一瞬の光みたいな時間
彩桜達 中学生にとっては3学期初日。
前日に響はソラの祖母にも結婚すると話したと両親に話す為に帰宅して、響の部屋で母と寝落ちるまで話したので、この朝は奏の様子も心配だからと早目に輝竜家に向かった。
あ♪ ソラが掃除してる♪
店前を掃除しているソラを見つけて駆け寄ろうとした時、ソラは動きを止めて店に入ってしまった。
「私に気づかないなんてアリ?」
ぼやいて神眼で追う。
ほぼ見えなかった以前に比べれば格段に見えるようになったとは言え、まだ響の神眼では見え難い店内で、ソラは大急ぎで開店準備をしているらしく忙しなく動いていた。
「誰かと心話してる?
ええっ!? どーして彩桜クンに!?」
ソラはサーロンになって本館に瞬移したのだが、響には制服姿の彩桜だとしか思えなかった。
「彩桜クンが2人!?」
すぐさま玄関から飛び出し、あっという間に小さくなっていく後ろ姿を呆然と見送る響だった。
「どうして……?」
すっかり見えなくなってからポツリ。
「どうした? そんな所に突っ立って」
店の戸が開いていて慎也が顔を出していた。
「あっ! リグーリ様――!」
「おいおい、その呼び方は……」
「ああっ! ええっと慎也さん!」
「ま、入れよ」「はい!」
カウンター席に腰掛けて、焙じ茶と和菓子を出してもらって、やっと落ち着いて ひと息。
「で、どうした?」
「ソラが彩桜クンになって……中学校に行ったのかな? 彩桜クンが双子で……」
「話がバラバラだが解ったよ。
ソラからは何も聞いてなかったんだな?
ま、婚約者には話し難いよな。うん。
だからソラが話したくなるまでは何も言うなよ?
そっとしといてやってくれ。
あれはサーロンだ。彩桜じゃない。
輝竜兄弟のイトコ、リーロンの弟という設定で漢中国人の中学1年生だ。
目的は彩桜の護衛。
祓い屋見習いな彩桜の相棒も兼ねている。
そんなところかな?」
「龍神様の護衛だったのね……」
「そういう事だ。
しかしまぁ、大人なソラとしては恥ずかしいよな。特に婚約者には、なぁ」
「そっか。私が踏み込めないからなのね……」
「その通りだが、それも3月迄だ。
あと少しだから気付いていない振りをしてやってくれ」
「はい。あ、もしかして護衛もバイト?」
「店のも含めて輝竜兄弟に絡んでいる時間、全てがバイトだよ」
「え? それじゃあ店主さんじゃなくて誰に雇われてるの?」
「キツネ様だよ。兄弟の育ての親だからな」
「まさか葉っぱのお金とか?」
「おい」苦笑。
「あ……そっか」
「何を納得だ?」葉っぱじゃないからな。
「私の従弟のメグル君が4月からお世話になるんです。
その部屋の話の時に彩桜クン、『サーロンが居るトコ』って言ったんですよ。
ソラ、夜も彩桜クンの近くに居るんですね?」
「祓い屋の常識として知ってるだろうが、夜の方が悪いモノが活発になるからな。
四六時中 護衛してるんだから、けっこう貯めたと思うぞ?」
奥の襖が少し開いて、何やら差し出された。
「紅火も姿くらい見せたらどうだ?」
言いつつ受け取りに行った。
「通帳? ソラの? どうして?」
【お稲荷様が持って来た】
それだけを伝えて作業部屋へ。
「キツネ様に聞こえたらしい。
で、ソラには内緒で作ってたみたいだな。
預かっといてくれ」
ポイと渡された拍子に勝手に開いたページに目を見張る。
「えええっ!?」
「新生活の軍資金だな♪
ソラに感謝しろよ?
で、大学は?」
「(1月)10日からです。
でも卒論、もう出しちゃったからヒマなんですよね~」
「響もバイトするか?」
「午前中なら。
午後はライブハウスがあるから」
「リーロンの手伝いとかどうだ?
料理も練習できるぞ。
他には小型犬の散歩とかもあるけどな」
「両方したいです♪」
「俺やリーロンとは普通に話せるのに、輝竜兄弟には踏み込めない理由が謎だな……」
「そうなんですよね~」困り苦笑。
―・―*―・―
響にバレたなんて知らないソラは、サーロンとして4組の大騒ぎに巻き込まれていた。
彩桜とサーロンが慌てて走って登校したのは、いつの間にか先に登校していた悟と竜騎がクラスメイトに囲まれているのが見えた為だった。
「こんな状態の竜騎君イジメるなんて俺が許さないからね!」
彩桜が最前の盾になって両手を広げる。
サーロンは怒りで掴みかからんばかりの勢いな悟を押さえ留めていた。
走る二人を見て大急ぎで追って来、竜騎を庇っている祐斗 堅太達が大勢を睨み返す。
「他の組は関係ないだろ!」
「今までソイツにどれだけ暴言吐かれてたか知らないだろーが!」
「その包帯とって本当に傷があるのか見せろって言ってるだけだろ!」
「そんな事して傷口に雑菌入って何かあったら責任とれるの?
命に関わるんだよ?
歴史研究部も随分な事されたし言われたよ。
でも今の彼は反省してる。
泣いて謝ってたでしょ。
それだけで十分じゃない?
