お帰り白竜
藤慈とリリスとの結婚の絆を結ぶ手伝いをし、黒瑯と静香に説明した後、青生は金錦の部屋に行く途中で牡丹に呼び止められた。
【金錦様にお話しする前に……】
【では俺の病院で瑠璃も一緒に】
【ええ。お願いいたしますわ】
――瑠璃は事務室に居た。
【義姉さん どうぞ。
瑠璃は予想していたの?】
椅子を寄せて三角に座った。
【有り得ると思ったまでだ。
父様も聞こえるのですから出ていらしてください】
困り顔の青ドラグーナが浮かんだ。
【ラピスリ、どうして睨むのかな?】
【放置も甚だしいからです。
年末年始、話す機会は何度もありました】
【確かにね。
だから前置きは省くよ。
アルボネーア、長老様に押し付けられた結婚なんだから金錦を選んでもいいんだよ】
【ドラグーナ様……】
【俺を護る為に人世まで来てくれただけで十分なんだ。
だから気持ちに正直になって】
【伝わるのでしたね。
ですが私の天秤は水平ですの。
どちらかを選ぶなんて……無理ですわ】
【そう? 本当に?】
【ええ。これが私の本心ですわ】
【ドラグーナ様、アルボネーア様。
そもそも結婚の絆は断ち切れませんよね?
ですからケイロン様とオーディン様には相談していたんです。
事が事なのでドラグーナ様には伝わらないようにお願いして。
アルボネーア様が想いは等しいと仰るのでしたら方法はあります。
虹紲とかの他の絆じゃなくて、結婚の絆で。
ドラグーナ様側から分岐、延長して金錦兄さんとも結ぶんです。
ただし、俺達弟が全て結婚の絆を得てからになります。
瑠璃、また大手術だからね。
兄弟各々の結婚の絆と力が必要なくらいの大きな事なんだ。
俺の妻として、ドラグーナ様の娘として、瑠璃がメインだよ。
頑張ろうね】
【任せろ】ふっ。
【父様、嬉しい時は素直に顔か言葉に出してください。
フラれなかったのが嬉しいのでしょう?
共鳴では確かに伝わっておりますので】
【そうだね♪ 伝わってくるよね♪
ないがしろにしていたんじゃなくて、怖くてアルボネーア様に話せなかったんですよね?】
【バラさないでもらえるかなぁ。
それに1/7だけを責めないでよ】
青い筈なのに顔が赤い。
【じゃあ集めましょうか?】くすくす♪
【青生って意外と意地悪なんだね】
【時々とても意地悪です】ふふっ♪
【瑠璃までぇ】
【私のトランクにはヒラヒラした服しか入っていなかったのだが?】
【そうなの?】
【惚けるな。
買い足してまで入れ換えおって】
【何度も戻っていたんだから、嫌なら着替えられたよね?】
【まったく。ああ言えば こう言う。
どこまで父様に似ているのだ?】
【どうして俺?
俺は性格的には金錦が一番近いと思うんだけどなぁ】
【なんだか俺って悪者?】
【そうなると俺も悪者かい?】
青生と青ドラグーナが同じ角度で首を傾げる。
【悪者ではなく悪戯者だ。どちらもだ】
【【なんか酷いよね】】うん。×2。
【ドラグーナ様は金錦様にも青生様にも似ておりますわ。
真面目で不真面目です♪】ふふっ♪
【アルボネーアが笑ってくれたから良しとしようか】【そうですね】
【あら。私の為でしたの?】
【誤魔化そうとしているだけです】
【ラピスリぃ】【瑠璃ぃ】苦笑×2。
【では皆で金錦様の部屋に】【そうですわね♪】
【俺達は無視されたのかな?】【そうですよね】
笑顔の瑠璃が纏めて運んだ。
――金錦の部屋前。
「金錦兄さん、お邪魔しますね」『ふむ』
「牡丹も……何故?」
「先に確かめたかったからです。
夕方は話せなくて すみません。
順を追って話しますね。
俺達兄弟の魂の素材は、人用ではなくて神様用のを使っているそうなんです。
たぶん人用のではドラグーナ様を包みきれなかったんだと思います。
だから修行すれば神力が貯まりますし、実は龍神様な輝竜家の奥さん達と神としての結婚も可能なんです。
それで夕方は藤慈とリリスさんを連れてお社に行ったんですよ。
金錦兄さんと牡丹義姉さんの場合は――」
「無理だと解っている」
「――無理ではありませんよ。
可能なんです。
条件が整わないと出来ませんけどね。
それだけですので、後は兄さんと義姉さんとでお話しください」
青生は瑠璃と手を繋いで病院に戻った。
「牡丹……ドラグーナ様の妻なのだろう?」
「はい。ですが、お許しいただきました」
「それは、つまり……」
「ドラグーナ様には、どちらかを選ぶなんて無理ですとお話しいたしましたわ。
私の心の天秤は水平ですの。
これでは……駄目ですか?
