悪神が潜む池
「さぁてと、経緯を聞いてる間に見つけた悪いモンを出しに行くかぁよ」
〖カナリな神力が必要だ! 気張って行け!〗
サイオンジとフィアラグーナの言葉に力強く頷いて表情を引き締めた面々は、
「フリューゲル城の皆様は、この部屋から動かぬようお願い致します」
金錦が代表して言い、瞬移して消えた。
「私は神眼で見ていましょ♪
私に触れていれば見られるわ♪」
菊乃は座り直して祈りの姿勢に。
「おばあちゃん、見させてね♪」「俺も!」
「ネルケ」「はい、あなた」
親子が寄り添って目を閉じた。
―◦―
【敷地の真ん中。この池ですね】
青生が治癒光で水面を見易くした。
〖コイツが悪霊を呼び寄せてたんだな?〗
【同じ欠片を持つ者を探していたのでしょう】
ラピスリが祖父の問いに答えた。
〖この人神は誰だ?〗
【古の悪神オーロザウラの欠片を持つオーラマスクス男爵かオーザンクロスティ伯爵夫人の何れかです】
〖そのオーロザウラとは?
前に少し聞いたヤツか?〗
【はい。世の全てを手中に納めようと企み、子であるザブダクルを滅しようとし、双子執事達を付け狙っていた古カリュー国王です】
〖カイダームとクウダームを!? 許せん!〗
【東塔に封じられていた悪霊と、北塔に巣食っていた悪霊にも同じ欠片がありました。
東塔の欠片を奪われぬよう護らせていたのは、この池の欠片でしょう】
〖池の欠片は魂では保護されておらんのだな?〗
【そうですね。
人魂は既に消滅したのかも知れませんが】
〖そうか! この水!〗
【はい。人世としては、とても古い封印です。
古さ故に近年では欠片の禍力の方が勝ってしまったのでしょう】
話しながら水面に魔法円を描く。
【浮かび上がらせます。
神力にて支えをお願い致します】詠唱。
一度目は水面が激しく波立っただけで、欠片は水底の地中で踏ん張っているらしく浮かび上がらなかった。
【続けます!】
ラピスリは狐の力も必要だと龍狐神姿になり、囲む者達からも各々の獣神が頭上に浮かんだ。
その神力を察知したか、欠片に呼び寄せられたらしい無数の悪霊達が飛来した。
【【浄破邪の極み爆弾!!】】【堅固】
紅火が成した保護結界の外で打ち上げ花火のように浄破邪が弾けた。
【【た~まや~♪】】
球魂となって落ちてきた悪霊達を祓い屋達が回収する。
悪霊は任せるべきとラピスリが詠唱を再開すると、水面が輝き、水柱が立ち昇った。
欠片を押し出そうとしているかの如くな水に、近親者の共鳴を感じた龍神達は頷き合った。
【俺が行くよ】
ドラグーナが重なり、黄金に輝く鱗を浄破邪の綺桜に変えて水柱に突入した。
【【堅固、掌握】】
ドラグーナと紅火の声が重なり、水柱を抜けたドラグーナの手には堅固結界で包んだ小さな小さな人神の欠片が闇を纏って脱出しようと震えていた。
【【浄破邪の極み針!】】
彩桜とサーロンが放った光矢が細い針になった。
【【夢幻爆眠!】】
続いて青生と瑠璃の声が重なり、浄破邪針矢を追う鋭い瑠璃光も針矢となって欠片を貫いた。
欠片の動きが止まる。
【【捕獲完了~♪】】ハイタッチ♪
獣神達が宿主の内に戻り、狐儀は白儀に、オニキスはリーロンに、ラピスリは瑠璃に、他の嫁達も人姿になった。
【姉ちゃん達の龍神様キレ~イ♪】
【とってもキラキラです♪】
【ありがと♪】【【当然なのじゃ♪】】
笑って夫の所に行った。
【瑠璃姉ソレどぉするの?】
【神世に運び、神火で浄滅する。
他に方法は無いそうだ】
【ふぅん。俺、行っちゃダメ?】
【青生、無謀な末弟を頼む】
【そう言うと思ったよ。
彩桜、俺達はまだ修行不足らしいよ】
【そっか……】
【落ち込むな。いずれ行ける】【うんっ!】
【【【サーロンくん♪】】】【はいっ】ビクッ!
スザクインとヨシとトクがニコニコしていた。
【えっと、どうかしましたか?】
【ソラくんと呼ぶべきかしら~♪】
スザクインが ほっぺをツンツン♪
【姿に合わせてください!】
【彩桜クンと、と~っても楽しそうよね~♪】
今度はヨシ。
【もうっ! 用が無いのでしたら――】
【【あるのよぉ】】
【はい?】
【そもそも欧州は死神様が少ないのよ。
その上、年末ので減っちゃったから~】
【死神様、お友達なのよね?】
【わかりました】エィムの鈴を振った。
【えっ?】すぐに現れたエィムがフリーズ。
【見ての通り元・悪霊てんこ盛りなの】
【全部、って大丈夫かしら?】
【袋ごと運びます?】
各々が作業中としてエィムを見ないように動いている。
【えっと……この数、何事があったのですか?】
視線はチラリとサーロンに。
【はいはい♪
サーロンくん、説明お願いね~♪】
【地下室のも持って来なきゃね~♪】
スザクインとヨシは助け船を出しそうなトクを連れて消えた。
【この城に古の悪神の欠片持ちな霊が大勢を呼び寄せて、取り憑いては怨霊化して溜め込んでいたんです。
中には生霊も混ざっていますが、選別する余裕なんてありませんでしたので……ゴッチャ混ぜ混ぜでスミマセン!】
サーロンもエィムには背を向けている。
【そう……それなら欧州の上位・中位と手分けして導くよ】
【いらっしゃるんですか?】
【支配解除できたら戻ってもらっているから。
とりあえず袋のまま積んでもらえるかな?】
【はい】
後ろを見ると地下室に置いていた分も届いていたので、他に持っていないかを呼び掛けて確かめ、少し離れた。
【それで……また、その姿なの?
