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ドラグーナと輝竜兄弟



 オニキスは目を伏せたフェネギの顔を覗き込んだ。


「ナンだよぉ? 王子がどーしたんだ?」


「私の弟子が、その王子なのです」


「へ? 戦ってケガでもさせたのか?」


「似たようなものですが……ダイナストラは浄化域送りとなったアーマルを助けた際に追って来たのです。

 神力封じの縄のみを持たされ、それが如何な物なのかも、獣神との力量差も知らぬままに獣神に向かわされる。

 その憐れな子神を心身共に育て直したくなったのです」


「そっか……確かになぁ。

 オレも何度か対峙したが、ありゃあとてもじゃねぇが神とは思えねぇザツな魂だった。


 いいんじゃねぇか?

 恩を売るつもりも無さそうだが、そーゆー意味でもコッチに利があるだろーし。

 王子が獣神を知り、神世の現状を正しく知ってくれりゃあ、早く良くできるだろうからなっ♪

 どんどん増やしてって味方にしよーぜ♪」


「ありがとう。明日にでも会わせるよ」


「楽しみだ♪

 で、今フェネギだけで来たのは、その説明の為だけか?」


「いえ。リグーリとラピスリ様を呼んでおります。

 神世の現状、それと神力射について話してください」


「やっぱ『様』なんだなっ♪」


「その点だけは――」「睨むなって!」


「瑠璃様は青生様を愛しておられます」


「へ? って……父様だろ?」


「はい。

 ですが、神にとりましては兄弟姉妹も親子も、ただ個と個。

 ですので私の事は――」「解ったってぇ!」



―・―*―・―



 事務室で精算をしていた瑠璃の手が不意に止まった。


 この大きな神力……まさか!




 青生がハチワレを見ている筈の処置室に瞬移すると、ケージに向かって治癒光を当てていた青生が振り返り、微笑んだ。


『この猫はもう大丈夫だよ』

青生の口は少し動いているがドラグーナの声は反響していて、青生から発せられているようには思えなかった。


「……父様、ですか?」


『うん。どうしてもラピスリに伝えたくてね。

 まだ目覚めるには早いと分かっていたけど少しの間だけ、ね。

 他の俺の欠片からも伝わるから……妻達が悲しむような事にはしない。

 それだけは約束するよ。

 だから、そう心配しないでね。


 俺と青生達兄弟は別だよ。

 根底に俺が在るのは確かだけどね。

 既に目覚めているのは紅火だけ。

 この街に残っていた間に何度も襲われ、開いてしまったんだ。


 でも神力が不十分だから、ほぼ眠っているよ。

 今、青生と彩桜は開きかけているけれど、無理に開いても紅火と同じ。

 力尽きるみたいに眠ってしまうんだ。

 開いていないのとは違う眠りなんだけどね。


 アーマルとも同じだね。

 だからたとえ目覚めても直ぐには俺にはなれないよ。

 共存するんじゃないかな?

 アーマルと飛翔のようにね』


「別……なのですね……?」


『別だよ。

 俺の魂を封じる為の殻としての人魂(ジンコン)が青生達兄弟だよ。

 偶然そうなったのか、堕神の作り方が変わったのかは知らないけどね。

 ラピスリ……ひとつ、確めてもいいかな?』


「はい」


『ラピスラズリの記憶……あの子が強く望んだから継いだんだけど、重いのなら封じようか?』


「いいえ。とても大切な――重要な記憶ですので、このままでお願い致します」


『そう……。

 女神に固定したのも――あ、そうか。

 そこは聞かなくても良さそうだね』


「父様っ」瞬間的に真っ赤!


『うん。正解だったようだね。

 それじゃあまた眠るからね。

 青生は俺じゃないから、この記憶は無いよ。

 安心して仲良くね』


「父様っ、父様が禁忌を使うに至った経緯をお聞かせください!」


『すまない。時間切れらしい。

 それはまた――』

一瞬、フッと力が抜け、青生が頭を振った。


「大丈夫か? 青生……」


「あ……瑠璃……来ていたんだね」


「疲れているのでは?」


「いや……あ、うん。

 そうかもだけど、もう大丈夫だよ」


「何か……隠しているのか?

 飛翔のように不調を隠して――」


「それは違うからっ――あ、でも……うん。

 瑠璃が心配するのも当然だよね。

 健康診断くらいは行かないとね。

 来週のうちに予約するからね」


「ふむ……」


「瑠璃? そんな不安そうな顔しないでよ。

『大丈夫だから』ね?」


「ああ」今、父様の声が重なった……?


