ベルリンでのニューイヤーライブ②
フリューゲルとの共演ステージは、ギター2・ベース1で輝竜兄弟が交替しながら加わって華を添えた。
3曲目にギターを弾いた彩桜が舞台袖に引こうとした時、ボーカルのメーアにストラップを掴まれてしまった。
「離してぇ」
『ウチのギターと対決しろ』「ふえっ!?」
『おいベルク、前に出ろ』
なんだか渋々出て来た。
『ギターやって何年だ?』
『20年くらい? たぶんな』
『サクラは?』
名前で呼ばれた事に驚いているとマイクを持たされた。
『ん~とぉ、物心ついた時には楽器いっぱいだったからぁ――』
『そうか、兄達の楽器か。
ま、せいぜい5、6年だな』勝手に断定。
俺、何歳だと思われてるの!?
『カナリの差だな。
だからサクラが勝ったらプレゼントをやる。
ベルク、負けるなよ』ニヤリ。
「ったく勝手に……」マイクから離れて呟いた。
『あ~そうだ。フルス、ベースも参加な。
対決にギターだけってのは味気ないからな。
サクラもベースつけていいぞ』
『うん! 誰か兄貴~』
藤慈がベースのストラップを掛けながら駆け出て並んだ。
「藤慈兄~♪」「はい♪ 頑張りましょう♪」
楽器があるのでハグではなく背中を合わせて弾むように離れた。
『ベルク、フルス。先攻だ』
表情を引き締めて弾き始めた。
流石に上手い。
ベースも長年一緒にやっていると見せつけた。
『次はサクラとフジだ!』
拍手が収まる前に言い放った。
〈負けにゃいもんね~♪〉〈はい♪〉
プレゼント欲しさではなく、正々堂々勝負が嬉しくて張り切ってしまった。
『こりゃあ……聞くまでもないが、拍手で示してくれ。
ベルクとフルス!』
拍手と歓声と指笛が沸く。
〈やっぱりアウェイだよねぇ〉〈そうですね〉
『サクラとフジ!』
割れんばかり!!〈ふええっ!?〉
『おいおい出来立てホヤホヤのホールをブッ壊す気かぁ? よーく分かった!
約束通りプレゼントを発表する!』
静かになった。
『先ずは判定してくれたオーディエンスへのプレゼントだ。
皆は、このライブの後、コイツらのCDを買って家でも楽しもうと思ってるだろ?
ところがだ。コイツら、デビューしてないんだよ。CDなんて無いんだ』
また大騒ぎ!
『まあ落ち着け。
デビューしないのか、できないのか、とにかく事情があるんだろうよ。
だが、このライブの音源は俺達フリューゲルのモノだ。
だからライブアルバムをリリースする!』
今度は大歓声!
『おい忍者達。
お前ら、これだけ求められてるってコト忘れるな。
もう一度このステージに戻って来い。
俺達は友情出演だ♪
また一緒にやってくれ』
もう大騒ぎ過ぎて収拾つかない。
『必ず呼び寄せるから静かにしろ。
マーズ、出て来いよ』手招き。
顔を見合せつつ兄達もステージの端に姿を見せた。
『もっとコッチだ。ったく。
モチロンこの二人の学校都合は優先する。
それならいいだろ?』
〈藤慈兄の、知ってるのかにゃ?〉
〈そうではないと思いますよ〉苦笑。
マイクがバトンのように渡って金錦へ。
『プレゼントとは、次のライブですか?』
『まさか! 明日、発つのは夕方だろ?
それまでの時間、俺達に付き合えよ♪』
忙しい有名人が貴重なプライベートタイムをくれると言う。
ただ一緒に、ではないだろうと兄弟は心話で相談してから恐る恐る気味に頷いた。
『邦和的ケンキョなんだろーがなぁ、もっと堂々としやがれ。
さ~て、そろそろ続きをやろうぜ。
なんかなぁ、子供二人を人質にしてる悪党みたいに見えるからなぁ。
初等と中等、兄達と交替だ♪』
〈藤慈兄を中学生扱い?〉
〈随分と若く見て頂けましたね〉更に苦笑。
〈次は藤慈と俺がギターだったんだけどね〉
〈返されちまったから代わりにオレが行くよ。
藤慈はその次のオレとチェンジな〉〈はい♪〉
青生と黒瑯の話に藤慈が返事したところで――
『早く来いよな。
その高等二人。ぶっつけOKなんだろ?』
〈誰が高等だって!?〉〈黒瑯を指してるよ〉
〈二人つったろ! 青生もだっ!〉〈そう?〉
邦和の高校生達にはオッサン呼ばわりされたが、ドイツ人には高校生に見えるらしい。
〈笑うな紅火! お前ベースだろっ!〉
年子3人、仲良しこよし。
―◦―
そんなこんなあって共演ステージが終わった。
『宣言した通りアンコールはコイツらに任せる。
コールするかはオーディエンスに任せるからな。
ヤルとなったら俺達に遠慮せず全力でヤレ』
捨て台詞みたいに言って、笑って退場した。
最後の曲は全員だと言われて出ていた兄弟は、前に並んで客席に礼をしてからフリューゲルを追って舞台袖に入ろうとした。
が、先頭の彩桜が入る前にアンコールの声と拍手が上がった。
〈休ませてくれないの? 俺ナンか食べた~い〉
〈逃げられると思っているのかもね〉くすっ♪
『ありがとうございます。
では準備をしますので、お待ちください』
最後尾の金錦が言って舞台袖に引き上げた。