金錦様はお許しくださいませんか?」
「いや……私には一縷の希すらも無いと思っていた。
ドラグーナ様に敵う筈が無いと。
私の妻で居て欲しいなんぞと思う事すら許されぬと信じ込んでいた」
「私がドラグーナ様の妻であることには変わりありません。
変えようもありませんが、私は金錦様の妻です」
「ありがとう牡丹」抱き締めた。
―◦―
【ねぇ金錦兄のドラグーナ様。
どぉして俺の部屋?】
【限界まで離れようと頑張ったんだけど此処だったんだよ】
【限界にチャレンジ?】
【そんなところかな?】
【ふぅん。
俺、と~っても疲れたから寝るね。
俺のドラグーナ様とお話ししててね。
おやすみなさ~い】
すぐに眠ったらしく、桜ドラグーナが抜け出るように浮かんだ。
【理解は……まぁ自分だからね。
今夜は此処に居るかい?】
【ありがとう。助かるよ】
【皆で白久の俺を揺さぶらない?】
藤ドラグーナが紅ドラグーナを連れて来た。
【黒瑯も もうすぐ眠るから、その後でね】
と話していると紅火が現れ、白久と黒瑯を残して消えた。
【【何しやがる紅火っ!】】
【ドラグーナ様を集める為ですよ】
紅火ではなく青生が現れた。
【白久兄さんのドラグーナ様のお目覚めを早めたいんです。
今夜はサーロンは居ません。
ソラ君に戻って響さんと一緒に居ますので。
紅火は真上で何やら作っていますよ】
【そっか。俺のなぁ。
そんならお願いします!】瞑想!
【オレ、寝ててもいいのか?
明日は早番なんだよ】
【うん。俺も瞑想するだけだから寝ていてよ】
【そんじゃ遠慮なく】彩桜の布団へ。
青生も瞑想を始めたので、色とりどりのドラグーナ達が集まり、白久の頭上に浮かんだ。
【始めよう】
金ドラグーナが微笑み、他が頷いて各々の色の光を纏った。
―◦―
風呂上がりの悟と竜騎は並べて敷いた布団に入った。
「悟空……僕……」
「その記憶は禍ってヤツのだから白竜は気にしなくていい。
彩桜と歴史研究部の皆は理解してくれてる。
けど……明後日から どうするか、だよなぁ」
「どうして こんなことになったんだろ……」
「白竜の魂の中にはキャンプー様って馬龍の神様が入ってたんだ。
今、神様の世界では悪いヤツが人の魂に禍の種を込めてるらしい。
そんな種入りの人の魂に、いい神様の魂を押し込んで人の世界に落としてるんだって。
キャンプー様は、その悪い種の下敷きになってたから、種はキャンプー様の力を吸い取って大きな禍になったらしい。
膨らんだ禍は人の魂を乗っ取るんだ。
だから白竜は白竜じゃなくなったんだ」
「キャンプー様は? 無事なの?」
「無事だよ。
馬にされた記憶、ある?」
「うん……ぼんやり見てた記憶なら」
「禍で黒く染まった馬になった白竜をずっと浄化してくれてたよ。
他の神様も交替で来てくれてた。
だから たぶん今は休憩しに帰ってると思う」
「馬……僕が乗ってた馬は?」
「それも見てた?」
「うん。いっぱい叩いたし、蹴ってた。
可哀想だった……」
「生きてるよ。でも、もう引退だって。
牧場で余生のんびり暮らすんだって」
「謝りたいな」
「白竜がしたんじゃないのに?」
「その馬にとっても、周りの人達にとっても、僕がしたとしか思えないよ。
悲しいけど……全部、僕のせいなんだ」
「そんな落ち込まないでくれよ。
ちゃんと学校に行けるようにするから。
馬にも会いに行こう」
「馬……竜牙?」
「そうだよ。
義王と我王も許してくれたんだから竜牙も許してくれるよ」
「うん……」
悟は竜騎が泣いているのに気付き、手を繋いだ。
「大丈夫だから。俺達が白竜を護るから。
今は考えずに寝よう。
全部 明日。考えるのも、宿題も」
「あ……宿題!」
「大丈夫だよ♪」
悟は安堵と嬉しさを思いっきり込めた笑顔を竜騎に向けた。
「お帰り、白竜♪」
金錦とドラグーナと牡丹のお話の方が大きかったとは思いますが、物語の本筋的には竜騎が戻った方がメインです。
悟の親友ですが、彩桜にとっても最初の友達ですので。




