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なんだかお馴染みな分からず屋状態



「会社の先輩で世話になったからって強く言えない僕が悪いんだけど……解ってくれないなら、もう無理だと思うんだ」


「俺達、迷惑とか思ってないからぁ」


「ありがとう。でも……あ、こんなこと中学生に話すものじゃないよね。

 ごめん、忘れて」


〈紅火兄てば!

 流してたんだから聞いてたよね!〉


〈しかし、それは啓志(ひろし)(まこと)殿との問題だ〉


〈お友達でしょっ!〉〈彩桜〉〈青生兄♪〉


〈俺達はホテルだし、金錦兄さんと紅火も着いたから啓志君を連れて来てくれるかな?〉


〈うんっ!〉「啓志お兄さん、コッチ~♪」


「えっ?」

彩桜とサーロンに引っ張っられた。

「どこへ!?」


「今、オネーサンと一緒、キツいでしょ?」


「……そうだね」


「だから俺達のホテル~♪」走る~♪


「あ、ありがとっ」



 そしてホテル。

「輝竜で~す♪」〈鍵お願~い♪〉

フロント通過。エレベーターへ。


乗る、閉まる。上がり始めた。


「押してないよね?」階ボタン。


「顔パス♪」サーロン笑う。


「そんなのアリ?」


「「あるの~♪」」二人で笑う。


ズイ~~っと上がって止まり、開くと青生が微笑んでいた。

「啓志君いらっしゃい。どうぞ」

紅火が居心地悪そうに座っている箇所を手で示した。


「紅火君ゴメン!!」


「いや、何も……」

「先に座って~」連れて行く。



 そして彩桜とサーロンは風呂に行ってしまい、青生はメインルームへ。

啓志と紅火だけになってしまった。


「配慮が足りなかったと反省している」


「紅火君が反省なんて間違ってるよ。

 無茶ばかり言う淳が悪いんだ。

 飛行機に同乗してた秘書さんも困ってたし、皆さんだって予定もあったと思うのに……」


「ニューイヤーコンサートだけでも組み込んでおくべきだった。

 しかし俺達のコンサートばかりと云うのも折角のローマなのにと思ってしまった」


「うん。僕は解ってるよ。

 ローマを楽しんでって思いやりだって。

 だから淳だけ隅にでもと思って連絡したら、淳が前に出て……止められなかった僕も悪いんだけど……」


「それだけ俺達が求められていると解して喜んでおく」


「どこまでも優しいんだね。

 淳に紅火君の1/100でもあれば違ってたと思うけど、もう僕の気持ちが無理なんだ。

 前は尊敬してたけど、それすら……。

 そもそも淳にとって僕なんて、輝竜兄弟のご近所さんなだけで、同じ条件なら誰でもいいんだと思う――」バンッ!!「――え?」


「誰でもよくあるもんか!!」

プールバーのドアが開き、駆けて来て椅子ごと抱き締めた。


「淳……」


「男の中で働き、負けぬ為にグイグイ前に出る事しか学ばなかった!

 直すから叱ってくれ! 見捨てないでくれ!

