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証拠映像



 輝竜兄弟より先に瞬移して分身の理人と入れ替わったソラは、病室の隅に居る響の所に行った。

〈輝竜さん達、揃って来るけど大丈夫?〉


〈うん。真犯人も一緒なのよね?〉


〈うん。捕まえたからね〉


〈この距離なら大丈夫よ。

 行けそうなら近寄るね〉


〈無理しないでね?〉


〈うん〉


ソラは響の目を見てから手を繋ぎ、輝竜兄弟を呼んだ。



 廊下が少し(ざわ)めき、ノック音がした。


「どうぞ」

社長が頷いたので太木専務が答えた。


「ど~も。また輝竜です」

にこやかに白久が入る。


「失礼します」と、また白久。


その後ろでペコリとしたのも白久。

髪を緩いオールバックにした黒スーツ姿の『白久』が次々と入り、最後に縄を掛けた男2人の背を押しながら白久が入った。

「本物は俺です♪」


「俺も入る~♪」

閉まりかけたドアをスルッと抜けて『白久少年』が笑顔で並びに加わった。


〈わあ~♪〉〈響?〉

〈これは楽しいでしょ♪〉

〈それなら良かった♪〉


「さて、この2人が真犯人です。

 東合(ひがしあい)出身、犯行時は26歳でした。

 当時は今のように防犯カメラが其処此処にない頃でしたから、証拠映像なんて無いとコイツらも警察も思い込んでいたんです。

 一応の周辺捜査くらいは したでしょうけどね。


 が、徳示サンにはストーカーが居た。

 彼女は徳示サンの姿を収めて自宅で眺める為に常にハンディカムを持っていた。

 ま、盗撮ですからね、名乗り出もせずに持ち続けていたんですよ。

 それが、これです」

白久が話している間に、その横で準備をしていた紅火(見た目は白久)が病室の白い壁に投影した。


 大きな植木鉢に凭れて眠る徳示が大写しになっていたが、不意の怒号に画面が揺れた。

振った先に自動でピントが合うと、怯えている中年サラリーマンの腕を掴んでいる男と、ネクタイを掴んで吊り上げている男の顔が大写しになった。


 そこで画面が止まる。

「はい、この2人ですよね?

 ま、今はギャアギャア喚くので口を塞いでますけどね」


 また動き始めた。数倍速の早送りで。

なので画面が乱れる。


「あまりにあまりですので飛ばします。

 警察には全て見せますけどね」


 通常速度に戻ると、中年サラリーマンは逃げようと手足を動かそうとしているが倒れたまま起き上がれなくなっており、男達は2人がかりで青くて大きな植木鉢を持ち上げて運び、サラリーマンの頭の上で手を離した。

そこで画面が暗転して早送りのマークが短く出た。


 片方の男がトレーナーの袖を伸ばして手を覆い、落とし直して割った植木鉢の欠片を拾って徳示に握らせてから、全く動かなくなったサラリーマンの近くに投げた。

それを見て笑っていた方の男が、持ち易そうな素焼きの植木鉢を徳示に持たせて逃げた。


 画面が激しく揺れる。走っているらしい。

前を走る男達を捉えてはいるが、その姿は次第に小さくなっていた。

それでも男達が誰かを突き飛ばしたのは写っていた。


撮影者は走るのをやめたらしく揺れなくなっていた。

急ブレーキの音がして赤い光に画面が染まったところで映像は終わった。


「ストーカーの女性は逃げた後、このビデオテープを封印していました。

 怖くなって暫く家に閉じ籠っていたそうです。

 ですから徳示サンが捕まったのすら知らなかったんですよ。


 さて、と。

 これを見ても自首する気は無いのか?」


フンッと横を向く。


「折角のチャンスなのになぁ。

 自首する気が無いのなら突き出すだけだ。

 今の技術なら画像はもっと鮮明になる。

 もう逃げられやしねぇんだから覚悟しろや!」


ビクッとしたのは一瞬で、ふてぶてしい視線を誰も居ない所に向けた。


「あんま俺をナメんなよ?

 古い話だが、東合のヤツらも何度も喧嘩フッ掛けに来てたよなぁ?

 お前らの顔も覚えてるぞ」


怪訝な視線をチラリ。――だけで気付いたらしい。

必死の形相で離れようとした。


「逃がすかよ。

 俺が誰だか分かったんだろ?

 刑を終えて真っ当に生きると誓え。

 徳示サンに謝れ」

猿轡(さるぐつわ)を解いた。


「で、でで、でん、で――」


「何言ってやがるんだぁ?」デデンデンデン?

「伝説のアタマ~♪」「言うなっ!」


張り詰めきっていた空気が少しだけ緩んだ。


「罪に対して償った後も、遺族に対しての償いは続く。

 真っ当に生き、償い続けると覚悟キメろ。

 そうでなければ、この俺が地獄の底までも追い詰めるからな。

 天罰を下してやる!」「いよっ櫻咲の白久♪」

「だから言うなって!」「逃~げる~♪」

「病室を走り回るな!」「大声もダ~メ♪」


 とうとう徳示が吹き出した。

必死で笑いを堪えていた専務と大樹も。

社長までもが口元を笑いで歪めている。

被害者とその遺族が居ると解っていても真相を知った安堵が溢れてしまっていた。


「ほら早く謝れ」睨む。


「「スンマセン!」」


「そんじゃ、警察 行くぞ」「呼んだよ~♪」

「いつの間に?」「長々 喋ってる間に~♪」


「ま、自首する気も無さそうだし、いっか」



〈ねぇソラ。

 叔母さん、あんなビデオ撮ってたの?〉


〈響になら種明かししていいかな?