これからも父様と組む時は双子するの?】
袋の中を確かめる。
【はい。オニキス様のリーロンの弟で輝竜兄弟のイトコのサーロンとして、彩桜を護って――いえ。ただ一緒に居たくて……】
シッカリ遠くに離れた。
【そう。協力ありがとう。
これからも父様を宜しく】
集まった死神達に説明を始めた。
―◦―
瑠璃は神世に行く前に確かめておこうと、池の水に手を入れて術者を探っていた。
その後ろでは輝竜兄弟の上にドラグーナ、サイオンジの上にフィアラグーナが浮かんで話していた。
〖あの神力は俺の母様だ。
共鳴が間違いないと言っている〗
【そうですね。心地よく響いています】
〖雲地に逃げると言ってたんだがなぁ。
捕まっちまったんだな……〗
【お祖母様でしたら大神でしょうから、大勢に追われて逃げきるのは難しかったでしょうね】
〖今も何処かで欠片としてでも生きててくれりゃあいいんだがなぁ〗
【見つけますよ。必ず】
〖珍しく自信タップリじゃねぇか〗
【どんどん仲間が集まっていますからね。
それに俺も輝竜兄弟がよく修行して神力を高めてくれていますから、見つけ出せますよ。
既に菊乃とその孫と嫁、曾孫達に見つけていますからね】
〖確かにな。其処此処からの気に共鳴するから驚いたぞ。
で、俺の欠片も頼む〗
【もちろんです】
瑠璃が振り返って微笑んだ。
【どうやら話せたようですね】〖だな♪〗
【父様、お祖父様。
アルテメーア様の器は初代フリューゲルの妻メーネ。
領地として得た この地に在った沼に禍々しい気を感じて浄化し、結界を成して澄んだ池としたそうです。
沼にオーロザウラの欠片持ちの魂を封じたのは、その300年程前。
封じたのはアルテメーア様ご自身ではないかと感じ取りました。
アルテメーア様は、その欠片持ちと戦い、負傷したか、禍を受けてしまったのではないでしょうか。
今からですと約千年前。
長く鎮魂されていたオーザンクロスティが最初に堕神とされた頃です】
〖その時の負傷で母様は……〗
【そうでなければ人神に捕らえられるなんぞ有り得ない御方なのでは?】
〖確かにな。
ラピスリは母様によく似ている。
つまりラピスリが捕まるのと同じだ。
母様は月の四獣神をしていたくらい強いのだからな。
おいドラグーナ、何を笑っているんだ?〗
【なんだか嬉しくて】くすくす♪
〖おいおい〗【父様……?】
【確かに繋がっていると思ってね】くすっ♪
〖ふむ……〗【それなら、まぁ……】
―◦―
他は地下室でお喋りに花を咲かせていた。
特にスザクインとヨシが菊乃と。
「ええそうなの。ネルケは私の弟子よ♪
それをルークが見初めたの♪」
「「やっぱり~♪」」
「お祖母様。恥ずかしいので、そのくらいに」
「しませんよ♪
ユーレイは明るく居ないと駄目なの。
負の感情は怨霊化に繋がるのですからね。
楽しいお話は、いくらでもよ♪」
「楽しくないのですが……」「ですよね……」
「俺、楽しいぞ♪」「私も♪」
「トーンはユーレイじゃないだろ」父、睨む。
「でも楽しいのは大事だろ♪」「「そうよ♪」」
「トクちゃんも入りなさいな♪」「あっ」
少し離れてサイオンジを待っていたトクはヨシに引っ張り込まれた。
「それじゃあ次は先生とトクちゃんの話ね♪」
「ええっ!?」「ほらほら早く惚気てよ~♪」
そう言われて惚気られるものではない。
「「先生?」」
「私とトクちゃんが女学生だった頃の先生♪
サイオンジ様よ♪」
「それじゃあ生徒と先生だったの!?♪」
「それは聞きたいわね♪」「でしょう♪」
「そ、そんなっ、恥ずかしっ!」やんっ!
「な~に騒いでるだぁよ?」
「飛んで火に入る先生ねっ♪
さ、並んで話してねっ♪」
夜通し話しそうな勢いのユーレイ達だった。
なんだか ややこしいので時系列にします。
紀元1000年頃、龍神アルテメーアがオーロザウラの欠片持ちを封じた。
紀元1320年に、初代城主となったフリューゲル=フォン・リヒテンバウアーが領地を得、築城。
池に不穏を感じたアルテメーアの欠片持ちな妻メーネが悪霊を封じ直した。
近年、それっきりだったので池の結界が弱まり、オーロザウラの欠片持ち悪霊は池からは出られないものの仲間を集め始めた。
そして菊乃の指示で寮に入ったメーアだけが生き残った。
ちなみに領地内には他にも城があります。
住んでいた親族は、主城に主が不在という訳にはいかないとフリューゲル城に移っては亡くなっていったんです。
既に天に召されているのか、てんこ盛り盛りの中に居るのかは不明ですが。




