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記憶喪失な竜騎



「みなさん、本当に ごめんなさい!

 僕……ちゃんと覚えてなくて……。

 どう謝ったらいいのか分からないけど、とにかく ごめんなさい!」

一緒に前に行って冬休み中の経緯を話した悟も竜騎と同じように深々と頭を下げた。


彩桜も前に並ぶ。

「竜騎君、意識 戻って3日目なんです。

 ホントはまだ入院してないといけないのに、謝りたいからって今日から登校したんです。

 本心から反省して謝ってます。

 歴史研究部は友達なりました。

 1年4組の みんなも許してくれました。

 陸上部の みなさんも許してあげてください」

朝の騒ぎ後、休み時間毎に4組に行って話し合った彩桜も、二人と同じように頭を下げた。


「三人共、頭を上げてくれないか?

 皆は、どうかな?

 まだ怒りが冷めないのなら、今、言葉にしてもらえるかな?」


2年生が1人、手を挙げた。

「怒ってるのは冷めきってないけど、今は どう見ても痛々しいし、責めるとコッチが悪いみたくなるから言えないよ。

 だから様子を見させてもらいたいかな?

 もう一度、歴史研究部と正々堂々、何か試合がしたいよ」


2年生部員達が同感だと頷く。

1年生部員達は首は動かさずに視線だけで様子を見ている。


「そうだね。僕も再試合には賛成だ。

 輝竜部長、どうかな?」


「競技なんでもいいです♪

 でも、竜騎君が参加できるのって……医者な兄貴に相談しますね♪」


別の2年生が挙手。

「じゃあ先に例年通りなら2年はバスケだったんだから2年vs歴史研究部でバスケしたい!」


「どうかな?」


「頑張りま~す♪

 堅太、バスケ部だから審判ね♪」


「また審判かよぉ。

 何か陸上競技しませんか?」


「リレーとか?

 個人戦が多いから、先鋒から大将までを決めて対戦するとか?」


「どっちでも何でもです♪」

「堅太、勝手に決めないでよね」

「凌央は先鋒な♪」

「だから勝手に決めないで!」


「何でも受けて立ちま~す♪」「彩桜まで!」



 そんなこんなで最終的には皆が笑顔になり、謝罪の件は終わった。

陸上部員達が外に出た後、残って打ち合わせている深長と冴喜に彩桜が寄った。

「竜騎君、1ヶ月は運動できないと思います。

 その間、部活お休みで勉強時間にしていいですか?」


「もしかして、そういう方面も記憶が?」


「はい。思い出せたらいいんですけど、とりあえず勉強し直さないと学校で困りますから~」


「うん。それなら部活は出席だけチェック入れてもらって勉強――輝竜君が教えるとか?」


「はい♪ 俺ん家、毎日みんな集まって勉強会してますから♪」


「そう。それならお願いしていいかな?」


「はい♪」



―・―*―・―



「あれぇ~? 歴史研究部、部活日だっけ?」

「だぁね。和室 見てから来たらよかったぁね」


 軟式テニス部の美雪輝と愛綺羅が最速でボールを片付けて走ってアトリエに行ったが、誰も居なかった。


「家の方、行ってみる?」「だぁね♪」


渡り廊下から居間へ。そこそこ距離はある。


「やっぱ居ないわ~」「お騒がせスミマセン」

ドアを開けると彩桜の兄2人とスーツ男性の後ろ姿が見えただけだったので慌てて閉めようとした。


スーツ男性が振り返る。

「昨日、昼食だと呼びに来たかな?」


「あ~ソレ、アタシです。

 オジサン、竜騎君のお父さん、ですよね?」


「そうだよ。少し話を聞きたかったんだ。

 いいかな?」


「だ~れも帰ってないから いいですよ」


「九九から始めて2ヶ月 経っていないとか聞こえたのだが?」


「あ~、ソレですか~。

 ホントなんですよね。

 アタシ、九九の多さで勉強ダメになって、そっから ず~~~っと授業中、愛綺羅と遊んでたんです。

 だからテスト、10点いかないなんてザラ。

 1コとか、まぐれ当たりってヤツ。

 0点も しょっちゅう。


 真っ黒オバケに取り憑かれて大騒ぎ起こしちゃったのが11月で~。

 オバケは彩桜君とサーロン君とお兄さん達が退治してくれて、その後で勉強も波希(なみき)センセーが助けてくれたんです。


 で、期末テスト、全部50点より上!

 数学なんて70点!♪

 あ、ソレ前に言いましたよね?

 スポーツ大会の後、保健室で。

 って、そんなコトいっか。

 親、泣いて喜んでました♪

 次の期末テスト、目標ぜんぶ70点なんです♪」


「美雪輝、たぶん誰が誰だかじゃね?」


「あ~そっかぁ。

 って言ってるのがアタシと一緒に落ちこぼれた愛綺羅。

 助けてくれたのは歴史研究部とお兄さん達。

 で、いいですかぁ?」

「歴史研究部、学年上位 勢揃いなんですよ。

 だから安心してください」

「愛綺羅、『だぁね』は?」

「今 使えないっしょ!」


「話してくれて ありがとう。

 それで九九から、だったのだね」


玄関が騒がしくなった。


「スゴいのは保健室でも話してたし、竜騎君ちでオバサンとは話したらしいですから帰って聞いてください」

「じゃあウチら勉強しなきゃなんで」

笑顔でドアを閉めた。



―◦―



 アトリエでの勉強会が始まると、彩桜と竜騎の小卓に悟と銀河も来て、向かいに座った。


〈彩桜、白竜には先に心話とシッポの使い方、教えるんだろ?

