音色に心洗われて
県警本部長だった朱宜 朝保は、県警本部に留置されていた。
「甘利君、わざわざ ありがとう。
それと、申し訳ない。
あの取り調べも、息子の罪を擦り付けようと、私が指示したんだ」
「あの頃は此方ではありませんでしたよね?」
朱宜の後ろで目を潤ませている監視役達に許可に対する礼をしてから、配信を見せていたノートパソコンとスピーカーを片付けた。
「警視庁に居たよ。
東合は故郷でね、息子は私が東京に行っても動こうとしなかったんだ。
実弦君もね、実令さんが東京に行っても彼だけは残ったんだ。
だから二人を妻が面倒見ていたんだよ。
グレたと知って確かめに戻ったら、妻から離婚届の空欄を埋めろと渡されたよ。
止められなかった責任を取ると言い張ってね。
書かなければ息子達を道連れにして死ぬと言うから仕方無く書いたんだ。
だが親子である事に変わりは無い。
だからずっと息子達の動向は追っていたよ。
細かな罪を揉み消し続けた。
しかし殺人は……」
「それで冤罪を捏造ですか……」
「愚かな事をしてしまったよ。
確かに実令さんからも指示はあったが、あれは私が自ら動いたんだ」
「太木さんは過ぎた事だし、悪い事ばかりではなかったし、今は幸せを掴んだからと、訴訟を起こす気は無いと話してくださいましたが、周囲の方々が起こすそうです」
「起こすべきだよ。
勿論きちんと証言するよ」
「そうですか」
―・―*―・―
「お♪ 忍者っ子、来てくれたな♪」
「ナイショの差し入れ、ミニおせち♪
金髪オニーサン、今もサッカー好き?」
「そ~だなぁ、ボール追っかけて走り回りたいなぁ。
お♪ やっぱウメ~なっ♪
この花のナンだ?」
「紅白梅花の形にした蒲鉾♪
手作りだよ♪
葉っぱみたくしてるのは鮑♪」
「へぇ~♪ サスガだなっ♪
カマボコなんか買うしかねぇと思ってたよ♪
メシもウマッ♪」
「鯛飯だよ♪
ね、サッカーの指導員とかどぉ?」
「んん?」モグモグ。
「俺トコ、小学校にサッカークラブないの。
だから指導してくれると嬉し~な~♪」
「嬉しいけど、何年先になるのやらだぞ?
ん~♪ チョコマカしたヤツもウメ~♪」
「数の子、田作り、鰤照り、海老天、喜昆布巻きと伊達巻き♪
コッチは膾と福豆と豚の角煮とローストビーフと唐揚げも♪
デザートは栗きんとん♪
何年先でもいいんじゃない?」
「そっかぁ? それに仕事じゃねぇだろ?」
「うん。ちょっと前にね、学校行事で部対抗スポーツ大会ってあったの。
一般の大人のヒト達、審判してくれたよ。
草野球チームとかバスケの市民クラブとか。
仕事は別で、趣味で楽しめると思うよ」
「そっか。やり直せると言いたいんだな?」
「うん。
どぉしてサッカーやめちゃったの?
副大臣さん、全て奪ったって言ってたけど、金髪オニーサン、ずっと東合だったんでしょ?
副大臣さん、東京だったんでしょ?」
「奪った、かぁ。
つまり俺は親父にハメられたのかぁ。
だったら納得だ」
「ほえ?」
「親父な、政治家になるって東京に行く前からワルサしてたんだ。
タキ電機で働いてたんだけどな、会社の金 横領して、ソレ賄賂にして。
知ったのは偶然だった。
誰かに話す気なんかなかった。
けど怖くて東京に行きたくなくて近所で親戚の朝明ん家に転がり込んだんだよ。
それが中2の時。
部活はサッカーだった。
朝明は野球してたから帰りは別々だった。
で、暗くなって急いで帰ってたらケンカに巻き込まれたんだ。
運動部だから手出ししちゃダメだってガマンして、逃げようとしたけどムリで。
ずっと誰かに掴まれてて、どうしても真ん中に押し込まれて。
で、いっしょくたに捕まって。
ナニ言っても信じてくれなくて
ネンショ送り。
ネンショ出て、学校に戻れると思ったら、教室には戻れずに1人部屋。
朝明だけは遊びに来てくれてたけど、他は誰も。友達だったヤツらも遠巻き。
部活は強制退部。追放だよな。
朝明が慰めてくれたけど、終わったと思ったよ」
「ソレで勉強やめちゃったの?」
「い~や。まだ続きがあるんだよ。
最初は公園で朝明とサッカーボール蹴って遊んでたらワル高生に絡まれて、溜まり場に連れてかれたんだ。
で、毎日 来いって。
けど嫌だから行かなかったら登下校ン時にムリヤリ連れてかれるようになって、学校に行けなくなったんだ。
もう後は転落一直線。ネンショ常連客。
ナンで? どーして? の毎日だったよ。
けど親父にハメられたんなら納得だ」
「勉強、やり直したい?」
「今更――とか言ったら、またお前 怒るんだろ?
