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幸せと怖れ



 面接を終え、戌井家に向かっていた利幸のスマホが着信を告げた。


「ん? 瑠璃かぁ?」


『聞かずとも表示された筈だ。

 急患だ。今日は行けぬと澪に伝えてくれ』


「そっか。コッチは気にせず頑張ってくれ」


『ふむ。では』切れた。



「上手く瑠璃を真似たと思ったんだがなぁ。

 気づいてくれなかったな。

 そーいや黒猫どーなったんだろ――ん?

 また? 瑠璃?」


『里親に託したが飼うつもりだったのか?』


「聞こえたのかっ!?」


『今度は真っ黒ではなくハチワレだが、猫を飼いたいのか?』


「そーじゃなくっ!

 ……あ~、いや、、だったらいいんだ」


『ふむ。

 当然 気付いている。真似るな』切れた。



じっとスマホを見る。

「もう……かからねぇよな?」

鳴る前に、と急いで仕舞った。

「紗チャンが待ってっからなっ♪」



―・―*―・―



「瑠璃っ」


利幸に連絡した後、手術控室に入ろうとした瑠璃は呼び止められた。

「青生……どうかしたのか?」


「急患なら呼んでくれればいいのに。

 外来は? 終わったの?」


「予約は残り3組。間も無く来る筈だが、出版社の方は?」


「終わったから来たんだよ。

 なら、俺は外来を済ませたら加わるね」


「頼む……やはり頼りになる。ありがとう」


「俺達二人の『城』なんだから当然だろ?」

笑顔一瞬、真顔で診察室へ。



「こんな時に幸せを感じるなど……」

呟いて手術室のドアを開けた。



―・―*―・―



 そして夕方。戌井家では――


〈あれれ? 車だよ?〉


〈そうだね……ああ、利幸だよ。

 さっきも来ていたのにね〉


家の前に止まった車から降りた利幸が、物置と化しているカーポートを整理して車を入れた。


〈珍しいな。いつもは電車なのに〉


〈みんな出てきた~♪〉


〈車でどこかに行くのかな?〉


〈首輪 外したよ♪ 行ってみよ~♪〉




「紗チャン、お友達どーしたぁ?」


「ダメだって~」

「明日、出かける予定があるそうなのよ」


「そっか。んじゃあ紗チャンだけか?

