ミルキィとチェリー
利幸が飛翔と紗の身代わりになると死神に宣言して2ヶ月が経った。
その間、何度も死神が利幸に近付いたが、死が近い事を示す『死印』を付けようとする度に、瑠璃達が悉く阻止してきた。
「お~いショウ、久しぶりに俺と散歩だ」
板前見習いとなって日々忙しくしている利幸も、この日ばかりは休みを取っていた。
この日は飛翔の命日。三回忌の法要が行われた為だ。
〈また川に向かってるね~〉〈そうだね〉
「なぁ飛翔――」〈タカシ?〉〈……うん〉
ショウが利幸の方を見て首を傾げた。
「やっぱ飛翔なのか?」
〈ひっこむ~♪〉〈替わられても困るよ〉
「紗チャン護ってるんだよなぁ?」
下を向いたのやら、頷いたのやら。
「喋れたらいいんだがなぁ……」
〈トシ兄がねっ〉〈そうだよね〉
「彩桜、来ねぇかなぁ……」 「ショウ!♪」
「あ、マジで来た」「お誕生日おめでと♪」
「ああそっか」「ケーキ持って来たんだ♪」
「いつもの場所で食うかぁ?」「うんっ♪」
そうして前2年と同じ場所に座り、彩桜がケーキや紅茶を出して並べた。
「ショウ♪ 3歳おめでと♪」ワン♪
犬用ケーキの皿を置いた。
「はい、トシ兄♪」あったか紅茶♪
「ありがとな。なぁ彩桜ぁ……」
「ん?」
「……ショウは飛翔なんだろ?」
「ショウはショウだよ♪」
「いや、でもな、聞いたんだよ。
この中に飛翔が居るって」
〈飛翔さん、言っていいの?〉
〈そうだね……説明、お願いできるかな?〉
〈うん♪〉
「あのね、ショウはショウなんだ。
でも飛翔さんも一緒に入ってるんだよ。
ユーレイのままだと死神に連れてかれちゃうから、生きてるショウの中に隠れてるの。紗ちゃんを護りたいから」
「そっか……ショウの中に隠れてるのか……」
「ショウは犬だから、人と同じには話せない。
だから飛翔さんもショウの口を使っては話せないんだ」
「彩桜はどーやって話してるんだぁ?」
「心に言葉を乗せる感じ? なんかそんなの。
聞こえるのも心に直接だよ」
「超能力ってヤツかぁ?」
「ん~~と……そうとも言えるかなぁ?
でもたぶんトシ兄も話せるよ。
神様の匂いするもん」
「死神の臭いが付いてるんだろ~よ」
「へ? 違うよぉ」〈飛翔さん、どゆコト?〉
〈利幸は僕と紗の身代わりに死ぬと死神に宣言してしまったんだよ〉
〈ほえ~、さっすがトシ兄だねぇ〉
「死神じゃなくて、神様の欠片だよ。
魂にソレが入ってると、祓い屋さんとか超能力者になれるの。
トシ兄も修行したら飛翔さんと話せるよ」
「板前のシュギョーじゃダメかぁ?」
「ソレは修業でしょ」
「んあ???」
「そじゃなくてぇ、心の中を広げたり探したりして、閉じてるのを開いていくの。
瞑想して探ってくの」やってみる~♪
「こうか?」真似る。
「格好はどーでも。
余計なコト考えずに心の中へ中へ、って入ってく感じで探るの」
目を閉じている利幸の額に掌を翳した。
「光、見える?」
「んん? どこだぁ? …………お♪
確かに光だなっ♪ 何だこりゃあ♪」
「俺の神様とトシ兄の神様が共鳴してるの。
ソレが光って見えるの。
神様、トシ兄を魂の内側にお導きください。
入ってくから追ってって」
「おうよ♪」
ショウの内側ではトリノクスとアーマルが父子の姿に感動していた。
〈ウンディは……相変わらず手の掛かる奴だな……〉
〈アーマルだ~♪
神様だった頃はアーマルが指導してたの?〉
〈指導したのは僕だけではないが……。
僕とラピスリ以下とは、少し歳が離れているのだ。
理由は聞いていないのだがな。
山の社に集まる皆は同代――同時期に生まれた者達なのだよ。
同代は普通、互いに『様』なんぞ付けぬ。
ただし僕だけは少し歳上だからと、弟妹は『兄様』を付けて呼んでくれている。
その必要なんぞ無いと、何度も言ったのだがな。
だが、ウンディだけは仲間外れみたいだから付けないと言って、同代として呼んでくれたのだ。
だから相棒とし、共にトリノクス様の弟子となったのだ。
そんな経緯から、僕はずっとウンディを指導していた。
父様から離されて以降ずっと……〉
〈離されて? どーして?〉
〈神には人神と獣神が居ると話したろう?〉
〈うん。獣神様の方が強いんだよね♪
優しくて、ホントの神様なんだよね♪〉
〈そう解釈してくれたのか。ありがとう。
人神は都や街を造り、王を神の頂とした。
獣神には何の相談も無く、全ての神の頂と勝手に決めたのだ。
そうしておいて人神には使えぬ術を全て禁忌と定め、獣神の自由を奪ったのだ。
神世にも、人世の怨霊の如きものが居る。
神はそれを『禍』と呼ぶ。
獣神は禍が何たるかを知っている。
だから禍を生まぬよう、暮らしている。
しかし人神は忘れ去っている。
だから禍を生む。
人神が生んだ禍を容易く滅せる術を獣神は知っている。
しかしその術は獣神だけが使える術。
つまり現状では禁忌だ。
だから獣神は術を使わず、禍と戦っていたのだ。何千年もの間な。
僕の父様とトリノクス様、山のお社のオフォクス様、それとマリュース様は四獣神と呼ばれ、強い禍と戦っていた。
その後継として作った子を、王は都や街を護らせる為に連れて行ったのだ。
術が使える程に育つ度に、何度も何度もな。
だから僕達の兄弟は千も居るらしい。
会った事も、話した事も無い兄弟がな〉
〈アーマル……可哀想……〉ぐすっ――
〈そんないっぱい離れ離れなんて……〉
ショウの兄は三千なのだが――
「トシ兄てば瑠璃姉が好きなのっ!?」
「のわっ!? 言うなっ!!
