朱宜県警本部長
邦和の翌朝、つまり大晦日の朝。
祐斗達が来る心配のない和館の一室で輝竜兄弟が朝食を食べていると、なんとなく点けていたテレビからの音が耳に入った。
『――7年前の事件ですかぁ』「あれれ?」
『判決が出たのが7年前ですので、事件としては8年近く前なんです。
その真犯人が昨夜、捕まったんですよ』
『じゃあ犯人とされていた人は?』
『それがですね、その昨日の午前中に刑期を終えて出所したそうなんですよ』
『つまり冤罪で7年も、ですか?』
『そうなんです。
だからこそ警察は信用できないからという手紙が添えられて、証拠映像が当局に届いていたんですよ。
では、ご覧ください!』
モザイク処理済みの映像が流れる。
「紅火兄、コレ送ったの?」
「揉み消されぬようにな。
捜査も検証も杜撰。
勝手な決め付けでの冤罪だからな」
【お~い、どーしてもって言う客人、ソッチに行かせるからな。
話 聞いてやってくれ】
【リーロン、だぁれ?】
【神眼 向けろよな】【お巡りさんだ~♪】
リーロンの案内で、悟の父と もう1人が和館に来た。
「コイツは僕の後輩で、あの事件の少し前に東合署に移ったんですよ。
それで、あの事件では取り調べの記録係をしていたそうなんです」
音を抑えているが、まだ騒いでいるテレビをチラチラ見つつ。
「甘利と言います。
太木さんの取り調べをした方は去年 定年退職しているので、全ての責任を押し付けられそうになっているんです。
取り調べの仕方についての口出しは許されず、ただ記録を取っていろと言われて書いていただけなのに。
それなのに……」
「今日は謹慎と称されて調書の改竄を指示されたそうで、原本が棄てられてしまうかもと持ち出したそうです。
助けて頂けませんか」
「どーやら、まだウラがありそうだな」
「真犯人の身元は?」
「あっ、はい。これです」紙束を差し出した。
「コッチは調書で……コレか。
うわ~、ベタ過ぎじゃねぇか。
こりゃあ知ってて徳示サンに擦り付けやがったな」
紙を捲っていた白久が金錦にも見せて心話で説明した。
「現実はドラマのシナリオよりもベタなのだな」
「ソッコー解決しよーぜ。ったく!」
コピーの写真を指で弾いた。
―◦―
甘利をリーロンに預けた後、兄弟は頭を寄せ合った。
〈コイツらの親は離婚してる。
たぶん父親との繋がりを隠そうとしてるんだろーな。母方の姓だ。
父親は――〉
白久の隣から紅火がタブレットを差し出した。
〈――ありがとな。
こーゆーコトなんだよ〉
兄弟にも画面を見せた。
〈彩桜、真犯人達の弱禍は浄滅したよね?〉
青生が彩桜の方を向いた。
〈うん。サーロンが壁の手 踏んだ時に破邪針でカンペキ浄滅したよ。
でも態度 変わらなかったよね?〉
〈そこが不思議だったんだよね。
弱禍を滅したら自首すると思ったんだけどね〉
〈響お姉ちゃんの叔母さんのもソラ兄が変だって言ってた。
弱禍 小さいのにって〉
〈弱禍ではない何か……同様のケースなのかもね〉
〈その何か、徳示さんに集まる?〉
兄達がハッと息を飲んだ。
〈可能性、ありそうだね〉
〈なぁ青生、瑠璃さんは?〉黒瑯がつんつん。
〈お稲荷様に呼ばれて行ったきりだよ。
何か掴んでいるのかも。行ってみるよ〉
〈彩桜は甘利殿の身代わりをしているソラ君を見ていてもらいたい〉〈ん!〉
〈家も何が起こるか知れたものではない。
黒瑯は誰かに見つかってもリーロンだと言える。残って欲しい〉〈おう〉
〈紅火は作りたい物があるのだろう?〉〈む〉
〈白久、藤慈。私と共に〉〈おう〉〈はい!〉
〈時間は限られている。速やかに〉
兄弟は各々の場所へと瞬移した。
―・―*―・―
ソラは改竄の為に当てがわれた東合署内の狭い部屋で、甘利に偽装して書き物をしていた。
【ソラ兄だいじょぶ?】
彩桜が瞬移した先は、その部屋の手洗いだった。
【うん。それっぽく書いているだけだから】
【急にゴメンねぇ】
【ボク達がキッカケなんだから最後まで関わらせてもらうよ。
彩桜こそ大丈夫なの?】
【最終リハまでに戻ったらいいの♪
向こうはまだ夜中♪
だからまだまだ大丈夫♪】
【無理しないでね?】
【うん♪
甘利さん、このトイレの小さな窓から逃げ出したんだねぇ】しかも2階。
【そうみたいだね。
部屋の窓は鉄格子があるからね。
誰か来てるね】【ん】
ノック音はしたが返事をする間も無く
「失礼する」
とドアが開いた。
お偉いさんらしい2人の向こうでは見張りの警官が敬礼しているのが見えた。
【誰だろ?】
【さっき見た~♪
県警本部長さんと東合の署長さん♪】
甘利がチラ見して慌てて立ち、敬礼!
