ローマでのニューイヤーコンサート
ローマでのニューイヤーコンサートは1日・2日とも昼夜2公演で、もう間も無く その最初の公演が始まろうとしていた。
そのリハーサルも年末に重ねていたのだが、兄弟は きっとまたトレービとジョージがサプライズしてくるだろうと身構えていた。
〈親父達もオッサン達も休憩シッカリだが俺達は出ずっぱりだ。
真剣全力で行くぞ!〉
白久の呼び掛けに兄弟は同意を返し、控室から舞台袖に向かった。
―・―*―・―
邦和は夜。
祐斗達はまた輝竜家のホールに集まっていて、開演を待っていた。
夜なのだから保護者も当然とばかりに家族も集まっているので、また満員御礼になっている。
「このチケットも貰ってたのか?」
堅太が祐斗を突っつく。
「今朝のを見て感動したよってネット電話で話したらニューイヤーもあるよって。
見たいな~って言ったらメールに添付してくれたんだよ」
「太っ腹だよなぁ。
俺、5日まで何するんだろ~なって凌央に電話したんだ。祐斗は初詣だったろ?
だから調べてもらおうと思ってな♪
そしたら今日も明日もコンサートだって。
生配信もある、つーから値段 聞いたら、お年玉ブッ飛ぶって聞いて諦めたんだ。
祐斗から電話もらってマジビックリだったよ」
「そんな値段なんだ……」
「始まるぞ♪」
明るくなったステージにキリュウ兄弟が颯爽と登場し、優雅そのものに弦楽器を構えた。
音が流れ出すタイミングまでもが心地よいと祐斗は音色に集中した。
オーケストラが合流して音色の大河になる。
それでも際立つ煌めきをキリュウ兄弟は放っていた。
―◦―
「ほら、智水もご覧なさいな。
拓斗君はキリュウ兄弟を目指してるのよ?
世界を目指しているの。
嬉しいことじゃないの。
智水も望んでたでしょ?
羽ばたく足を引っ張りなさんな」
「でもぉ~」
「聴きなさい。朝は間に合わなかったでしょ」
「私も姉さん家に住むぅ~」
「来ないで」「え~~っ」「聴きなさい」
―・―*―・―
至多・朱宜両父子が留置されている各署では、また聴きたいやら、朝 聴けなかったからとか、とにかく聴きたい集団が視聴覚設備の整った大部屋に集まっていた。
名目としては留置者達に聴かせれば自白に導けるから、とか何とかコジツケて。
なので当然ながら、留置中の者全てが前列に座らされて警官が挟むという形になっていて、警官達は我先に前に行こうとしていた。
「朝明♪ また忍者軍団かな?♪」
「だろーよ♪ サツの方が大喜びだな♪」
「たよなっ♪」
運良く前後に座った朝明と実弦が話していると、コンサートが始まった。
「やっぱアイツらだな♪」「だなっ♪」
―・―*―・―
太木 徳示と春日梅 麗楓は竜ヶ見台市の第17号 刑務所にチケットとスピーカーを寄贈して設置し、全館の響きを確かめてから憩い部屋に行った。
その部屋に入る事が許されている者達はテレビに映しているキリュウ兄弟を見つつ、音色に魂を委ねているようだった。
第一楽章が終わると、顔見知り達が徳示の周りに集まった。
「太木さん、ありがとよ。
人らしい正月が迎えられたよ」
「あの絵みたく優しい音楽だったなぁ」
「描いた方もいらっしゃいますので」
「え? アレ、伝説の白久サンだろ?」
指しているのは寄贈者のプレート。
「上のお兄さんが絵も描くんですよ」
「へぇ~。知り合いだったのか?」
「知り合いました。出所した日に」
「へぇ~♪ で、奥さんかい?」
「これから結婚するんです♪」麗楓が答えた。
「そうかい そうかい。
こりゃあ めでたいな♪」「なぁ♪」
そこで第二楽章が始まったので話すのをやめ、また穏やかな音色の川に心身全てを委ねた。
―・―*―・―
旅館に滞在中の紗桜家は夕飯を終え、各々の部屋に入った。
【メグル君、ちょっと出掛けない?】
【はい♪】
ソラはメグルを連れて輝竜家のアトリエに瞬移し、そっと扉を開けてホールに入った。
スクリーンの輝竜兄弟は休符が並んでいる箇所らしく、ゆったりとオーケストラの音色を楽しんでいるようだった。
祐斗が空席を探して視線を巡らせている。
視線が交わったところで『立ち見で十分』と口パクで伝えた。
【ソラお兄さん、クラシックですか?】
【うん。前に並んでいる人達をよく見て】
【青生先生がいっぱい!?】
【輝竜さんは7人兄弟なんだ。
クラシック界では世界的に有名なんだよ。
あ、構えたね。よく聴いてね】
【はい!】
―・―*―・―
〖ねぇあなた。
この不快な魂音を発している人魂は何方なの?