「出掛ける時間だから来たんじゃないの?」


「あ、ああ。そうだな。では此方を頼む」


「うん。行ってらっしゃい」

瑠璃の胸元を見て嬉しそうに目を細めた。


「とても気に入ったのでな」

煌めく石に遥かに優る笑顔で処置室を出た。



―◦―



《暫し待て》


キツネの社前に瞬移した瑠璃は呼び止められた。


〈オフォクス様、如何なさいましたか?〉


《此方に》


 見えぬ力で引き寄せられた先は、別の社。

キツネの社の裏に隠している特別な社だった。

その暗い奥に大きな白狐が碧光を湛えて座っていた。


〈ラピスリ、ドラグーナが目覚めたのか?〉


〈束の間、で御座います。

 紅火様の内の父の事はご存知で御座いましょう?〉


〈知っておる。

 故に神力を補助する物を作らせておるのだ。

(紅火)』は早くから弟子であったからな〉


〈やはり然様で御座いましたか。

 彩桜様は?〉


〈青生と同じ。時折だが目覚めておる〉


〈他の御兄弟は?〉


〈未だだな。

 藤慈がウィスタリアに触発されるやも知れぬがな。

 ウィスタリアはラピスラズリと同代だ。

 ラピスリも触発されたのではないか?〉


〈それは……〉


〈ラピスラズリの記憶が鮮明になったのではないか?〉


〈……はい。まだ途上ですが〉


〈見せてもらえるか?〉


〈はい。どうぞ〉手を差し出した。


〈今後の為、真実を知りたいだけだ〉


繋いだ手に光が走った。


〈ふむ。重く捉えるな。

 此の記憶はラピスリのものではない。

 ラピスラズリを責められよう筈も無い〉


〈ありがとうございます。

 私はラピスラズリでも御座いますので〉


〈故に、其の話し方なのか?〉


〈改めようが無いので御座います〉


〈然様か……。

 手間を取らせたな。

 若い方の同代達との話を楽しめ〉


〈はい。それでは失礼致します〉礼、瞬移。



 オフォクスはラピスリが居た場所を見続けていた。

その眼差しは慈しむような優しいものだった。



―・―*―・―



「コレでヨシッ♪

 こんなトコでショウが脱走して迷子になっちまったら大変だからなっ♪

 んじゃあ、おとなしくしてろよ♪」ポンポン♪


笑いながら利幸は家に入った。



〈タカシぃ、コレどーやって外すのぉ?〉


〈首輪の留め具を接着剤で固めるなんて、利幸のやる事は……困ったな……〉


〈トリノクス様ぁ、た~す~け~て~!〉


《最悪の場合は首輪を滅する》


〈うんっ♪

 あれれ? タオルも抜けないよ?〉クンッ。


首輪と毛がくっつかないように挟んであるタオルが首輪とくっついてしまったらしい。


〈そうだね……雑にも程があるね〉


〈カッコ悪ぅい~〉


〈ヒーローのスカーフとかマントだと思って我慢して、ね?〉


〈工務店のペンキつきタオルがぁ?

 接着剤もペンキも臭ぁいぃ!〉


〈そうだけどね〉くすっ♪


〈こんなコトせずにお家に入れてくれればいいのにっ!〉


〈そうだよね……〉

庭木に繋がる鎖を恨めしそうに見詰めた。



―・―*―・―



「バステート様~♪

 パンケーキが届きましたよ~♪

 ホカホカなうちに食べましょ~♪」


 久々バステート様と水入らず~♪


「はい♪ どーぞ♪」


「パンケーキは嬉しいのですが……」


「ん? ナンかヨソヨソしくないですかぁ?

 俺とバステート様の仲じゃないですかぁ」


「力丸は遅々として進んでいないようですね。

 私は元に戻れただけなのです」


「モト、って……?」


「四獣神様の補佐をしていた頃の神力に戻ったのです。記憶も全て」


「クッキー盗んで叱られてたのに……」


「それは私を封じていた猫の魂です。

 神力が戻りましたので、その猫を分離したのです。

 その猫と合わさっていた間の記憶も当然ながら持っておりますが……あまり思い出したくはありませんね」


「黒猫は?」


「私の内で眠っております。

 いずれ猫として独立させますよ」


「そっか……あ♪

 でもパンケーキ食べましょ♪ はい♪」


「そうですね……」ふふっ♪

「では休憩に致しましょう」







フェネギとオニキス。

ラピスリとドラグーナからの瑠璃と青生。

オフォクスとラピスリ。

ショウ達と利幸。

力丸とバステート。


――のお話を少しずつでした。



誰が主人公?


その時その時です。

第一部はオムニバス的に流れるお話ですので。

ですが……強いて言えば瑠璃(ラピスリ)でしょうか?




かつての堕神は、神そのものの魂を人の身体に込めていました。


その為に皆、輝竜兄弟=ドラグーナだと思っていたのですが、ドラグーナは違うと断言しました。


ショウもアーマルと飛翔は別だと思うと言ってましたよね?


オフォクスも確信できてはいないものの見えていたようです。

トリノクスはアーマルと飛翔を見ていて気づいているようですね。


とにかくホッとした瑠璃なのでした。



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