けど……やり直せるんならバカなままは嫌だから勉強したいなぁ」
「だったら白久兄が後見人なってくれるよ♪
勉強も仕事も大丈夫♪ サッカーも大丈夫♪
やりたかったコト、やりたいコト、ぜ~んぶ全力でねっ♪ 待ってるからね♪」
「おう♪ ごちそーさまっ!」パンッ♪
「それじゃまた――」「待て待て!」「ほえ?」
「ありがとな」真顔からニコッ。
「んと、おせちの?」
「じゃなくて音楽だよ。
反省はしてたけどな、心を洗われたって感じなんだ。それに楽しかったよ。
初めての感動だった。
だから ありがとな」
「俺達も全力だから~♪
勉強も、スポーツも、音楽も♪」
「ん。俺も頑張るよ。
また音楽 聴かせてくれよな♪」
「うんっ♪」瞬移♪
―◦―
「長髪オニーサン♪
ナイショ差し入れミニおせち♪」
「戦女神様は!?」
「だ~か~らぁ、ソレ言っちゃダメなのぉ。
おせち要らにゃい? 俺、帰る」
「わわわわ! 帰るな! 食いたい!
ずっと待ってたんだからなっ!」
「瑠璃姉を?」「じゃなくて旨メシを!」
「はい♪」
「いただきます!」パンッ♪
「おせちなんて、どんだけぶりだよ。
……母ちゃん、どうしてっかな……」
「たぶん今、兄貴が行ってる」
「へ? 家にか?」
「ううん。県立東合総合病院」「ええっ!?」
「だからオニーサン捕まったの知らない」
【彩桜、意識は戻ったよ】【ん♪】
「今やっと意識 戻ったって」
「ナンの病気だよ!?」
「治すから、会いに行けるよぉに真面目しててね。
家族なんだから、お医者さん説明してくれるよ」
「お、おう。親父も知ってるのか?」
「離婚したからって知らせないよぉにしてたみたい。
とっても近くに住んでたのにね。
昏睡状態なったのは一昨日だって。
間に合って良かったよ。
とにかく安心してね。食べたら?」
「お、おう。旨いな……やっぱ別モノだ。
料理も別格、音楽も別格。
走るのムチャクチャ速いし、出たり消えたり自由自在だし。
そんでもって昏睡状態の人を治す?
お前ら、どーなってるんだよ?」
「ぜ~んぶ全力で生きてるだけ~♪
俺、今 中1。
10年 全力したら、こぉなったの。
だから頑張ってね♪」
「全力って、学校でか?」
「学校では空気してた。
友達いないから本いっぱい読んだの。
父ちゃんと母ちゃんに会いたくて、楽器と外国語いっぱい覚えたの。
兄貴達と演奏するのだけが楽しみだったの。
でも今、友達い~っぱい♪
変われるって知ったの9月なの。
父ちゃん母ちゃんと一緒にお仕事できるの♪
今日も明日も一緒なの♪」
「そっか。苦労してたんだな。
俺、勝手に羨ましく思ってたよ。
金持ちで、何不自由なく育って、英才教育っての? ちっこい頃から受けてたんだろーなって」
「よく、そんな言われるよ。
サラブレッドとかって。
でも違うの。そんなじゃないの。
俺、生まれて今までで父ちゃんと話したの10回もないの。
一緒に遊んだとか、どっか連れてってもらったとか、ぜ~んぜん。
だから会いたくて会いたくて会いたくて~だっただけなの。
9月にアメリカまで会いに行って、一緒に演奏したの♪ で、今回♪」
「俺も親父とはロクに話してないなぁ。
次 会ったら、ちゃんと話してみるよ」
「ん♪」
「で、今日も明日も、って言ったよな?
まだコンサートあるのか?」
「うん♪ ニューイヤーコンサート♪
配信のはローマでカウントダウン♪
ベルリンでもニューイヤーするの♪」
「ん!? 今朝のがローマ!?」
「うん。だからカウントダウン。
時差あるから」
「初陽の出のカウントダウンだと思ってたよ」
「そっか~♪ ちょ~ど そのくらいだよね♪」
「ん? つまり今朝はローマに居たんだよな?
ナンで今ここに居るんだよ!?」
「ナイショ~♪ カラ貰うねっ♪」
「あ! ごちそーさまっ!
ムチャクチャ旨かったよ!」
「ん♪ 兄貴に伝えるねっ♪
じゃ~ね~♪」瞬移♪
―・―*―・―
「先生、朝明と実弦君は……?」
「……罪を認めて償うそうです」
「そうですか。改心したんですね……」
「はい。ですから出所するまで、お元気で居てくださらなければ困ります。
出所後の生活は支援しますのでご心配なく。
では俺は これで」
「あのっ、先生のお名前は?
初めてお会いしましたよね?」
「実は、この院のスタッフではないんですよ。
これからも秘密にして頂ければ完治するまで参りますよ」
微笑みを湛えたまま消えた。
「あら……そう。神様なのね……。
朝明と実弦君も改心させてくださったのね」
慌てた様子の複数の足音と形ばかりのノック音がしてドアが開いた。
「えっ!?」
「ほら! モニターが正常値ばかりだと言いましたよね!」
「起き上がって……検査させてください!」
「はい」にっこり。
前話の元・文部副大臣に続いて、元・県警本部長、それぞれの息子達と、キリュウ兄弟のカウントダウンコンサート配信を聴いて すっかり改心した人達です。
最後のは長髪オニーサンこと朝明の母・斑中 明乃の様子でした。
そういえばオニーサン達は竜ヶ見台市で捕まったのに東合署に留置されています。
彩桜には何か考えがあって東合署に電話したんでしょうか?
桜「ほえ? なんとな~くだよ~♪」
鋭いカンで動いているようです。
とにかくオニーサン達、無事で何よりです。