獣神王様の音色が台無し。
私に くっつけないでくださいな〗
【しかし桔梗にも浄化を助けて貰いたい。
桔梗は浄めの女神なのだからな】
〖もうっ。次は嫌ですよ〗
【そう怒るな。儂とて嫌なのだ。
此奴は欠片持ちであった。
現状の諸災厄の根元な人神の欠片を持って生まれてしまったのだ。
染み込んだ悪を浄めねば世が終わる。
助けてくれ】
〖私の半分を先に見つけてくださいな〗
【それなのだがな、あの白猫の夫は?
其処に糸口が在りそうなのだが?】
〖私が術で最善の子種を得たのです。
夫なんて知りませんよ。
探りの強い あなたなら見つけられますよ。
お願いしますね〗
グランディーヌは文句たらたらな渋々で理子の魂を浄化し始めた。
【『儂こそ心友の音色を台無しにされておる』ですか、父様】
【心で笑うな。ラピスリも真後ろに居るのならば浄化を頼む】
【しておりますよ】ふふっ♪
【笑うなと言うに】
〖それは無理と言うものですよ♪〗ほほ♪
【はい♪】ふふふ♪
ローマのホールでは、この回も獣神とユーレイ達が宙に浮かんでおり、音色に魂を浮かべるように聴き入っていた。
ラピスリもその中に居て、調和良く音神ドラグーナの神力少々と兄弟各々の神力とを纏う音色も、オフォクスとグランディーヌとの遣り取りも楽しんでいた。
―・―*―・―
「ねぇソラ? 開けちゃうよ?」
何度か声を掛けた響が襖を開けると、ソラとメグルの部屋は蛻の殻だった。
「ええ~、探偵団長を置いてったの?
ってことは大浴場とか?
ん? メモ?」
座卓に置いてあった紙を取る。
『男と男の話があるから散歩に出ます』
「もうっ、ソラったら!
お姉ちゃんとショウだけにしてあげたいし~、夢ちゃんと和ちゃんはアレコレ聞きたがるし~。
ここで待つしかないよね? うん」
ソラが座っていた座布団は こっちだと決めつけて座り、テレビを点けた。
すると一瞬だけローマのステージが映ったが、引ききった映像だったので誰の どんなステージなのか分からないまま、次の番組に移ってしまった。
「さっきのはニュースかな?
もうそんな時間なのね。
あ~、お正月って こんなのしかやってないのよね~」
ニアミスには気付かないまま、典型的お正月番組をひとりで見る響だった。
―・―*―・―
ステージは第三楽章の終盤に差し掛かった。
兄弟に任されたソロ部分に入る。
ここは7人全てがバイオリンで挑む。
掛け合ったり、重なったり、戯れるように仲良し兄弟ならではの調和を生み出し、遊び心たっぷりに華やかに盛り上げる。
「流石キリュウ兄弟だな。
素晴らしいカデンツァだ……」
「そうだね。
ロックが好きなのは変わらないけど、クラシックもいいもんだね……」
「そうだろう?」
音色の邪魔にならないように囁き合うオッテンバッハ父子だった。
―◦―
またまた出なければ鳴り止まないアンコールの拍手にオーケストラやソリスト達と共に3度 応えて、4度目の拍手。
「そろそろお前らだけで行け」
「こんなのをあと3ステージもやってたら俺達が倒れてしまうだろ」
トレービとジョージは控え室のソファに座り込んで動こうとしない。
「父ちゃんと母ちゃんは?」
「同じだよ。いい歳なんだからな」
「ええ~っ、まだまだ大丈夫でしょ?」
「あのなぁ、カウントダウンもやったし、夜もあるんだよ」
「休ませてくれよな」
「そんなに疲れる? お年寄りだから?」
「「お子ちゃま基準で言うなっ!」」
「また お子ちゃま言う!」ぷん!
「彩桜、お客様が疲れてしまうよ。
着替えて出よう」
青生がパーティションの向こうに行った。
「ほえ? 着替えるって?」追い掛け入る。
「オレ達は邦和人だからな♪」
「早く着替えろよ♪」
着替え終えた黒瑯と白久が彩桜の衣装を持ってヒラヒラ。
「うんっ♪ お正月らしいねっ♪」
「アレンジ、流すよ」
もう着替え終えた青生が呼ぶ。
「わわわわっ、待って!」
中途半端な彩桜が青生の背に背中合わせで乗る。
「だから お子ちゃま呼ばわりされるんだよ♪」
白久 大笑い。他も笑っている。
「着替え続行中なのっ」もそゴソ。
「じゃあ流すからね」
「よ~し♪」「やるぜ♪」「ふむ」
「楽器は全て用意できましたよ♪」
「俺もでっきあっがり~♪」「む」
「また全力で♪」
青生の言葉に口々に気合いを入れて返し、楽器を抱えてステージに向かった。
ローマでのニューイヤーコンサートはカウントダウンコンサートと同じソリスト達と、ピカーラ管弦楽団ではない楽団とで演奏します。
トップクラスの芸術なので地星では入場も配信鑑賞もチケットは高額です。
さてさて次のアンコールは何をするつもりなんでしょうね?