 あれは紅火お兄さんが作ったんだよ。

 理子さんの記憶をビデオ化したんだ。

 今、理子さんに証人になってもらうのは無理だから〉


〈今どころか一生ムリよね〉苦笑。


〈ビデオテープってトコも考えての事なんだ。

 デジタルデータみたいに加工できないから証拠として強いんだ〉


〈へぇ~♪〉


 警官達が到着した。医師や看護師も一緒に。


〈あれ? 白久さんが減った?〉


〈うん。同行する人だけ残ったんだよ。

 白久お兄さんと金錦お兄さんが行くみたいだね〉


別の映像を見せている。ジップ袋も。


〈あれは?〉


〈ドラッグ。売人をしてたんだ。

 今 流してるのは その証拠映像〉


〈とんでもないヤツらね。

 あ、ところで『櫻咲の白久』って?〉


〈アタマって分かる?〉


〈うん。不良のトップでしょ?〉


〈うん。白久お兄さんは高校3年間アタマだったんだ。

 不良達にワルをさせないアタマ。

 で、『伝説のアタマ』の『櫻咲の白久』。

 今は『伝説の救世主』なんだって♪〉


〈そっか……いい人なんだね……〉


 警官達が徳示に頭を下げてから男達を連行した。

金錦と白久(白久が2人にしか見えない)も付いて行く。

医師達は社長の具合を確かめてから去った。



 静かになったところでロッカーの扉が開き、『白久』が出て来た。

「ややこしくなるので隠れていました。

 三男の青生です」


「他のご兄弟は?」


「弟達はお腹が減ったと帰りました。

 警察に同行したのは兄達です。

 それで徳示さんの今後は?

 中渡音(なかとね)にお連れしてもよろしいですか?」


太木社長が目を閉じ、少し考えてから頷いた。

「会社は弟と甥に任せよう」


「ですが兄さん!」「僕も重過ぎますからっ」


「まだまだ徳示さんの道は1本に決めなくてもいいと思います。

 建築を学んだ後、電機に戻るという道も残しておいていいと思うんです。

 建築物と電気機器は、現在の人にとって どちらも必要不可欠な物ですから、各々の道から差しのべた手を取り合うというのもいいですよね。

 ですので社長さん、もう少し頑張ってくださいますか? 治しますので。

 頑張っているうちに親子の絆も確かになると思いますよ」


太木社長は驚きで目を見開いた後、笑みを浮かべて頷いた。

「お願いします、輝竜先生。

 生き返って、息子をよく知りたい。

 そう、強く思いますので」


青生はベッドサイドの椅子に腰掛け、社長の手を取った。

「紗桜さん、お願いしますね」「あっ、はい!」


「それでは行っても?」父の顔を窺う。


「行って学べ。

 結婚式も楽しみにしている。

 ミツケン保養所の料理は格別らしいからな」


「料理……楽しみは、そちらですか?」


「冗談に決まっているだろ。

 近い内に揃って来てくれ」


「はい♪」


『決別ではなく巣立ち』を噛み締める徳示だった。



―◦―



 車を走らせて暫く。

響がチラリとソラを見た。


〈姿 戻して大丈夫なの?〉


〈徳示さん、疲れて寝ちゃったよ。

 響も大変だったね。

 3往復したんだもんね〉


〈そっか。朝も行ったよね。

 なんか遠い記憶になってる~〉


〈確かにね♪〉


〈青生先生、乗せなくてよかったのかな?

 お兄さん達 待ち?〉


〈そうだろうね〉


〈で、また東京?

 もうお家で年越しすればいいのに〉


〈奥さん達、東京なんじゃない?〉


〈あ~、そっかぁ〉


〈響は? このまま輝竜さん家?〉


〈叔母さん次第かなぁ〉


〈大丈夫だとは思うけどね。

 でも居てもいいと思うよ。

 確実に安全だから〉


〈ソラの部屋ってあるの?〉


〈え? ボクは庭の木だから……〉


〈あ♪〉〈え?〉〈サイオンジの部屋♪〉

〈知ってたの?〉〈トクさんから聞いたの♪〉


〈でもお邪魔じゃない?〉


〈広いって聞いたよ?

 トクさんから1部屋 貰っちゃお♪〉


〈いいかもね♪〉


〈ソラの部屋よ?〉


〈え? 響の居場所じゃなく?〉


〈遊びに行くから~♪〉


〈じゃあ二人の部屋――〉言葉が途切れた。


〈ん? あ♪ 真っ赤っか~♪〉〈もうっ!〉

〈ソラか~わ~い~い~♪〉あははっ♪



 響の笑い声が途絶えた。


〈どうかした?〉


〈私、何もしてない……探偵団長なのに……〉


〈キッカケ作ってくれたよ。

 それと運転♪〉


〈キッカケねぇ。

 お父さんと叔父さんも来てたよね?〉


〈うん。キッカケ♪〉


〈う~~ん……〉


〈ボクは輝竜さん達から学べたよ。

 これから探偵団するのに良い勉強になったと思う〉


〈そっか……〉


〈一緒に探偵団もいいと思うよ♪〉


〈うん……強力な協力者ね♪〉


〈ね♪〉


〈うん♪

 よーし! もっと近づくからねっ!〉


〈そうこなくっちゃ♪〉







裁判は これからですが、徳示の無罪が証明されたようなものです。

これにて一件落着――あれ? 紅火?


「信用ならぬ」ボソッ。


どうやら まだ終わっていないようです。

この続きは次章で、です。m(_ _)m



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