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カウントダウンコンサートと初陽の出



 輝竜兄弟は個人練習時間の全てを邦和で費やしてしまった分、心を込めて真剣に1音1音を想いで包み込むように奏でていた。


 そのホールの宙では神とユーレイが音色に揺蕩(たゆた)うように聴き惚れていた。


【い~い音色だなぁよ……】

【そうですねぇ旦那様……】

サイオンジとトクは手を繋いで漂っている。


 ヨシとスザクインは並んで楽しんでいる。

ただしヨシの手はナンジョウを掴んでいた。

【ヨシさん放してくださいよぉ】

【ジョージくんとツカサちゃんの邪魔するから、は・な・さ・な・い♪】

【しませんてばぁ】


 そのホウジョウとトウゴウジは後方、少し離れて並んでいた。

ひたすら無言で。

しかし雰囲気は悪くなかった。


 ソラはルルクルと並んで聴いていた。

【今回はボクの記憶をローズちゃんに流すつもりなんだ♪

 でもね、次は客席で一緒に聴くつもり♪】

【ボクも響と一緒に客席で聴くつもりです♪】

【頑張ろうね♪】【はい♪】



 その下の客席では瑠璃と稲荷が並んでおり、ようやく落ち着いて話せる機会を得たので、第1ステージ中はオーロザウラ浄滅の報告やらをしていた。

今は音色を魂に吸収しようとしているかの如くに聴き入っている。


 稲荷が懐から魂珠を取り出したのを見て瑠璃は微笑み、稲荷を挟んでいるジョーヌが ほんの少しだけ首を傾げた。

【オフォクス様、何方(どなた)なのですか?】

【妻だ。ドラグーナ達が見つけてくれた】

【そうですか♪】


〖あなた……この音色は獣神王様の神力ですね〗

【そうだ。浴びれば復活が早まる】

〖ええ、確かに。もう随分と高まりましたよ〗

【然うか】満足気に魂珠を撫でた。


後列の慎介と梅華(うめか)にも その会話は聞こえたらしく、稲荷に微笑みを向けていた。



〖始まっちゃってるぅ~〗ぽよん。

〖ほらほらキャンプ~も早くぅ〗引き寄せる!


〖うっ……こ、この、音色(神力)は……〗


神力(ちから)が湧くでしょ~♪

 い~っぱい浴びよ~ねっ♪〗

ガネーシャは女神姿になると宙に浮いていた水晶玉を胸に抱いて目を閉じた。

〖心地好いね~キャンプ~♡〗


『離せ!』と叫びたかったが、音色の邪魔は(はばか)られて静かに聴くキャンプーだった。


 そんな愛息子と愛弟子を微笑ましく見詰めるシヴァは、ビシュヌとブラフマーだけでなくケイロンとオーディンも連れて来ていた。

〖ビシュヌ。これからは酒ではなく、音色に酔ってくださいね〗


〖ああ。二度と酒は口にしないと誓うよ。

 この音色の方が遥かに酔える。心地好い〗


そう話している間にも獣神達は増え続けていた。



―◦―



 その上空では再生と死司の職神達が留まり、音色に魂を委ねていた。

何事かと集まる職神達は全て音色の虜となって漂う。

異常を察知して来た管理職神や、昇る途中の死魂までもが同じように。

他域の職神達も次々と集まり留まるので、ローマ上空に人世で働く職神が全て集まった状態になってしまった。


【エィム、どうなっちゃってるの?】


【父様の音色は最強って事かな?】


【ドラグーナ父ちゃま、すっご~い♪

 ね、今なら一網打尽?】


【そうだね……でも、この方法で いつでも一網打尽に出来るのなら、今は……このままでいいんじゃないかな?】


【そうね♪ ね、私達も一緒に♪】


【そうしよう】手を繋ぐ。【あ……】視線は上。


チャムもエィムの視線を追った。【ええっ!?】


碧鱗の煌めきが見える。


【どうやら最高司様も仲間入りらしいね】


【ずっと こうだと~、み~んな幸せ♪】


【そうだね】くすっ♪



―・―*―・―



 キリュウ兄弟のカウントダウンコンサートなんて全く知らない響達は温水(あたみ)半島の南端に着いた。

初陽の出を拝む為に駐車場から展望台へと向かう間、響は警戒の神眼を巡らせ続けていた。


〈ヒビキ~♪

 死神ぜ~んぜん浮かんでないね~♪

 死神もお正月は お休み?〉


〈年中無休だと思うんだけど……〉


〈ユーレイも少ないね♪

 怨霊の心配ナイんじゃない?〉


〈そうかもね。でも不思議ね……〉


 展望台に着いたので父からチケットを貰って有料ゲートを通り、エレベーターで上がる。


〈人いっぱ~い!

 あ♪ ()いてるトコある~♪〉


〈どうして空いて――ええっ!?〉


『紗桜様ご予約場所』と柵に大きく横断幕。

薄暗くても白いのがドドーンと見える。

よくよく見ればバリケード代わりのポールとロープも。


「早く! 恥ずかしいから隠しましょっ!!」


「そんな大声で言ったら余計に恥ずかしいだろ」

「早く行ってアレ外さないと!」

響は父が話している途中で高校生・中学生・小学生のイトコ達を連れて走った。

小学生の男の子は姉達に手を引かれて渋々走っているのだが。


「あれが春には嫁に行くか……」しみじみ~。


「兄さん♪ 寂しくなったんだろ♪」


「克典にも いずれ解るよ」溜め息。


「ほら、待ってるよ。

 響ちゃんの幸せを願いに込めて初陽の出に祈らないとね」


「そうだな」


晃典は白み始めた晴れ空を見上げた。



―・―*―・―



 第3ステージはカウントダウンイベントがあるメインステージだ。

舞台上にはキリュウ夫妻とキリュウ兄弟のみ。

後から入る予定だった楽団は来ず、椅子が並ぶ可動式舞台は打楽器(パーカッション)部分を残して本舞台下に収納されてしまった。


【あれれ? このまま始まるの?