 3人も連れて電車はムリだから車で来たんだがなぁ。ま、いっか♪」


「だから確認するまで待ってって言ったのに飛び出しちゃうから……」


ワン♪


「お♪ ショウも来るか?♪」


「あら……首輪は……?」犬小屋を見る。

「外れちゃったのね?」 拾いに行った。


「ほらよ。ショウも乗れよ♪」ワン♪


後部座席のドアを開けてもらい、スルリと乗り込んだところに澪が戻った。


「もう乗っちゃったのね。

 首輪、持って行ってくれる?」

助手席の紗に渡した。

「壊れてるのかもだけど……」


「ん。見て直しといてやる。

 心配すんなって♪

 んじゃあ、また明日なっ♪」

「いってきま~す♪」



〈利幸の家……結界の外じゃないだろうか?〉


〈ついて来て正解だったね♪〉


〈そうだね。護らないといけないね〉


〈うんっ♪〉

《しかしアーマルは死神とは対峙するな。

 未だ神力が十分ではないのだからな》


〈連れてかれちゃう?〉


《そうなるであろうな。

 死神ならば生きておるウンディとランマーヤには手出し出来ぬ。

 目的はアーマルであろうからな》


〈ですが紗は死神にも狙われています〉


《死を強要出来る程の神力を持つ死神はそうそう居らぬ。脅しておるだけだ。

 敵方は人神ばかりなのだからな》


〈人神……?〉

〈トリノクス様は大丈夫なの?〉


《復活したと知られれば危険であろうが、気付かれてはおらぬよ。

 我等 獣神ならば気付くであろうが、人神は神である事に胡座をかき、修行を怠るからな》


〈そっか~♪〉


 ショウフルルも人神なのだが……。


〈あ……やっぱり結界から出てしまったね〉


〈なんか~、空が重い?〉


〈そうだね。なんとなく重苦しいね〉


〈あれれ? 重いの消えちゃったね~〉


《上から睨んでおった男が去ったのだ。

 今宵は賑やかになりそうだな》



―・―*―・―



 青生と瑠璃は手術を終えて事務室に入り、隣り合う各々の席に着いた。


「助かって良かったね。

 今夜は俺が泊まるよ」


「しかし――」


「瑠璃は毎日ここなんだから、たまには家でゆっくりしてよ。

 それに、何か用事があるんだよね?」


「何故それを?」


「なんとなく。

 そうなのかな? って思っただけだよ」


「断ろうと思っていたのだが」


「同窓会かな? 行っておいでよ。

 これ……着けてくれたら嬉しいな」

鞄から細長い箱を出し、瑠璃の手を取って持たせた。

「瑠璃は着飾ってくれないから……」


「必要を感じぬのだが……」


「そう言うと思ったんだけど、たまには着けてよ。瑠璃は綺麗なんだから」


「そのような……」顔を背けた。


「高価な物ではないから気負わず着けてね。

 それじゃあ楽しんできてね」


「何処へ?」


「ハチワレ君の様子を見に行くよ。

 今日の精算は、その後でするから置いておいてね」

笑顔を向けたまま出て行った。



「綺麗だなどと……」


呟いて箱を見詰めていたが、頬が緩んでいると気付いて己に苦笑した。


 また幸せを感じてしまっている。

 こんなにも強い想いになってしまうとは。


 妻役の皆も同様に話していたな……

 お目覚め頂きたいが、終わる時が怖いと。

 私も…………どうしようもなく同じだ。


じっとしていると涙が流れてしまいそうな思考にしか至れないので、掌に乗っている明らかに装飾品が入っていると分かる箱を開けると、ネックレスが入っていた。


 トップの縦三連の石は……?

 宝石には詳しくないのだが……

 この色……私と青生と彩桜なのか?


連なる石は下ほど小さくなっており、揺れるように作られていた。

指でなぞり、取り出して着けてみる。


 下二つの透明感……やはり青生と彩桜だな。

 チェーンが所々、青く光る?


神眼で確かめると、ごく小さな青い石が金属鎖に埋め込まれていた。


 なかなかに技工が細かい。

 華美でなく繊細。

 私の好みをよく知っているのだな。


〈一番上がラピスラズリ、真ん中がカイヤナイト、下がモルガナイトだよ。

 チェーンの所々に配している小さな石はサファイアとダイヤだけど、その大きさだと価値は無いから気にしないでね〉


〈青生……〉


〈うん。

 何だろうと思っているかな? と、ね。

 誕生日に渡したかったんだけど、あれこれ拘っていたら遅くなってしまったんだよ。

 ごめんね〉


〈何故 謝る? 青生の心遣いが嬉しい。

 ……幸せをありがとう〉


〈俺の方が沢山、それこそ毎日 瑠璃から幸せを貰っているからね。

 出会えた奇跡に日々感謝しているよ〉


〈それは私も同じだ〉

暖かい気持ちに緩むのを避けるように精算をし始めた。


〈時間、いいの?〉


〈十分にある。ハチワレを頼む〉


〈うん。ありがとう〉



―・―*―・―



 その頃、奥ノ山の社ではフェネギが出掛けようとしていた。


〈ではバステート様、力丸をお願い致します〉


〈はい。当面、稲荷山のお社には近づかせませんのでご安心ください〉


〈ありがとうございます〉


〈以前に比べれば力丸は飛躍的に落ち着きましたし、私も神力を取り戻しましたので、もうご心配には及びませんよ〉


〈はい。それは目に見えて――あ、失礼致しました〉


〈その通りですよね〉うふふっ♪


〈それでは失礼致します〉

礼をしたまま、オニキスの居場所とした稲荷山中腹の小社へと瞬移した。



―◦―



「彩桜様はお帰りになられましたか?」


「ヨォ、来たかフェネギ♪

 とっくに帰ってったよ。

 何やら掴んだらしくてな、笑ってたよ。

 フェネギの弟子って奴は?」


「バステート様にお願いしましたよ」


「ふぅん。会わせてくれねぇのか?」


「オニキス……ティングレイスの子達に関しては、如何に考えておりますか?」


「あの王子達かぁ……憐れなモンだよな。

 どー見ても雑兵。王子とは名ばかりな手足、つーかコマだろ?

 もっとチャンと作ってやりゃあいいのにな。


 それと比べるのもナンだけどな、父様は み~んなチャンと覚えてたよなっ♪

 誰もが次代の四獣神になれるよーにってシッカリ作ってくれてる♪

 そーじゃなかったらオレ、神力射に射殺されてたろうなぁ」


「その王子が2神、人世に居ります」


「堕神の監視か?」


「いえ……」







第一部の最初にも示しましたが地理的な位置関係をおさらいです。

と~ってもザックリですけどね。





    △奥ノ山(奥ノ社)

     :(山の社、小社)

      △稲荷山(キツネの社)


                  成荘村


      北の街


           ・廃教会

        街    旧集落  東の街



        南の港町


漁港 キャンプ場

 ・ ・





旧集落こと東渡音(ひがしとね)地区で瑠璃達は育ちました。

今は利幸の家しか残っていません。


結界の外な利幸の家に行く紗を飛翔はどう護るのでしょうか?



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