それよかナンで知ってる!?
飛翔!! 聞くなっ!!」
「流れてきたのっ!!
雑念浮かべないでっ!!
響チャンて誰っ!?」
「響チャンかぁ? 教育実習でな♪
俺の生徒だったんだ♪
今どーしてっかなぁ?」
「って……フラれたんだよね?」じと~。
「う……確かにコッパミジンコだったよ。
だがな、キッと睨んだ目がイイんだよ♪
美人になってるだろ~なぁ♪
瑠璃の目もイイんだよなぁ……」
紅茶のカップを手に取り、ほわわ~ん。
「そゆの、ヘンタイってゆ~んだよね?」
「っ!!」ゲホッ! ガグホッ! ゴホッ!
「瑠璃姉と青生兄には言わないけどぉ、俺 帰る。ショウ行こっ」
話しながら素早く片付けて駆けて行った。
〈ウンディは……彼処までではなかった筈なのだが……〉
《似たり寄ったり、五十歩百歩だ》
トリノクスの笑い声が響く中、アーマルは恥ずかしさのあまり、コソッと飛翔と入れ替わった。
―◦―
足の速い彩桜に利幸が全力で走ろうが追いつける筈もなく、かなり遅れて戌井家の庭に着くと――
「息を切らせて、どうかしたのか?」
――瑠璃がショウを撫でていた。
「どーして瑠璃っ!?」
「悪いのか?」
「彩桜は!?」
「帰ったが、用か?」
「何か言ってなかったか!?」
「修行――」「わああああっ!!」「煩い」
「シュギョー中にイカガワシイコトなんて考えてねぇからなっ!!!!」
「大声で言う事か? 当然だ。
だが、それで彩桜に見捨てられたのだな?
仕方の無い奴だ」
「んな言うなよぉ」
「他の用が有る。付いて来い」
「へ? どこに?」ぱちくり。
瑠璃はそれ以上答えずに足早に歩き始めた。
「待てよっ!」
チラリと振り返ってスタスタスタ――
「お~い!」
―◦―
――そして動物病院。
「あ、里親って亥口さんなんだね?」
処置室から出てきた青生が利幸に会釈して診察室に向かう。
「そうだ」「へ???」
「良かった。安心したよ」診察室に入った。
そして瑠璃と利幸は処置室へ。
「利幸、この猫達を飼え」「ナンでっ!?」
「名は縞がミルキィ、三毛がチェリーだ」
「だからナンでなんだよっ!!
板前見習いなんだぞっ!!
猫なんか飼えねぇって!!」
「この猫達は毛なんぞ抜けぬ。
餌は、この壺に入っている。
蓋は軽く被せておけ。
賢い猫達だからな、勝手に必要なだけ食べたら蓋をする。
放し飼いにしておいても問題無い。
トイレの世話もしたくなかろう?
庭で飼えばよい」
〈話した通りだ。ウンディを頼んだぞ〉
〈まっかせて♪〉〈楽しみねっ♪〉
〈うんうんっ♪〉〈からかっちゃお♪〉
〈うんっ♪〉〈ウンディだもん〈ね~♪〉〉
キャリーの中の子猫達は楽し気に仲良くジャレている。
〈獣神話法も教えてくれるか?〉
〈〈まっかせて♪〉〉
ミルキィとチェリー、ただの猫ではなく、どうやら獣神のようです。
ここまでの3年間分はサクサク進んできましたが、ここからは神世と人世との絡みアレコレで刻みが細かくなります。
つまり、長~くなります。
この章では、ウィスタリア、オニキス、ミルキィとチェリーが増えました。
次章はもっと増えます。