 啓志なしでは生きる意味が無い!」


「そうは言うけど……僕の言葉なんて、すぐに耳に入らなくなるよね?」


「殴ってでも止めてくれ!」


「無理だよ。淳を殴るなんて」

『つまりは好きなのだろう?』「え?」


瑠璃がプールバーから出て来た。

「先ずは二人に。

 会社での関係や年齢差は夫婦には関係無い。

 夫婦は対等だ。

 互いの思いやりで支え合えなければ(たちま)ち崩壊する関係だと念頭に置け。


 淳殿。

 私の夫は二人の年齢差なんぞ誤差と思える程に歳下だ。

 職業は同じ獣医師。

 私は夫の指導医であった。

 しかし今は、私には無いものを持つ夫を尊敬している。

 先ずは真っ直ぐ啓志殿と向き合い、啓志殿を知るべきだ。


 私達も互いに年齢差を気にする事は確かにある。

 夫は歳上である私に並ぼうと背伸びをする。

 だから私は爪先立ちをしても倒れぬよう下から支えたいと思っている。

 これはレベルを下げるとか卑屈になるのとは全く違う。

 共に高みを目指す姿勢だ」


「そうだね。どうしても俺は肩を並べたくて上ばかり見てしまう。

 瑠璃が足を着けるべき地面をシッカリ見ていてくれるよね」

にこにこと青生が瑠璃に並んだ。

「いつも支えてくれて ありがとう」


「それが歳上妻というものだ。

 しかし私も青生に支えてもらっている。

 そして甘やかしてもらっている」


「見捨てられないように必死なだけだよ」


「同じくだ」


「持ちつ持たれつ、手を繋いでいきたいね」


「そうだな」


「啓志君。俺達を見て何か掴めたかな?

 まだなら もう少し語るけど?」

「恥ずかしいから語るな」睨む。

「こういうとこ、可愛いんだよね」「青生!」


「さておきだけど、獣医師としての瑠璃は俺の師匠だよ。

 尊敬しているのは変わらない。

 でも、それはそれ。

 言うべき言葉を呑み込んでしまうのは仕事上でも夫婦間でも間違っていると、何度も間違ってきた今だからこそ俺は思う。

 乗り越える原動力は愛情だから啓志君なら乗り越えられるよ」


「理解は……たぶん、できたと思います。

 青生先生、瑠璃先生。

 ありがとうございます。

 でも……今夜は考えさせてください。

 ここに居させてくださいませんか?」

「私も!」「ゴメン、無理」「何故!?」


「この状況で、どうして何故なんて言えるの?

 それに無茶なワガママ言って取ってもらったホテルなんだから無駄にしないで」


「そうか! 謝ればよいのだな?

 今から――」「どこに行く気?」「――あ……」


「誰に謝ろうとしてたの?

 それに何時だと思ってるの? 夜中だよ」


「やはり私には啓志が必要だ♪」


「火に油を注がないで。

 紅火君、淳さんを送ってもらえない?

 ホント悪いんだけど」


「ふむ……」

『それなら僕達の車で送るよ。

 通り道だから』

――の独語は啓志には届かないので青生が訳す。


「え? ああっ! いえ、そこまでは!

 これ以上は――あのっ! スミマセン!!」

振り返って目に入った人達に深々!


「誰だ?」「早く謝って!!」


青生が訳すとオッテンバッハ父子は笑って

「そんなに謝らなくてもいいんだよ。

 急にキリュウ兄弟の予定を変えたり、邦和からファンが来ているのを知っていながら招待しなかった僕が悪いんだから」

ファルケが言って啓志を起こさせる。

青生は せっせと同時通訳。


「ですが、立ち寄る予定のなかったドイツに滞在してしまって……」


「飛行機の不調で緊急着陸、点検と整備の為に2日間の足留めという理由でOKだったよ」


「そんな不名誉な……たった1人のワガママのせいで、そんな……」


「飛行機には よくある事さ。

 無実の整備員達は、お詫びに招待したら大喜びだったよ」


「チケットは瞬殺だった筈なのに……。

 物凄いご迷惑を誠に申し訳ございません!」


「それはキリュウの補強のおかげ。

 静かに座って観賞する場合のみとしていた2階、3階席を満席で跳び跳ねようが揺れもしないように補強しているとスタッフから聞いてね、座席確保もできたし、追加チケットも販売できたんだ。


 年末、いつの間に?