「手を止めて すまないな。
しかし警察の沽券に関わる一大事だ。
宜しく頼む」
「はい!」
「原本は廃棄してもよいか?」
「いえ……8年近くも前の、東合署に転任したばかりの頃の事件ですので、よく読んで思い出さなければ書き直せません。
申し訳ありません!」
「ふむ。では今夕迄に頼む」
「はい!」
県警本部長は甘利をじっくりと品定めしてから部屋を出た。
【やっぱり違和感?】
【そうだね。
理子さんに似た違和感があるよ】
【昨日 捕まえた2人もだよねぇ】
【そうだね】
【県警オジサンの方が、髪くくってたオニーサンの父ちゃん】
【えっ――そういう事か……】
【うん。だから追っかけにゃい?
座ってるの、お人形さんでいいでしょ♪】
【そうだね。さっき確認したから分身でなくてもいいよね。具現化】
甘利人形を座らせて、机から離れた。
【サーロン行こっ♪】
【そうだね♪】サーロンになって瞬移した。
――署長室。
本部長達はまだ着いていなかった。
【彩桜?】ユーレイは姿を消せるけど何処だろ?
【箱の中~♪ ピンチなったら瞬移する~♪】
【何の箱?】
【服? 柔らかいよ♪】
【寝ないでね?】
【ちゃんと夜寝たもん】
【うん。ヒトデに乗ってたらしいね♪】
【ほえ? ソレにゃ~に?】
【夢の中で空飛ぶ大きなヒトデに乗ってたみたいだよ♪】
【ほえぇ~、またなのぉ?】
【ボクは楽しいから そのままでね♪
あ、来たね】
息を潜めた彩桜は紅火から貰ったレコーダーのスイッチを入れた。
―・―*―・―
【瑠璃……】肩にそっと触れた。
【青生、どうかしたのか?】
目を開けた瑠璃が青生に微笑む。
【あの女性、理子さんの違和感。何なの?】
【ふむ……】持っていた魂頭部をそっと置いた。
【此方に】
ついて行った部屋は清らかな気で満ちていた。
【私の部屋、だそうだ。
つまり青生の部屋でもある。
内緒話には最適だ】
青生の手を引いて、並んで座った。
手を繋いでいるので知り得た情報を流す。
【敵神ザブダクルの父オーロザウラが如何な神なのかは未だ明らかになっていない。
しかし現状、善神とは言い難い。
オーザンクロスティ伯爵夫人はオーラマスクス男爵の曾孫。
両者共オーロザウラの再誕か、受け継いだ者だと考えている】
【理子さんに、その神様が入っているの?】
【『オーザンクロスティ』に反応した】
【だったら真犯人達は『オーラマスクス』なのかな?】
【真犯人? 何だそれは?】
【うん。俺からも流すよ】まだ繋いだままなので。
【ふむ。兄弟揃って何をしているのやらだな】
【そう言わないでよ。
これも大事だと思うんだ。
彩桜は徳示さんに集まるんじゃないかって。
理由とか何も分かっていないけど納得してしまったんだ】
【ふむ。動かねばならぬな】
―・―*―・―
「――では、あのクズ共は獄中での自殺としてくれ。
そう、至多先生が仰ったのだからな」
「で、ですが、ご子息に そのような――」
「とうの昔に子だとは思えなくなっていた。
しかも余計な事ばかり知っている。
邪魔でしかない。
早急に始末してくれ」
「さ、然様で御座いますか……」
「調書原本と証拠物の廃棄も速やかにな」
「はいっ」
「では私は これで」
威厳たっぷりでサッサと署長室を出た県警本部長を東合署長が慌てて追った。
見送るつもりらしい。
【ボクが追うね】【俺、真犯人トコ~♪】
更に ややこしい事に首を突っ込んだ輝竜兄弟。
そこに絡む敵神ザブダクルの父オーロザウラ。
弱禍ではない敵との戦いが始まっていました。
ええっとリハーサルは?




