帰国した夜
邦和では5日の夕方。
輝竜兄弟とサーロンが帰宅した。
「彩桜お疲れ!」「やっと帰って来たなっ♪」
「演奏、感動したよ」「うん♪ 凄かった♪」
「サーロン君も居るでごじゃりましゅる~♪」
「「ホッとしたでごじゃりましゅる~♪♪」」
彩桜とサーロンは玄関で祐斗達に囲まれた。
その横を通り抜けた兄達も待ち構えていた者達に次々と居間へと連れ込まれた。
彩桜達も追って居間に入り、わいのわいのしていると、リーロンが両手に大皿で入って来た。
「運ぶの手伝ってくれ~。主役は座ってろよ♪」
特に黒瑯、と目を合わせて笑う。
「はい!」歴史研究部一斉♪
「彩桜とサーロンは座ってろよな♪」
堅太が言って走って行った。
順志が立ち上がり、
「これから慰労会と新年会を兼ねて輝竜兄弟への感謝を込めた会を始めます」
宣言すると拍手が湧いた。
「お~い順志、荷物くらい置きに行かせてくれよな。
着替えたいし、楽器もまだバスなんだよ」
「そうか。白久でも片付けるのか」
「どーゆー意味だよっ」
「とっ散らかすのが得意だから」「おいっ」
「漫才でも始めるのかな?」
笑いながら宮東が間を割る。
「それじゃあ準備している間に片付けてもらえるかな?」
「そんじゃあ最速最短、楽器の手入れは後。
行くぞ♪」
白久が先頭で兄弟が続いた。
瞬移も使って楽器をアトリエに運んでいる中、サーロンとして手伝いながらソラは響に呼び掛けてみた。
〈響? 来ないとは思ってたけど……〉
〈戻ったの? それともまだ九州?
サイオンジは?〉
サーロンとして欧州に行くとは言えないので九州遠征という事にしていた。
〈みんな戻ったよ。
だから聞いてみたんだけど?〉
〈うん……輝竜さんだけなら頑張ってみるけど3日に温水から帰ったら中学生達と会っちゃって……荷物を引き上げたのよね。
だから……まだちょっと……〉
〈トクさんから和館の2階を1部屋 貰ったんでしょ?〉
〈そうだけど……〉
〈みんなは和館には行かないよ。
リーロン兄さんは1階だし〉
〈普段『兄さん』付けて呼んでるの?〉
〈歳上だから付けて普通だよね?〉
内心『あっ』と思ったが平然と。
〈そっか。ホントに家族なんだ……〉
〈うん。受け入れてもらってる。
だからメグル君も大丈夫だよ〉
〈あ……そっか。そっちもだよね〉
〈ん? とにかく大丈夫だし、大門から庭を通れば誰も気づかないよ。
踏み出す練習したかったら来てね〉
〈ソラは?〉
〈今から新年会だって。だから居間〉
〈そっか……〉
〈来てたら後で行くからね。
あ、呼ばれてるから閉じるねっ〉
―・―*―・―
「ね、お姉ちゃん。
輝竜さん家の別の部屋に行かない?」
ノックしながら声を掛けて、奏の部屋に入った。
「別の部屋?」
「うん。離れ」
誰にも会いたくないのだろうとは察した。
「行きましょうか? 翔君は?」
「今は新年会中だって。後で来てくれるよ」
「それじゃあ明るいうちに行く?
あ……でも夕食……」
「食べてから行こうかな?」
「そうね。手伝って早くしてもらいましょう」
「うん♪」
―◦―
夕食後、響と奏がショウを連れて夜道を歩いていると――
『奏ちゃん響ちゃん!』
「まさか――!」
――振り返る必要なんて皆無な声。とにかく逃げる!
『待って!』
ショウが奏を掬うように乗せて全力で逃げたが、人とは思えない動きで前に回られてしまった。
「逃がさないわよ~」歪に口角が上がる。
「どうして理子叔母さん……」
「あの浄化の神を結婚強化なんて許さない……」
「何を言って……?」
〈変だよ! オバサンじゃないのかも!〉
〈そっか! ソラ!! 助けて!!〉
〈サクラ! 助けて! うわわ来た!〉
捕まえようとしている理子を避けながら。
「逃がさない……滅するのみ!!」「きゃあ!」
襲いかかった理子を避けたわけではなくショウが力が抜けたように伏せてしまい、驚いた奏が声を上げた。
《奏は俺が護る!!》ガルルル――
―・―*―・―
呼ばれる前に異変を察知していたソラと彩桜は居間を出ていた。
【行こ!】【うん!】瞬移!
――《奏を安全な場所に頼む!》〈お兄!?〉
《早く!!》【暴走お兄を眠らせてぇ~】
《俺が戦うから早く!!》【乗られたぁ】
【また乗っ取られたんだねぇ】ひょい。
【彩桜! 言ってる場合!?】スサッ!
理子の攻撃を避けながら。
【眠らせて連れてくねっ】【お願い!】
《あ……ワフッ♪》【【え?】わあっ!?】
急に反転した大型犬にサーロンが押さえ込まれてしまった。
【夢幻爆眠!!】【ありがと!】
惨事になる前に彩桜が犬の背に掌を当てて放ったが、少し弾かれた光が理子を掠めた。
「許さぬ……滅する!!」
【連れてくねっ!】纏めて瞬移!
