♪」「よ~し♪ 結解、頑張ったな♪」


 輝竜家のバスが到着した。

「白久、どこ止めたらいいんだよ?」


「勝利サン、ありがとうございます♪

 コッチです♪」走る。


結解と十万も白久を追った。



―・―*―・―



 輝竜家のアトリエでは、いつも通り集まった歴史研究部員が書道パフォーマンスの打ち合わせをしていた。

2回続けて書道部のパフォーマンス動画を見た後、彩桜が画面を切り替えた。

「時間ないから俺だいたい決めたんだ。

 意見もらって良くしていきたいんだ。

 完成形は、こんな感じ」


パソコン画面に完成図が映し出され、パーツに分解された図に移った。


「みんな字が綺麗でしょ。

 だから、どのパーツでも誰でもだと思うんだ」


「まぁな。この辺りの子は書道教室に通わされるからな」

「うん。みんな一緒に本浄寺に通ったよ」


「そっか~♪ だから正座も平気なんだね♪」


「彩桜、ゴメンな」「そうだよね。ごめん」


「俺、東京だったから~。謝らないでぇ」


「東京でも黙ってて……」


「恭弥も書道してたんだ~♪

 みんなソレ生かしてねっ♪

 でねっ、下の雲と上の龍の絵は直史と尚樹と星琉、お願いねっ♪」


「彩桜は真ん中のデッカイ『龍』だろ?」


「ううん。俺、その下の空色の『天』♪」


「『龍』で隠れるのに?」「ほぼ背景だろ」


「うん♪ 最初に大きく『天』で広い空♪

 俺 書いてる間は歌ってね♪

 四隅と上下中央の起点も同時♪

 俺 離れたら一気に双龍と雲ね♪

 空色、超速乾性だから、その間に乾くからね♪」


「一発勝負で龍かぁ。スッゲーなっ♪」

「「「大役でごじゃりましゅる~」」」


「右側の歌詞前半が祐斗と恭弥、2行ずつね♪

 左側の歌詞後半の堅太と凌央も、2行ずつ♪

 歌詞中のアクセントなる色文字が篠宮さんと河相さん♪」


「で、『龍』の字は?」


「サーロン♪ 颯龍の(ロン)だから~♪」「ボク?」


「頑張れよサーロン♪」「ええっ!?」


「書くの、コレでいい?」


「おう♪」「いいね♪」「いいと思うよ」

「うん♪」「頑張りましょ♪」「そうね」

「「「頑張りましゅる~」」」笑い起こる。


「サーロン?」


「うん……頑張るです!」


「み~んなでガンバル~♪」口々に同意。



―◦―



「サーロンのロンって……頑張るしかないけど、彩桜ってば……」ぼそぼそ。


「ソラ? 何か言った?」「なんにも!」


ソラと響は店の座敷で披露宴の招待状を書いていた。

つまりアトリエに居るのは狐儀サーロンで、ソラと心話しながら答えていたのだった。



―◦―



「で、歌は?」


「ん♪ コレ、『(あま)(かけ)る』♪

 青生兄が作った『天駆ける』を青生兄に手伝ってもらってアレンジしたの。

 俺 書いてる間が最初のフレーズ。みんなでね♪

 みんなが書いてる間は俺 歌う。

 書きながら歌えるなら一緒にお願い」


「いや、書きながら歌ってたら間違うって」

「うん。無理だと思う」他も頷く。


「俺達、初めてだから歌と書、別々でもいいって書丘(かきおか)さん言ってくれたんだ」


「カキオカさん?」


「書道部の部長さん。

 だから手が空いてる時は歌ってね?」


「それならまぁ、やってみるけどな」

「書いて、歌って、また書くとか?」

「時々、顔を上げて歌う?」「ソレだ!」


「うんうん♪ ありがと~♪

 それじゃ練習しよ~♪」



―・―*―・―



 バスには支援事務所の千谷(せんや)所長も乗っていたので白久達と一緒に案内し、説明にも加わってくれた。


「あの向こうにも何か作るんですか?

 来る時に見えたんですけど」

女性が駅の方を指している。


「あ~、防音壁の向こうですね?

 休耕地だったんで確保したんです。

 この隣も広く休耕地でした。

 なので、この辺一帯を住宅地にして、駅側の土地にはスーパーマーケットをと考えているんです。


 此処は中渡音地区の北端です。

 今は、ただただ雑草だらけの土地が広がってるだけですからね、これから北渡音地区に向かって街を拡げていきたいんですよ」




 その様子を離れて見ている結解と太木は、小学生なのは明らかな1人の少年を目で追っていた。


「何やら不穏を背負っていますね」結解が呟く。


「恐ろしい程ですね……」

知っている感じに似ていると身震い。

「この1年、大変な思いをしたのでしょう。

 ご近所さんになるのですから希望が持てるようにしてあげたいですね」


「そうですね……」『ユゲさん見つけた!』


琢矢が駆けて来ていた。







ローマの頑張りが実った巧も社宅に入るようです。

引っ越し後の生活、楽しそうですよね。


不穏を背負っている少年が気になりますけど、その前に結解さんは十万さんの実家にご挨拶です。



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