メーアの曾祖母
彩桜とサーロンは北塔の最上階に瞬移した。
【狐儀師匠だ~♪】
【留めている間にトドメを!】【早く!】
〖ここは譲る! ガイアルフ! ヤレ!〗
白狐神と瑠璃龍神がメインの破邪縄の両端を掴んで張っており、他は数人ずつで強大な怨霊に絡めた縄を引いていた。
【いくよ!】【うんっ!】
怨霊の両側、狐儀とラピスリの背後に瞬移した彩桜とサーロンは壁を蹴って怨霊へと飛び、クロスと同時に怨霊内の禍核に破邪の剣を突き立てた。
断末魔の絶叫と波動が塔だけでなく揺さぶる。
その全てが徐々に鎮まっていき、強大だった怨霊は縮んで小さな球魂になった。
【【回収~♪】です♪】
―◦―
【コイツ縮まねぇぞ!】【当たってるのに!】
本館3階の女霊は浄破邪水を浴びて叫び続けている。動けそうにはないものの、一向に縮みそうにもなかった。
他の霊達は全て浄化済みで回収済み。
あまりにあまりな耳障り極まりない叫び声に嫌気が差した頃――
《すみません、救世主様。
出して頂けますか?》
――金錦が持つ袋から城主の声がした。
〈しかし危険ですので――〉《承知の上です》
〈では、結界の上には出ないでください。
どうぞ〉
城主の魂を袋から出した。
《ああ、やはり。
あれは妻ではありません。霊でもない。
最初は声に惑わされましたが、妻の姿を写しただけのものです》
〈確かになぁ。怨霊モドキだぁよ〉
〈そうね。よく出来ているわね♪〉
邦和総括と欧州総括が現れ、北塔に居た者達が次々と瞬移して来て、手にしていた破邪縄を掛けた。
〈では奥様は どちらに?〉
〈ボクが西塔で保護しました♪
あの核を退治すれば目覚めると思います〉
〈核、とは?〉
〈禍核です。ね、彩桜♪〉〈うん♪〉
〈そのまま留めていてください!〉手繋ぎ瞬移!
――平結界の上に現れた彩桜とサーロンは手を繋いだまま同時に壁を蹴り、浄破邪シールドで身を護って怨霊モドキに突入すると、禍核に破邪の剣を突き立てた。
時が止まったかのように叫び声が止まる。
そして怨霊モドキは大きく口を開けたまま崩れつつ消えた。
「「おっしま~い♪」」瞬移で戻った。
礼拝堂の鐘が祝福するように鳴り始めた。
「あれれまた?」「誰か居るのかもね?」
「ん? 鐘に?」「そう感じなかった?」
「さっき鳴ったのも♪」「だと思うよ♪」
また一緒に瞬移した。
「彩桜!」「サーロン!」
黒瑯とリーロンも追った。
――屋上礼拝堂。
「おばあちゃん♪」「見つけました♪」
「やっぱり和語が落ち着くわぁ」にこにこ♪
「「って誰!?」」兄~ずも まるで双子。
「「城主さんのお祖母ちゃん♪」です♪」
「平らな結界 作れちゃうヒト~♪」
サーロンも嬉しそうに頷く。
「すっかり当てられてしまったわ♪」ほほほ♪
「「じゃあマジかよ……」」「「うんっ♪」」
皆が瞬移して来た。《お祖母様!?》
「あらルーク、無事だったのね。良かったわ♪
あなた達も身体を頂きなさいな」
「紅火兄、具現環お願~い♪」
「その前に霊力不足ですよ」
狐儀が尾でチョンチョンと触れると球魂達は人の形を成した。
紅火が具現環を差し出す。
「霊体を」「抜いてく~ださい♪」
〈はい。ネルケも〉〈ええ〉
「「具現化♪」」
ルークとネルケが得た身体を確かめて微笑み合う。
「せっかく上にいらしていただいたけれど、地下の曾孫達の所に行かなければね。
不安と闘って待っているのだから」
さっさと消えた。
「行こ~♪」
彩桜とサーロンが追い、あとは次々と。
――地下室。
床に座った曾祖母が妹メーアと抱き合って頬を寄せて笑っていた。
兄メーアは微笑ましい光景に目を潤ませていたが顔を上げると、表情を強張らせて後退った。
「騒いでたの、ネルケさんの真似してた怨霊。
もぉ大丈夫なの~」
「そんじゃあ……ホンモノ?」
「うんうん♪ ホントにネルケさんなの~♪」
「母さん! 無事で良かった! 父さんも!」
纏めて抱き締めた。
「無事と言えば無事だが……」
「私達、ユーレイなのよ?」
「どーでもだよ。
ずっと ここでユーレイなメーアを抱き締めて待ってたんだからな」
「そうか?」
「今夜くらい良しとしませんか?」
「そうだな。そうしよう」
「って、朝になったら天に召されないと、とか言うのか?