―・―*―・―
彩桜達より前に席を外していた青生と瑠璃はキツネの社に瞬移していた。
【父様!】【お稲荷様!】
【大事無い。しかし彼奴に逃げられ――】
〖禍を受けてしまったの!〗
【【滅禍浄破邪!!】】
【すまぬ……】〖あの女は!?〗
【彩桜とソラが追っています】
【今は禍の影響を滅するのが先です!】
封珠を割って逃げた理子に神眼を向けたまま、青生と瑠璃は浄滅禍を続けた。
―・―*―・―
理由をつけては居間から出、戻った輝竜兄弟と瑠璃とソラとサーロンは全て狐儀の分身という状態で、新年会は疑問を持たれる事なく続いていた。
彩桜が連れて来た響達は和館2階の部屋で、紅火の堅固と藤慈の術破邪で成して維持している強い結界に護られていた。
―・―*―・―
理子は響を見失ったもののソラを見つけたので、ソラを執拗に追っていた。
再びソラと合流した彩桜は理子と並走しながら浄破邪を放ち、少しずつ理子の魂へと届けていた。
【彩桜! 破邪の大技あるか!】
理子を挟んで彩桜の向かいを白久も同様に走っている。
が、そのどちらも理子の眼中には入っていないらしい。
【あるけどぉ、そんなの出したら俺、戦えなくなっちゃうよ?】
【俺が同じのを放つ。任せろ♪】
【そんなの白久兄に出来るの?】
【ナンでもアリだ♪ 信じろ♪
飛行機の中で青生に鍛えられたからな♪】
【ん。それじゃあ……】
ピッタリ並走して狙いを定め――
【滅禍浄破邪大っ輝雷!!】
見事に雷に貫かれた理子は白久の方へと飛ぶ!
【双璧!!】白久からも雷!
全く同じ破邪雷を両側から受けた理子は宙に縫い止められたかのように固まった。
【夢幻爆眠!】神力を絞り出す!
ふらっポテッと倒れそうになった彩桜を引き返したサーロンが受け止めた。
【彩桜ありがと】なでなで。
【サーロン……あの大ヒトデ、浄化お願い……】
【うん。寝言だね】よしよし♪
白久も座り込んでいたが、シルコバがポケットから出て頭に上り、治癒光で包んだ。
【ありがとな……】【【おう。休んでろ】】
【後押しもな……】【【今は喋るなって】】
【ソラは和の離れに。ご婦人は連れて行く】
現れた金錦が理子を、紅火が白久を、藤慈が彩桜を連れて瞬移した。
―◦―
「響! 奏お姉さん!」現れた。
カケルだけでなくショウも彩桜の術で眠っていて、奏が撫でていた。
「ソラぁ」「叔母さんは……?」
「はい。また封じました。
今度は神様並みに強く封じましたので、もう出られないと思います」
「よかったぁ~」
『もう大丈夫だ。ホットショコラテ飲むか?』
「はい! ありがとうございます!」
本館を護っていた黒瑯の廊下からの声にソラが返事をして受け取りに行った。
「ソラは此処に居ろよな。
彩桜が起きるか青生が戻るかしたら説明しに来させるからな」
「此方の風呂も沸かしたのじゃ」登場。
「虹香姫様が?」黒瑯、マジびっくり。
「否。久方ぶりじゃと紅火殿が」
「あ~そっか。だよな。
彩桜がチビこい頃に遊んだキリだもんな」
「然様か」「え?」10年以上 使ってない?
「コッチの、五右衛門風呂なんだよ。
だから彩桜を遊ばせたキリなんだ。
けど紅火が沸かしたんなら大丈夫だ♪
ゆったり寛いでくれ♪」
「「はい……」」五右衛門風呂?
「風呂上がり頃にデザート取りに来いよ」
とソラに言って去った。虹香も一緒に。
ショコラテで少し落ち着いたらしい。
「ねぇソラ、五右衛門風呂って?」
「見た方が早いよ。
廊下で待つから準備して」
そして一緒に1階の浴室へ。
「ボクの家の五右衛門風呂は小学校に入る少し前に床が抜けてしまって亀裂が入ったから新しいお風呂になったんだ」
湯温を確かめて頷く。
「内釜には触れないでね。
触ってすぐに火傷とかはしないけど熱いからね。
この蓋みたいに浮いてる簀を踏んで沈めて入るんだ。
紅火お兄さんが改良してくれてるから簀が足下から抜けて浮いたり、ひっくり返ったりしないけどバランスよく乗ってね。
それじゃあボクは外で火を見ておくから」
逃げるように出て行った。
「蓋だと思った~」プカプカ簀をツンツン。
「響、翔君に悪いから早く入りましょうよ」
「外で火の番ねぇ……」
『熱い、ぬるいは遠慮なく言ってね』
「うん! ありがと!」
大勢が居る本館に自分が行けないから、長く使っていなかったのに わざわざ用意してくれたのだとは解っているので、響は有り難さを胸に脱衣所に行った。
古の悪神オーロザウラとの戦いは終わっていないと帰国早々に痛感した輝竜兄弟とソラ。
竜騎も元に戻っていませんので、これは更なる修行を積まなければならないと考えています。
ですが冬休みは残り数日。
3学期に間に合わせたいので大急ぎです。
奏と響は自宅に帰っていたようです。
狙われているので今度は和館の2階に滞在すると決まりました。