彩桜はリハ室に直行した。
「サーロンだ~♪」
「うん♪ 連続瞬移で来れたよ♪
見てたよ♪ アンコールだよね?」
「先に食~べる~♪」
「そっか♪ ピアノも弾くの?」
モニターに映る舞台には紅火の指示で要塞3点セットが組まれ、前にピアノが配置されたところだった。
〈最初がバラードなの~♪〉もぐもぐ♪
「彩桜、ボク……ホントは招待された人達が2日遅れるとしか聞けなくて、理由が知りたくて来たんだ」
〈心配ありがと~。
俺達も聞いてないのぉ〉もぐもぐ。
「あのね、飛行機でオネーサンが怒ったの」
「オニーサン、ダメだよって言ってたの~」
「オネーサンとオニーサン?」
〈たぶん紅火兄のお友達~〉ごっくん。
「ニューイヤーも紅火兄が頑張って座席確保したのにねぇ」
「ドイツに滞在予定って、なかったよね?」
「うん。イタリーから邦和に直行。
だからソレもオッテンバッハさんに無理させたと思うの~」
〈彩桜、戻って〉〈ん〉
「俺、行かなきゃ。
全力するから見ててねっ♪」
―◦―
ハードロックアレンジのクラシックと言えそうなくらいに様々なクラシック曲・要素を盛り込み、邦和ポップスも匂う3曲は あっという間に終わった。
拍手と声援に包まれて前に並んだ兄弟は、繋いだ手を大きく振って勢いよく礼をし、退場しようと回れ右。
『もっと!』『同じのでいいから!』
そんな声を聞いて申し訳なく思いながらも踏み出そうとした その時、メーアが出て来て静まれと手振り。
『さっきの3曲でマーズがロック界にデビューしてない理由が見えたかもしれない。
コイツらはクラシックのプロなんだよ。
俺としては、そんな垣根なんか超えてコッチに来てもらいたいんだ。
皆もそう思うだろ?』
客席からの同意の圧が凄まじい。
『ありがとな。
踏まえて俺達フリューゲルは動く。
必ず、再びマーズと共にステージに立つ。
忍者達、逃げるなよ』
『ありがとうございます。
受け入れて頂けたのでしたら『必ず、再び』の実現に向けて精進します。
私共も楽しいステージでしたので』
『よーし! 堅苦しいのはクラシックだから仕方ないとしよう。
それじゃあ次があるからな!
今日は……ラスト1曲! 全員でだ!』
高まる歓声が反響して渦巻く。
―・―*―・―
ライブが終わると、搬出した楽器に付き添って金錦と紅火は車に乗った。
白久と青生はオッテンバッハ父子と共にリハ室から出て行き、黒瑯と藤慈は夜道が危険だからと招待客達をホテルに送った。
ケータリングの後片付けを頼まれた彩桜が食べながらサーロンと話していると、啓志が来た。
「あれれ? ホテル行かなかったの?」
「紅火君に謝りたくて……」
「紅火兄、楽器と一緒に行っちゃった。
他の兄貴達も出払っちゃったの」
「そう……それじゃあ帰国してから謝るよ」
「待ってぇ。コレ食べたら終わりだからぁ」
大急ぎで掻き込む。
「夜道、危険です。一緒に行きます」
サーロンが補足。彩桜はコクコク!
「でもサーロン君と彩桜君は中学生だし、僕は大人だから大丈夫だよ」
「ボク達、武道なんでもです。
ボディーガード出来るです」
「お皿、片付ける~♪」たたたたたっ!
配膳室に入って皿を浄化した彩桜が戻ると、メーアも来ていた。
「あれれ? 兄貴達いないよ?」
「楽器と一緒に二人乗ったのは見たよ。
他は?」
「お友達ホテル送ったのと~、オッテンバッハさんとお話し~」
「ふ~ん。ん? 双子だったのか?」
やっとサーロンが見えたらしい。
「双子じゃなくて従兄なの~♪」
並んでニコニコ♪
「じゃあ明日も一緒に来いよ。
お前らのホテルは聞いたから迎えに行く」
「うん♪ ありがと~♪」
「また明日な♪」
メーアは機嫌よく帰った。
〈な~んか頼みたくて来た?〉
〈ボクもそう感じたよ〉
啓志には先に廊下に出てもらって、隅々まで浄化してから彩桜とサーロンも出た。
「ね、どうしてフリューゲルとライブに?」
啓志に説明すべきだと考えたサーロンが彩桜に尋ねた。
「そっか。年末バタバタだったから話してなかったねぇ。
俺達、年末にホールの機材調整で予行ライブしたの。
ソレも来てから決まったの。
お客さん、オッテンバッハの社員さん達。
ソレして気に入られちゃったみたいで3日も来いってなったの。
フリューゲルさん、ニューイヤーライブと杮落とし兼ねてたの。
3日はフリーな日だったの。
で、俺達と一緒にライブなったの」
「リハーサルとかは?」
「今日。朝からイロイロぜ~んぶ。
バタバタだったのぉ」
「そっか。お疲れさま」
「やっぱり……予定外で、隠していたとかじゃなかったんだね……」
「啓志お兄さん、気にしないでぇ」
「今回のが あんまりで……将来を真剣に考えてるんだ」
「「えっ……」」
楽しくライブを終えて、フリューゲルと観客達に気に入られたキリュウ兄弟でした。
それはいいんですけど……。
啓志と淳は大丈夫なんでしょうか?