 スタッフも驚いていたんだよ」


「む……」

「夜中にコッソリですので聞かないであげてください」くすくす♪


「ハクも笑ってたんだよね。

 気になるけど、アウトレットパークが確かなものになるって事だから聞かないでおくよ。

 それじゃあ そろそろレディを送らないとね」


「啓志、行くぞ♪」「だから無理」「行くぞ!」

「嫌だ」「何故!?」「これ以上、言わせるな」

睨んだ啓志だったが涙が溢れそうになって背を向け、通路の方に走った。


「啓志!!」「追うな」

走り出した淳を瑠璃が止めた。


「離せ!!」


「今 追えば最悪の事態になる。

 今は引くべき時だ」「ウルサイ!!」


「二人の問題だと言いたいのだろうが、何故、彼が怒ったのかが理解できていない貴女が何を言っても(こじ)れるばかりだ。

 と、言っている私の言葉も届いていないらしいな。已むを得ぬ」

喚いて暴れる淳を、古典的な(うなじ)に手刀で気絶させた。

瑠璃は手から治癒眠を流しただけなので手刀にしなくてもよかったのだが、忍者で喜んでいるファルケの言動から古典的和風好きなのだろうと、そうしたのだった。


「瑠璃、運ぼう」「そうだな」

「オッテンバッハさん、巻き込んでしまって すみません。彼女は俺達が送ります」


「それが最善みたいだね。

 それじゃあ また明日」



―◦―



 啓志は黒瑯の部屋に居た。

通路で待ち構えていた黒瑯が連れ込んだのだ。


「一先ず冷静になれよな。ほらよ」

冷蔵庫から微炭酸のミネラルウォーターを出して渡した。


「ありがとうございます」


「このパターン、知ってるっちゃあ知ってるんだよな。

 朝には淳サンも落ち着いてるだろーから、もう一度キチンと話し合ってみろよ」


「知ってるって……?」


「淳サンがオレ達兄弟の、誰の どんな力を見たのかは知らねぇけどな、見ると起こる現象の1つだ。

 啓志もオレ達の力についてナンか知ってるんだろ?」


「あ……」

以前、白儀に見せてもらった怨霊との戦いを思い出した。


「前は彩桜が同級生の女の子にストーキングされてなぁ、生霊騒ぎにまでなっちまって周りも大変だったんだ。

 その時のと、見境ねぇ、聞く耳ねぇってトコが同じなんだよな。

 此処に来てたのもオレと藤慈を尾行してエレベーターに乗り込んで来たからなんだ。

 仕方ねぇからプールバーに閉じ込めたんだよ。

 本人には抗い様のない衝動は、啓志も紅火にコンパス刺した時に経験したろ?」


「あ……」


「ま、そーゆーもんらしいんだよ。

 今、青生と瑠璃さんが送ったし、彩桜とサーロンも行ったからな。

 もう大丈夫だ。

 朝には普通に話し掛けてみろよ」


「そうですか……」


「元気出せってぇ。好きなんだろ?」


「それは……そう、なのかも……」


「ニューイヤーの時は、まぁアリだよなぁと思っちまってな。

 気付くのが遅くなっちまって悪かったな」


「いえ。ありがとうございます」


「この部屋は付き人用らしくてな、寝室が2部屋あるんだ。

 だから遠慮せずに泊まってくれ。

 先ずは風呂に行くか?」


「あ、はい。

 もしかしてVIPルームですか?」


「大所帯だからな♪

 この方が安上がりらしい♪」


【弱禍、浄滅完了~♪】【おう♪】


【見つけるの遅くなってゴメンねぇ】


【神眼はオレのが強いらしいからな。

 これからガツンと鍛えてくれ♪】【うんっ♪】


彩桜とサーロンは風呂に行ったのではなく、近くに隠れて淳の弱禍を調べていたようだ。

もちろん青生と瑠璃も探りながら長々と話していたのだった。







淳はローマでは観光もせずにキリュウ兄弟の追っかけをしていたようです。

しょっちゅう邦和に居ましたからねぇ、瞬移して消えたか現れたかを見たのではないでしょうか。


輝竜兄弟の招待客達の様子は全く追いませんでしたが、それぞれが楽しく観光していたようです。

啓志は淳に土産などの買い物を頼まれて1人で出掛け、そのついで程度に観光していたようです。


巧が億野を気に入ったようで、観光案内やらでアピールしていたようですけど……その結果は不明です。



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