 銀河ちゃん、心話は出来てたから、シッポのは少しは教えたんだ。

 けど、ちゃんと教えてもらいたいんだよ〉


〈ん。じゃあ最初からになるから、悟と聖良さんは おさらいしててね?〉


〈昨日は? やらなかったのか?〉


〈記憶の端っこ探してたの。

 ソレしながら少しずつ開いたりして。

 心話は少しだけ竜牙が教えてた~♪〉


〈へぇ。竜牙とも仲直り出来たんだな♪〉


〈うん♪ サーロンもコッチ来て来て~♪〉



―◦―



 居間の馬白社長は紅火から渡されたタブレットで息子の様子を見ていた。

画面は4分割されていて、カメラは彩桜 サーロン 悟 竜騎に付いているらしい。


「こんな笑顔は、もう何年も見ていませんでしたよ。

 勉強をあんなに楽しそうに……」


「ここ数年、もしかしたら10年近くもの間、竜騎君は竜騎君ではなかったんです。

 もう信じて頂けると思ってお話ししますが、悪霊は取り憑いた人の性格を写し取り、違和感を懐かれないように少しずつ悪い方向へと変えていくんです。

 やっと彩桜に出会った頃の竜騎君に戻れたんですよ」

青生が真剣に説明する。


「馬になったのは?」


「竜騎君の魂を乗っ取っていた悪霊に対しての天罰だったんです。

 ですが……悪霊が、なんて説明しても、まず普通は信じて頂けません。

 それで曖昧な説明になってしまったんです」


「その悪霊は?

 もう消えてしまったのですか?」


「霊が悪霊となってしまう原因は様々で、生きている人達からの負の感情や諸悪を吸収して悪霊化してしまう事もあるんです。

 そういう悪気(あっき)を浄化すれば普通霊に戻ります。

 普通霊に戻れば成仏も叶うんですよ」


「そうですか。

 輝竜さん達ご兄弟が、それぞれの仕事をし、音楽もして、悪霊祓いまでもしていたとは……感心の度を越してしまって、もう言葉も出ませんよ」


「常識外の世界ですので、最後のは……」

口の前に人差し指を立てた。


「解っておりますよ。

 では、音楽の方の話に変えさせて頂きますね。

 フェスの方ですがね、馬頭(マーズ)の方とキリュウ兄弟、両方でご出演 願えませんか?」


「両方? それは、どうしてです?」


「エンターテイナーとしての馬頭雑技団、真のクラシック奏者としてのキリュウ兄弟、私自身が その両方を楽しみたいからですよ。

 知ればきっと――いや間違いなく、多くの人々が魅了され、楽しくて仕方ない心持ちになれますのでね。

 出演順としては、土曜日のトリに馬頭。

 日曜日の大トリにキリュウ兄弟をと――」


「クラシックを大トリに、ですか?」


「純クラシックと、ロック&クラシック。

 大いに盛り上げてください」

テーブルにディスクケースと出演依頼書を重ねて置いた。


「それは……?」まさか!


「今朝、猪瀬君から貰いましてね。

 これを観て急いで来てしまったという訳です。

 3月中には販売するそうですね。

 ですから5月には超有名人でしょうな♪」


青生と紅火、言葉も無く顔を見合わせた。



―・―*―・―



《キャンプ~♡ 早くぅ~♡》


《変な声を出すなっ! くっつくな!》


《じゃあボクが連れてってあげる~♪》スポッ♪


《何をする!?》



――山南観光馬牧場予定地。


《竜牙~♪》〈象の神様~♪〉


ミニ象と黒灰馬が嬉しそうに寄った。


《後回しになってゴメンね~》


〈竜騎様が先なのは当然です♪〉


《いいコだね~♪

 ボクの欠片もキャンプ~の欠片もイイ感じに定着したね~♪

 最後の仕上げ♪

 元気に走れる身体に仕上げるねっ♪》


〈競技も? 竜騎様と一緒できますか?〉


《もっちろん♪

 これからは楽しく競技してね~♪》


〈はい♪ ありがとうございます♪〉


《始めるよ~ん♪

 ほらほらキャンプ~も♡》《うわあっ!?》


ガネーシャの鼻先の水晶玉が竜牙の額に押し当てられた。


《パ~フェクトに再生~♪》


竜牙が煌めきに包まれ、小さくなった。


《でっき上がり~♪ 上々の出来映え~♪

 キャンプ~? 大丈夫?》


《大丈夫なものかっ!

 神力を吸い取りおって!》


《吸い取られるのは~、キャンプ~が弱いから~。

 何度も言うけど強化しよ~よぉ。

 強化しないと保護水晶からも出られないよ?

 ボクが欠片 抜いたのも気づいてなかったくらい弱々なんだからぁ》


五月蝿(うるさ)い!!》《蝿なんか飛んでな~い♪》

《やかましい!》《うんうんキャンプ~が♪》

《ガネーシャが、だ!》《呼んでくれた~♪》

《呼んだのではなく!》《愛してるだよね♪》

《違う! ガネーシャが――》《好き~♡♪》

《だから違うと言っ――》《愛してる~♡♪》

《だあああっ!》《キャンプ~の奥さ~ん♪》



《あれれ? キャンプ~?》


《……疲れた……寝る》


《神が疲れるなんて大変!

 早く眠って! その間に~♪》

《おちおち寝ておられんわ!》


《元気~♪ 復活~♪》《やかましいわ!》

笑いながら ぽよん♪ ぱよん♪


《ん? 馬は?》《あっち~♪》


子馬になった竜牙は嬉しそうに競技コースを跳んでいた。







竜騎の方は3学期の初日で どうにかこうにか落ち着きました。


そして馬白社長までもがキリュウ兄弟・馬頭(マーズ)雑技団のファンになったようです。


竜牙も元気になりました。

いろいろと めでたしめでたしです。



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