 リハ、み~んな居たよねぇ?】


燻銀(いぶし)が戸惑う息子達に笑みを向けた。


【ど~やら親父は知ってたみたいだな】

【オレ達にサプライズ?】【だろーよ】


楽団員達が兄弟の管楽器やらを手に出て来て、笑顔でスタンドを立て、楽器を置いては手を振りながら去る。


【これからアンコール?】


【じゃなくて、そこから俺達は騙されてたんだよ】


アンコールで『とっかえひっかえ』をと求められて楽器は用意していたのだった。


『ご来場、配信をご覧の紳士淑女の皆様。

 お待たせ致しました』


【トレービおじさんの声だぁ~】


『只今、キリュウ兄弟は真剣に驚き、戸惑っております。


 お~い兄弟♪ これはピカーラ管弦楽団からの小粋なサプライズプレゼントだ♪

 親子共演を存分に楽しんでくれ♪

 燻銀(いぶし)美翠(みどり)サンはリハのまんまだからな♪

 兄弟で楽団分を仲良く分けてくれ♪


 では第3ステージも、

『どうぞお楽しみください!』』


【やっぱりジョージおじさんも居るぅ】


【うん。配分は決まったよ。

 この曲はパートが多いからね】

青生が手を前に出した。


兄弟が手を重ねると7人用に分けた総譜が流れて来た。

【頑張ろうね】【真剣に】【真心込めてなっ】

青生に続いて金錦 白久の声が伝わり、弟達は頷いてポンと弾くように手を離した。


それを合図だと思ったのか、期待を込めた拍手が短く湧いて静まった。


 出だしは兄弟の弦楽から父のピアノへと繋げる部分。

静かに、優雅に始まり、ピアノが重なって弦がフェードアウト。

ピアノソロになると兄弟は動き始めた。



―・―*―・―



 配信は字幕を選べるようになっているので、祐斗達が見ているスクリーンにはトレービの伊語を訳した和語が流れていた。


「ぶっつけ本番てコトか?」

堅太が祐斗をつんつん。


「そうらしいね」


「けど平然としてるよなぁ」


「だから世界のキリュウ兄弟なんだよ。

 素早く持ち替えるだけでも凄いと思うよ」


「吹きながら動いたり、打楽器まで走ったり♪ 移動はマジ忍者だなっ♪」


「ホント……凄いよね……」


「ん? また彩桜が遠くに行くんじゃねぇかとかって考えてるのか?」


その彩桜は母のソプラノの上をハモっている。


「だって、あんな凄いんだよ?

 僕達なんかと普通に中学生してる方が おかしくない?」


「だからこそ俺達は彩桜がフツーに生きられるよーに友達するんだろ。

 彩桜は俺達と一緒がいいと思ってくれてる。

 そう思ってくれてる間は連れてかれそーになったら護ってやらねぇとな。

 それでも連れてかれたら戻って来れる場所を守らねぇとな」


「そっか……戻って来れる場所ね。うん」


「意外と考えてて、いいコト言うだろ♪」


「そうだね。ありがと♪」


「サーロンも同じだ。

 今は帰国しないといけなくても、もっとオトナになったら戻って来るよ。

 居場所、守ってやらねぇとな」


「「そうだね」」「ん?」


堅太が反対側を向くと、スクリーンを見詰めたまま凌央が話に加わっていた。

「僕は負けっぱなしでは終われないからね。

 サーロンには学生の間に戻ってもらわないとね」


 ホント、素直じゃねぇな♪


「3学期も負け予定なんだな♪」


「なっ――予定じゃない!」

「凌央君、静かにしないと~」直史がつんつん。


スクリーンではキリュウ兄弟の後ろに電光掲示板が下りてカウントダウンを始めていた。


曲は終盤。もう持ち替えは無いらしく管弦の5人は前に並んで秒に合わせて刻み、ティンパニはロールをクレシェンドしていて、曲の途中の静かな箇所で寄せ集めた他の打楽器に囲まれている彩桜は笑顔でアレコレ鳴らすのに忙しく動いていた。


「5、4、3、2、1!」ホール内も一斉。

華やかに弾けるシンバルの音☆

『新たな年に幸多かれ!』

「明けましておめでとう!」

彩桜に届けと声を張る中学生達だった。



―・―*―・―



 水平線から真っ赤な光が射す。

点から線へ。そして弧を描く。

見る間に赤い陽は昇り、全貌を見せて輝きへと変わっていく。


「綺麗ね……」「ソラと見たかったな~」

〈美味しそ~♪〉「え?」


「響どうしたの?」


「ショウが美味しそうだって喜んでるのよ」

〈だって美味しそ~だよ~♪〉フリフリフリ♪

「もうっ♪」〈食べた~い♪ お腹空いた~♪〉

「ショウ、お腹空いたって♪」あははっ♪


ほの赤く染まっている紗桜家の面々に笑顔の花が咲く。


「イキナリ笑顔で、いい年になりそうだ♪

 なっ、兄さん♪」あははっ♪


「そうだな」ははっ♪







キリュウ兄弟はローマでカウントダウンコンサートのクライマックス。

祐斗達は その配信を鑑賞しています。


紗桜家は温水(あたみ)で初陽の出。

ショウには美味しそうに見える陽が昇りました。



あ!

ジョージ(ホウジョウ)君とジョージおじさんが居ますが……分かりますよねっ♪

いえ、すみません!(汗)



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