これ以上、過去を責めて何かいい事ある?」
「だよな。
大ケガしたんだからバチ当たったんだよ。
もう許してやれよ」
「けどっ――」
「つまり、気弱に変わった今こそ反撃?
卑怯じゃない?
前の彼には何も言えなかったんだよね?」
凌央が冷ややかに見回す。
言葉に詰まった『4組代表』達の背を、同じ4組の百合谷小卒の生徒達がつつく。
「もうヤメてよ。
コッチが悪者にしか見えないよ」
「僕、もういいと思うんだ」「だよね」
彩桜達が突入して来た時点で向こうに行っておけばよかったと後悔を滲ませて。
そこに陸上部の部長と副部長が1年生部員達に連れられて来た。
「確かに変わったみたいだね。目が違うよ」
すぐに副部長の冴喜が言った。
部長の深長が頷く。
「そうだな。
ここは僕達、陸上部に預からせてもらえないだろうか。
放課後、きちんと話し合いたいから」
そうまで言われて上級生に逆らえる筈もなく、ちょうど始業式の為に体育館へとの放送も入ったので解散となった。
「一緒に行こっ♪」
歴史研究部と陸上部が塊になって歩く後ろを深長と冴喜も追った。
「輝竜君」「はい?」
竜騎と手を繋いでいる彩桜が振り返った。
「放課後、歴史研究部も陸上部の部室に来てもらえないだろうか?」
「はい♪ 11人みんな一緒でいいですか?」
「広いから大丈夫だよ。来てね」
「はい♪ 竜騎君、俺達と一緒にね♪」
「いいの? また責められるよ?」
「だ~いじょ~ぶ♪
俺達と~っても丈夫だから~♪」
―・―*―・―
放課後、廊下に出た彩桜達が1年4組に目を向けると、その前には陸上部も集まっていたので急いで行った。
「勝手に集まってしまったんだ。
一緒に行こう」
「はい♪」竜騎、悟と手を繋ぐ。
一歩踏み出したところに放送開始のチャイムが鳴り、
『1年2組、輝竜 彩桜君、翔 颯龍君。
校長室に来てください』
呼び出されてしまった。
「にゃ~んだろ?」「ボクも?」
「皆で行こうぜ♪」「そうだね♪」
1クラス分くらいの生徒がぞろぞろ。
彩桜が校長室のドアをノックし、
「いっぱい居てもいいですか?」
声を掛けた。
『いいですよ』
何やら話し合っていた感じの間があって許可を得たので開けた。
「どーしてオニーサン達!?」
「あ~? 忍者っ子達が来ないからだよ」
「おせちの後、ほったらかしにされたからな」
一緒に居る刑事達が実弦と朝明を睨む。
「コッチから会いに行かせてもらうのに洗いざらい話したんだ♪」
「スッキリしたよ♪
で、マジでフツーに中学生してるんだな♪」
「中学生ですよ~だ」「はい♪」
「また来てくれるのか?」
「おい、聞かれてるって」
「ナイショだからぁ」「ナイショです♪」
「期待してるからな♪」「ソレは俺も♪」
「ん♪」「はい♪」
「後ろのヤツらも、よ~く聞いてくれ。
俺達は悪いコトをした。
マトモに中学すら行ってない人でナシだ。
今は反省してるんだ。
コイツらのおかげで人に戻れたんだよ。
これから挽回するけどな。
けど過去は変えられねぇ。
だから今を頑張って生きてくれ」
「久しぶりに学校の空気吸って、中学生に戻りたいって、心底 思ったよ。
けど戻れやしねぇ。
過去になっちまうとな、中学生の頃なんて一瞬の光みたくなるんだよ。
宝物みたいな光だ。
だからお前ら、精一杯、めーイッパイ!
中学生しろよなっ」
「はい!」一斉。
「カワイイな♪ いいヤツらだ♪」
「また心が洗われちまったよ」「だなっ♪」
「時間だ。戻るぞ」
「昨日あれだけ喋ったのになぁ」
「コレもマジで一瞬の光だよなぁ」
言いつつ笑って立ち上がった。
―◦―
「なぁ彩桜、サーロン。
さっきの兄さん達、捕まえたのか?」
陸上部の部室に向かう途中で堅太が並んだ。
「うん。兄貴達と一緒に~」
「「「いつ?」」」祐斗と凌央も並ぶ。
「年末~」「彩桜っ」サーロン慌てる。
「年末って、外国でか!?」
「あ~、えっとね、どっか都会の裏路地~」
まずまず本当だ。
「外国ね……」
「サーロンも一緒ならドイツかな?」
「兄さん達、何ヤラカシたんだ?」
「違法薬物所持~」「売ってたです」
「そっか。で、改心したんだな」
「過去は変えられないけど挽回できる、ね」
「改心したのなら責めない。だよね」
聞こえていた皆の視線が彩桜とサーロンの間に居る竜騎に集まる。
「っ……」涙が零れそうな視線を落とした。
「だから安心しろって話だ♪」肩ぽんぽん。
「そうだよね。僕達は友達なんだからね」
「だから前を向いて。一緒に踏み出そう」
「ありがと……」
ぴったりナイスなタイミングで実弦と朝明が来て、過去は変えられない、宝物みたいな一瞬の光に思える今を大事にしろと言われた中学生達。
竜騎の過去も早く皆の記憶から流れて消えてもらいたいと切に願う悟と彩桜達は、竜騎を護りながら陸上部の部室に向かいます。