俺が生きてる間は居てくれよ。
一緒に昇ろうぜ♪」
「あら、それは良いわね♪」曾祖母参加。
「一緒に昇らずに、ずっと祓い屋しててもらいたいのだけど?」欧州総括も参加。
「それはそうと、この城の話が聞きたいんだがなぁよ?」邦和総括も参加した。
「そうですね。助けて頂いたのですから、お話ししなければならないわね。
私の邦和名は本浄 菊乃。
実家は代々、寺社と祓い屋をしていたの。
私が、このフォン・リヒテンバウアー家に嫁いだ為に実家は妹が継いだわ。
フリューゲル城は昔から霊が集まり易いとお義父様から伺うより先に、私は住居として使っている1階と2階を保護していたの。
それでも多くて……悪霊も多くて難儀したわ。
存命中は、それでもどうにか家族を護っていたのよ。
私の命が尽きたのはトーンが中等の寮に行ってしまった年だったわね」
「だったな。行ってすぐに葬儀だと呼び戻されたよ」
「そうね。葬儀は見ていたわ。
でも少ししたら眠ってしまったようで、記憶が無いの。
目覚めたら私の結界は下げられていて、2階を寝室にしていたから、家族は誰も居なくなってしまっていたわ」
「眠るのはユーレイ誰しも通る道だぁよ」
「はい。眠り期です」
「そうなのね。
家の中には禍々しい悪霊が我が物顔で居座っているし、どうにも途方に暮れてしまったわ。
それでも、どうにかこうにか封じたら、今度はもっと強い悪霊が北の塔に居座ってしまったの。
私は孫夫婦を出してあげられないまま、礼拝堂の鐘に隠れるしかなかったの。
そうしたら出られなくされてしまって。
今日やっと出していただけたのよ」
「それじゃ東塔の怨霊は菊乃さんが封じたの? 北塔の怨霊じゃなく?」
「ええ。西と南には孫夫婦が居たから東に。
北塔の悪霊は、その後で来たの。
悪霊達は今は?」
「しっかりガッチリ封じて眠らせてま~す♪」
「この後、神火に投じて浄滅しますのでご安心を」
彩桜に続いて青生。
「あらま、そんな方法があるのね。
今の祓い屋さんは強いのね♪」
「それは……まぁ……」「青生兄 照れてる~♪」
「あら可愛らしいこと♪
それにお似合いね♪」
「「えっ? あ……」」顔を見合せて俯く。
青生の隣には漏れなく瑠璃が居るので。
「次はルークとネルケね」うふふ♪
青生と瑠璃が気に入ったらしい。
「お祖母様が亡くなった年の秋にメーアが病で亡くなり、悲しみに暮れていると、私も妻も病となって春を迎える事なく。
ユーレイとなって私達も数年間は眠っていたようです。
目覚めるとメーアが居ました。
メーアは壊れたピアノに隠れていたようです。
眠っていた間に両親(兄妹メーアの祖父母)も亡くなったらしく見当たりませんでした」
「あのね、おじいちゃんが先で、おばあちゃんと一緒に天に召されたの。
メーアも一緒にって言われたけど……。
メーア、お兄ちゃんに会いたくて、お父さんとお母さんともお話ししたくて、ピアノに隠れて出ないようにしていたの」
「目覚めた私達は、結界の存在を知りませんでしたので、メーアを護る為にと上階に行ってしまったのです。
そして捕らえられ、封じられてしまいました」
「あの怨霊モドキは?」
「全く知りませんでした」
「私も眠らされていましたから……」
「アレは北塔の悪霊が、後継ぎのトーンを屠ろうと作ったのだと思いますよ。
母親を大切に思う息子は多いですからね」
白儀が忌々しそうに目を細めた。
「いやぁ、ナンか不気味で上がれなくてなぁ」
「察知していたのかしらね♪
私の曾孫なのだから♪」
「ナンにせよニセモノに騙されなくて良かったよ。
で、大婆様って邦和人だったのか?」
「ええそうよ♪」
「やっぱ邦和人って忍者なんだな」納得。
「あらあら♪ でも確かに、ここにいらしている和人の皆様は忍者ね♪」
「よし! 俺、邦和でライブやる!
大婆様が育った所も見たいし、キリュウの家にも行ってみたいからな♪」
「来て来て~♪
本浄神社、ご近所さ~ん♪」
「えええっ!?」「あらま♪」
「お山のお社、狐儀師匠が住んでるの~♪」
「良いお社でしたので勝手ながら家族で住まわせて頂いております」
白儀の姿にしていたが白狐に戻してペコリ。
「お稲荷様が? あらあらまあまあ♪
嬉しいこと♪」
「雪狐が喋ってる……」
「トーン、狐の神様だよ」父、苦笑。
「神様!? 神様ってのはアレだろ?
ほら、礼拝堂の!」
「邦和には様々な神様がいらっしゃるのよ。
邦和でなくても古い古~い神話では、それこそ数えきれないほどの神様がいらっしゃるの。
地星は、たった一神の神様がお作りになったものではないわ。
大勢の神様が地を作り、生き物を作り、人を導いて今があるの。
邦和は、そういう真理を知っているという意味では先進国よ。
行って、大いに学びなさいな」
「そっか。うん。学ぶよ」
なんだか巫女姿の沙織が菊乃にダブって見える彩桜だった。
「せっかくですから、その頃の姿に戻してしまいましょ♪
お山のお社で百年祭事をした時の姿が良いかしら♪」うふっ♪
「うわわ~、沙織さんソックリ~♪
そっか~、メーアちゃんも沙織さんに似てたんだ~♪」
「そうなの?
おばあちゃん、私も会ってみたいわ♪」
「でしたら行けるように修行しなければね」
「はい♪」
兄妹メーアと その父ルークの髪と瞳は、邦和人と同じような濃茶色です。
菊乃譲りなんでしょうね。
青生が神火で浄滅すると言ったということは、北塔の悪霊もオーロザウラ絡みなんでしょうか? それとも東塔の悪霊?
さておき、城内の悪霊退治は終わったようですが、昼間に彩桜とサーロンが庭の池を気にしていましたよね。
次は、その池です。




